【ルタクラ小説】星の導きとふたごのはなし4/4


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バルコニーでは、白いタイルがピカピカに輝いている。冬の間そのタイルの上に我が物顔で鎮座していた雪はもうすっかり溶けて、どこかへいなくなってしまった。去年と変わらずに訪れてくれた春の陽気の元、ルタールステラはばさりと大きなシーツを物干し竿に掛けた。風に飛ばされないようにピンチで挟めば、楽し気にシーツが揺れる。軽やかなそれを見ていれば、心が和んだ。それから、その足音に気づく。
――ルタ。ここにいたんだ。お洗濯、ありがとう」
両手いっぱいに機械いじり用のツールを抱えたクラークステラが顔を出す。どうやら天気もよいのでツールの手入れをしたらしい。日当たりの良いタイルの上に、濡れたそれらを並べていく。
「今日はいい天気だね」
ルタールの言葉にクラークは笑顔で頷く。それから、ポケットから懐中時計を取り出して時刻を確認した。クロードとの約束の時間にはまだだいぶある。
「ルタはそろそろ出かける時間?楽しんできてね」
ありがとう、とルタールは笑う。それから、愛しい弟の頬に軽くキスをした。


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修理を依頼されていたヘッドホンを渡せば、クロードは嬉しそうに受け取った。せっかくだからと工房の隅にあるソファセットを示せば座ってくれる。
「修理、さんきゅな。ほんとに助かった」
「良いよ。このくらいならいつでも。君には色々借りがあるし」
少し柔らかい声色を使ったクラークにクロードは笑みをこぼす。わずかに口の端が上向きになっているところを見ると、何かのろけたいことでもあるんだろう。ポーカーフェイスを気取っている彼だけれど、だいぶその奥底の気持ちを察することができるようになってきた。修理のお礼に、話を聞いてあげることにする。
「ルタールとは上手くやってるのか」
「当たり前でしょ。この間も一緒に買い物に行ったんだ。ルタの画材や主へのお土産をいろいろ見て帰りにご飯も食べた」
「へえ」
相変わらず仲良いなと言いかけて口をつぐむ。傍目から見ていれば「相変わらず」だけれど、彼らにとっては「変わった」んだった。どのぐらいの間彼らがその思いを抱えていたかは知らないけれど、ルタールとの外出を楽しそうに話す彼には、素直に「良かったな」と思えた。
「今日、ルタールは?」
「出かけてる。相手は誰だか知らないけど」
ぱちぱちとクロードは目を瞬かせる。
「聞かねえの?誰と出かけてるか。そういや、例の星の導きで会ったやつとは結局どうなったんだ?」
「知らない」
「えっ
それはいいんだろうか。とクロードは思う。何かいびつな関係にも思えて彼を見るけれど、クラークの顔はひどく穏やかだった。
「言ったでしょ。僕はルタが幸せだったらそれだけでいい」
別の誰かと楽しそうにしていても?」
「もちろん」
さらりと言ったクラークは笑う。
「ルタの最愛は僕だからね。それはこれから先も変わらないから」
だから良いんだ、と言った声は、外の陽気に良く似合うほど温かかった。



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もう何往復になるかもわからない「お返し」をルタールが城に持参したのはその日の午後だった。主同士のほほえましいやりとりが包まれたラッピング袋を、メロルドは丁寧に受け取る。
既にお茶の準備ができている客間にルタールを通し、自分も席に着いた。
「弟くんとはうまくやってる?」
そう問えばずいぶん血色の良い顔をしたルタールが笑顔で肯定する。ほんの数か月前まではどんより暗い顔をしていたのにね、とメロルドは心の中で少し笑って、それから、良かったなとも思う。これで自分も遠慮なく存分に彼に甘えることができる。最近は年度切り替え時期特有のばたつきで仕事量が多く、ちょうど疲れていたところだった。あとで『ルタールお兄ちゃん』にいろいろ愚痴を聞いてもらわなくちゃ。
「最近、例の星の導きであった人とはどうなの?」
そう問えば彼は「楽しく過ごしているよ」と言って笑った。
「クリスマスには俺とクラにおそろいのマグカップをプレゼントしてくれたんだ。この間は一緒に花の苗をさがしに行った」
「ふーん。そういうのって弟くんは焼きもちとか焼かないわけ?面白くない、とか言いそうだけど」
「ふふ。それがね、全然平気なんだって。不思議だよね」
そういうものかなあなんてメロルドは考える。自分だったら恋人が別の人と出かけたりするのは面白くないしプレゼントをもらったって嬉しくないんだけどなあ。相変わらず変わった子。
「まあでもそのぐらいじゃないと君の恋人は務まらないんだろうね」
そう言えばルタールは嬉しそうに笑う。
「そうだよ。俺の恋人はクラじゃないと無理なんだ」
ルタールの笑顔を見て、そう言えば小さなころも同じことを言っていたなとメロルドはふと思い出す。まだ自分が騎士になったばかりのころ。自分と似たような髪色をした小さな小さな先輩騎士はしゃがんだメロルドの耳元でこっそり教えてくれた。「めろるどくんだけにこっそりおしえてあげる。おれのすきなひとのこと」。あれは弟をとられまいとする彼の牽制だったのか、あるいは好きな人ができてうれしい子どもの報告だったのか。それから信じられないほどの季節が巡って、ようやく彼はそれを内緒話ではなく自慢話として言えるようになったんだなとそう思った。
だからメロルドはにっこり笑う。
「ほんとにそうだと思うよ。おめでと」


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少しずつ風に湿度と熱が混じるようになってきたことに、ルタールステラは城の中庭で気づいた。もうすぐ夏がやってくる。
今年の夏はどんな夏だろう。弟と恋人になって初めての夏。
彼といる時でも、どうしてもまだ怖い気持ちが時々芽生えてくる。このまま一緒にいられなくなったら。修復の効かないような大喧嘩をしてしまったら。弟の気持ちが変わってしまったら。けれどそのたびに弟が抱きしめてくれて、何度も何度も「大丈夫」と言ってくれる。そんな風にふたりで少しずつ怖さを薄めていれば、ルタールは安心できるのだった。完全な安寧はまだ得られていないけれど、彼に思いを告げるまでのあのひりひりとした迷子のような孤独感は少なくとももうない。それだけでも彼は十分に幸せだった。
どうか、と彼は祈る。祈ることしかできない自分にふがいなさを感じながら、それでも祈る。
どうかこのままずっとクラと幸せでいられますように。



「あっつい
クラークステラは、汗をぬぐいながらひとりごとを吐き出す。もう夏が迫ってきているせいなのか、その日はとびきり太陽の光が強かった。空にほど近い大きな時計台の中は蒸し風呂のように暑くなっていて、汗をぬぐいながら点検をするしかない。
もう夏と言っても過言ではないような気温のなか、クラークはこの夏の過ごし方を考える。もちろん仕事が第一優先だけれど、数日は夏休みをとっていいと主からも言われている。せっかくだから兄とどこかに行きたいなと彼は思う。美味しいかき氷屋さんがあるというからそこに行ってみようか。夜には花火をするのもいいかもしれない。でもそれだといつもとおんなじであんまり恋人らしくはないだろうか。そんな風に考えながら、時計部分の点検を終える。展望台部分へ足を運べば風が上手く抜けて、内部よりもぐっと涼しい。汗ばんだ身体がすうっと冷えていく。ざっとあたりを見回してネジの具合を確認したが、特に問題はなかった。彼はそのまま、展望台の手すりをつかんで遠くを見る。
幼いころから展望台で彼がいちばんに探すのは、世界で一番大好きな場所でもあるお城だった。今も彼は、真っ先にお城を探す。きっと兄がどこかにいるお城を。
それはきっとこの先も変わらないのだろうなと彼は思って、そんなことを幸せに思った。