6話 【まにまに・りすむ】

6人目の少女は羊水を跨いだ

つづく つ ず く つながり つな ぎ

過去がワタシの尾を引くなら

ワタシは過去の手を引くの



6話 まにまに•りすむ
-in 朧げな◾️◾️-

「プリントおとどけ とくい とくい まかせて!」

「ポポちゃんこの前はエメリー先輩とユウカ先輩のお家にプリントを届けに行ったんだっけ?いいなぁ私も先輩のお家行ってみたかった

「ユウカのお家 面白い……! 人 たくさんいる」

「私も外周に住んでたら、帰りに届けにいけたのにむぐぐ……羨ましい…………

 帰りの会後、手渡されたプリントは二人分。
そのうちの一枚は不登校で中々学校に姿を見せる事のないヤヨヅカに宛てたものだった。


 ヤヨヅカと仲の良いカスミと共に内周の住宅街をとことこランドセルを揺らしながら歩いていく。波に揺られる様に自由気ままにに興味のある方向へふらふらと揺れて

 ポポは久々に会う同級生の顔を思い浮かべて楽しげに笑った。
 
「カスミ、今日 一緒に遊ぶ? ホゥマツも誘う!」
 
……!いいの!?一緒に遊びたいけど!!そのテスト勉強もしないとマズい……です

迫るテストに怯えるカスミは秘密を記憶している分、勉強に回す脳の容量は少なかった。「えー」と不貞腐れた声色を発しながらポポはむすりと頬を膨らませる

「テスト 遊べないの つまんない やだやだやだやだやだ 遊びたい! 遊びたい!」

「私も3人で遊びたいよぉ〜でも実は全然勉強してなくって……

「だったら、みんなで 勉強する 早く終わって 遊ぶ!!」
 
学ぶ事自体は楽しいが、友人と遊ぶ時間を奪うのはあまりにもつまらない。だったら友達との楽しい時間に変えてしまえばいい。楽しくない時間を楽しい時間に塗り替えてしまえば「楽しくない」は無くなるのだから。

「早く 行こ!」

急かすようにカスミの背後に回って進むべき道へ押していく。ほら、この角を曲がっ
て、てて て て
 

……

ぱちん

脳裏で泡が弾ける音が響き、意識が目覚める


 瞑想とは相反する曖昧な境界、夢を見ていたのだと無限に広がる空を見て気がついた。ポポ達はあの祭壇の前に立ち燃える炎に包まれたはず。だというのに視線の先にあるのは真っ白な、空、身体は水の上だった。

「ううっ………………

頭上から呻き声が聞こえてそちらに目をやると頭を抑えながら横たわっていたユララが身体を起こした。ポポ自身も少し怠い身体を起こしてユララの方へ身体を向ける。手を伸ばせば届く距離、巨体を捻れば泳がずともユララの側に寄り添って顔を覗き込むことができる。

「ユララ……大丈夫?」
 
……はい、昔の夢をみていただけなので」

身体には何の問題ないですと告げるがあの出来事の後だ、何かあってからでは遅いからとユララを抱きしめて能力を行使する。

 一瞬、驚いた素ぶりでユララのツインテールが跳ねたが、すぐに意図を理解して身を委ねる。痛みなど何処にも無いはずなのに安心感のある抱擁に包まれているとぽろぽろ目から水滴が溢れてきた。


……母の夢を見ました、とても温かくてその時も抱きしめてくれていたんです」
 
ふわふわとしていて水中なのに温かい。幽霊みたいに冷えて体温のない身体にもじんわりと温かみが伝染していく、それが心がもたらした実体のない感情だとしても、温かいと感じていた。
 
……できれば、離れた後も手は触れたままでいいですか。水の中は得意じゃないので動きにくくて」
 
…………勿論…………いいよ」
 
「ありがとうございます、嬉しいです」
 
かつてポポから教わった様に口角を上げて笑顔を作ってみる、無邪気なポポから変と言われた笑顔だったら今の彼女からは慈愛が込められた微笑みが返ってきた。

調子を取り戻したユララとポポは目覚めた2人とは異なって未だに目覚めぬハディラの元へ歩み寄る。彼女が水へ沈まぬようにポポが片手で抱き寄せて、もう片手でユララの手を握り、陸地へゆっくりと向かっていく。
 
「ハディちゃん、起きませんね……
 
眠るハディラを平地に下ろし、やっと息をついた2人は周囲を見回す。よく見慣れた世界の形状をしながらも明確に感じる違和感。白い空、円状に開いた穴、その中央部には……黒聖の国では壊れていたはずが、完成に近い形で聳え立つ像……

「それに……ユズが見当たらないのも気がかりです」
 
……………
 
白い世界に迷い込んだからはぐれてしまったのだろうか
普段はユララの側にいる魔法生物のユズ。そして同じ様にポポの魔法生物の姿も見当たらなくなっていた。


………………………………
「ねぇおとうさま、おかあさまはいつ授業参観に来てくれるの?」
………………ハディー。いいかい、ママは忙しいんだ、気持ちは分かるが困らせてはいけないよ」

まるで走馬灯を見ているみたい、閉ざされた記憶の引き出しが炎に包まれた拍子に焼け出てきた。
……
 
「いつになったらあの子は◾️◾️の死を受け入れてくれる?あの子が3歳の時にとっくに亡くなっているというのに…………いやすまない、このような言い方は良くなかったな。誰も、誰も悪くはないんだ」
……嗚呼、考えすぎて気が参っているのかもしない。そろそろ寝る準備をするよ」

深夜、お父様が電話に向かって苦しげに話す声が聞こえた、これは幼少の記憶だろうか。

 そう、だった、お母さまはとっくに……いえ、いいえ、そんな筈はない。そんな筈ないのよ。お母様はね、お忙しい方なの、だから会えないだけ、私がお母様の好きな蝶のように、美しく羽ばたけば必ず見ていてくれる、認めてくれる。
やがてその姿に似合った魔法生物も私の元へと姿を表すだろう。

だからお願い、これは、『記憶』なんかじゃないと言って、『悪夢』だと……証明して

過去を振り返る度に足元が沼のように沈んでいく。胸を刺す痛みは業火よりも恐ろしく、身体を強張らせて雁字搦めにする。本当に像を直せば願いが叶うの?自問自答を繰り返しながら心臓から広がる痛みを必死に耐えていると、微かに刺す光の方から、聞き馴染みのある声で少女らが私を呼んでいた。

「ハディラ ハディラ 起きて ハディラ」
 
魔法少女に変身したらお母様のように暖かく包み込んでくれるのに、今は変身する前の甘えん坊なポポみたいに私の名を繰り返す。

「ハディちゃん、ユララは朝は苦手ですが、ちゃんと起きれましたからハディちゃんも……いつものように一緒に朝の準備体操しましょう?」
 
星屑が散りばめられたストールが髪の毛に溶けて、いつか見た第二の母である月が輝き星が瞬いていたあの日のようだった。

「ポポ、……ユララ、ちゃん、」
 
私の大切な人達が手を引いてくれるから、もうきっと迷うことはない

……ごきげんよう、2人共」

……!!ハディちゃん!!」

「痛いところ………………ない?」

「えぇ、もう大丈夫よ心配かけたわね」
 
「このまま起きなかったらどうしようかと」

「ところで……ここは?」

「わたし達にもわかりません、炎に包まれた後意識を失って……気がついたら像の下にある穴の中で目覚めました」

振り返った先にある女神像。皆が思い思いに描いていた神の本当の姿は白かった?

……………………ハディラ、下」

 ポポがハディラの座る位置を指差す、それに従い、少し身体の位置をずらすと石畳のなかで経年劣化した金のパネルが地面に嵌め込まれていたことに気付く。擦り切れている上に砂と泥で彫られた文字は読みづらくなっていたが、なぞった指先の感覚からおおよそ何が書かれているのか理解できた。

『聖母マリア、ここに讃える』

「マリアって誰かしら?」
 
「何故だか分からないけれど、私達の知っている像とは何かが違う気がするわ」

「像の色も違いますからね、完成形を見たことはないですが黒い欠片からは黒い像が出来る筈ですから」

疑問が次々に湧き上がる中、眺めていた像の手に当たる部分からもぞもぞと何かが湧き上がってくる。それが3人の姿を認識した時、目にも止まらぬ速さでこちらに向かって走ってきた。

……!!」

咄嗟にポポが2人を守るように前に出て庇う。が、像から降りてきた生物は敵意は無いことを表すように、ポポの前で何度も飛び跳ねる。目が描かれたシーツを被った生物には人間の足が生えており、形だけで言えばいたずら好きな子供にも見えたが、人間の子供というにはあまりに小さく、魔法生物だと言われた方がまだ信じることが出来る。

…………背中、魔法生物……同じ模様………………

「本当ね、この子も魔法生物なのかしら。それにしては動物の姿をしていないけれど」
 
魔法生物には場所は違えど十字のような模様が刻まれている。その生物にも背後に同じ模様が描かれていた。
 
喋る事はなかったが、その代わり身振り手振りで意思を伝えようとしてくる。背中を向けてぴょんぴょん兎のように飛び跳ねる姿からは「着いてきてほしい」と訴えかけているようだった。

「着いて行ってみますか?」
 
「行く宛もないし……そうしてみましょう、私達を連れて行きたい場所があるみたい」

立ち上がった3人は魔法生物の案内に従って、像の元を離れて町へと駆け出した。

▼▼
国の中心部に置かれた像から内周を走り抜ける。黒聖の国の住宅街は至って平均的な平家が並ぶが、この国では白い土で造られ、四角く、煉瓦を重ねた建築物が並んでいた。

「この子はどこに行こうとしているのかしら」

「確か、この先を抜けると学校がある道がある筈です」

……学校 連れていく?…………

内周に住むユララの予測した通り、魔法生物は学校に繋がる公園が見えた途端、公園にある茂みに突っ込み、一直線に突き抜けていく。迂回した影響で少し遅れて学校まで辿り着いた3人は、校舎に向かう手前、木々の生い茂った学校の校庭の外れで立ち止まる魔法生物に習って立ち止まった。

「_______は____セ」
「魔法使いは____セ」

「声………………聞こえる……
ポポが気付いたように、校庭へ目を向ける。少女だけでなく、学校中の子供達がドッジボールや鬼ごっこ、時には避難訓練でも使用する馴染み深い場所、そこで現在行われている光景に驚嘆の声が漏れ出そうになった。

「魔法使いはコロセ!!」
「魔法使いはコロセ!!!!!」

 長い木の棒を握り締めて焚き火を囲む大人達。白いシルエットに不自然な動物の頭が取り付いてる。血走った目から、頭部は被り物ではなく、本当に彼らは動物の頭を持った人々なのだろう。信じ難いが、目の前に居る存在が本当だと証明していた。


3人とあまり変わらない年頃の少女の頭。髪の毛は全て刈り取られて、何度も何度も高所から叩きつけられては宙に投げられるのを繰り返して、破裂した頭から脳みそがぼとりと落ちた。
体は長い棒に巻きつけられる形で焚き火に焚べられながら炎炎と燃え、白く小さな肋骨が覗いている。

「そんな、酷い」
少女が弄ばれている光景を目にして目を塞ぐユララ

「早く助けに行きましょう、今ならまだ蘇生できるかもしれない」
 
「はい、もうこれ以上あんな姿は見ていられません」

………………うん」
 
飛び出していこうとする3人よりも早く、いてもたってもいられずに少女の元へ飛び出して行ったのはここまで少女らを導いてきた魔法生物。目にあたる部分から光線を出して動物頭の人間を牽制しながら意識を少女から逸らす。「マて」「マテ」「邪魔者を、捕まえロ」口々に叫ぶ動物頭は皆魔法生物に気を取られて少女を突き回していた棒を投げて走り出す。

「魔法生物が意識を逸らしてくれた今のうちに……!!」

3人は飛び出した。校庭に向かってハディラが跳躍し、木の棒が投げ捨てられた際に遠くへ転がった少女の頭部を回収し、ユララは身体の回収の為に炎の元へ向かい、固有魔法で炎そのものを幽霊化する。ポポは幽霊化した事で通り抜けられるようになった炎の中へと入り、灰へと変わりつつある少女を拾い上げて校舎へと急いだ。

「なんとか助け出せましたね……
 
……良かった…………蘇生、できる?」
 
「どうかしら、ここまで身体がボロボロな状態だと、手持ちの欠片だけでは時間がかかるかもしれない」

………………
「____いいえ、この身体を直すなら、黒聖の国の欠片はなくても大丈夫。魔法で戻れるから」

ハディラの腕で眠っていた少女の頭部が慣れた口調で語り出す、手のひらで必死に押さえていた脳みそはその多くが滑り落ち、あの焚火の中で熱されて残った一部は固まってしまったのに。

「ありがとう、1人じゃどうしようもなかったから、助かった」
 
▼▼▼
「本当にありがとうね、わたしと同じ魔法少女の皆。」
 
「だれ……?」
 
「嗚呼そっか、わたしは皆のこと知ってるけど皆はもう忘れちゃったんだよね」
 
「ハルっていうの、わたしの名前、天の魔法少女だった、多分、今はもっと不可解なもの」

ポポの問いに答えながら再生されていく身体。メキメキと音を立てて骨が繋がる、次に神経、記憶された形状をなぞりながら何本もの細い管がよりを戻し、最後に肉と皮膚が守るように覆った。

「白聖の国は始めて?」

「白聖、初めて……聞く名前…………

「ユララ達は魔法少女の蘇生を終えた後、部屋の先に突然開いた扉から出てきた炎にのまれて気づいたらここにいました」

「そう、あそこから。だったら解説が必要だね」

「ここは白聖の国、場所は黒聖の国の裏側。動物達の国、見たよね、さっきの動物頭の大人達を」

皆が通ってきたのは二つの国の境目にある扉、肉体と魂が行き来する場所、三人は意識だけこちらにきて、身体はまだ向こうにいるんだよ。そう告げるハルはまるでなんでも知っているよと言わんばかりに語る。

「ハルさんはこちら側の方なの?」

「ううん、元々は皆と同じ、黒聖の国の住民だったけど。もうこっちにきて長いんだ。だからさっきみたいなこともよくあるよ、皆ね像を守りたいんだよ」

黒聖の国の住民が像を直したいと願うようにあの白い像を守りたいとこちらの住民も願うのだろう。だがそれではまるで、

……ポポ達は、『敵』?」

「うん、こっちではね。

「きっと皆もわたしのように当分帰れないから、それまでの間よろしくね」


▼▼▼▼

あれボク、どうしちゃったんだっけ
そうだ、魚を食べてたら逆に大きなクジラに食べられて死んじゃったんだ。

 辺りには自分と同じように起き上がる少女達。あの子らも自分と同じようにクジラに食べられてしまったのだろうか。乗せられていた台から降りて、復活祭を担当した魔法少女の姿を探す。

……ん?つやつやしてて美味しそうなイカだ。キミ、しょっぱそうな子の魔法生物?」

…………わぁ、どうして“こんなこと“になっているの?」