辺りに充満する血の匂いに研ぎ澄まされる神経。全ての動きが遅く見え、見えない敵すらも見えるような感覚。
怒号も悲鳴も
断末魔も聞こえず、ただ分かるのは自分の息遣いのみ。向かってくる相手に両手の短剣を振れば、倒れ伏しのたうち回る。それをただただ見下ろす感情は無であるのに、なぜか心の奥底から湧きいでる
高揚感。
もっと速く、もっと高く、もっと強く、もっと多く、もっと、もっと
――。
その感覚に身を
委ね、また一歩踏み出そうとしたその時。
「
――っ!」
背後から急に視界を
遮られ、踏みとどまった。しかしそれも一瞬、すぐさま対処するべく短剣を突き刺そうとした
途端、
「落ち着け、イージエットっ!」
「!」
聞こえた声にビクリと体が震え、気が削がれる。
今の、こえ、は
……。
「いいか?大きく息を吸え。んで、ゆっくり吐け。」
言われた通りに息を吸って、吐いた。すると、頭にのぼっていた血の気がゆっくりと引いていく。
「そう、いいぞ。もう一度だ。」
言われるままにもう一度繰り返した。今度は五感が戻ってくる。
聞こえる木の葉の揺れる音と
微かな
呻き声、森の香りに混じる血の臭い、口にひろがる
渇いた嫌な味、そして暗い視界の中で感じる冷たい手のひらの感触。
ああ、この感触は、温度は
――。
それに気がついた
途端、ふっと力が抜ける。両手から剣が落ちるに構わず、背後の彼に体を預けた。
背中に感じる少し冷たい体温に、
火照った体が、
高揚した気分が、静まっていく。鼻をくすぐる優しい匂いに混じる
僅かな
硝煙の臭いに、酷く心が安らいだ。
暗闇の中、ゆっくりと目を閉じる。
「エット?」
聞こえた低い声に、大丈夫だと視界を
塞ぐその手に手を
添えた。軽く甲の硬い鱗をひっかけば、そろそろと手が外される。
そうしてゆっくり目を開け、二、三度瞬きをし、心配そうにこちらを覗き込む群青色の目を見あげた。
「ありがとう、ジグラット。もう大丈夫。」
ほんの少し口端をあげて伝えれば、少し困ったように笑う。その表情に
安堵し、体を起こした。
改めて周囲を見渡せば、目的はとうに果たしていた事に気が付く。バツが悪くなり、誤魔化すように落とした短剣を拾った。そんなオレに呆れた声がかけられる。
「ったく、暴走すんなっての。こっちはヒヤヒヤしっぱなしだったんだぜ?」
「ゴメン、久々に大規模な戦闘だったからつい。」
「んで?気は済んだか?」
ニッと悪い笑顔を浮かべる彼にコクリと一つ頷く。全力で動いたせいか疲労感はあるものの、なんだかスッキリとした気分だ。
「んじゃ、帰るか。コイツらもしばらく悪さは出来ねえだろうしな。」
「そうだね。」
多分死んではいないけれど動かないヒトが多い状況に、少しだけ罪悪感を感じる。ただ、向こうも自分達がした事の
報いを思い知っただろうし、まあこれも勉強代だということで。
そう思いながら
踵を返して立ち止まったままの彼を振り返る。
きっとこの死屍累々の様子に心を痛めているのだろう。相変わらずの姿に目を
眇めるけど、止めはしない。彼には彼の
矜恃があるのだから。
「強き光よ、かの者共の命を
育み傷を癒せ。
範囲高回復魔法」
小さく唱えられた魔法を耳に、彼から視線を外し前を向く。そうして白く光り輝く一帯を背にゆっくりと歩を進めた。
慌てて追いかけてきた隣に並ぶ彼に視線を向け、ひとつ小さくため息をつく。
正直、甘いなあとは思うけれど、それが彼なのだから仕方がない。それに、その甘さに生かされ
絆されたオレは、そんな彼がとても好きだ。だから口を
噤む。
きっとそんなオレに彼も気付いているのだろう。だからお互いこの事案については何も明言しない。
「悪ぃ、待たせたな。」
ただそれだけ言う彼に
緩く首を振って答えた。
「早く帰ろう。なんか食べたい。」
そう伝えれば少し驚いたように目を
見張るも、すぐに細まり嬉しそうに笑う。
そんな彼と視線を合わせ、二人一緒に帰路へとついた。
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Xにてフォロワーさんが「攻の手は受の手より冷たいのが良い」というお話をされていたので、それを題材に。
ジグさんの体温は絶対エット君の体温より低いはず!(*`・ω・´)
エット君は戦闘狂なところがあるので、時々過集中(トランス)状態になります。
以下イラストはお話のイメージラフ


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