syanpon
2025-09-28 01:18:49
1689文字
Public
 

やだなあ、恋人料金ってやつですよ

オトスバ
現パロ

「受験勉強がやばい」

 大量の激辛スナックをリュックサックに詰めてオットーの一人暮らししている自宅に押しかけてきた年下の友人は並べた真っ赤なお菓子とは真逆の真っ青な顔をして開口一番そう切り出した。

「塾とかは」
「高校デビュー派手に失敗した過去を知ってるお前がそれ言う? お前しかいない! 頼む! お願い! 教えてオットー!」

 腰にガバリと抱きついてそう喚く男にやれやれとオットーは頭を抱えた。人に勉強を教えるのは骨が折れるしなんなら高校時代のものなんてこっちも学び直さないといけないところが多い。そんなこと承知の上で尚且つ自分ならきっと断らないだろうという年相応の甘えが透けてみえる。
 大学のコマとスバルの帰宅時間、それから高校の勉強の復習時間。それらをもう頭で計算しているくらいなのでスバルの甘えは正しい。それになかなか見れないおねだりだ。
 これは是非とも有効活用しなくてはならない。

「わかったわかったわかりましたよ!」
「まじ!? やった、ありがとオットー愛してる!」
 
 もう一度ガバリと抱きついてくるスバル。それを軽く受け止めてオットーはスバルの頭をポンポンと叩いた。 

「そうそれ」
「? それって何」
「そのかわり感謝を毎回伝えて欲しくて」
……うん? めちゃくちゃありがたいからそのくらいお安い御用だし母さんと父さんに相談していくらかバイト代も出したいんだけど」
「ああ、お金は大丈夫です」

 そう言ってスバルの広いおでこに口付けをひとつ。
 両手をパチンと合わせてオットーはとびきり素敵な笑顔を浮かべる。
 
「お金はいりません。可愛い恋人であり友人のなかなかないおねだりですから。そのかわり、僕がナツキさんに1時間勉強を教える代わりにあんたからキス1回。これでどうでしょうか?」

 スバルは金魚のように口をぱくぱくさせる。この顔をしたオットーはこの条件以外飲んではくれなさそうだ。
 
 どうやらやっぱりこの世界、ただより高いものはないらしい。

***

 ぴぴぴ、と機械的な音が2人だけの部屋に鳴り響く。固まるスバル、その音の出所を止めたオットーはスバルの顔を覗き込み、1時間に設定されたスマホのタイマー画面を見せながらにまりと笑う。
 
「あ、1時間経ちましたね。どうします? お代は前払いですけど」

 白々しい! スバルはじとりと睨みつけるが当の本人はどこ吹く風だ。
 
「ぐ、ぐぐ……!」

 喉の奥でぐるぐると唸る。しばらく唸り続けたのちにスバルはぎゅっと目を閉じる。ふわふわの髪の毛をぐいと引き寄せて男の右の頬にちゅっと唇をよせた。秒にも満たない接触。茹蛸のように顔を真っ赤にしてヤケクソ気味に声を荒げた。
 
 「これでいいだろ!」
 
「右の頬には1時間前にもらったのでノーカンですね」
「はぁー!?」

 そんなことは契約書に書いていない。そもそもこのよくわからない条件自体口約束なのだが。なんらかの詐欺罪に該当しないのかこれ。わなわなと震えるスバルにオットーは満面の笑み。自分の唇をトントンとさしてニコリと微笑む。
 
「あ、唇なら何回でもいいですよ」
「馬鹿! ぼけ! このむっつり!」

 ***

「オットー、ここわかんない」
「ええ、さっき教えましたよ」
「わかんねぇもんはわからん」
「もうちょっと考えてください……んむ」

 すぐに解法を教えてやってもいいのだがこのくらいならスバルならちょっと考えれば解けるはず。そう思っていると唇を悪戯に塞がれた。悪戯っこのように黒い瞳をゆるりと溶かし、スバルは声を顰めて甘えた上目遣い。
 
「ね、オットー。……教えて?」
「あの、」
「なんだよ」
「ここ、図書館ですよ」
「〜〜〜〜!!!!!!!!」

 音のない悲鳴がスバルからとびでる。隅っこの人も少ない夕方の自習室。見ているものはきっといなかっただろう。それでもこの可愛い人を視界に収めたのがどうか自分だけでありますようにとオットーは羞恥で真っ赤になった恋人を隠すため自分の上着を被せてやった。