水樹
2025-09-30 20:38:09
3233文字
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ふわふわもちもちメロメロボディ

スグアオ/sgao
ラブコメ、というかスグリがひたすらわやわやしてるだけのコメディ?かも

アカマツくんごめん

 いつものように部室へとやってきたアオイ。だけどその表情は、いつも明るく輝くそれとは真逆に、どんよりと曇っていた。

「アオイあの、なんかあった? あ! 嫌ならむりに話さなくてもいいから」
……うん、ありがとうスグリ」

 隣同士に座り、部員のみんな――主にカキツバタ――が持ち込んでいるお菓子をたぐり寄せ、アオイの目の前まで移動させた。
 が。
 アオイはそれを拒絶するかのように、俺の方へとどける。グミも、クッキーも、キャンディも、チョコレートも。

……スグリ。わたし、そろそろ怒るよ?」
「えっ」
……! ……ごめん。こんなの、ただのやつあたりだ」

 ……やつあたり?
 意図するところがわからず、俯いてしまったアオイをただただ見つめる。いつもきらきら輝いているヘーゼルの瞳は、トレードマークの三つ編みで隠れて見えない。

……アオイ?」
「あ、あの、ね。ちょっと、言いにくいこと、なんだけど、言うね?」
「うん」
……わたし、あの、その。えっと、あの」
……うん」

…………ふ、ふとっちゃ、って」

 ……太った? アオイが?
 思わず上から下まで視線を巡らせる(後から思えばかなり不躾だった)が、その体型に変化は見られない。手や顔も、ふっくらしたなんて印象は、特にない。

「えと、傍目には、そんなのわかんねっけど」
「服で隠れてるからそう思うだけだよ! お腹とかぷにってするもん! ほら!!」
「え」

 服越しだと説得力に欠けると思ったのか、上着の裾を軽く上げ、そこに俺の手を押しつける。近かったからか左手……つまり、素手だ。
 普段、あまり晒されることのない場所。あまり日に焼けていないからか、腕とかに比べるとやや白い肌。呼吸に合わせて、わずかに動いているのが体温と一緒に伝わってくる。すべすべしてて、でもふわふわのもちもち。なんだかずっと、いつまでも触っていたくなる、よう、な。
 …………え。ちょ、ちょっと待って? い、今俺、あ、アオイの。す、すす、好きな子のお腹を、さ、触っ……!?

「ね? やばいでしょ?」
……ゃ、わ」
……?」
…………わやじゃ……!!」
「えっスグリ!? スグリーーーー!?!?」

 後ろに倒れたのは、賢明な判断だったと思う。



 頭、ふわふわする。違う。頭が、ふわふわした何かの上に乗っかってる。部屋の枕、こんなにやわっこかったっけ。それに、ちょっぴりあったかい。そう、ちょうど、人肌、くらい、の。

……ん、ぅ?」
「あ、気がついた?」
…………
「頭打ったりはしてなかったと思うけど、気分はどう? 大丈夫?」
…………
……スグリ?」

 ……わ。

「わぎゃああああ!?」

 叫ぶと同時に、アオイの膝枕から逃れる。が、どうやら寝転がっていたのはソファの上だったようで、どたんっ、となんとも情けない音を立てて床に落ちた。

「だ、大丈夫……?」
……

 うう……わやかっこ悪い……

「な、なな、なんで膝枕……
「カキツバタが、きっとスグリが喜ぶからって」
「カ、キツバタぁ……!」

 振り返れば、にやにやにまにまと、わや気持ち悪い笑みを顔にはりつけているカキツバタがいた。何もかもを見透かされてるみたいで、ほんとむかつく。

……それにしても」
「?」
「のけぞって気絶しちゃうくらいやばかったんだね、わたしのお腹」
「えっ」

 確かにやばかった。やばかったけど、それは俺のほうで。でも、そんなこと言えない。そんなこと言ったら、きっと引かれる。最悪嫌われる。
 それが嫌で、だまりこくっていたのがよくなかった。アオイは泣きこそしないものの、どんどん、どんどん俯いていく。はやく、はやく何か言わねえと。でもいったい、何を言えば?

「あ、あの、アオ」
……決めた」
「え、何を?」
「今日からダイエットする!」

 必要ないと思うけど。その言葉を、必死でのみこんだ。



 それからきっちり一週間。先生達にアドバイスもらってくる! と一度パルデアに戻ったアオイ。そのアオイは今。
 お土産にと持ってきたムクロジのケーキを、幸せそうにほおばっている。

「ん〜、おいしい! ほっぺた落ちちゃいそう!」
……う、ん。わやおいしいな」

 おいしい。ほんとうにおいしいのだけれど。ダイエットの話はどうなったのだろう。気になるけど、俺から話を振るわけにもいかない。ケーキ食べてて大丈夫なんだろうか。確か、チートデイなるものがあるらしいから、今日はそれってことなのかな?
 ちなみにそれを話題にしかけたカキツバタは、ねーちゃんとタロによって連れ出されここにはいない。「そういうの、よくないと思います!」とか「カキツバタあんた! 頭の中までフワ男なの!?」とか言ってた気がする。

「ごちそーさま! ……ね、ところでアオイ」
「ん? どうしたのアカマツ」
「さっきカキツバタ先輩が言いかけてたけど、ダイエット? てどういうこと?」

 ……
 …………
 ………………!?!?

「あ、あああ、アカマツ!!」
「えっ、なんでスグリがそんなびっくりしてんの? あれっ? もしかして聞いちゃダメなやつだった!?」
……デリカシーに欠けることは確か」
「ええっそうだったの!? あわわ、ごめんねアオイ!」
「あーそれね。気にしないで。もう大丈夫だってわかったから」
「えっ」
「え? どういうこと?」
「えっとね」

 アオイは、ミモザ先生やリップさんから聞いたという話を、俺達にしてくれた。
 まず、アオイの体重は適正値。太りすぎということはないらしい。……まあ、ドームでもあちこち走り回ってるわけだし、運動不足ってことは想像しづらかったもんな。
 次に、成長期における体の変化の話。個人差はあるものの、女子はアオイくらいになると少しづつ、体が丸みを帯びてくるらしい。

「つまり太ったってわけじゃなくて、ちゃんと成長してるってことみたい。だから大丈夫なんだって」
「へー」
「もちろん食べ過ぎたら太っちゃうけど、今まで通りいつも通りにしてて問題ないみたい。むしろ今ダイエットなんかしたら、逆に健康をそこなうからだめって言われちゃった」
「そうなんだ。……うー、でもデリカシー? がなかった、んだよね? それはほんとゴメン」
「気にしないでいいのに」
「気にするよ! 強火で!」
……アカマツは、少し考えてから発言することを覚えるべきかと」
「うう……

 話を聞きながら、俺の脳裏に一週間前のことがよぎる。だいぶ薄れてきた、だけど今でも無意識に枕やポケモンっこ達と比べてしまう、あの感触。
 すべすべしてて、ふわふわのもちもち。自分のそれとは全然違う、女の子の。好きな子の、肌。あ。やばいどうしよう。どんどん鮮明に思い出してきちまった。どうしよう。ひとまず今だけでも追い出さなきゃ。追い出さなくちゃ……

――グリ? おーい。スグリー?」
「っ!?」
「さっきからずっと黙ってるけど、どうしたの? ……って顔真っ赤! 熱あるんじゃない!?」
「ぇあ、だっ、だだ、だいじょ…………っ!?!?」

 目の前には、伏せられたまぶた。長いまつげが、ほっぺに影をつくっている。すき間なくくっつけられたおでこ。吐き出された吐息が、唇をかすめた。

「ぅ、あ……
「んー……? ちょっと熱い、かな? でも熱とかじゃなさそう」
「わ、わや……

 ゆっくりと現れたチョコレートの中に、真っ赤になった俺がいる。自分と異なる温度が、離れていく。

「一応医務室で診てもらお……って、え!?」
「え、ちょ、スグリ!?」

 アオイがじゅうぶん離れたのを見届けて、必死で繋ぎ止めていた意識を、手放した。

 再びアオイに、膝枕してもらうだなんて思いもせずに。