【ルタクラ小説】星の導きとふたごのはなし1/4

ルタクラの片思い話。👿くんと🎼さんが理解者ポジで出てきます。🎼さんは双子の幼少期からの付き合いなどなど諸々の捏造あり。若干双子がモブと恋愛関係になりそうな描写があったり主ネタがあったりするので何でも大丈夫な方のみどうぞ。


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その夏の気候は、特に例年と変わりはなかった。
太陽の光は確かに強くて暑かったけれど、双子星の国は湖が多いため風通しも良く、薔薇色雲がやんわりと強い光を遮ってくれる。国民もきっと心地よく過ごしているだろう。
ルタールステラは、少しだけほっとする。大丈夫。きっとこの夏も何もなく終わる。去年のように。
白亜の城の高い位置で、彼はぼんやりと外の風景を見た。
きらきらとした太陽の光が、湖に反射してまぶしい。強すぎる光は時に目をくらませてしまう。もっと見ていたいのに、とルタールはその光を残念に思った。もう少し空が陰ってくれたら自分にはちょうどよくなるのかもしれない。そんな風に思って、それからあまりに自分勝手な思いに苦笑する。すべてを自分の思い通りになんかできないことは、小さなころからとっくに分かっているのに。
微かな電子音が耳に届いて、ルタールは踵を返した。ちょうど洗濯が終わったらしい。この晴天に広がる白いシーツを思うだけで、心が踊った。

☆☆☆

好きな人がいるんだ。
唐突にクラークの口からこぼれてきたそんな言葉は、クロードの想像の範疇をはるかに超えていた。
双子城にて国交に必要な書類を渡したあと相談があるから時間をくれと言われたのが三十分ほど前。暑い中移動してきてまだ汗も完全に引いていなかったクロードにとっては、逆に有難いぐらいだった。せっかくだからエアコンの効いた城内で涼ませてもらって、まあ少しぐらい話を聞いてもいいか、というぐらいの軽い気持ちだったのだけれど。
既に用意されていた冷たいお茶を目の前に珍しくウダウダしてたかと思えば、クラークがようやくひねり出した言葉はそれだった。
……へぇ」
「へぇって何?もう少し何か言ってよ」
「何かって
何かって何だよと言い返そうとしたけれど、目を逸らして指先をいじっている姿を見れば口をつぐむしかない。普段は「時間がもったいない」だの「無駄なことはしないで」だのという合理主義な相手がこうなっていると、どうにも調子が出ない。
「誰、っていうのは聞いてもいいのか?つっても俺が知らない奴だったら意味ねえかもしれねえけど」
君も知ってるひと」
クロードの目が丸く開かれる。クラークとの共通の知り合いなんて限られている。あぁ、だからこいつは俺に声をかけたのか。やっぱり合理的な奴だな、なんて思いながら複数の人物を頭に思い浮かべた。
「みミュンナか?」
そう言えば前にミュンナがクラークとルタールに頭を撫でてもらったなんて言っていた。お茶会にもちょこちょこ出ているらしいしもしや。
けれどクロードの想像は「違う」という一言で片付けられる。それも「何でわからないの」と言わんばかりの顔とともに。分かるかそんなもん。
「じゃあウィルメッシュ」
「違う」
「え、シエロモート?」
「違う」
まさか俺?」
「違うに決まってるじゃん。何で本人に相談しなきゃいけないわけ?少し考えたら分かるでしょ」
クラークはじっとりした視線をクロードに向ける。相変わらず口が悪い。これが相談を持ちかけてきたやつの態度かよ。
「え、あとはだってルタールぐらいしか
そう呟けば急にクラークの頬に赤みがさす。え、とクロードは声を漏らした。それから出た言葉はあまりに凡庸だったような気はする。
今更?」
「ねえちょっと真面目に聞いてよ」
「聞いてるよ。で?」
ルタのことは子どもの頃からずっと大切で」
ともかく適当に「おぅ」と相槌を打てばそれを確認したクラークが再び口を開く。
「世界でいちばんかっこいいしかわいいし、頼りになるし優しいしそれから」
「わ分かった。兄自慢は良いから。それよりお前らは仲良いんだし好きなら好きって言えば良いじゃねえか」
クロードの言葉に信じられない、とばかりにクラークは目を見開く。
「そんなこと言えるわけないじゃん!」
「え、何でだよ」
「ルタは弟としての僕が好きなんだもん。それって僕の好きとは違うじゃん」
あぁなるほどそういうことか、とクロードは目の前で顔を伏せた同い年の先輩騎士を見る。「弟」であることを嫌がらず、兄に甘えたり、それでいて兄を守ろうと自然と矢面に立つ姿は自分とは真逆だ。兄に対する思いも含めて。
「まぁでも好きって言っちまえばルタールだって受け入れてくれるんじゃねぇの?アイツ優しいし」
「だからだよ。優しいからこそ嘘をつかせちゃうかもしれないじゃん。だからこの気持ちはずっと内緒にしておこうって思ったんだけど
「だけど?」
「占いで、僕にぴったりの相手が見つかったって言われた」
へ、とクロードは頓狂な声をあげた。占い?占いなんて、と言いかけてそうだこいつらにとって占いは重要なものだったのだと気付く。雑誌の片隅にある星座や血液型で大雑把に括られたそれとは違う。
「その人と近々会うんだけどルタも主も『お見合いみたい』ってすごく張り切っていて服とかアクセサリーとか準備してるし、お城で会うからって模様替えとか大掃除とかまでして。何回も嫌って言ったんだけど、照れてるだけと思われちゃうし
呟きながらクラークは項垂れる。他人には不遜な態度をとるクラークだけれど、兄や主には滅法弱い。珍しいものを見たなと思いながら、クロードは努めて明るい声を出す。
「でも会ったら意外と気が合うかもしれねぇし」
「ルタみたいなこと言わないでよ
クラークは深くため息をついた。かなり弱っているようだとクロードは思う。いつもはキッとひそめられている眉毛がへにょりとしている。
「まぁでも会って断れば良いんだろ?」
「もちろんそのつもり。相手には悪いけどルタ以外の人なんてあり得ないし」
じゃあいいじゃねえか、と言いかけた言葉は「でも!」というクラークの声で遮られる。
「そんなことはどうでもいいけど、ルタがそのお見合いを勧めてしかも楽しそうに準備をしてるって時点で、僕のこと、弟以外の何者でもなく思ってるってことじゃん」
「あー要は恋愛相手としては見られてないっていう?」
ストレートなクロードの言葉にクラークは頷く。
「そう。しかも主も『ルタくんもいつか星の導きで素敵な恋愛をするのかしら☆』なんて言うし、ルタもそれを否定しないし
「おう
しょぼくれた表情ですっかり氷が解けてぬるくなったお茶を飲みながら、クラークは小さくため息をつく。そこから零れ落ちた言葉は、まぎれもなく本音だった。
「僕はただ、ルタの側にいたいだけなのに」
そう言えばいいじゃねえか、と言いかけてクロードは口をつぐむ。それができないから彼はこうして俯いているのだ。告白すれば優しいルタールに気を使わせて『好き』と言わせてしまうかもしれない。かといって何も言わなければこのままどころかルタールが誰かと恋をするかもしれないし。
「いや、でもルタールもことあるごとに『このまま』が良いって言ってるし案外恋愛とかには興味がないんじゃ
「それは国とか騎士としての話だよ。小さい頃『好きな子がいる』って言ってたこともあるし」
小さい頃ねぇ、とクロードは口の中で呟く。小さい頃と今では物事に対する見方も変わると思うけれど、幼い頃から性格や趣味嗜好があまり変わっていなさそうなクラークにはピンとこないのかもしれない。
「まぁ、ほら、なるようになるっていう言葉もあるし」
とにかくウジウジと俯く彼をどうにかしたくて普遍的な慰めのようなものを言えば彼はじろりとこちらを睨む。
「適当に言ってるでしょ」
「うまぁ。いや、でも本当にそうなんじゃね?マジでお見合い相手が気に入ることもあるかもしんねえし」
「それだけは絶対絶対絶対絶対ないから」
はいはい、と雑に相槌を打ちながら怒ったように焼き菓子を頬張るクラークを見る。彼の水色の髪にほんの少しだけ混じるピンク色を見れば、なぜだか不意に兄の姿が思い出された。


☆☆☆


「クラがお見合いをするんだ」
夏の太陽が降り注ぐ明るい城内とは裏腹に今にも凍え死んでしまいそうな顔をしたルタールに、メロルドはぱちぱちと視線を瞬かせる。表情と言葉と状況がなにひとつ合致しない。おみあい、という古風な響きに混乱を覚える。
弟くんが?お見合い?え、なんで?君たちの国ってそんなに結婚を重要視しているんだっけ?」
「そういうわけじゃないんだけど、占いでとても相性の良い相手が見つかってそれで」
星詠みに長けた騎士の言葉に、メロルドはようやく合点がいく。どうりで。
「へえ。まあ君の占いでそう出てるんなら実際にそうなんだろうね。で?お兄様としては弟の幸せを喜んであげようっていう感じ?」
そうしてあげようと思って、俺なりに盛り上げてはいるんだけど」
だけど、ねえとメロルドは目の前で項垂れるルタールの語尾を繰り返す。彼の主が丁寧に作り上げた夏色のフラワーアレンジメントをルタールの主にプレゼントしたいと言ったのがつい昨日のこと。主の望みならと早々に連絡を取って城に来てみれば、この晴天にふさわしくないどんよりとした何かを含ませた彼が出迎えてくれた。
年下でありながら騎士としては先輩というルタールに、メロルドはじっと視線を這わす。年齢と騎士歴があべこべなふたりは昔から助け合ったりお互いに他の人には言えないようなことを相談しあったりすることも多々あった。そのせいか、ルタールはごくたまにメロルドに自分の弱さやどろりとした欲望のようなものを吐き出すことがある。それは相手の機微に聡いメロルドが誘導しているということもあるのだけれど。
そしてメロルドはルタールの弟に対する気持ちを知っているのだった。
「で、君はどうするわけ?」
「どうって
「だって嫌なんでしょう?」
そう問えば、うーんとルタールは首を横に傾げる。あれだけ弟が好きだと言っていたのに、嫌ではないんだろうかとメロルドは不思議な気持ちで彼を見た。自分だったら好きな人がお見合いをするとなったら何があっても止めるのに。
「俺はクラが幸せならそれで
「君ってそんないい子ちゃんだっけ?自分の守りたいもののためには昔から何だってしたでしょ?」
ルタールはその言葉に少しだけ不愉快そうに目を細めた。彼の感情を揺さぶれたことに満足したメロルドは、「それより」と話の方向をひるがえす。
「いい加減言うべきことを言うタイミングなんじゃないの。年貢の納め時ってやつでしょ」
俺は何も」
「なーんかめんどくさいよね、君たちって。あんだけ仲良し仲良しってしてるんだし、言いたいこと全部言っちゃえばいいのに」
あまりに雑なアドバイスにルタールは、むぅ、と眉根を寄せる。それができないから困っている、と彼の顔には書いてあった。
「そもそも何でルタールはクラークに自分の思いを言わないわけ?あの弟くんなら『嬉しい!僕もルタのこと大好き!』なんて言ってハッピーエンドじゃん」
「だからそれは兄弟として
「それでいいじゃん。別に思い合うふたりの愛情の大きさや湿度や色が同じである必要なんてないんだし。どうせ君の弟なら兄弟愛がベースにあったってキスもセックスも普通にしてくれるよ」
「メロルドくん!」
顔を赤くしたルタールに、「でもそういうことでしょ」とメロルドは畳みかける。
「君は弟とそういうことがしたいんでしょ?そーいう『好き』なんでしょ?」
「別にそうじゃなくても
「でもこのままだと弟くんはその星の導き?だっけ?で出会ったお見合い相手とそーいうことしちゃうよ?」
それでいいわけ?という言葉はふたりの間でしばらくたゆたう。メロルドはその言葉の余韻がまだ残るうちに再び口を開いた。
「ルタールがもだもだしているうちに、弟くんの方が変な方向に舵を切り出したら止められなくなっちゃうよ。あの子突拍子もない事しがちだし。本当に本当にそれでもいいわけ?」
変な方向って、と少し困ったように言うルタールは、迷子になった子どものようだった。普段は鷹揚にかまえている彼が年相応の表情を見せたことに、メロルドは少しだけ暖かな気持ちになる。小さなころの彼はそんな表情をどこにも出せずに困っているように見えた。クロードと同じぐらいの子がそうしているさまはあまりに可哀そうで、思わず手を伸ばしたことを覚えている。
「僕はありだと思うよ。クラークだって君のことが大好きじゃん」
「でもだからそれは兄弟としてで
「いいじゃんそれでも。愛だの恋だのなんて所詮まやかしのラベルに過ぎないんだから。どんな形であれ上からべたっと貼っちゃえば、それでハッピーエンドなんだよ」