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幸希(ユキ)
2025-10-03 00:53:33
1586文字
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【寂しい】
メンタルやられてやけくそになってくると無性に1人になりたくなるんですよね。
昔から1人行動を取るのが当たり前だったので、1人でどこかへ行く事に何のためらいもないんです。当て所なくふらふら歩き回って、気が済んだら帰る。そんな事を繰り返していたのに、いつからか1人になる事が減りました。そして1人でいる事の物足りなさと物悲しさを覚えました。
人として生きるなかで、「いらない」と判断して落っことして来てしまったものを、いつの間にか彼は拾って覚えさせてくるんです。
お陰でさびしんぼになっちゃったよ。
ぶわっと風がぬけていく。目にかかりそうだった前髪が巻き上げられて視界が開けた。
キチキチとどこかでバッタが鳴いている。私はそれを流し聞きながら、夕時の川縁を進んでいた。
(誰にも言わずに来たからなぁ。)
いろんな事が面倒で、1人になりたくて、時々こうして1人川縁や田んぼの畦道をのろのろ歩く。自分以外の人間をめったに見かけないこの環境が心地いいすらあった。
「♪~」
鼻歌を歌いながら川縁を進む。どこか遠くから鳶の鳴き声が聞こえてきたかと思えば、吹き抜ける風が背の高い草を揺らして音を立てていく。静かで、心地よくて、だけど、何かが足りない。草を揺らす風が胸の奥のうろを冷やしていた。
(哀しい。)
はぁ、とため息が出た。幸せが逃げちゃう、と頭の隅で思うものの、じわじわ胸の奥に広がる冷たさを逃がしたくて、喘ぐように息をする。
(もっと遠くに。)
引き摺るように歩を進める。しばらく行けば背後からタッタッと聞こえてくる足音。
「やぁっぱりここにおった。」
呆れたような声。その声の通り、きっと表情も呆れたものになっているんだろう。
振り返らずそのまま歩き続ければ、はし、と手を掴まれた。
「
……
なあに。」
「どこ行く。」
「どこ行こうかなぁ。」
「何が見たい。」
「んー
…
特に?」
「何が聞きたい。」
「騒がしくないもの。」
「
……
1人かえ。」
最後の一言はひどく寂しげに聞こえた。置いていかれる幼子のように、不安に満ちた声。
(あーあ、そんな声出しちゃって)
「一緒がいいの?」
「おん。」
「さびしんぼだねぇ。」
「おまさんを1人にさせとうない。」
「1人でも平気なのに。」
「わしが嫌じゃと言ったら?」
「
……
。」
掴まれた手が引かれたかと思ったら、そのまま抱きすくめられた。
「どこへ行ってもえい。望むままに行けばえい。けんど、わしを置いていかんで?」
1人でいる事に慣れきってた。別に寂しいと思った事は1度もなかった。心配される事はあっても、止める人や一緒に行く事を望む人は今までいなかった。
それがずっと当たり前になっていた。それを塗り替えていったのは、今私を抱きすくめて離さない彼だ。
彼のせいで、私は【寂しい】を覚えてしまった。
『さびしんぼだねぇ』
ついさっき口にした言葉が耳の奥にこだまする。
(どっちがさびしんぼなんだか。)
「のう、主。」
追い縋る声に息がこぼれた。
「仕方ないなぁ。」
その言葉は果たしてどっちに対してだったのか。
そんな自問自答をしながら、私はむっちゃんの背中に手を伸ばした。私から反応が返ってきた事に安心したのか、少しだけ腕の力が緩む。あの息苦しさと冷たさはいつの間にか消えていた。
「寂しい」を隠していなくなろうとする私と、「寂しい」を表に出して繋ぎ止めようとするむっちゃん。表し方1つでこうも違うのか。
「まだ行くかえ。」
「んーん。」
「帰るがか。」
「
……
もう少しだけ、一緒にここにいて。」
身体の力を抜いて完全に預けてしまえば、ふわりと抱えられた。そのままその場に腰を下ろす。
「次からはわしを呼びや。」
「忙しいかもしれないよ?」
「おまさんのためやったら時間なぞどうとでもする。」
「主戦力抜けたらみんな困るよ。」
「おまさんを1人にせん。約束した。
…
こういて迎えに行くがも、この後一緒に帰るがも、わしだけの特権やきに。」
ちゅ、と額に口付けられる。
「わしも寂しがりやし、おまさんも寂しがりじゃ。それやったら一緒におらんと。」
「
…
そうだね。それもそっか。」
寂しがりと寂しがり。でも、一緒にいれば寂しくないもんね。
そう言えば、優しく微笑んだむっちゃんにもう一度抱き締められた。わしの可愛いおまさん。その言葉がひどくくすぐったかった。
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