ある日のこと、ロイはリコに部屋に呼ばれた。ポケモンたちは飛行船の中で各々遊んでいて、二人きりの部屋で、ベッドに腰掛けてお話していた。楽しく話していたところ、ベッドと隣接したタンスの隙間からはみ出たある布がロイの目に止まった。
あの形…リコの…パンツ!?
「それでねー、パゴゴが今度はマスカーニャも乗せるって言い始めて〜…あれ?ロイ聞いてる?」
「え!?ああ…聞いてるよ」
ロイは笑顔をつくってみせた。リコはしばらくきょとんとした顔をしつつも、切り替えて先ほどの話題に戻る。ロイは笑顔でそれを聞いているが、内心はとても穏やかではない。
これ…リコ気づいてないよね…どうしよう、言った方がいい…よね?でも、男の僕にパンツ見られたって分かったら…リコ、絶対嫌な思いするよね…でもこのままほっとくのは…!
言うべきか、言わないべきか。ロイの心中では自問自答が激しく続く。問題の下着はちょうどリコの背後にあるため、彼女が後ろを振り向かない限りは気づくことがない。ロイが言わなければ、振り返ることもないだろう。苦悩しながらもロイはどうにか笑顔を保つ。すると、話し終えたリコが一言呟いた。
「やっぱり、ロイとお話するの楽しいな」
そう言ったリコの頬は、ほんのり赤く染まっていた。心からつい溢れたような小さな笑みがロイの心を揺さぶった。
リコがせっかく楽しんでくれているのに、パンツのことなんか教えたら…いや、むしろ言うべきだ。リコにこれからも僕のことを信じてもらうためにも、正直に言うんだ。
「あのね、リコ」
「ん?」
「僕ね、言わなきゃいけないことがあって…」
ロイは覚悟を決めて彼女の方を向いた。しかし、彼女の顔を見た途端、その覚悟はボロボロと崩れてしまった。どうしたんだろう、そう言いたげな純粋な瞳を見て、ロイは言葉を失くしてしまった。
「ロイ?」
「あ、ご、ごめん…やっぱり…なんでもない」
「そう…?」
やっぱり言えない。リコに嫌な思いをさせたくない。それに、言ったせいで嫌われるかもしれない。そう思ったら、怖い。
俯いたロイの顔は真剣そのものだ。隣に座るリコはじっと彼の横顔を見つめる。
ロイ…どうしたんだろう。言わなきゃいけないこと…今…?
リコはここまでの会話を振り返った。そして、一つの考えが脳裏をよぎった。
…!ロイは、私に告白しようとしてる!?思い返してみれば、途中からちょっとほっぺ赤かったし…
!…いやいやいやあのロイだし…初めて会った日の夜も学校に来た時も…うん、ロイは多分まだそういうの分かってない…でも…でも…もし告白…しようと思ってくれてたんなら…怖気づいちゃったのかな…分かるよ。私だって、自分から告白するのなんて怖いし…でも、もしロイがそのつもりなら、私がロイの背中を押してあげなきゃ…!!
全くの勘違いである。情動に燃えるリコの視線に、ロイは全く気づいていない。下着のことを言うべきか言わないべきかを真剣に考えている。一方、リコはロイの背を押すことを心の中で連呼していたが、ふとあることに気づいた。
あれ…?ロイが私に告白するように私が背中を押すって…そんなの…私がロイに好きって言わなきゃ成り立たないんじゃ…!?無理無理無理!自分からなんて…でも言わないとロイが安心して告白できないし…そもそもこれ…自意識過剰なんじゃ…ロイが私のこと好きかなんて分かんないし…もし違ったら、ロイに距離置かれたりするかも…どうしよう、私どうするべきなの!?
リコの思考は止まることを知らず回り続け、ややパンク気味になっていた。隣でそんなことになっているのを知らないロイだったが、ふと左を向いてリコの顔がかなり赤くなっていることに気がついた。そして、彼もまた一つ勘違いをした。
リコ、もしかしてパンツのこと気づいた!?すっごい恥ずかしそうだし…だとしたら、僕がこのまま気づかないふりをして出ていけば、リコは安心して片付けられるかも…そうだ、そうすれば平和に終わる…でも、僕が言わなくても、リコは僕に見られたかもしれないって不安をずっと感じちゃうんだ。後で聞かれて正直に答えても、一度は見たことを黙ってたなんてよく考えたら最低だ。ちゃんと、リコに言わなきゃ。
ロイは今度こそちゃんと言うぞと覚悟を決め、再びリコの方を向く。そのとき、リコもまた考えがまとまっていた。
遠回しな言い方にしよう。そうすればもしロイがそのつもりじゃなくても誤魔化せるし、そのつもりなら…きっと安心してもらえる。
「リコ!」
「ロイ!」
「「話が!!…あっ」」
見事に声が重なり、二人はお互いにどうぞどうぞと譲り合う。二、三度続けて、リコがようやく切り出した。
「え、えっとね…ロイ…」
俯き、顔をかなり赤くしたリコの言葉はとても歯切れが悪い。このままではいけない。そう思った彼女は、突如ロイの胸に飛び込んだ。
「リコ!?え!?」
「ロイ…その…私も…同じ気持ちだから…」
「え?え?」
「ごめん…急に…ええと…ロイ、どうぞ」
困惑するロイから離れたリコがそう言うと、ロイは心臓がばくばくと鳴りながらもリコの顔をじっと見つめる。
「あのねリコ…さっき言おうとしたことなんだけど」
「うん…」
「えっと…耳…貸してもらってもいい?」
「うん…」
言われるがまま、リコはロイの方に顔をぐっと寄せた。こんなに顔を近づけるのは、きっと初めてだ。
「リコも気づいてたかもしれないけど…実はね…」
ロイの囁き声を受けて、リコは脳が溶けそうになっていた。そして、ついにロイは言った。
「…さっきからずっと、タンスからリコのパンツがはみ出てて…」
「…え?」
「ごめん…ずっと言おうか迷ってて…」
リコは思わず固まった。何を言われているのか、一瞬わけが分からなかったのだ。そして、徐々に脳が理解をし始め、リコの体温は先ほどとは違う羞恥で上がっていく。おそるおそる、彼女は後ろを向いた。ロイは前を向き、拳を膝に置いて目を瞑った。リコの視線の先には、確かにそれがあった。
「あ…あ…あ」
リコはタンスに向かって飛びつき、ひとまず下着を押し込んだ。はあはあと息を吐きながら、そっとロイの方を向いた。
「ロイ…ご、ごめんね…変なもの見せて…」
「い、いや…僕こそ見ちゃってごめん!!で、でもあんまり見てないから!!ちゃ、ちゃんと忘れるし!!」
「うん…ありがとう…ご、ごめん…少し一人にしてもらってもいいかな…?」
「ああ…ほんとにごめんリコ…それじゃ…」
ロイが部屋を出ていき、リコはベッドに顔を埋めた。そして、船内に響き渡るような悲鳴を上げてしまった。
パンツ見られちゃった…しかもあんな子どもっぽいの…いや何見られてもダメだけど…!告白とか私、何勝手に盛り上がって…!ばかばかばかそもそもなんでちゃんとしまってなかったの…!!
「うぅ…私が記憶を消したい」
その後、一週間ほどしてようやくリコは立ち直れたという。一方ロイも誰にもこのことを相談できず、リコの異変を察したメンバーたちに聞かれて心を痛めた。
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