一騎討ち(藤堂+藤丸)

敵と遭遇する藤堂の話。戦闘シーンが書きたかった。

 藤堂は手に冷や汗をかいて対峙していた。
 じり、とサーヴァントの影がにじり寄る。その輪郭は煙のようにたなびいていて、どこの誰とも、クラスも知れなかった。
 目の前には見知らぬ影、背後には己のマスター。まさかマスター付きの自分がサーヴァントの成りそこないに遅れを取るつもりはなかったが、相手が格上である可能性は十二分にあった。たとえ庭も同然の京の街中であろうと、歴史の浅い英霊には神秘の加護は望めない。
 相手の影から目を離さぬまま、藤堂は背後の藤丸にささやいた。
「マスター。何かあればバックアップを頼む」
 こくりと頷かれる気配がする。藤堂は柄を握る手に力を込めた。マスターの命が第一、と口の中で呟く。サーヴァントが藤堂ひとりであるいま、激情に呑み込まれるわけにはいかない。
 影が一歩踏み出す。抜刀する。
 藤堂は駆けだしていた。
 一気に懐に入り込む。下から突き上げた刃は防がれる。影の得物の形は藤堂と同じ、日本刀だ。藤堂は舌打ちをして転がり跳ねた。もし同時代の生まれでもなければ、神秘はこちらが不利だ。
 宙に浮いた藤堂を影の視線が追いかけてくる。煙ったような顔にぎろりと殺気が漏れ出ている。
 サーヴァントの藤堂の戦闘スタイルは身の軽さだ。どう見ても小柄な体躯は土方のようなパワーはなく、補正によって向上した身体能力は同性どころか異性にも押し負けてしまう。沖田のような天才的な太刀筋も持たず、斎藤のような自己流の技を生み出し攪乱させる技もなく。死を恐れぬ奇襲と速射、空間を把握した立体的な動きで敵を翻弄し、隙をつく。
 刃がぶつかる。弾け飛ぶような風切りに瓦が吹き飛んだ。続けざまに斬撃が飛んでくる。身をひねって避け、着地した直後に振りかぶってくる。滅茶苦茶だ、と藤堂は思う。眼が背にもついているのか。
「叩き、斬る!」
 小刻みに跳ねながら突きを避ける。沖田ほど神業的に速くもないが急所の狙いは的確だ。反撃の隙が見えない。視界の端に藤丸が離れた場所でこちらを窺っているのを見やる。まだだ、と首を振った。影の正体がわからないうちから闇雲に令呪を使わせるのはまずい。
 眼の端に切っ先が反射してきらめいた。
「くっ……!」
 とっさに左腕で視界を防ぐ。影の動きが一瞬動揺するように止まった。袖は破けても腕はほんの少し削れただけで、刃の切っ先は欠けていた。それもそのはずだ、絡繰仕掛けの鋼鉄製を吹き飛ばすには鉄を斬らなくてはならないのだから。
……っ、この腕でよかったと思うよ!」
 隙間をぬって藤堂が刀を振りかぶる。斬りつけた、と錯覚したのもつかの間、手ごたえの無さに藤堂の方が驚く番だった。
 まるで煙そのものに空気を当てて流れを動かしたような。影の形は不安定に揺らぐもまったく堪えた様子もない。次の一撃をすれすれで躱し、距離を取った。頬につーっと赤い線が盛り上がる。地面に膝を落として衝撃を緩めた藤堂はゆらりと立ち上がり、破れた袖で雑に拭いた。
 視線が交わる。影と藤堂は同時にぶつかった。力業の剣戟。一挙手一投足が重たく火花が散る。なんて重さだ、と藤堂は歯を食いしばって刀を受け続ける。このままだと競り負けてしまう。
「は、あぁっ!」
 吹き飛ばされた勢いを利用して生垣に飛び乗る。跳躍。右手首を回して刀を持ち替え、槍で刺すように一直線に影の心臓部に突き刺した。
 真横に払われた拍子に手から離れる。地べたに滑るように転がった藤堂は影の背後をつく。刀が貫通した影の振り向きざま、左腕を突き出した。
「これが、僕の……奥の手だ!」
 左腕に仕込んだ火薬が撃鉄を引く。
 至近距離で爆破。影の姿はもうもうと膨らむ黒煙に混じって藤堂にも見えなくなり、硝煙の臭いを引きながら藤堂は後ろに退避した。すとんと藤丸のそばに膝を折ると、断りを入れる暇を与えず彼の身体を俵のように力任せに肩に担ぐ。背中側に鼻をぶつけたらしい藤丸がうめいた。
「わっ、藤堂くん!」
「得体が知れない、悪いが撤退するぞ!」
「えっ、ひゃあ!」
 義足を踏み足に頭上へ高く飛び上がる。藤丸は悲鳴を上げた。体重がどうとか運び方がどうとか訴えているような気もしたが逃げの一手が最優先であるので無視して瓦屋根に飛び乗る。
 下を振り向いたとき、硝煙の中にけぶる影の赤い視線がまだこちらを見つめていそうな悪寒に舌打ちして、藤堂は藤丸を抱えたまま京の街を駆けた。