あいつは自分に無いものを持っている。自分が必死にコツコツ努力して手に入れたものを、いとも容易く、生まれ持っての才能というその一点でおもちゃを選ぶ感覚で手にする。
そんなあいつが苦手で、大嫌いで──どうしようもなく惹かれてしまうんだ。
夜、寮の自室で一人で本を読んでいた時のことだった。うるさい扉の開閉音に、アデルが外出から帰ってきたことを悟る。つまり一時の平穏はここで終わりを告げるのだ。図書館にでも移動しようかと腰を上げると、そんなこちらの気も知らないアデルが声をかけてくる。
「やぁ、シルバ! どこへ行くんだい?」
「お前がいないところ」
「え? せっかく帰ってきたばかりなのに!」
「帰ってきたからだ」
アデルのラベンダー色の髪が揺れる。手を掴まれる。いつもの突飛な行動だ。それを振り解こうとして──振り解かなかった。解こうと思えば解けたのに。自分は、また。手を引かれたまま歩き出すアデルについていく。彼はベランダの窓を開けると、外に出るように促す。こんな寒い夜に馬鹿かこいつは。
「外、星が綺麗だったよ! ほら!」
「ああ、もう、」
咄嗟に近くにあったブランケットを引っ掴んでベランダに出る。アデルは手すりから身を乗り出すように空を見上げる。
「色のことは全然わからないけれど、星が輝いているのはわかるから見るのは好きなんだ」
「そんなに身を乗り出したら落ちるぞ」
そんな何気ない一言に、彼は振り返り、目を細めた。
「僕が落ちそうになったら、君は助けてくれるかい?」
こいつを助ける。そんな大層なこと、自分にできるのだろうか。咄嗟に、自分は手を伸ばせるのだろうか。伸ばしたとしても、その手をすり抜けて、アデルが笑いながら落ちていく様がどうしても目に浮かぶ。こいつは昔からそういうやつなんだ。思い通りになってくれた試しがない。だから、せめてもの足掻きだ。
その紫の瞳が何を求めているのか。自分に何を期待しているのかはわからない。
「……さぁな」
──お前と一緒に落ちるくらいならしてやってもいい。
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