その後のオットーについてだけど、二限目の古文はどうやらちんぷんかんぷんだったらしく、ノートを取るのさえ難しそうだった。まあ、そりゃそうだよな。
俺はノートの一番後ろのページをちぎって、限界ギリギリまで頭を使ってこいつに言葉を書き殴った。
I love you.とか、I'm happy to meet you again.とか、Where do you live?とか。
古文は得意だから、少しくらい聞いてなくても平気だ。だから俺はそんな言葉を並べて、隣で黒板とノートを見比べているオットーにずいっと手紙を渡した。すると、少し嬉しそうな顔をしてシャーペンを握り直し、何やら考えて返事を書いてくれているみたいだった。返ってきたのは。
ぼくも、大すきです。あなたにまた会えてうれしいです。いえはえきのちかくです。
主に平仮名で書かれているが、沢山練習したのであろうその文字は読み易く、こいつの性格が現れているなぁと思った。
俺の英語力が無さ過ぎて直ぐにこの文通は止まった。だがどうしてもこいつと会話したかった俺は、簡単な日本語だけを使って思いを伝えていった。オットーは分かる言葉だけ返してくれて、分からない言葉は赤ペンでぐるっと囲んでハテナマークを書いてくれたから、俺はこっそりスマホを開いてググってはそれに返事をした。途中何度か先生と目が合って、実は少しだけ肝を冷やした。
何度目かの好きの後、胸の中が満たされていくのを感じた俺は、そっとオットーの腕の中から離れた。
「ごめん、勝手にお前の言葉遮って。そんなの友達じゃないよな」
こいつはまた困った顔で首を傾げた。そんで、直ぐにぱっと話し始めた。
「あなたの……、あー…………。Has this world been kind to you?」
「ごめん、分かんない……」
オットーは少し考えた後、息を吸い込んだ。
「Are you happy now?」
ゆっくりと聞き取れるように丁寧にそう言って、視線を絡めてきた。それくらいの英語なら、俺にでも分かる。
「オフコース……。アンド、ユー?」
「っ……あなたと会えないくて、ずっとさびしかったデス。でも、また会えて本当にしあわせデス」
お互い精一杯相手の言語で話そうとしてるのに、言いたい事の一割も伝えられなくて、じれったい。気持ちばかり先走っちまう。くそ……、ドラえもん来てくれよ。翻訳こんにゃく出してくれよ、まじで。
ああ……、でも、こんなに言葉が通じないのに、間違いなく心だけは通じている気がして、……俺は勝手に嬉しくなった。