【ルタクラ小説】星の導きとふたごのはなし2/4


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涼しい風が城内をめぐる。
「やっと過ごしやすくなったね」とルタールステラが言えば「本当に」とクラークステラは頷く。朝ごはんには温かいスープとりんごのジャムが並んで、秋らしさをさらに高めてくれている。クラークはブリオッシュにりんごジャムを乗せて、嬉しそうに頬張った。
「クラ、ほっぺにジャムがついてるよ」
くすくす笑いながらルタールが言えば、クラークは慌てて頬をナプキンで拭う。平和だな、とルタールは思った。ここ最近は大きく体調も崩していないし天災や大きな事件も起こっていない。国も全体的に穏やかに変わらず動いている。ずっとこのまま何も起こりませんようにと彼は静かに願った。
クラークは苦手なブロッコリーが入っているスープを見て、ちょっぴり嫌な顔をする。食べたくないなあなんて思いながら、でもきちんと食べたら兄が褒めてくれるので頑張って食べることにする。そんなささやかな理想を兄はすぐに叶えてくれた。
「あ、偉い。ちゃんとお野菜食べたんだね」
笑顔で頷きながら、平和だなとクラークは思う。美味しいジャムがあって、気持ちの良い風が吹いて。この先もずっとこんな風に過ごしたいなと彼はじんわりと思った。


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「友達になった」
主語のないクラークの報告にクロードは「へ」と間抜けな声を出す。反射的に良かったなと言いかけた言葉はしかし、あまりに暗い顔を見てそのまま飲み込まざるを得ない。
3ヶ月ぶりに用事があって双子星の城を訪れれば、待ってましたとばかりにクラークに工房に連れて行かれた。彼専用の工房は何か作業の後だったようで、つんと塗料の匂いがした。
工房の隅にあるソファセットの机上にはすでにお茶の準備がしてある。すっかり秋めいてきたこともあり、栗やサツマイモを使ったスイーツも置いてあった。どうやら彼はクロードがここに来る前から話の場を設けるつもりだったらしい。
「友達ってその見合い相手と?」
問えばこくりと彼は頷く。
いわく、お見合いの場で彼は徹底的に相手を拒否した。あなたのことは好きにはなれないしそもそも誰かと付き合うつもりはないとキッパリ言った。同席していた主にもルタールにも相手の家族にもそれは伝えて、せっかくの場を用意してくれたのに申し訳ないと謝罪までした。のだけれど。
「『友達にもなれないんですか?』って相手に言われて
「ほう
せっかく星の導きで相性が良いと出ているのだから相手が希望するなら友達から始めても良いのでは、と言ったのはルタールだったそうだ。友達から始めようが恋愛対象にはならないと伝えたものの、相手も相手の家族もそれでいいと言う。最終的には主の「クラくんもお友達が増えたら嬉しいよね☆」という一言でとにかく友達になった、というのがことのあらましだった。
「あ、じゃああくまで友達ではあるんだな」
「うん、まぁ
で、それ以上になる予定は?と問えば、「たぶんないはず」とあまりに頼りない答えが返ってくる。中途半端な答えに眉根を寄せたクロードに言い訳するように、クラークは少し早口に喋り始める。
「相性は、やっぱり確かに良いんだと思う。趣味もわりと合うし、別に喋ったりしなくても気まずくならないし。ルタともなんか仲良くなって、一緒にふたりでお菓子づくりとかもしてるし」
「へぇ
「居心地は悪くないんだ」と彼は珍しく優しい表情で言った。「僕はあんまり言葉選びが上手じゃないけどそこも気にせず受け入れてくれるし、騎士の仕事や機械いじりを優先しても良いっていってくれる。ルタや主を大切にしてることを理解するどころか、自分も大切にしようとしてくれる。それ以上に僕も、相手の好きなこととか、好きな人とかを大切にしたい、と思える。たぶん、このまま付き合って、いつかは家族になれば幸せになれるんだと思う」
「じゃあ占いは大当たりだってことだな」
クロードの言葉にクラークは「ルタの占いなんだから当たり前でしょ」と言い返し、それから、「でも」と小さく呟く。
「それでも僕はルタがいい」
「それは相手には言ったのか?」
彼は力なく首を横に振る。夏の空を思わせる水色の髪がぱさ、と揺れた。
「そこまでは言ってない、けど。他に好きな人がいるっていうのは言った」
「えっ」
けれど相手はそれでも良いと言ったのだったそうだ。気づいていました、とそう言いながら。それでもいい。それでも自分と付き合ってほしい。知っていますか、結婚は2番目に好きな人とする方が幸せになれるんですよ、と。
「それはまた
なんとも物わかりの良いお手本のような答えだ。これが星の導きとでも言うのだろうか。
お前はそれで、付き合うのか」
「さすがにそれはしない。不義理がすぎる」
即答した彼にクロードはホッとする。そんな甘言に絆されるやつだとは思っていなかったけれど、あまりの弱りっぷりにまさかとは思ったのだ。
「だからもう友達もやめたいって言ったんだけど、それは少し考えさせてくださいって言われちゃって。それが現状」
彼は少し自嘲気味に笑う。完全に突き放せない自分にいら立っているようにも見えた。小さく息を吐いて、それから再び口を開く。
「でまぁそれは良いんだけど今度はルタのお見合いの話が出てきて」
「えっ」
「『クラくんも素敵なお友達を見つけたしルタくんも☆』って主が言って……今度の満月の日に占おうかって言ってるんだ」
ほう、とクロードは小さく相槌を打つ。彼らの主と長時間話したことはないけれど、聞く限りまるで兄弟かのような関係であることは分かっている。そんなことを言う姿も容易に浮かんだ。
「で、どうするんだお前は」
「それがわからないから相談してるんじゃん」
あぁなるほど、とクロードが言えばクラークは眉間にシワを寄せてぼふ、とソファに倒れ込む。
「僕の例でわかったんだ。星の導きで出会える相手って本当に相性が良い。友達として話しているだけでもそう思うんだから、恋人とか家族になればそれ以上なんだと思う。だから
クロードが言葉を挟まずに待っていれば、クラークは絞り出すように言葉を繋げる。
「ルタが出会う相手は、絶対にルタを幸せにしてくれるんだと思う。たぶんううん、絶対僕よりも」
「それは
違うだろ、とは言えなかった。簡単に否定してしまえば、彼らの大切にしている占いを軽んじることになる。
うーん、とクロードは頭を捻る。特別大親友というわけではないが、彼のことは友人であり仲間だと思っている。ゆえに、何とかして立ち直らせてやりたいとは思う。自分には恋愛経験はほとんどないけれど、騎士学校時代や国の誰かの良い恋愛話か何かがなかったか。そう考え、あ、そうだ。とクロードはふと思いつく。彼の主の趣味で、城には山程の恋愛小説があった。付き合いで何冊か読んだことがあるが、特に主が推していたのは。
「そうだ」
クロードの呟きにクラークは片眉を上げる。
「いっそチャペルばーんってルタールを奪う、みたいな」
「ちゃぺ?は?なに?」
「結婚式の最中に乱入して花嫁を攫っていくんだよ。まぁ今回はお見合いだけどな」
はぁ?と目を丸くするクラークに、クロードは頷く。
「分かる。非倫理的だしいろんな人に迷惑をかけるし後始末も大変そうだし絶対現実でやっちゃ駄目なんだけど」
でも、とクロードは力強く言う。「それが愛の証って感じでいいんだよ!」と力説していた主を思い出しながら。
「そんくらいやれば、星の導きなんていう運命も跳ね除けられるんじゃねぇの?」
クロードの言葉にクラークはぽかんとした表情のまま硬直する。馬鹿じゃないの。そんなことありえないでしょ。御伽噺じゃないんだから。そんな風に顔には書いてあったけれど、彼は最後まで否定の言葉を口にしなかった。



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先日のフラワーバスケットのお礼に主が作った刺繍入りのハンカチを渡したい、とメロルドの元に来たルタールは、前回よりも迷子のような顔を深めていた。その理由を問う前に、ルタールは自ら話し始める。
「今度は俺がお見合いをすることになっちゃった」
はぁ?と問えばもうどうしてこうなってしまったか、と彼は無理矢理笑顔を作ってみせた。
「ちょっと待って。ゆっくり話してよ。そもそも弟くんのお見合いはどうなったわけ?」
「クラのお見合いは結局クラが誰かと付き合うつもりも結婚するつもりもないって言って、相手とは『友達から』ということになったんだ」
「友達からっていうことは、ゆくゆくは付き合う可能性もあるってこと?」
メロルドの問いに、ルタールは「本人はそれはないって言ってる」とだけ答えた。ふうん、とメロルドは小さく相槌を打つ。じゃあ安心だね、とは言えなかった。本人が無いといったって、相手や周りがどう考えるかは別問題だ。小さなころから生意気だった水色頭の彼を思い出す。彼ならもっとはっきりと「友達にもなりたくない」と言いそうなものだけれど。それとも占いで巡り合った相手だし彼なりにも思うところがあったのだろうか。
「で、とりあえずクラークのお見合いは無事に終わったと」
「そう。それで終わりかと思ったんだけどその、主が『クラくんも素敵なお友達を見つけたしルタくんも☆』って急に言い出して
あーなるほどね」
相槌を打ってメロルドは手元にあった紅茶をひとくち飲んだ。双子騎士が仕える主たちとは何度か会ったことがあるけれど、彼らの関係性はまるで家族のようだった。通常ならば騎士の交友関係に主が口を出すことは国家にかかわることでもない限りないだろうけれど、彼らなら別だ。時に兄弟のように、或いは親子のように互いを思い合うからこそ、いろんなものがかけちがっていく。主従だけではなく、双子同士の中でも。
「で、相手が見つかったわけ?」
問えば、ルタールはこくりと頷いた。
「でも嫌なら嫌って断ってもいいんでしょ?」と重ねて問えば、ルタールは「そうなんだけど」と小さく答えてから何かを逡巡するかのように空を見つめる。それからこちらに向き直って、口を開いた。
クラが、思ったより相手と仲良く過ごしているみたいで」
「へえ?」
メロルドにとって、それは驚きだった。あの人嫌いの塊みたいなクラークが誰かと仲良く過ごす?じと、と小さなころから薄紫色の目でこちらを睨んでいたあの子が?ロマリシュ手作りの特別なお菓子をあげないと近寄っても来なかったのに。
「すごい良い人なんだ。俺もいつの間にか仲良くなってこの間は一緒にお菓子作りもしたし」
ぽかんとメロルドはルタールを見つめる。そこまで仲を深めているのか。本人たち同士だけじゃなくて、家族まで?
「何やってんの?君にとってはいわゆる『恋のライバル』ってやつじゃないの?」
「そうなんだけどでも、すごくなんというか、クラによく似合ってる。クラを幸せにするなら、あんな人なんだと思う」
で、とメロルドはしょんぼりと紅茶をすするルタールを見る。
「占いで出会った人とクラークがそんな風になったから、ルタール自身もそうなるんじゃないかと思ってるわけだ」
メロルドくんはいつも話が早いね」
ため息をつきながらルタールは薄く笑う。怖いなら逃げちゃえばいいじゃん、と言いたい気持ちを押さえながらメロルドは目の前の彼をじっと見た。彼の本心は、それでも弟が好きなのか、或いは占いで巡り合った相手とそうなるならそれはそれで構わないのか、どちらだろう。弟に気持ちを伝えるつもりはないとそうきっぱり彼が言っていたのはいつだったか。変化を好まない彼であれば、おそらくその気持ちはそのままのはずだ。逡巡してから、メロルドは極力明るく言葉を紡ぐ。
「でもまあそれはそれでいいじゃん。クラークにもルタールにもそれぞれ占いで相性ぴったりのパートナーができました。それでいて双子としても仲良く一緒にお仕事をしています。何の問題があるわけ?」
問題は、たぶんないと思う。とルタールが小さくつぶやく。
「それだと誰も傷つけないですべてをうまくまとめられる気がする。星の導きに従えばきっとうまくいくと思うし」
「でも君はそれじゃ嫌なんでしょ?」
ルタールはその言葉に押し黙る。問題はない。むしろきっといろんなことが上手くいく。クラークと恋人のように過ごすことはひとつの憧れのようなものであったけれど、でもそれが上手くいく保証はない。そしてそれが上手くいかなかったとき。無理だったね、とお互いに笑い合えれば良いのだけれど、もしもそれ以上の軋轢を生んでしまったら。今までのように「ずっと一緒にいようね」と言い合えないぐらいに何かが壊れてしまったら。ともに騎士として主を支え合えないぐらいにだめになってしまったら。
だから。
嫌だけど、でも、クラとそういう関係になるのは少し怖い」
初めて口に出した本音を、メロルドは「そっか」と優しい声音で受け入れてくれた。年上の後輩という微妙な間柄の彼は、昔からそうだった。心の奥底で感じている違和感やちょっとした望みを、わざわざしゃがんで目を合わせて「ルタールは?」と聞いてくれる。今自分がミュンナのような年下の妖精に温かく接することができるのは、きっと彼のおかげなのだと思う。クラークは彼のことを「適当だし何考えてるか分かんないやつ」と評していたけれど、ルタールはそんな彼にほんの少しの憧れを持っていたのだ。
「ま、でも恋愛ってそういうもんだよね。お互いの心の一番やわらかくて繊細な部分をすり合わせていくものだから、そりゃあ怖いし慎重にならざるを得ないし、結果として傷つくことだってたくさんある」
どういう方向になるにせよ頑張りなよ、とメロルドは柔らかく笑った。
「またいつでも悩みなら聞いてあげるからさ。たまには『お兄ちゃん』に頼ってよルタール」
ルタールは少し呆けたような顔をしたのちに、「ありがとう」と言って柔らかく笑った。


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結論として、チャペルばーん作戦は行われなかったらしい。それどころかルタールのお見合いはクラークの時よりもスムーズで和やかに進み、友達からどころかそれ以上の関係からスタートする勢いだったと、城に訪れたクラークはクロードに事のあらましを話した。
……ルタが幸せなら……僕はそれでいいから……全然落ち込んでないし
「全然『それでいい』って顔してないんだけど」
クラークは「うぅ」と呻きながらそれでもクロードが用意したお菓子(わざわざ甘いものを選んだ)のパッケージを早々と開ける。
「で、お前は?お見合いの席でニコニコしながら座ってただけ?」
「ニコニコはしてないけどまあ普通に
はあ、とため息をつきかけたクロードに「でも!」とクラークは慌てながら声を上げた。
「もうわかっちゃったんだよ、相手が部屋に入ってきたときに。『あ、絶対ルタと気が合う』って」
「はあ?」
「なんかその物腰っていうか所作っていうか、もうそういうところからルタと雰囲気が似ていて。ルタが幸せそうな顔で穏やかに話しているところに『実は僕もルタが好きです』なんて、そんなことは
言えなかった、という言葉は音にならずにクラークの喉奥に沈む。今日ルタールは?と問えば件の人と出かけているという。なんでも趣味もあうらしく、今日はふたりでプラネタリウムに行くのだと言っていたそうだ。
「わざわざそんな施設に行かなくてもお前らの国から星なんて見放題だろ」
「違う季節の星空が見えるのが良いんでしょ。今日はちょうどクリスマスの時期の空を見るプログラムらしいよ」
クリスマスか。なんともロマンチックだな、なんて言いかけて、クロードは口をつぐむ。こいつらの誕生日って、クリスマスじゃなかったか?ルタールは自分と弟の誕生日を人工的に再現した星空を見ながら、何を考えるんだろう。弟のことを思い出したりはするのだろうか。
……元気出せよ」
「いいよもうそういうの
クラークはため息をつく。マドレーヌを一口食べて「美味しいね」と言った声はそれでも嬉しそうで、そこまで落ち込んではいないのかもしれないとクロードは少しほっとする。
「で?お前の方の相手は?結局まだ友達のままなのか?」
「いや、もう完全におしまいにした。友達としてでいいって言われたけど、そもそも冷静になって考えたら僕友達もいらないし」
ばっさり言ったクラークに、クロードは目を丸くする。
「友達いらないってお前
「言いたいことはなんとなくわかるからもういいよ。主とルタにもさんざん言われたし。でも、本当にいらないんだ。僕は自分でもわかるけど、そんなに許容量が多い方じゃない。主とルタと国に傾けたら、僕の気持ちはそれだけでもうほとんど残っていない。いや、残ってたらいけないんだ。だって僕は騎士なんだから。」
強くそう言いきったクラークに、クロードは一瞬圧倒される。これが人生のほとんどを騎士に費やしてきた人間の言うことなんだ、と改めて先輩騎士を見た。彼は「なんてね」と薄く笑った。
「別にだからといって君やほかの人にそれを押し付けるつもりもないよ。もちろん、ルタにも。僕はそうだっていうだけ」
そっか」
「僕はルタと主と国だけがあればいい。星の導きで出会った人は確かに素敵だったし、一緒に過ごした時間は楽しかったけれど、でも僕の手にはどうしたって余ってしまったんだ」
クラークは紅茶のカップを傾ける。すっかり冷めた紅茶を飲み干して、それからもう一度口を開く。
「でもルタは違う。ルタはとても深い愛の持ち主だし僕と主と国を見守って、でもそれ以上に手を広げられる人だから。きちんとルタは幸せになるべきなんだ。星の導きに従って」
それはお前とじゃ駄目なのか?」
クロードの問いにクラークは答えなかった。答えずにすっかり空っぽになったカップをもう一度傾ける。最後の一滴まで諦め悪く飲もうとするその姿が、何かの答えのような気がした。

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ふうん、とメロルドは目の前に座るルタールをじっと見た。お返しのお返しがしたいと主に言われてクッキーを持参してみれば、ルタールは「時間大丈夫だよね?」と聞いてそそくさとお茶の準備をした。何かを話したいんだなと思い椅子に座れば、年下の先輩騎士は「あのね」と事の顛末を話し始めた。お見合いはなんとなく上手くいって連絡先も交換して、出かける約束もして。
「で結局、デートをしたと」
「デートではないと思うんだけど」
「プラネタリウムにふたりきりで行ってご飯を食べて公園を散歩して夜景を見たらそれはもうデートじゃないの?」
うーん、とルタールは首を傾げる。いまいちピンとは来ていないらしい。メロルドは小さく息を吐く。どうしても幼いころから城で育ち騎士として生きていた彼(と、その弟)には世間知らずな一面がある。相手が勘違いしていないと良いのだけれど。
「俺としては友達と遊んだぐらいの感覚だったんだけど
「友達ねえ。でも手ぐらいはつないだんでしょ?」
「それは一瞬でも公園でちょっと足元が悪かったからだよ。俺、ヒール履いてたし」
「ヒール履いてったの?めちゃめちゃおしゃれしてるじゃん」
いつもは弟くんとおそろいのゆるっとした服にぺたんこ靴なのにさ、と言えばルタールは「そういうわけじゃないよ」と小さくつぶやく。けれどそれ以上の言い訳は特にないようだった。
「楽しかった?」
にんまり笑って聞けばしかめっ面が帰ってくる。これはどうやら彼なりに楽しんだらしいとメロルドは読み取った。おしゃれもして、夜景を見るほど夜遅くまで過ごして、しかも楽しかったのであればそれはもうデートとして大成功である。
「じゃあよかったじゃん。そのまま付き合っちゃえば?相性もいい感じなんでしょ?」
「うんすごく素敵な人だと思うよ。思いやりにあふれていてクラと主のこともすごく大切にしてくれる」
「じゃあ」と言いかけたメロルドの言葉は、「でも」というルタールの声とちょうど重なる。どうぞ、と手を出されたメロルドはもう一度口を開いた。
「じゃあ結局付き合うの?弟くんも弟くんで上手くいってるんでしょ?」
「ううん。クラは結局友達としても会うのをやめるって」
メロルドは飲みかけた紅茶から慌てて口を離す。危ない、吹き出すところだった。星の導きでわざわざ出会った人と?なんで?
「何それ、喧嘩でもしたの?」
「そうじゃないみたい。俺と主だけいればそれでいいって」
なんてまた極端な、とメロルドは水色頭の騎士に心の中でつぶやく。別に友達として付き合うぐらいはいいじゃん。頑固ものめ。
「で?ルタールは?」
問えば彼はうめき声を上げて俯く。ここ最近こういう彼の姿ばかり見ているなとメロルドは珍しく思う。普段は柔和な笑みを絶やさず穏やかの化身のようにふるまっているのに。こんなにも彼を揺らめかせるのは、やはり弟なのだ。
「どーすんの?弟くんが友達やめちゃったし『俺もやめよー』っていう感じ?」
「そういうわけじゃ」とルタールは呟く。けれどそういうわけではないからといって別に何か違うものがあるわけでもなさそうだとメロルドは考える。それからふと思い出して、「ごめん、さっき何を言おうとした?」と問う。きょとんとした顔のルタールに「『でも』って言いかけたでしょ」と言えば、彼は少し気まずそうな顔をして見せた。
「なーに?付き合っちゃうのも悪くないけど、『でも?』」
促せば彼は頬を少しだけ染める。それから口に出した言葉にメロルドは驚くでもなく、「へえ」とだけ答えることになる。
「でも俺はやっぱりクラがいい」
そう言ったルタールの瞳には、強い月の色が浮かんでいた。