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A4
2025-09-30 21:13:23
2560文字
Public
助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
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妹からの牽制/ 助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
お題箱でいただいた「イトアキのライトさんとリンちゃんのお話」のアンサーです
「ライトさん、デートしない?」
そんなメッセージがノックノックで飛んできた。
ライトは口の中でキャンディをかみ砕いた。
粉々になった砂糖の塊の破片が広がる。ざりざりとしたそれを舌で転がし、もう一度画面をよく見た。
メッセージの送り主は六分街に店を構えるビデオ屋の店長だ。その片割れ、妹の方。
穏やかではないものを感じて、しかし、ライトは承諾の返事をする。
「ルミナ・スクエアのモニュメントの前で集合!」
スマイルの顔文字とともに日時も指定され、幸か不幸か空いていた。
この「お誘い」を彼女の兄は知っているのだろうか?
おそらく知らないだろう。
もめ事になりそうだと思いつつ、無碍にはできず、ライトは約束の日までその問題を棚上げして考えないことにした。
平日の昼でもルミナ・スクエアは賑わっていた。
さすがヤヌス区は新エリー都の中でも一番のエンターテインメントがそろっている区画だ。
来る度に物の多さ、人の多さに目眩がする。
ここは行き着く先のない物が集まる掃きだめのような場所とは違い、誰に対しても開けた自由な空間なのだ。
モニュメントの前にはまだリンはいなかった。ライトはそこに腕を組んでたたずんだ。時折、行き交う人からの視線を感じたが、サングラスで見えないことにして反応しなかった。
「ライトさん、お待たせ」
明るい声がして、リンがやってくる。
「今日は来てくれてありがとう」
「他でもないあんたからのお誘いだ、喜んで来よう」
「またまたそういうことを言っちゃって。誤解されるよ?」
ライトの口説き文句はこうだ。「誤解されても構わない」
しかし、真意も伝えない。
こう、のらりくらりと躱して相手を翻弄するのが得意だった。
ちょうど、ボクシングの戦法のように。
だが、この兄妹には通じない。
「気をつけよう」
「ライトさんがモテるのはわかるんだけどね。ちょっと、注意してもらわないと」
「何か含みのある言い方だな」
「あのね、お兄ちゃんってゼロかイチかの人間なんだよ。間がないの。ライトさんが他の人に興味があるってわかっちゃったら、あっさり手放せちゃうよ」
リンはため息をつきつつ肩をすくめた。
「ライトさんとお兄ちゃんがどうこうなっても私には関係ないけど、でも、妹としては心配なんだよね。あ、ライトさんのことが、じゃないからね。私の関心はあくまでお兄ちゃんだから」
言って、歩き出す。ついていくと、リンはティーミルクを二つ注文した。おそろしく複雑で難解な商品名をよどみなくすらすらと伝え、渡されたそれは舌がしびれそうなほど甘かった。そのまま、リンに誘われて公園に行く。
二人で並んでフェンスに背を預けてティーミルクを飲んだ。
「お兄ちゃんって、いつも私とイアスのことが一番なの。自分のことは最後。へーリオス研究所で、いつもそうだった
…
。目にインプラントを入れるときもお兄ちゃんは反対してた。自分だけでいいって。でも、私はお兄ちゃんとなんでも一緒がよかったから、二人で手術してもらったの」
リンはぽつぽつと話す。
「プロキシとしての仕事も、お兄ちゃんは私が最高のパフォーマンスを発揮できるようにサポートしてくれる。お兄ちゃんにとっては他のことなんかどうでもいいみたい。ヒョロガリで文弱でビビりのくせに、何かあったら絶対私を後ろに隠すんだよ」
本当に困っちゃうよねえ、と話すリンは嬉しそうでもあった。
「でもね、ビデオ屋でのお兄ちゃんはちょっと変わる。我が儘も言うし私のことを優先しないときもある。経営のことも、他は何でも相談してくれるのに、勝手にやっちゃったり。あそこでお兄ちゃんと暮らしてると、知らないところがまだまだあるんだ、家族なのにって、発見がある
……
」
リンはストローで残りのティーミルクをすすった。吸い終わってもまだストローを噛む。
「そのほかのことでお兄ちゃんが私の知らない顔を見せるのは、ライトさんといるときだけだね」
「
…………
」
「すっごく楽しそう。あんなに人のこと興味ありませんって顔してたのに。ニコやビリーにもさ、たまに辛辣なことを言うけど、それはやっぱりビジネスの付き合いって感じなんだよね。ライトさんには言いたい放題だから、びっくりしちゃった」
「そうか」
「そうだよ! 私はそれが嬉しくて、そんでもって同じくらい心配」
ティーミルクのカップを握りつぶして、リンはぶんぶんそれを振り回した。
「ハマってたものに対して興味を失ったときのお兄ちゃんのこと、知らないでしょ。もうきれいさっぱり、忘れちゃうんだよ。好きだったことも過去って割り切っちゃう」
リンはびしっとライトに指を突きつけた。
「だから、ライトさんはお兄ちゃんだけ見てないとダメなんだからね」
「なるほどな」
「離れるのはライトさんの自由だけど、もしこれから先もお兄ちゃんと付き合ってくれるっていうなら、絶対によそ見しないで」
「善処しよう」
「うん、そうして」
リンはライトの返事に片目をつむった。
「もしお兄ちゃんを傷つけたら、Fairyと一緒にライトさんの人生めちゃくちゃにしてあげる」
「おそろしいことを言うな。誓って、しないさ」
「そう? ライトさんも心配なんだよね〜、どっか危ういっていうか
……
。ライトさんの行動でお兄ちゃんがどうにかなっちゃったら、私、きっと許せない」
「可能な限り、あんたの兄に不利益を被らせないようにする。信じてくれ」
「頼んだよ、ライトさん」
そう言うリンにアキラの面影が重なる。やはり兄妹で、似ている。強引で物騒なところも一緒だった。
「じゃあ、ライトさん、用件はこれだけ」
「ああ」
「出るときにお兄ちゃんにライトさんとデートって言ってきたから、もうすぐここに来ると思う」
「
…………
」
「うまく言い訳してね」
兄が兄なら妹も妹で、厄介だった。
リンはライトに手を振って公園を出た。
その直後から、スマホがものすごい勢いで震え始めた。設定など何も変えていないから、普段の通知と同じ動きのはずだが、嫌な予感がするのは何故だろうか。
画面をタップすると、案の定、アキラからの通話だった。
ライトは息を吸い込む。
まるで戦いに出る前の心境だ。
心してかかろう、と通話ボタンをタップした。
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