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ながひさありか
2025-09-28 07:00:00
2951文字
Public
STR-Phaidei
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ハニーケーキ
結婚してるif(336回ではありえない話)/惚気に巻き込まれた丹恒と星
「結婚してたの?」
疑うような目で、星はハートヌスとその弟子が剣を鍛え直し、小さな装飾品を磨き上げている姿を眺めていたファイノンにそう尋ねた。
びしっ、とファイノンの顔を指差す星に、「人を指差すのはやめろ」と丹恒が慌てて彼女の腕を掴んで下ろさせる。
「あれ? てっきりアグライアやトリビー先生たちから聞いているのかと思ったよ」
ファイノンは二人のやりとりに苦笑しつつも、特に驚きもせずにあっけらかんと口にした。
そもそもどうしてこんな話になったのかと言えば、「おいしいスイーツが食べたいんだけど、なるべく映えるやつ知らない?」と市内で出会ったファイノンに尋ねたところ、「僕に聞いてくれてよかった。何しろ僕のパートナーはオクヘイマ一の甘いもの好きだから、都市中のスイーツ情報を持っているよ。映え
……
は僕はあまり詳しくないけど、ディアディクティオでよく見るのが『映え』なら、おすすめはいくつかあるかな」とにこにこ顔で石板を取り出したからだ。
パートナー。丹恒と共に声を落とした星に、「ん? 天外では結婚相手をそうは言わないのかい?」とファイノンが首を傾げ、「そういえばちゃんと紹介できてなかったな」と、端末を操作し、写真を見せた。
そこには、アグライアが花籠から掬った花びらをファイノンとそのパートナー
——
モーディスにふりかけている様子が写っていた。屈託のない笑顔を見せるモーディスに「え、合成?」と星が口走りかけ、丹恒はその口を手で塞ぐ。
そうして冒頭に戻り、星はファイノンを詰問していた。
「
……
待って。じゃあなんで会った時あんなにギスギスしてたの? 冗談が通じないとかなんとか結構強く言ってたじゃん」
「なんの話
——
、ああ、そう言えばそんなこともあったっけか。まあそれはほら、あの時のあいつは君たちを敵なんじゃないかと疑ってたから、余計なことは言えなかったんだ。本当に冗談が通じないやつだから、僕がちょっとでもふざけて『そのうち始末するつもりだよ』なんて言えば今頃君たちは死んでたと思う」
まったく困った奴だろ? だから僕がしっかりしないといけないんだ。
苦笑するファイノンの姿に、星は思わず隣に立つ丹恒に無言で視線を向けた。俺を見るな。丹恒が困ったように呟く。
「でもモーディスって王子様なんでしょ? 跡取りとか大丈夫なの?」
「おい、」
とんでもなくデリカシーのない質問に、丹恒は慌てて彼女の口を手で塞ぐ。
「すまない、こいつはちょっと頭のネジが外れてるんだ。聞かなかったことにしてくれ」
冷や汗をかきながら謝罪した丹恒に、ファイノンは気を悪くした風もなく「天外では同性では子どもが持てないのかい?」とぱちぱちと目を瞬かせて、驚いたように言う。
「いやそう言うわけではないが
……
、星はその、お前が貴族出身ではないことが気になったのだろう」
『僕の出身はエリュシオンと言う村で、美しい麦畑に囲まれた静かなところなんだ。幼い頃は剣の代わりに鋤や鍬を振り回していたよ』
オンパロスに来て間もない頃、星と丹恒はそんな話を彼から聞いていた。
『だから僕は貴族のアグライアや巫女のトリビー先生たちみたいに、なにか特別な生まれの人間ってわけじゃないんだ』
田舎者だからね、と明るく笑うファイノンを覚えていた丹恒の言葉に、もがもがと暴れながら星が頷く。
「ああそう言うことか。それは確かにちょっと揉めたりしたんだけど、二人で真摯に僕たちの愛は真実揺らぐことはないって説得
——
いや立証かな? したんだ。
そもそもクレムノスは別に血統主義じゃないから、僕が貴族出身である必要はない。モーディスの御両親も王と一般兵だからね。ただ僕はクレムノス人ではないし、オクヘイマ人だと思われていたから、あいつの配偶者として相応しい戦士だ、ってクレムノスの民に証明する羽目にはなったけどね」
「証明?」
「もし伝統に則るのであれば僕はクレムノス祭典で優勝して、クレムノスの民に婚姻の許可を申し出る必要があった。だけど、クレムノスの要塞は暗黒の潮で汚染されたニカドリーに占領されて行方知れずだったし、祭典を開けば怪我人や死者が出るかもしれない。今はそんなことをしているほど余裕のある世じゃないから、考えた結果あいつと十日十晩本気の決闘をして、どうにも決着がつかなかったのを祭典の代わりとしてもらったんだ。もちろん八百長を疑う人もいたけど、モーディスが手を抜く筈はないし、『俺が欲しいなら死ぬ気で来い』なんて言われれば、僕だってその信頼に応えないわけないはいかないだろう?」
「「
………………
」」
丹恒と星はしまりのない顔でへらへら笑うファイノンに沈黙し、無言でお互いに顔を向けた。
(惚気だよね、これ?)
片腕を組み、口許を隠しながら目で訴えてくる星に、丹恒は小さく頷く。これ以上聞かされるのはたまったもんじゃない。
「事情はよくわかった。プライベートなことに口出しをしてすまない。
……
お前はファイノンからスイーツ情報を聞き出したいんじゃなかったのか?」
「そうだった。ファイノン、惚気でお腹は膨れないから、おすすめのお店とメニュー教えて」
星のばっさりとした言葉に気にした様子もなく、ファイノンは「すっかり話が逸れてしまったね」と端末を操作する。
「黄金のハニーケーキ?」
送られてきたお店の情報とメニューに、星が顔を上げる。何枚も積み重なった分厚いパンケーキは確かに美味しそうだったけれど、映えるかと言われれば、ピノコニーで数々のとんでもスイーツを体験した星には、どうにも地味に見えてしまう。
「少し地味だと思っただろう? だけどこれはオクヘイマで一番人気のあるメニューで、まずはこのハニーケーキを味わわないと、オクヘイマの甘味道は始まらない。それを食べた後にまたおすすめのお店を教えるよ」
ふふん、と自慢気に胸を張るファイノンに、へえ、と星が貼られてきたURLにアクセスする。
レビューをスクロールしていると、時々「ますます健康になった気がします! 筋肉もプロテインが入っていると誤認してくれる筈です」「チートデイはこれを食べるって決めてました! 明日からまたトレーニング頑張るぞ〜!」とスイーツ店に書かれるには少し妙な文言が目に入る。星は「オンパロスの文化?」と首を傾げつつ、端末から顔を上げ、ファイノンを見上げた。
「まあ美味しいなら試す価値はあるね。丹恒、早速食べに行こう!」
ファイノンが鍛え終わった剣を受け取り、代金を支払っている。先程までハートヌスが無言で磨き上げていた装飾品は小さな箱に入れられ、それもまたファイノンの手へ。
はっとした顔をする星に、丹恒は急いで彼女の手首を掴むと「感想は後ほど送る」とその場から走り出した。
*
「丹恒、ファイノンはものすごくそれらしいこと言ってたし実際人気みたいだけど、これって惚気と言うか、パートナー自慢だよね?」
「
……
まあ、そうだろう」
店先までやってきた二人はモーディスがハニーケーキを持っている宣伝ポスターを見つめ、互いに肩をすくめた。
///
「ハニーの(好きな)ケーキ」ということです(やかましい)
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