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🌟💫(ルタクラ)
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【ルタクラ小説】星の導きとふたごのはなし3/4
☆☆☆
双子星の国は、冬になると雪が積もる。クラークステラはバルコニーから、薄いピンク色の髪の兄を見送った。真っ白な世界に真っ白な服を着て出かけるルタールは、天使みたいだ、なんて思う。ファーがついたとっておきの白いコートを選んだということは、きっとデートなのだと思う。星の導きによってであった相手とルタールは、月に1、2回は出かける。どこに行っているのか、何をしているのか、そしてふたりがどんな風な気持ちでいるのか。そのすべてをクラークは知らない。クラークがかつて星の導きで出会った相手と過ごしていたように友人として過ごしているのか、或いは恋人のように過ごしているのか、家族になる準備をしているのか。何ひとつ、彼は知らないのだ。何故ならクラークは一切それについて兄に聞いていないので。どちらかと言えば自分のことを多く語らない兄も、自らの交友関係を弟や主へあれこれ伝えることはしない。ただ必要に応じて「今日は出かけるね。夜ご飯は要らないよ」と言うぐらいのものである。さて、と兄を見送ったクラークは城内へと戻る。もうすぐクロードとの約束の時間だった。
☆☆☆
寒い中城を訪れたクロードに温かいジンジャーティーを差し出せば、「さんきゅ」と彼は笑顔を見せる。二、三の仕事の話をして必要な書類を受け取って、さて本題とばかりに「最近どうなんだ」とクロードが聞いてきたのはつい先ほど。「何にも変わっていない」と答えれば、驚いた顔のクロードがいた。
「えっ、てことは結局ルタールはそいつとまだ付き合ってるのか?」
「付き合ってるかどうかは知らないけど、時々出かけてる。何だったら今日もたぶん」
思っていたよりあっさりした答えにクロードは少し驚く。付き合ってるかどうかも分からない?本当に?そんな曖昧な答えでいいのか?
思わず問いただしたくなる思いを飲み込み、そこには気づかないふりをする。彼とはだいぶ親しくなったつもりだけれど、何もかもをさらけ出しあうほどの仲ではまだない。それぐらいの思いやりはあってしかるべきだ。
「ところで、お前の方は?例のお見合い相手とはどうしてるんだ?」
「僕は何にも。もう一切連絡取ってないしどこで何してるのかも知らない」
先ほどとは違い歯切れよく答えるクラークに「そうかよ」とクロードはため息をつく。人間関係にドライなことは知っていたけれど、星が導いたという相手をここまで見限れるものだろうかと考えたりもする。
「ルタールとお前の関係は?」
「それも今まで通り」
ということは単なる双子の兄弟のままということなのだろう。それでいいのか、という疑問はクロードの胸の中に秘める。答えは明白。いいわけはないだろう。その証拠に彼はちらちらと時計と外の様子をうかがっている。兄が何時に帰ってくるのか。雪の具合がどうなのかが気になるのだろう。優しい兄をおもんばかる弟以上のその仕草は、クロードにとっては「単なる兄弟」というようには見えない。何だかんだ兄のことが好きで心配なんだよなあと思って少し苦笑する。兄が喜べば一緒に喜んで、兄が困れば一緒に困って。
それからふとクロードはひとつの疑問を思いついた。温かいお茶の効果が舌の動きを手伝って、何の気なしにそれを口に乗せる。
「ルタールが困ってるってことはないのか?」
「? 困ってる?」
大きな疑問符を頭に載せたように首を傾げたクラークに、クロードは頷く。
「そう、お前だって最初に断ったとき相手に結構粘られたんだろ。お前は言いたいことガンガン言ってしかももう友達もやめるって突っぱねられるぐらいだからいいけど、ルタールって優しいから
――
」
言いかけたクロードの言葉を遮るように、がたん、と大きな音を立ててクラークが立ち上がる。
「
…
本当は嫌がってるルタを相手が無理矢理つき合わせてるってこと?」
顔面蒼白に近い状態になったクラークの声がいつもより低い。しまった、とクロードは一瞬で我に返る。あくまで仮定。たったひとつの可能性を示しただけだったのに。
「待て落ち着け。そういう場合もあるってだけでもちろん嫌がってない場合も」
「ちょっと出かけてくる」
「待てって!」
自分より頭ひとつ以上大きな背丈のクラークを、クロードは必死に止める。きちんと毎日欠かさずトレーニングをしている効果なのか、比較的簡単に止められたことにほっとする。クラークが魔法や馬鹿力を発揮して突破しなかったことにも。
「ちょっと落ち着けって。まだそうとは限らねえし」
「でももしルタに何かあったら
…
それこそ相手が無理矢理
――
」
「最高の魔法使いなんだろ、お前の兄貴は。仮にも騎士なんだし危ないことは何にもねえよ。しかも相手も良い奴なんだろ?な?」
未だに落ち着かないように目をきょときょとと動かすクラークに、クロードはため息をつく。とりあえず座るように促せば、彼は一応大人しく席に着く。けれどその顔は酷く暗かった。
「でも可能性としてはあるってことだよね
…
?」
「あ?」
「ルタが困ってるどころか、嫌がってるっていう可能性も
…
」
どうだろうか。クロードは首を捻る。まあ可能性としてはなくはない。けれど星の導きで出会ったふたりだ。ルタールが嫌がっている、というところまでいくかどうか。それに本当に嫌だった場合、彼だってきちんと断れるのではないか。
「
…
僕は、ルタが幸せならそれでいいと思った。でも、ルタが幸せじゃない可能性があるなら
…
」
再び立ち上がらんばかりの勢いのクラークを、クロードは何とか押しとどめる。それから深くため息をついた。なにが単なる双子の兄弟のままだ。こんなに思いを募らせているくせに。
「とにかく、話せ。ルタールとしっかり」
な、とクラークの肩を軽くたたく。下唇をかみしめたクラークは、小さく頷いた。
☆☆☆
「というわけで相手とはお別れすることにしたんだ」
ルタールの言葉に、メロルドは「へえ」と声を上げる。美味しいアフタヌーンティーを楽しめるお店があるから行こうよ、せっかくだからおしゃれしてさ、とルタールに声をかけたのは先週のこと。ルタールの主からのお返しのお返しのお返しを受け取るのが主目的ではあったものの、お見合い相手との顛末も気になったメロルドはゆっくり話せそうな場所を指定した。鳥籠状のケーキスタンドには、蝶や花を模した小さなスイーツが美しく飾り付けられている。彼はそれを慈しむように見たのちに、メロルドの「例のお見合いの話どーなったの?」という質問にここ数か月に起こったことを話した。
「お別れっていうってことは本当にもう連絡も取ってないの?」
「いや
…
たまに誘われて食事をしたりはしているけれど」
なんだそれ。メロルドは眉根を寄せる。クラークとは違いまだ完全に彼は関係を断っていない。そこに双子の違いを感じるものの、本当にそれでいいのだろうかとも思う。
「ルタールはそれでどういう気持ちなわけ?ごはん食べて楽しい?ぶっちゃけ迷惑?」
それなんだけど、とルタールは困ったように俯く。なみなみと注がれたハーブティにその顔が映っている。
「
…
正直、楽しい、気持ちもある。俺にとっては
…
初めての友達、みたいなものだし」
「なーにそれ。まるで僕とは友達じゃないみたいじゃん」
「えっ」
メロルドの言葉に、ルタールは少しだけ早口で言い訳をする。そういう意味じゃなくて、メロルドくんも大切な友達だけど、でも騎士仲間として出会ったというのが先で
――
。そんなふうにルタールがわずかに慌てているところを久しぶりに見られたメロルドは満足感を覚えた。普段落ち着いている人物が感情を揺さぶられる様を見るのは楽しい。そしてそんな彼に、とどめを刺すようにメロルドは問う。
「で?弟くんと一緒にいる時とどっちの方が楽しいわけ?」
「えっ
…
」
再び虚を突かれたような顔をしたルタールはそこで硬直する。おや、とメロルドはそんなルタールの様子を見て意外に思った。「そんなのクラに決まってる」なんて即答されると思ったのに。
彼の頭が整理されるのをスイーツをつまみながら待っていてあげれば、のろのろとルタールは口を開く。
「クラといるのは
……
もちろんすごく楽しい。クラの一挙一動がかわいいと思うし、ついからかいたくなっちゃうぐらいに愛しいし
…
」
「うん」
「でも同じぐらいすごく苦しい。あの笑顔を誰にも見せてほしくないと思うし、この時間が永遠に続けばいいとばかり思う」
「まあ恋愛なんてそんなもんじゃないの?」
あっさり言ってのけるメロルドに、ルタールは一瞬顔を上げてから、うつむく。本当だろうか。世の中で楽しそうに過ごす夫婦やカップルは、みんなこんな泥のような思いを抱えているんだろうか。
「それも込みできちんと弟くんに伝えてあげればいいじゃん。あの子なら君のそんなものも全部受け止めてくれるでしょ」
「そうかな
…
でも、クラは誰かと恋愛したり家族を作るつもりもないって言ってたし」
それは君以外の誰かとはって意味かもしれないけどね。とメロルドは心のなかで呟く。本当はそう言って励ましてあげたいけれど、それを口にするような無責任なことはやはりできない。特に、こんなふうにしおれている彼には。
「難しいよね、こういうのって」
メロルドの言葉に、ルタールはうつむいたまま頷く。メロルドはふと、鳥かごの中にたくさん並べられたスイーツたちを見る。こんな風に綺麗なものを並べておくだけでいいなら、人間関係なんてひどく単純なのにね、なんてそんなことを思った。
☆☆☆
「ルタ!大丈夫だった?!」
ゆっくりとメロルドとのアフタヌーンティーを楽しんで帰宅したルタールを待ち構えていたのは、顔色の悪い弟だった。いつものように玄関で雪を払ってくれる手も、心なしか少し強い気がする。
「大丈夫だよ。雪は降ってたけど列車も止まってなかったし。体調も別に
…
」
「そうじゃなくて!あいつに嫌なことを言われたりしなかった?そもそも今日は本当に行きたかったの?」
「
……
?」
室内に入りながら、ぱちぱちと目を瞬かせてルタールはクラークを見る。あいつというのはメロルドのことだろうか。嫌なこと?もしかしてメロルドとの話の内容を知っている?
「
――
どうしてそう思うの?」
動揺を悟られまいと逆に問いかけてみればクラークは「だって」と小さく呟く。
「ルタは優しいから。あいつに誘われれば嫌でも良いよって言っちゃうでしょ。それとも嫌じゃないの?」
「嫌も何も
…
俺から会いたいって連絡したんだし」
ルタールの言葉にクラークは絶句する。その様子を見てルタールは小首をかしげた。今回の外出は、主がお返しのお返しのお返しをしたいとプレゼントの絵をルタールに託したところからはじまったのだ。メロルドの主とルタールの主は仲が良いのもあって小さなころから何度も行き来している。最近はシーズの影響もあるので騎士だけが会うケースが増えているものの、それだってもう何年も続いていることなのに。そもそも主同士の仲でいえばクラークだって同じように赤の大陸のプルースとはしょっちゅう連絡をしたり会ったりしている。クラークの主はプルースの主ととにかく仲が良いのだ。だから別に何の不都合もないはずなのだけれど。
「そっか
…
。ルタから
…
」
けれどルタールの言葉に、クラークはがっくりとうなだれた。それから、無理に笑顔を作って見せる。
「ねえルタ。今日は
――
…
楽しかった?」
「え?うん、楽し
…
かった、よ?」
「そっか。それならよかった」
まるで泣きそうな顔の弟を見て、ルタールはただただ困惑する。どうして騎士仲間と会っていただけで弟がこんな顔をするんだろう。確かに小さなころは、ルタールがひとりで出かける時に嫌がったことはあった。けれど最近はそんなこともなく。そもそも彼だってひとりで出かけることだってあるのに。
「ねえどうしたのクラ。何かあった?」
問えばクラークは何かを言うように口を少しだけ開いて閉じてを繰り返す。それから「ううん」と言って笑った。
「外、寒かったでしょう?お風呂たまってるから、入っておいでよ」
そう言って笑った弟の顔は、決壊寸前にも見えた。
ちゃぷん、と間が抜けたような音が浴室の中で跳ねる。
外で冷えただろうからしっかりあたたまってね、と弟に釘を刺されたルタールはじっくりと湯船に浸かる。クラークがいれてくれた入浴剤は優しいラベンダーの香りがした。
弟はいったいどうしたんだろう、とルタールは揺らめく湯気を見ながら思う。帰ってきたときのクラークの態度は、いつもと違うように思えた。帰宅時間はそこまで遅くなかったと思うけれど、雪が降っていたから心配したんだろうか。
それとも、メロルドが何かを伝えたか。
そこまでふたりは仲が良かったように思わないけれど、連絡先ぐらいは知っているはず。メロルドが気をまわして何かを弟に伝えている可能性はありえなくはないだろう。伝えたとしたら何をどこまで伝えたのか。聡いメロルドがルタールの思いをそっくりそのまま言うとは思えないけれど。
モヤモヤする思いを洗い流すように、湯船のお湯で軽く顔を濯いで、やっぱり彼と話をしようと決める。自分の思いを告げるかどうかはさておき、弟がどうしてあんな不安げで泣きそうな顔をしていたかは知っておきたい。
よし、と覚悟を決めて立ち上がる。外気で冷えていた身体もすっかりあたたまった。サッとパジャマを着てドライヤーを手に取る。髪を乾かしたら弟の元へ行こうーーそう思ってドライヤーのスイッチを入れたのと、それは同時だった。
『ブヅッ』という音を立てて、ドライヤーから煙がゆるりと立ち上がる。
「
…
あ」
急速に熱を持ち始めたそれを見ながらルタールはしばし茫然とする。またやってしまった、と思っているうちにばたばたとした足音が聞こえてくる。
「
――
ルタ!開けるよ!今焦げ臭いにおいが
…
あっ、ちょっ
…
ドライヤー!貸して!」
慌ただしくドライヤーをルタールの手から受け取ったクラークは「熱ッ」と叫ぶ。呆然としているルタールの前で速やかにコードをコンセントから抜く。それから慌てたように兄の手を取った。
「手、怪我したり火傷したりしてない?大丈夫?」
「あ
…
うん。ごめんね
…
俺
…
」
「謝らなくてもいいよ。手、ちょっと冷やしに行こうか」
そう言いながらクラークは自然にルタールの手を取ってリビングへ向かう。ルタールはその手を静かに握り返して、不意に思う。こんなに優しい弟ともっと一緒にいたい。手を繋ぐだけじゃなくて、もっと近しい存在になりたい。もっと。
リビングのソファに座って改めて見ると、結局手の火傷はクラークの方がひどい。ドライヤーの持ち手部分だけではなく、ルタールから受け取るときに吹き出し口にも手を触れたのが原因だった。ルタールは眉根を寄せ、軟膏を塗りながら謝る。
「
…
ごめん、クラ。水ぶくれになっちゃうかな」
「これくらいは平気だよ。それよりルタに大きな怪我がなくて良かった。ドライヤーも近いうちに直しておくね」
にこ、と笑顔を見せたクラークにルタールは目を伏せた。あまりにまぶしすぎる彼に、本当に自分の気持ちを伝えていいのだろうかという気持ちが、少しだけ顔を覗かせる。けれど。
「ねえクラ。俺は、クラのことが好きだよ」
その言葉は、天気雨のように唐突だった。晴れた気持ちの良い日にぽつんと鼻の頭に水が落ちてくるかのようなそんな突如とした言葉だったからか、クラークは一瞬、勘違いをしたと思った。まるで自分に恋愛感情をぶつけられたかのような、そんな勘違いを。
「
――
あ
…
」
きちんと言わなくては、とクラークは思う。兄が自分のことを好きと言ってくれた。けれどきっとそれは弟としてのそれなのだから。自分の思いとは違うと言わなければ。
――
違う、言わなくていい。弟として僕も君のことが好きと、ただそれだけを言えばいい。でも。
「ありがとう
…
ルタ」
兄を困らせてしまうかもしれないけれど。でも。
どうしても言いたい、とクラークは思った。どうしても兄に自分の思いを知ってほしい。同じじゃなくたって構わない。それはいつだって兄の気持ちを優先してきた弟の、ひさしぶりのわがままだった。
「でもごめん、僕もルタのことが好きだけど、でも、ルタの好きとは違う
…
と思う」
ぎゅ、とルタールの眉間の皺が濃くなる。笑わなくては、とルタールは思った。違うことなんて分かっていた。分かっていたけれど。
「
――
僕の好きは、ルタと恋人になりたい。そういう好きだから。弟なのに、ごめん」
「
…
へ」
瞬間、何を言われたのか、ルタールには分からなかった。慌てたようにクラークは呆けた顔の兄にまくし立てる。
「わっ、分かってる!大丈夫!相手のことも、別に嫌いじゃないからちゃんと仲良くするし!一緒に暮らせなくなってもきちんとするから!」
だから、と呟いた声はかすれていた。
「幸せになって。それでもし幸せじゃなくなったら、帰ってきて。兄弟としてでいいから、そしたらまた一緒にいて」
しん、とリビングに沈黙が訪れる。その静寂の中でルタールは混乱で洗濯機のように暴れる脳内をどうにか鎮める。さっき弟はなんて言った?恋人になりたい?本当に?
じわじわと喜びが染み込んでくるのがわかる。なんだ、俺たちは同じ気持ちだったんじゃないか。だから彼は、感謝の意と自分の気持ちを伝える。幸福に満ちた気持ちで。
「クラ
…
。ありがとう。俺もクラのことが好き。俺も、クラと恋人みたいになりたい」
「えっ
…
」
クラークはその言葉に、頭ががんと殴られたような心地を覚えた。ふんわりと笑う兄の顔が、ぐにゃりと歪んで見えた。恐れていたことが起こってしまった、と彼は思う。クロードに言った言葉が蘇る。
ーー優しいからこそ嘘をつかせちゃうかもしれないじゃん。
どうしよう、とクラークは思う。兄には星の導きで出会った相手がいるのに。自分が余計なことを言ったばかりに。
「ルタ、ごめ
…
」
「クラ?」
心配そうな顔に不思議そうな顔を混ぜたような兄の表情が見ていられなくて、クラークは目を伏せる。
「ごめんね」
再度の謝罪の声はひどく小さくて震えていた。
「僕、もう寝るね。さっきのことは、気にしないで」
「クラ
…
?」
「僕はただ君が幸せだったら、それで良かったのに」
本当にごめん、と彼は呟く。
ルタールは立ち上がろうとする弟を呆然と見る。どうして弟が謝っているのか、彼にはひとつも理解できなかった。素直な一方でどちらかといえば口下手な弟の意図を汲み取るのは得意だったけれど、今のこの瞬間は全く分からなかった。
お互い同じ気持ちなら、それで全てが解決すると思ったのに。欲しかった言葉を、やっと手に入れたのに。
「待ってクラ」
ルタールは弟の手を取る。火傷の赤みが残る手。もしかしたら自分といることでこんなふうに彼がまた傷つくことがあるかもしれない。そう思えばこの先が怖くなる。このまま柔らかいところをさらさずぬるま湯につかっていれば楽だろう。けれど。
ぐい、とルタールはクラークを引き寄せた。
最初は、抱きしめようと思った。泣きだしそうな顔をしている弟を、ぎゅっと。幼い頃のように。でもすぐにそれじゃ足りないと思う。自分のためにも、クラークのためにも。
えっ、と驚いたようなクラークの口を自分の口で塞ぐ。生まれて初めてのキスは思った以上に冷たかった。それは湯上がりで自分が温かかったせいなのか、クラークが悲しみに震えていたせいなのか。理由は分からなかったけれど、彼を温めたいと思った。少し硬さを感じる弟の唇に自分の唇をあわせれば、熱が伝わって少しずつ柔らかくなっていくのがわかった。
「ルタ
…
?」
ようやくふたりの唇の温度が同じぐらいになって、ルタールは顔を離す。弟はまだ混乱のさなかにいるようだった。見開かれた目には戸惑いの色がありありと浮かんでいた。
「大好きだよ、クラ。たぶん俺たちの気持ちは、一緒だと思う。でも、本当に一緒かどうかは分からないから、ちゃんと話そう」
ね、とルタールが言えばクラークはしばらく呆然とした後、こくりと頷いた。
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