望月 鏡翠
2025-10-03 18:22:56
959文字
Public 日課
 

#1860 龍

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 あの場所に至る道が、かつてはあったはずだが、今は自分の足で適切な道を探さなくてはならない。恐ろしい龍に見つからずに済む道だ。
 観察していると、光る水面が天に浮かび上がった。
 萬木は息を飲んでそれを見つめた。
 それこそが探す妖怪の姿に違いなかった。煌めく鱗を持って、空を飛ぶ。
 遠く離れた山の斜面にいるから、まだ萬木には気づかないだろう。しかし空から見通す目で、しかし、その威容は天からの瞳で全てを見通してしまうのではないかという錯覚を覚えるほどだった。
 草木に紛れるように汚した外套で体を隠した。
居ると信じてここまで来たというのに、本当に居たのだと、実物を目にしてようやく腑に落ちた。
 萬木はしばし、狩りのことを忘れて、その尋常ならざる造形物を見物した。
 稼ぎたいという欲と、巨大な捕食者への身震いするような恐怖。それとは別に、純粋な感動があった。
萬木は、龍の行動をその場からじっと観察した。
 未知の生き物を相手にするときは、まずよく見るところから始まる。昼行性なのか、夜行性なのか。何によって周囲を観察しているのか。
 どのように狩を行うのか。
 それによって萬木の戦略も変わる。
は臭いで周囲を認識する。臭いを消して木の上などでじっとしていればやり過ごすことができる。
 臭いと音に重きを置く生き物が多い一方、人と同じく目に重きを置くものもいるし、目を捨てて暗闇で生きるものもいる。
 では龍は?
 伝承の生き物は一体何を使って見ると言うのだろう。
 空を飛び回っていた龍は、やがて雷のように光ながら地面に真っ直ぐに落ちていった。それは空を飛んでいた猛禽が獲物を見つけて、飛び降りる動きによく似ていた。
 猛禽ならば、視覚によって獲物を見つける。蕎麦屋の主人が捕まらなかったことを考えても、縄張り外でじっとしていれば、無事である可能性は高い。
 しかし、龍を見たことがあるものがないというのが、気に掛かった。
 少し離れた場所から、でも姿がよく見える。あの村は長年閉ざされていたとして、あのような驚異的な生き物がいるのであれば、もっと噂になってもいいはずだ。
 今までどこで暮らしていて、どうしてこのような人の近くにやってきたのだろうか。
 遠くから眺めていても、わからぬことだった。