ロンド
15202文字
Public くにぐに
 

『Speak of the Fair Folk,』続き(未完)

香+アイスのパブリックスクールパロ『Speak of the Fair Folk,』続きを書こうとした形跡。本編読んでいないとわからない仕様。創造人名あり。









     一、 ???



 ガタン、と大きく揺らされて香の肩はかしいだ。
……ふがっ」
 霧がかった視界は、やがて人の輪郭を捉え始める。オイルランプの灯りに同化したような銀の髪、病的なまでに真っ白な肌とか細く尖った印象の顔立ち、香とそう変わらない上流階級の三つ揃え。黙っていれば幽霊か妖精かと見まがいそうな、少年。
 ぱちり、と長い睫毛の奥に潜む夜明け色の瞳と眼が合う。アイスは脚を組んでおどろおどろしいタイトルの怪奇小説を読んでいた。
 香はよだれをごまかすように袖で拭き、石炭の黒煙ですすけた窓の外を見やった。艶(あで)やかな緑に包まれた丘に放牧された羊が集団で草を食み、ぽつぽつと続く赤い屋根の家から横向きの煙がたなびいている。昼時なのだろう。均一に染めたような晴れ空に綿のような雲が重なって、のどかな夏の田舎はゆるやかに通り過ぎていく。
「眼は覚めた?」
……まあ、うん。俺どんくらい寝てた感じ?」
「一時間ってとこじゃない。座ったまま寝落ちるなんて器用なことするね」
 そりゃあアイスは寮の硬いベッドだろうが横にならないと眠れないくらいには繊細、と茶化すこともできたが香は曖昧に笑った。旅の初日からアイスの機嫌を損ねるのは本意ではない。ことに香の側の都合に巻き込んでいる自覚があるときには。香が首を回して凝った肩を動かしていると、アイスは呼び鈴を引いた。一等室専用のボーイが駆けつけてくる。熱い紅茶を、とアイスはボーイに命じた。
 またたく間にティーセットが運ばれてきた。香は喉がカラカラだったので有難く火傷しそうに熱い紅茶に口をつけた。猫舌のアイスはまだふうふうと息を吹きかけている。
 味の感想はどちらも云わなかったが、神学校の食事で出される色のついた湯よりは、幾分かましではあった。
……訊いてもいい?」
 無言で半分ほどを飲んでから、アイスは意識したような平坦な声で切り出した。ポットの蓋を摘まんで、中で漂っている茶葉を手持ち無沙汰に眺めていた香は、傾聴するときには姿勢を正しましょうと躾けられる神学校の倣いで背筋を伸ばしてみる。
「どーぞ」
「香から見て、カークランド伯はどんな人?」
「アイス、手紙のやりとりはしたんじゃなかった的な」
「そうなんだけど。香からも聞いておきたい」
 意外な質問でもなかった。
 香が知るかぎりでは、アイスは数度に渡ってカークランド伯本人からの長い手紙を受け取っていた。アイスは内容を隠そうとしていなかったが、直接盗み読みするのは憚られたので、香はアイスがかいつまんで説明してくれたことのみを知っている。
 おおむねこのような経緯であった。アイスの兄ノルとは在学時代のよき友人であったこと、長年アイスを捨て置いたことを詫びる言葉。当時の真実を伝えたいが手紙ではとうてい話せそうもない、そのため都の本宅まで訪ねてきてほしい……。香にとってはあのアーサーにまともな友人が、と驚いたが、思えば当主は外面は格別にいいのだった。
 当初、アイスは自身が悪魔憑きと呼ばれている評判を盾に固辞しようとしたが、その程度の説得で頑固一徹のカークランド伯を折れさせるのは至難の業だ。次に送られた手紙はまるで決まりきったような具体的なスケジュール調整で、複数回のやりとりがなされた。自分から神学校まで赴くと云わないあたりが当主らしい面であった。爵位持ちの家系とはいえ家柄では遥かに格上の伯爵家今代当主に対し、アイスは苦心して返事を書いていた。
 アーサーは気を急かせて学校を休ませてでも連れ去りたかったようだが、アイスはいかにも真面目を装って学業への志を伝え、春先の三日間のイースターはやり過ごし、最初の手紙からゆうに半年も回った学年末から香とともに都への滞在を約束することで決着した。必然と数に入れられていることに香は反論しなかった。どちらにせよ香も長期休暇に本宅に連れ戻されることは必定であり、アーサーの独善にアイスひとりを差し出して素知らぬふりをするつもりは毛頭ない。
 夏休暇一日目の早朝発の列車に乗り込んだときも、アイスは香よりはよほど旅行に気分が弾んでいるように見えたが、いまはカークランド伯と会う緊張で怖気づき始めたらしく、旅の始まりよりも表情が硬い。
 香はアイスを気遣うべく、気楽さを押し出して返した。
「一言で云うと、気難しい爺さん」
「そんなに歳が離れてるの?」
「や、歳は今年二十五だったはず的な。身だしなみやマナーにくっそうるさくって、ちょっと着崩しただけで飯抜きにしてくるし、パーティーに行ってくるってなると今どきの奴は紳士にあるまじきだの流行がなってないだのなんなのねちねち文句云ってる的な」
「学校の先生方みたいに?」
「そん通り(Quite)。だから、休暇でも気ィ抜けなくってゴメンな?」
 わざと砕けた口調と少々低俗なジェスチャーをして見せると、伝わったようでアイスが吹き出す。香の視点ではアイスの服装は完璧だった。やや流行遅れで野暮ったく思われるかもしれないが、アーサーは伝統を重んじる性質だ。アイスの実家の状況を知られているからにはむしろ、都の流行にうとく慎ましい神学生と演じる方が役立つだろう。
 調子に乗って香は指折り当主の悪癖をさらす。
「趣味は仕事。酒癖は最悪。紅茶以外の手製の菓子を勧められたら何か理由つけて食べないこと」
「菓子を作るの? 自分で?」
「知り合いが趣味で厨房入って色々振る舞うのを悔しいから真似てる感じ。素人の横好きなんで味は壊滅系」
 しかもそれを屋敷中の者に振る舞う。体調を崩す者が続出し、呼ばれた医者に集団食中毒を疑われるほどだった。当のアーサーとその実兄たちはいたって健康にピンピンしていたのがおかしい。
「それから、東国趣味。趣味が高じて私財つぎ込んで輸入雑貨店を経営してる的な。モノは悪くないけど風水が悪い感じ」
「香の出身のね」
「俺のってか、俺の先祖な。そんで、眉毛」
「眉毛?」
 香は自分の眉に触れた。幼少の頃は目立たなかったというのに、カークランド家に引き取られた際に願掛けに伸ばしていた髪を切られてから、なぜか太く生え揃うようになった。香は呪いではないかと考えている――まさにカークランド家の呪いのようなのだ。本家の四兄弟は皆、揃って立派な眉毛が特徴的だ。
 アイスは訝しげな顔で紅茶を飲み干した。ガタン、と列車が横揺れする。トレイに乗ったティーセットも危なげなく音を立てた。二人とも飲み終えていたのでアイスがまたボーイを呼び出して片付けさせる。こうした人を使うような仕事は、天涯孤独になったがゆえカークランド家当主に引き取られる形で貴族社会入りして一年近く経つばかりの香よりも、没落寸前であっても生まれながらに馴染むアイスの方が自然だった。ふいに香は、キャソックに似た制服でもない若い男子二人組の一等客が周囲にどう見られているかを思った。一目で上流階級の子息とわかるアイスはともかく、新品同様の三つ揃えに着せられた異国の風貌の香は話し相手の使用人と侮られてもおかしくはないだろう。
 友人と過ごす休暇や本国の中心たる都の訪問という、初めて尽くしの長期旅行で多少なりとも心が躍るらしいアイスと違って、香はどう取り繕っても鬱屈が沈んでいた。それはイースター以来に当主と顔を合わせなければならないことへの気鬱もあり、学期末試験の結果が思わしくないことへの心配でもあった。端くれと云えどもカークランドの名を連ねるからには相応の成績を求められていたが、試験の手応えから香は落第科目があることを悟っていた。季節外れの編入時点で勉学の遅れがあったのだから評価は妥当なのだが、伯爵家の名誉をなにより重んじる当主は粗を見逃してくれるほどおめでたくはないのだ。
 きっと当主はさらなる寄附金を支払い、香の進級を勧めるに違いなかった。期待に応えなかったことに厳しく仕置きされることはもはや決定事項であった。状況が悪ければ、当主に招かれているアイスが伸び伸びと夏の休暇を過ごしている間、香はマナーハウスに閉じ込められて家庭教師(テューター)にしごかれることになるやもしれない。
 アイスは香がただ馴染まぬ帰郷に落ち込んでいると思っているのか、ときどき「香が都を案内してくれる?」「カークランド伯所有の庭園は見事なんだってね」「オペラを観劇に行けないかな」といかにも楽しげな予定を香に話しかけてくれる。気遣われているのがわかってしまい、なおさら香は申し訳なく思った。
「そうだ、一日くらい隣町まで遠出できないかな。できれば香も一緒に」
「都の案内だけじゃなくて?」
「うん」
 都を囲むように町は隣接して広がりつつある。都の中心部から離れるほど居住する階級は低くなる傾向にあった。もしアイスが香がかつて暮らしていた下町を見たいと云うのであれば、貴族の坊ちゃんが遊びで行く場所でないと止めてやるのも温情だと香は耳を傾ける。
 だが、アイスが切り出したのは意外な提案だった。
「香にも話したことあると思うんだけど。都からそう離れていない地区に僕の元家庭教師(テューター)が住んでいるみたいなんだ。時間があれば訪ねてみたいんだけど」
……俺、ついてく必要ある感じ?」
「手紙で書いちゃったし……彼も喜んでいたから……香のこと、ちゃんと紹介してみたくて。友達として」
 アイスは云って、遠慮がちにはにかんだ。
 まったく突然に、香はなにもかもがどうでも良くなってしまった。身体が満ち足りたような温かさに包まれ、照れくささを隠すように肘をついて窓の外を見やる。アイスも窓辺に身を乗り出した。
「あ、花咲いてる」
「開けてみる感じ?」
「すす入ってくるよ」
 顔を見合わせ、二人してくすくすと笑う。香は力を込めてシングルハングの窓を上げた。ぶわりと生ぬるい風と煙ったい臭いがコンパートメントに入り込んでくる。夏のまばゆい日差しに香は眼を細め、つかの間は憂鬱を忘れようとした。

     *

 数か月ぶりのターミナル駅は、煙を高く上げる汽笛や、すすと泥臭さと香水と様々なものが混じって染みついた悪臭は相変わらず、しかし景色は明らかに変化に富んでいた。新しい建物がいくつも増えている。そこらを駆け回るのは弁当や土産を売る少年たち、小花をまとめた花売りの娘たち、忙しなく働き回る駅員たち、多様な格好の一等から三等までの客たち。ホームに降り立った香とアイスは預けていた革鞄を受け取ると、押し合いへし合いの輪に入ろうとした。
「もし、もし。レオン君?」
 ぽんと肩を叩かれて香は振り返る。
 まだ成長途上の香とそれほど身長差はない。ざんぎり頭の黒髪と黒目、ともすれば少年とも見える童顔な東国風の顔立ち。彼の三つ揃えの紳士服は仕立てたばかりのようにきっちりと着こなし、黒光りのシルクハットとステッキは脇に抱えて、まるで軍の将校のように直立していた。
 呼び止めた彼――菊は曖昧とも取れるやわらかな微笑みを浮かべる。
「ああ、よかったです。すれ違わなくて」
「迎えっすか、菊さん」
「ええ、アーサーさんがたいそう心配なさって、仕事が手につかないようでしたので、私が代わりに」
「香、知り合い?」
 アイスが割り込む。キクは同行者に眼を留めて、優雅に本国式の礼をした。
「レオン君のご学友の、エギル君ですね? 私はカークランド伯に世話になっております、キク・ホンダと申します。伯爵に代わりまして貴方がたをお迎えに上がりました」
「あ、ありがとうございます。エギル・ボンネウィークです」
 迎えはせいぜい馬車と馭者が正面に止まっている程度と考えていただろうアイスはすっかり面食らっていたが、それでも礼にならった握手を返した。さて、とさっそく菊はシルクハットをかぶって先導する。菊がかぶると紳士の証たるシルクハットも子供が着せられているように見えなくもないのがネックではあった。
 たしかに待たせていた馬車に乗り込み、そこであらためて紹介し合った。
「私の一族は故国では――この国からみますと東国と呼ばれる外つ国の、さらに東の国なのですが、通商を担っておりまして、カークランド家、ことにアーサーさんが経営していらっしゃいますカークランド輸入雑貨店とも取引がございます。そのご縁で、アーサーさんのご厚意に預かって二年ほど前から滞在し、大学に在籍しつつ広く見聞を求めているところなのです」
「えっと、じゃあ、ホンダ氏は香、じゃなくてレオンと同じ地域のルーツなんですか」
「そうとも云えますし、異なっているとも云えるかもしれませんね。ああ、私のことは気安くキクと呼んでいただいて結構ですよ。この国ではそんなたいそうな身分ではありませんから」
「僕もアイスでいい。みんなそう呼んでるから」
「では、アイス君ですね」
 菊がまとうたおやかな雰囲気にアイスは気分がほぐれたように、たちまちに丁寧な言葉遣いからいつもの人を突き放すようなぶっきらぼうな物云いになった。香は内心で、地理的、文化的にも本国と隔たりのある東国出身ながら名門大学の留学生、それもアーサーが同等の友人と扱っているとなれば、出身地では相当の爵位に準ずる地位を持っているに違いないと踏んでいた。アーサーと対面するときのものとは別種の緊張を菊には感じてしまうのだ。甘く見られがちな童顔も、歳がわかりにくいという意味では油断がならず、実際どの程度の歳なのか香は知らなかった。
 馬車は中心街から郊外の景観のいい一等地へと走らせていく。一向にさわやかな天候であった。アイスが菊の話す東国の話に聞き入っている間、香は口を挟まず一年前に連れて来られた日をコラージュされた写真のように思い返していた。
 マナーハウスは依然として記憶にあるままだったが、前庭は夏らしい装いの花が咲いていた。乗客たちは正面玄関前に降ろされた。馭者が荷物を運び出し、屋敷から出てきた年配のボーイも手伝い始める。香は憂鬱がぶりかえした心持ちで、帰ってこなければならなかった我が家の外観を見上げた。
 突如、銃声のような甲高い物音が響き渡った。香はとっさに馬車の影に身をかがめ、アイスも使用人たちも肩を跳ねさせる。
 同じように身を隠しステッキを握りしめる菊ばかりが冷静に、屋敷の主人の執務室の方向を見やって、安堵したような微笑みに変えた。
「ははあ、窓が割れてしまったようですね」
「キクさん、いかがしましょう……
「アーサーさんにはハワードさんがついていらっしゃるでしょう。どうか慌てずに。先にこの子たちの荷を持って行って差し上げてください」
「承りました」
「さ、アイス君。驚かせてすみません。ただ窓が割れただけです。この屋敷は築年数も古いので、少々の改修が必要になったのでしょう。大丈夫ですから、ご案内しましょう」
 菊は口止め料を兼ねた多めのチップを使用人たちに握らせ、ぽかんとしていたアイスの背を押した。香はよろよろと立ち上がり、不穏な気配にピリピリと緊張をみなぎらせて菊について屋敷に入っていった。
「やあ。待ってたよー」
 しかし、出端はさっそくくじかれることとなった。
 客人をもてなす応接間の見事さにはいつ足を踏み入れても圧巻であった。草花の壁紙に東国趣味の幾何模様の絨毯、天井から下がるチューリップ型のシャンデリア、陶器製の絵皿を飾る暖炉。特注の古典風の揃いの調度もまた一級品。香はいまさら屋敷の調度品の豪華さに尻込みするような初心はなくなっていたが、驚くべきことは間違いなくあった。
 中央に整えられた伝統的なアフタヌーン・ティーにはすでに手が付けられていた。猫脚のチェアにどっしりと腰掛けている紳士は陽気に手を挙げる。あまりにも特徴的で見逃しにくい眉の下、兄弟共通のフォレストグリーンの瞳が悪戯に輝く。
「おや、ウィルフレッドさん。今週はタウンハウスに滞在されるご予定だったのでは?」
「それがさあ、急に我が母親に呼び出されちゃって。昨日までたっぷり一族の名誉がどうの遺産がこうのと泣きつかれて、結局一週間分の予定がパアになっちゃったんだよねえ。タウンハウスに戻ってもいいけど、アーサーはこっちに籠りきりで可哀想だなあって帰ってきたら、可愛い弟分が友達連れてくるらしいじゃん? ご挨拶しようと思って」
 からかい倒して、の冗談だろう。神学校へ追いやられる前の短い滞在で、香は可愛がられた覚えはない。顔に出せばよく反応を返してくれる玩具のように喜ばれると理解しているので努めて真顔を維持していた。
 カークランド家の当主には半分血の繋がった兄上が三人いる。それも先代の父親が実に四度の結婚と三度の離婚の波瀾万丈な恋歴の持ち主であったためだが、後を継いだのは末子のアーサーであった。理由のひとつには母親の格が高かったことで、兄弟間には揉め事もなく、すんなりと代替わりをした。
 それが社交界における表向きの美談である。現実には三人の兄はカークランド伯の責務を責任感の強い末子に押しつけたに等しい。
 そのうちの三番目が、末端の香に何の用があるというのか。あれよあれよという間に茶会の準備は整えられて香もふかふかなチェアに座らされていた。ウィルフレッドはボーイに命じて淹れたてのティーポットを持ってこさせた。
「では、失礼しまして、私はアーサーさんにご到着を知らせてまいりますね」
 続けて菊は掌で唇の動きを遮ってウィルフレッドに耳打ちし、ウィルフレッドは大仰に肩をすくめて了承を返した。菊が退室すると、ウィルフレッドは手ずから紅茶を注いでアイスと香をもてなした。
「さ、いっぱいあるんだから食べなよ。お前たちときたら、ちっとも栄養が足りてない身体つきなんだからさ。昼餉は食べたの?」
 ケーキの皿をアイスと香にも回しながらウィルフレッドが云う。人見知りの気があるアイスはおっかなびっくりに皿を受け取った。
「車内販売のサンドイッチは」
「ちっさなピーナツバターとジェリーの? じゃあよけいにだねえ。今夜は晩餐会だって料理長が張り切ってたから開始までもたないよ。キュウリのサンドイッチはどう?」
……はい。いただきます」
 アイスの皿にサンドイッチやケーキや焼き菓子がどんどんと盛られていく。困惑に助けを求めるような視線が寄越されたが、香は黙って首を横に振った。香にはウィルフレッドの考えはまったく読めない。香が知る彼は、相続争いから降りたために母方の親族からは分け与えられた遺産の少なさに突き上げられており、一方で当主は兄上に頭が上がらない。不安定な立場上、当主派でなければ家を追い出されかねない――邪魔と判断されれば始末されかねない香にとっては突き放しも仲良くもし難い相手だ。
 ただアイスにとってはよく知らぬ不審者だ。助け舟を出さないわけにもいかず、香は慎重に声をかけた。
「ウィルフレッドさん、発言の許可をいただけますか」
「親しく見えるようにウィルでもウェー君でもお兄様でもいいんだけど、レオン?」
「当主様の兄上にそんな呼び方はできません」
「ちぇっ。かわいくなぁーい」
……
「なんでここにいるかってこと? さっき云った通り、お出迎えだよ。噂の『悪魔憑き』がどんなものか、拝んでみようかと思って」
 にこりと害がなさそうな社交的な笑みを浮かべながら、フォレストグリーンの眼はちっとも笑っていなかった。香は夏だというのに背筋に冷たい汗が流れ落ちるのを感じた。ウィルフレッドは尊大に足を組みなおす。
「お前が、『悪魔憑き』の末っ子? 三十人だか呪い殺したって聞いたけど、案外普通だね」
 挑発的な物云いに、アイスの顔は蒼白を通り越して死人のように血の気がなくなっている。まさに悪魔に憑りつかれたと云われても信じられそうなほどに、何の感情も読み取れなくなった。
「それとも、いまでも機会を狙ってる? 悪魔はお前にどんな贈り物を与え、どんな偉大な助言をしたのかな? ぜひともそのたぐいまれな所感を聞いてみたいな、エギル・ボンネウィーク」
 眼に見えぬ鋭利な槍がアイスに何本も突き刺さっているようだった。
 もし香が人並み以上に正義感が強く、無謀を備えていれば、侮辱された友人を庇い、茶会を蹴り出してでもアイスを連れ出したかった。頭によぎった浅はかな考えを香は無意識に切り捨てた。香はこれを恐れていたのだ。当主の兄、ひいてはカークランド家に逆らうべきではないと骨の髄まで染みついてしまっている。香はその場に固められたようにアイスの答えをじっと凝視するほかできなくなっていた。
 アイスは夜明け色の瞳を大きく見開いてまばたきもせず唇をわななかせていたが、ひとつ肩を上下させると、ゆっくりと息を吐いた。
 アイスは存外に、はっきりとした言葉を舌に乗せた。
「僕は……主のお声を聞いたことはありません。サタンの声もまた同様に。どこに行けば主の霊から離れることができるのか、僕には見当もつきません」
 しばし、双方の視線は互いに腹の内を探るように沈黙していたが、幾ばくも経たぬうちにウィルフレッドの方がついに耐えきれなくなったように膝を叩いて笑い出した。
 香の心臓が大きく跳ねたが、むしろ、ウィルフレッドはまったくいつも通りの陽気さであった。
――ははっ、あはははっ! 敬虔な神学生らしい回答だねえ! 悪かったよ、脅すつもりじゃなかったんだ。紅茶を飲んで落ち着いたらどう? 今日のアフタヌーンブレンドは素晴らしいよ」
 促されて、アイスは逆らわずそっと紅茶に口をつけ、ずっと警戒をまとっていた眼を丸くした。さすがは当主のこだわりで東国の農場から直接買い付けている茶葉は最高級品質で、香りといい、口当たりの良さといい、香も異論はない。冷え切っていた空気を暖めるのには役立った。
「ケーキは? もっといる?」
「いえ」
「レオンは?」
「俺も結構です」
「なんだ。カステラ美味しいのに。菊からの土産だってさ」
 スポンジケーキにザラメを敷いたような菓子のひかえめな甘さを香は噛み締める。アイスはまだ身体をこわばらせてはいたが、温かい紅茶とウィルフレッドのもてなしに口が軽くなったようだった。
「僕をご存知だったんですね?」
「アーサーが仕事以外に興味を持つのはすっごく珍しいし、心霊交流同好会の一員としては見逃せないからね」
「心霊交流同好会?」
 これに答えたのはアイスだった。
「霊的な体験を通して死者と交信したりする神秘主義の一派。カークランド伯の兄上が、怪しい降霊会サロンに傾倒しているって話は伝え聞いたことあったけど、本気とは思わなかったな」
「やだなあ、ちっとも怪しくなんかないよ。科学じゃ証明できない不可思議を不可思議のまま追求する、変人奇人ばかりが集まる大人の社交場さ。ちょっと赤いドラゴンを召喚してみたり、絵画と喋る魔法を試してみたりするだけの」
「危なすぎる。ドラゴンなんて大きなものを通そうとして、境界が歪んだら取り返しがつかなくなる」
 アイスは苛々したときにそうするように、神学生の仮面をかなぐり捨ててぶっきらぼうな口調で吐き捨てた。香はドキリとしたがウィルフレッドはそれが聞きたかったとばかりに口角を三日月型にした。
「ドラゴンがだめなら、幽霊はどう思う?」
「生前の未練に縛りつけられているところに横槍で引きずり出すんだから、呼び出した後に帰ってもらえなくても知らない」
「じゃあじゃあ、絵画と喋る魔法は?」
「写し身の影に取り込まれたいなら止めないけど? あちらは理想の楽園(エデン)なんかじゃない、決まった時間を繰り返す虚像だ」
「なんだ、やっぱりわかってるじゃないか! エギル君、我が同好会に入ってみる気はない?」
 ウィルフレッドは前のめりに握手を求める。アイスは戸惑うように視線を揺らしたが、頑なに首を横に振った。
「悪いけど、好事家の好奇心を満たすためだけに僕は歓迎されるいわれはない」
「なんだ、残念」
 それなりの熱意を持って誘っていたようでウィルフレッドはがっくりと首を落とした。そのときちょうど、菊が戻ってきた。ほとんど減っていない菓子や落ち込んだり固くなっていたりする全員の顔を見回し、心持ち盛り上げようとしたのか曖昧に微笑んだ。
「あら、楽しいお話のところをお邪魔したでしょうか?」
「全然」
「そらそうさ!」
 双方がまったく正反対の答えを返したので菊は困ったように首をかしげる。幸先は悪そうだと香は頭痛に襲われた。

     *

 ウィルフレッドの歓迎には面食らったものの、晩餐会兼当主との初顔合わせは問題なく乗り切れたように思えた。
 アーサーは伯爵家を背負う当主にしかるべき貫禄を構えて、若い神学生が一時滞在することを許した。それは香が知っている裏の一面――頑固で、偏屈で、皮肉屋で喧嘩っ早い、上流階級の貴人に求められる優雅さとは真逆の性格――を見事にひた隠しにしていた。もっとも、アーサーは生まれながらの貴族だ。アーサーが邸宅から事業まで様々な自慢話にふける間中、久方ぶりの肉料理多めのフルコースに舌鼓をうつ暇を感じられず、息をひそめて始終目立たぬよう振る舞った香とは比べるべくもなかった。
 深夜遅く、お開きになってから自室に返された香は、荷解きをする気にはなれずに思い切って客室に向かった。有能な執事の計らいか、アイスに与えられたのは屋敷の端に位置する香の部屋からは渡り廊下で繋がっている離れの一室であった。
 連れ去られて初めの頃はさんざん抜け道を探し回った杵柄で、ランプのとぼしい灯りひとつで難なく客室に着き、香は拳を掲げてやっと思い至った。アイスにとっても長旅は疲れたに違いなく、晩餐会においては第一の客人としてアーサーの話相手に務めていたのだ。早々に休んでいるやもしれず、無理に起こしてしまうのも悪い。香が足踏みをしていると、脈略もなく扉が開けられた。
……何やってるの」
 アイスはもう部屋着に着替えていた。よく内巻きに跳ねては煩わしそうにしている髪は湿って撫でつけられている。アイスは形の良い眉をつりあげて、なんの挨拶も告げられないで突っ立っている香の手首を掴み部屋に招き入れた。
 灯りとりの蠟燭しかなかったが、離れといえども、客室は華美なだけでなく、季節を思わせる花や絵画が飾られ、清潔に整えられていた。妙にごてごてとした趣味の悪い東国風にされている香の寝室よりもよほど快適そうだ。アイスは香をベッドまで引いて座らせた。香は脇にランプを置いて膝を揃える。身体が沈むようなマットレスは慣れる気がしない。
「気付けでも飲む?」
 アイスはトランクから出したウイスキーのスキットルを振って見せたが、香は首を横に振った。香はアイスほど酒には強くない。
 そう、と相槌をうったアイスはそのままスキットルはトランクに放り投げ、灯りとりの蠟燭を吹き消してから香の隣に腰かけた。
「パフィン、いいよ」
 気配もなく闇の中からぬっと現れる、黒い海鳥。アイスの守護霊だ。飛ぶには丸々とした体躯でアイスの膝の上に危なげなく着地すると、化粧をしたような模様の眦がまばたきの代わりのようにアイスと香を交互に見た。
「そいつも連れてきた的な?」
「だって、学校に置いていくわけにはいかないもの。こいつ馬鹿だから他の奴らに喧嘩売って苛め返されているかもしれないし」
 抗議するようにパフィンが羽を撫でるアイスの指を噛んだので「痛っ」とアイスは手を引っ込めた。パフィンはふんと飼い主には顔を背け、香の膝に鞍替えする。実在しないはずの鳥の重さがぐんと乗った。
 香は湿っぽい匂いのするような羽に触れようとして、やめた。アイスの横顔を窺おうとすると、真正面からばっちりと視線が合った。
「アイス、ごめん」
 本宅に着いてからずっと、云わなければと考えていたことはするりと唇をこぼれ落ちた。アイスは顔色を悪くも良くもしなかった。夜明け色の瞳がまばたきもせず香の心の内を覗き込んでいるようだった。
 香は何も云い返せなかった。ウィルフレッドに試される物云いをされたときも、アーサーの自慢話が延々と続くのを知っていて止めなかったことも。表面的にはアイスは歓迎されていたが、密かに使用人たちの間で『悪魔憑き』が噂になっているのは察せた。アーサーが認めているからか際立った悪意が籠っていなかったとしても、不幸を面白がられるのは不快なものだ。香はアイスの盾となれる手段も意思も持っていなかった。早々に、香はアイスをカークランド家に連れてきたことを後悔していた。
 謝罪にもなっていないような懺悔にも、アイスは怒りをあらわにしなかった。まるで痛む心は過去に置いてきたかのように。
「わかってる。僕は大丈夫。こんなに良くしてもらって、却ってびっくりしたくらい」
「アイス」
「こっちこそ、香を巻き込んでごめん。なるべく迷惑をかけないようにするから――
「謝らないでくれ!」
 ひと息をついて、わかったよ、とほとんど唇を動かさずにアイスは云った。
 宙に浮いた謝罪の言葉を香は呑み下した。些細な云い合いはそれで終わりとなった。アイスは追及しなかったし、香もさらけ出せる気にはなれなかった。アイスの目的は兄の失踪についてカークランド伯から新たな証言を得ることで、香が介入できる余地は狭い。事前に話し合った通り、今後香ができることと云えば、アイスの印象を下げることがないよう香自身が身の振り方によくよく気をつけることなのは変わりなかった。
 アイスは話題を切り替えようとしたのか、ことさらにあかるく云った。
「それにしても、ここはすごいところだね。伯爵家は千年近い歴史がおありだと聞いていたけれど」
……まあ、もともとはこの辺り一帯が領地らしい的な」
 奔放な先々代が土地をいくらか売ってしまったようだが、先代が婚姻によって新たに得た分と、野心的な今代が蓄え続けている財が伯爵家の財政を支えている。香は知らないが地方や外国にも城を何件か所有しているらしい。おそらくは本国で最も裕福な一族のひとつに挙げられるだろう。
「それだけじゃないよ。由緒正しい家柄というだけあって興味深い話が聞けるかも」
「つまり?」
「あちらの者がうじゃうじゃ」
……聞きたくなかった的な! 俺知らずにホーンテッドハウスに住んでた感じ⁉」
「学校だっていっぱい棲んでるのにいまさら気にすることじゃなくない、香? それに、幽霊やお隣さんがいるのは、由緒を明らかにする名誉になりうるんだから」
 アイスが眼をきらめかせる。
「家に憑くお隣さんといえば、たとえば旧家の血筋の死を嘆くバンシー、家事や家畜の世話を手伝うブラウニー、農場に幸運をもたらすグルアガッホ。他にもパック、プーカ、ロビン・グッドフェロー、ボギー、ボブ、ピクシー、数え切れないくらい呼び名があって、村々で呼び方が違ったり、伝承が混ざって覚えられていたりする。いずれも共通するのはただしく付き合えば気のいい善良な人たち、悪く扱えば悪意に満ちた報復をする悪党になる。古来より人間とも親しくしてきた、旧き良き身近な隣人」
「じゃあ、ゴーストは?」
「人間の未練が形を成したもの。無念が染みついた影、死者がこの世に残していった足跡。とくに不幸に死んだ人や、名のある貴人が生前に過ごした場所に現れる。だから古いお屋敷には歴史に名高い謂れとともに幽霊話がつきもので、先祖の霊が屋敷を守ってくれているとして尊ばれる。もちろん、このお屋敷にも。気が向いたら、存在を示すためのノックをしてくれるかもね」
 白魚の指がそっと指すのにつられ、香は自然に扉を見た。なんの変哲もない、よくある古びた扉だが、目が離せない。夜な夜な屋敷を彷徨う先祖の霊が、噂をすればいまそこでノックを――
 ぼーん、ぼーん、ぼーん……
 振り子時計が零時を報せる十二の鐘に香がびくりと跳ねたせいで、パフィンが膝から転げ落ちた。あにすんだよと文句を云いたそうに抗議の威嚇をしてくる。そんな一人と一羽を見て笑いを噛み殺しきれないアイスが肩を震わせていて、香は荒ぶる感情のままにどついた。アイスがよろめいてベッドに転がった。
「アイスー! マジ勘弁、俺寝れなくなっちまった的な!」
「幽霊ごときで怖がることないでしょ、カークランド家に住まう人に危害を加えてくるわけがないんだから」
「アイスは⁉」
「パフィンがいるこの部屋にまで入ってこないよ。あっちだってお互いにテリトリーがある。僕らが踏み越えない限りは大丈夫」
「俺の部屋までついてくるとかない系?」
「それは、……あちらの気分次第?」
 生まれたときから人ならざるものが当たり前に視界に入るアイスと違って、香はつい昨年に父を亡くしてからときどき鍵が嵌るようになっただけだ。アイス曰く教会は存在だけで強力な結界を有していて学校内にはよほどのことがなければ入り込まない――ライヴィスの黒猫ような一件は別としても。
 香の感性は人並みだ。アイスのように、眠っている間に枕の上をあちらのものがうろついていると聞いて平然としていられるほどの耐性はないし、なにより一歩先も暗闇に覆われているような廊下をランプひとつで出歩くのは勘弁願いたい。
「ええ……。じゃあ、今夜は僕の部屋で寝る?」
「うん。頼みます的な」
「即答した。……いいけど、蹴ったりシーツを剝ぎ取ったりしないでよ。あと汗くらいは拭いて」
 アイスに追い出されてはたまらない香は、こくこくと何度も頷いた。

     *

 浅い眠りと夢を行き来していたような目覚めだった。
 肌寒さに香がまぶたを開けると、背中を向けてシーツに包まっているアイスがいる。夏の日差しが薄いカーテンを通して室内に差し込んでいた。夜明けに祈りの時間のある神学校の規則の倣いで香ははっと飛び起きたが、内装の違いからすぐに夏休暇の二日目であることは思い出せた。
 どうやら、シーツはすべてアイスに取られてしまっていたらしい。香は膝立ちになってアイスの寝顔を覗き込む。
「モーニング的な、アイスー」
……んぅ」
「俺部屋に戻るけど、オーケー?」
 泊めてくれた礼として声をかけるも、気持ちの良さそうな寝息が返ってくるばかり。そういえばアイスは、朝に弱いのだった。寮でもぎりぎりの時間まで布団に潜ろうとしているアイスを何度香が揺り起こしてやったことか。
 たまには寝坊も悪くないなと香は思って、私物のランプやジャケットを回収して部屋を出た。日のあかるいうちならば夜ほど怖くはない。





スコット(母方スチュワート家、スコ君)、パトリック(母方オブライエン家で嫡男、アイル)、チャーリー(母方オブライエン家、ノース君)、ウィルフレッド(母方エヴァンズ家、ウェー君)
オーランド(オージー)、ナイジェル(ニュージー)
マシュー(アーサーの母方の分家ウィリアムズ家の次期当主)、アル(ジョーンズ性は母親)
セシル・ガーネット(母が落胤の子、セーちゃん)、ピーター(先代の弟の子)


プロット
ここの家、すごいねとアイス。そこら中にいると聞いて寝れねえの香。
翌日、騒ぎになっている。マシューが家出したらしい。狼狽するアーサーが飛び出して行こうとするのを菊が止める。偶然盗み聞きして昨日のガラスを割ったのはマシューだったのを知る。







詩編139「どこに行けばあなたの霊から離れることができよう。」

本題の悪魔と取引したの?」
「もしそうなら、僕はいまごろ巨万の富を得ているだろうね。


かれらはふつうよそ者が訪れると警戒するものだけど、ここのお隣さんはフレンドリーみたい

装丁
表紙 マットポスト150kg
本文 ソリストSPピンククリーム65.5kg 0.130mm
加工 ベルベットPP
遊び紙 紀州の色上質りんどう
背幅 7.54mm(116p)



 もしや香が到着した日にも見られていた(ヽヽヽヽヽヽ)のだろうか? ゾッと背中に寒気が通り抜けていく。香の顔色がこわばったのを見て、アイスが慌てたように付け加える。
「学校内には呼び込まれない限り、ふつう入ってこないから」
「呼び込むって?」
「声をかけたり、契約を交わしたり、かな。いちばんは縁があることだけど、香の知り合いじゃあないんでしょ? なら大丈夫なんじゃない。あとは念の強いものは眼が合っただけでついてくることもあるけれど」
「駄目じゃん!」


「香って、憑かれやすかったりする?」
 アイスのオカルト話はいつだって唐突だ。
 交代の神父が来る前にアイスが起こしてくれたにもかかわらず疲れ切って寝入っていた香は、案の定神父に居眠りが見つかり、クリスマス休暇といえど浮かれて神のおわす場所で腑抜けた真似をするべきでない、とこんこんと説教をされた。罰則として聖書の節の書き取りは命じられたが、アイスの口添えもあって、休暇明けに出せばよろしいことになった。かなりマシな方だろう。
 うんざりしながら自室に戻るなり、アイスが云い放ったのである。
「ホワット?」
「小さなお隣さんに遊ばれてるんだよ」
 どん、と背中を叩かれ、香はふらつく。アイス