Unシル
2025-09-28 13:35:37
1337文字
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狛治の話

狛恋SS
体調が安定し元気になってきた恋雪十五歳が狛治十七歳に甘える話。
題名:本能
⭐︎pixiv投稿済

 



 裏庭の池に蛍がやってきた。
 そっと捕まえて、自室の縁側で月を眺める恋雪に見せたら――
「狛治さん、おぶって連れてって」
……はい?」
 裏庭に、だろう。
 狛治は目を丸くした。
「調子がよいんですわたし」
 たしかに、……目を爛々と輝かせる幼い女の体調は、一年前の今頃と比べてずっと良い。昼夜続く発熱や咳も、季節の変わり目に発病する程度に。大抵は、自分で体を清め、厠にも行けるようになっていた。
 今宵は月を愛でている。
 だから、か。
「おぶるのは構いませんが……
 調子がよいなら、自分で歩けるんじゃないかと首をかしげる。もしや足を挫いて、怪我をしているかもしれないと心配しかけたが、言い終える前に恋雪は狛治の背にぴったりとくっついて、細腕を胴へまわした。
 いたずらっぽく――小さいわらい声が、耳をくすぐる。
「調子が、いいと……遊びたくなるんです。……はしたないですね……狛治さんを、困らせてしまうなんて」
 全く困っていない狛治は、腹に回された細腕を優しく解いて、自ら首にあてがう。
「見たら、眠れますか?」
 斜め上の恋雪の顔めがけて問うた。
 連れて行く様子になった狛治の仕草をみて、恋雪はきれいに笑う。
 ――狛治は、この笑顔が一等好きだ。
「!もちろん、です……狛治さんが見た景色と、おんなじものをみれたなら、ぐっすり眠れます」
 なら、良いのだろう。
……連れて行って、くれますか?」
 狛治はうなずく。
「おやすいごようです。……さぁ、羽織は綿入りのものを着て、見に行きましょう」
 狛治は嬉しい。
 臥せっている間、やれなかったこと、やりたいことを、恋雪は狛治に教えてくれる。きっと、父親の慶蔵には気恥ずかしくて頼めないこともあって、それが今しがた願ったことだったりするのだと、狛治は考えていた。
(恋雪は……甘えたいんだ)
 恋雪の体調が良くなりつつあるのと、隣接する剣術道場の嫌がらせがめっきり減ったことで、慶蔵に次いで狛治も便利屋の仕事に出払うことが多くなった。
 人肌が恋しいのかも、しれない。なら、さみしい思いはさせたくない。なるべく一緒にいてやりたいと、思う。
「どうぞ」
「ほ……本当に、おぶってくれるの?」
 でも最近。
 狛治にさえ、遠慮することがあるのだ。
「ええ。……俺がおぶりたいんです。なんだか久しぶりだし、嫌ならやめますが」
「い、いやじゃないです!……嬉しいです」
 そして、幼い女は――すもものように頬が真っ赤になる。
 ――恋雪と体を密着させると。
 かぐわしいにおいが、狛治の鼻腔を突き抜けて脳天に直撃する。素流の拳をくらったような衝撃だのに、果物のようで花のようにあまいにおい、に……狛治はたちまちとりこになった。
(あぁ……また、だ)
 腹が熱くなる……ときがある。腹がへる、わけではないのに。

 たべたくなるんだ、恋雪を。

 狛治の最近の悩みといえば、それだった。
 





   あとがき

 恋雪が狛治に甘える話を書きたくて、書きたくて。そして、狛治が恋雪に情愛をはらんだ仄暗い欲望を抱きはじめるかっかけの話を書きたくて。私の好きなシチュエーションです。
 おしまい。