りっつぁ
2025-10-02 00:03:11
3839文字
Public その他(BL)
 

誰も知らないあの人のこと

デュラケヴィのケヴィンくんがモブ傭兵くんとしゃべってるだけ。ケヴィンくんがフォルセナに遊びにきてます。ED後の話です。
全然デュケビしてないけどデュケビのつもりで書きました。

 地面に書かれたトーナメント表。自分の名前を斜線で消して、ペン代わりの棒きれをぽいと放り投げた。二回戦負け、妥当なところだろう。弱いだのわざと負けただの言われることもなく、場の雰囲気は十分楽しんだ。そもそも休憩時間はしっかり休めばいいのに、ただでさえキツい訓練の合間にこんな遊びをしようと言い出すヤツがいるのも、それに乗っかるヤツがわりと大勢いるのも、みんなちょっと血の気が多すぎると思う。何事にもここらあたりが丁度いいという按配があるものだ。今日のオレにはこのくらいが丁度いいと一人で納得し、練兵場の隅っこの日陰に引っ込んだ。そして、簡素なベンチにぽつんと座り込んでいるその人を見つけた。
 木剣がぶつかり合う音。勝負の行方を眺めている彼は、デュランと一緒に旅をしていたと聞いている。デュランの実力は前から頭ひとつ抜きん出ていたが、あくまで同じような年頃のヤツらの中でなら、だった。だけど、帰ってきてからのヤツの剣はそれこそ見違えるように冴えていて、この国で一二を争うと言っても最早言い過ぎじゃないと思う。そんなヤツと一緒にやってきたんだから、この人も相当な手練れであることは間違いないだろう。ただオレ達とはかなり毛色が違う。剣を使わず拳で戦うその体は、パッと見ただけでも相当鍛え抜かれていることがわかる。獣人らしいが、昼間の光の下で見ると人間にしか見えない。その体格に似合わず顔つきはどこか柔和で、声をかけやすそうな感じがした。ベンチに近づき腰を下ろすと、その人は弾かれたようにこっちを向く。
「あ、……
「驚かせちまったか? ごめん」
「う、ううん。ここ、オイラ、いない方がいい?」
 おどおどと腰を浮かせかけたその人を慌てて引き止めた。もう一度座ってはくれたが、少し戸惑ったようにこちらをうかがう目に、それもそうだろうと自分から名乗った。彼は会釈のように軽く頷き、口の中でオレの名前を確かめるようにつぶやいた。
「初めまして、だよな?」
「うん。名前、覚えた。オイラ、ケヴィン」
「よろしく」
「うん」
 どうだろう、この素直さというか、素朴な受け答え。もしかしたら少し年下なのかもしれない。心細げな様子だし、性格もどちらかと言えば引っ込み思案なのかも。いずれにせよ見た目のイメージからはだいぶ違うが、デュランを待つ間だけでも話し相手になってやれば、多少は過ごしやすくなるだろうか。
「デュランさ、多分しばらくかかるぜ」
「今やってるやつ? 休憩中じゃ、なかった?」
「休憩時間なのは確かだけど、見てのとおり、勝ち抜き戦の真っ最中」
……デュラン、負けない、多分」
「だから先は長いってこと。見てるだけじゃあ、退屈なんじゃないか」
「そんなこと、ない。面白い」
 練兵場の中央に視線を戻した横顔を見るに、確かにオレに気を遣ったわけではなさそうだ。興味津々なのをどこまで表に出してよいものか測りかね、とりあえず控えめに振る舞っているというような感じだった。けどこういう人ならきっと、自分だったらどう動くか、相手の技をどう受けどう返すか、そういう部分に楽しみを見出すんじゃないかと思う。膝の上で握り直された拳が、そわそわと動き出しそうな体を押し留めているようだった。
「もしまた来ることがあれば、混ざってみたらいいよ」
「え?」
「いや、遊びだし必ずやってるってもんでもないが、来る日がわかれば真面目に企画したがるヤツが出てくるぜ、きっと」
「本当? 面白そう、だけど、」
「けど?」
……オイラ、剣、使ったことない」
「その辺はなんとでもなるさ。異種試合みたいなのが好きなヤツも多いから、かえって喜ばれそうだ」
「だったら、やってみたい。次は、先にデュランに言っておく」
「ああ、そうしてみろよ」
 即席の試合会場からわっと歓声が上がった。どうやらひと勝負ついたようだ。拳を突きあげる男と、気まずそうに苦笑いしながら木剣を拾い上げる男。試合を消化するペースが上がっている気がする。
「あ、デュラン」
「優勝候補のお出ましだな」
 今は練兵場を何となく縦二つに分けて試合が進行していて、ここから見て奥側にデュランが出てきた。肩を解すように木剣を軽く振り、構える。開始の声を待つ姿は余裕があり、オレとしてはここがコイツの一番変わったところだと思っている。負けず嫌いは相変わらずだけど、力を抜くのが上手くなった。こういう、遊びと本気の中間みたいな場だと特によくわかる。柔軟で自由、人一倍貪欲。こんなときでも、自分以外の誰かの剣から何かを学びとろうとしているように見える。
 都度任命される審判役が駆けてきて、デュランと対戦相手の間に立った。試合開始が宣告されるとほぼ同時に、甲高い音と共に互いの剣が交わる。
「お、いきなり優勢だな」
「でも、相手、強い」
「おー、アイツもオレらより下の世代の中では有望株でさ。でも今あんなに全力だしてちゃ、あーあー、この後保つのかね」
 今はあくまで休憩時間であって、この後ももちろん厳しい訓練をこなさないといけない。なんだったら、休憩を潰すくらい元気があるならいつもどおりじゃ物足りないだろうとかなんとか言われて、より重いノルマが課されるなんてことまであり得る。そこんとこを踏まえてのペース配分が必要だ。けど、あの後輩くんはデュランに強めの憧れを抱いているというか、半ばライバル視しているようだから、例え余興のような練習試合でも手を抜くわけにはいかないのだろう。実践さながらの鋭い斬撃を難なく捌きながら、デュランは薄く笑っているようだった。隙を突いて繰り出す一太刀は速さも重さもかなりのもので、相手も十分ついていけてはいるが、受ける度に体幹から揺るがされているような感じがする。
「ありゃあ、休憩終わりはへたばってるな」
「あれだけ動けるの、すごい。がんばってる」
「デュランもなぁ、狙いにいけるんだからもっとあっさり終わらせてやりゃいいのに」
「楽しそう」
「楽しくなっちゃってるな」
 わかる、と頷いたケヴィンは、どこか懐かしんでいるような表情だった。旅に出ている間も、きっとこんな感じだったのだろう。
「デュランとずっと一緒にいるってのも大変だったろ。アイツ、口を開きゃあ剣術の話だし、ちょっとでも時間があれば剣振ってるし」
「うん、オイラも、楽しかった!」
 ああ、同類か。満面の笑顔が眩しい。
「そうか、……うん、そうか、気が合ってたなら何よりだな」
「うん! デュラン、手合わせ、たくさんしてくれた。いっぱい、一緒に戦った。オイラも、強くなれた、と思う」
「うんうん。やっぱ実践経験の数が一番物言うよなぁ。アイツ、どうだった?」
「どう?」
「仲間と連携するのは得意じゃなさそうに見えた。昔は、だけど」
「オイラも、得意じゃなかった。けど、みんな、だんだん覚えた。デュラン、みんな何してるか、よく見てる。レンケイ、上手いと思う。それに、仲間思い」
「へー、そうなのか」
 ちょっと意外な評価だった。オレのリアクションに、ケヴィンはにっこりと笑ってみせる。
「オイラ達、たくさん守ってもらった。デュラン、優しい」
「優しい、ねぇ」
 前々から、頑固なところがあるものの悪いヤツではないとは思っていた。広く言えば〝優しい〟と評することもできるんだろう。しかし、どうにもこの柔らかな響きが、デュランにそぐわないような気がする。
「優しい。ホントだよ」
 もう一度繰り返して、ケヴィンの表情が固まった。肌の色が濃いからわかりづらいが、頬に赤みがさしているような気がした。
…………優しくないときも、ある。たまに」
「まぁそりゃそうだろ、人間なんだし」
 獣人もきっとそうだろう。そんな馬鹿げた付け足しはさすがにしなかった。ケヴィンはうん、とぎこちなく頷く。
 さて試合の方は。デュランの対戦相手は脅威の粘り腰を見せているがそろそろ体力の限界が近い。気概だけで振るわれる剣はさらりと受け流され、デュランが力強く踏み込む。剣が空を切る音が一瞬遅れて聞こえるような、鋭い一閃。弾き飛ばされた木剣が大きな放物線を描く。
「時間かけすぎなんだって。いたぶるのと紙一重だぜ、あれは」
……うん」
 ケヴィンは、なぜか顔を合わせたばかりのときのように縮こまっている。何か気に触ることでも言ってしまったのだろうか。ふっと視線を上げると、こちらに気づいたデュランが大きく剣を振り上げた。
「ケヴィン!」
 よく通る声に、ケヴィンはぱっと顔を上げた。金色の瞳を生き生きと輝かせ、デュランの元に駆け寄っていく。うわ眩しい、さっきより。
 笑い合って言葉を交わす二人は明らかに親密そうだ。振り向いたデュランが、オレを手招きする。きっとさっきの、こういう非公式練習試合にケヴィンも混ぜるという話についてだろう。けど、どうしてだろう。馬に蹴られそうな感じがすごくする。あとは二人でどうとでも話をつけて欲しかったが、デュランの視線はびたっとこっちを捉えて外れず、早く来いと催促してくる。オレは渋々とベンチから立ち上がった。



※モブくんについて
・デュランの一個上くらいかも。面倒見が良さそう。実は人を見る目もありそう。本人はやれやれ系を気取ってるけどこの人も普通に熱血タイプ。
・フォルセナ出身じゃなくて出稼ぎにきてるって設定は生かされなかった。