望月 鏡翠
2025-09-28 00:52:45
920文字
Public 日課
 

#1855 山の奥

#毎日最低800文字のSSを書く


 北に向かうほどに、森が深くなる。水気が多い土地であるらしく、木陰や岩、あるいは低木の枝の上ですら苔むしている。
 山間は、日が暮れるのが早い。そして、朝は霧が深くて進むべき方法がわからない。道だと思っていた場所がただの獣道や、木が途切れているだけのところである可能性がある。
 道程は思ったように進まなかったが、山道を歩き慣れていない人足にとってはちょうどいい速度だったらしい。旅をするものと狩りを仕事とするものを装備の違いもある。
 夜、火を囲んでいる間、道中の民家から譲ってもらった藁を編んで綱を編み、草履に作り変えていく手捌きを眺めていた。萬木は身の回りのものは丈夫な革で作ることが多い。藁を扱い慣れている彼は、もしかしたら以前は農家に住んでいたのかもしれない。
 このあたりは、木の種類が違う。
 真っ直ぐに天に伸びた木が、上からぬうと覗き込んでいるような暗い森が続く。
 良い建材が育つ地域らしい。そのために、手入れをされている木なのだろう。萬木はそれを木こりの話や、山の中で生き抜く知恵として知っている。
 火がつきやすい木、水が染み出す木、木の実が成るもの、毒があるもの。薪にしてもよいもの、触れてはいけないもの。
 そういうものを知っているだけで、建材となる樹木の種類やなのかどうやって管理をしているかなどは、興味の埒外だった。
 そろそろ封じられた分帰路のあたりだろうというあたりで、更に歩みを緩めた。流石に地図は残っていない。証言から推測しているだけだ。未だ閉ざされている場所だというのなら、多少なりと道は残っているだろうか。
 道の代わりに見つけたのは、小さな祠だった。
 信心のない萬木は平気で開きに行くが、案の定中には何も入っていない。これが目印だと確信した。この先に廃村があるのだ。
 ここから、村までは道がある頃であれば一日。方角を探りながらであれば、三日ほどはかかるだろうか。目当ての妖怪の縄張りの範囲がどのくらいかわからない。
 この近隣で被害が出ていないのであれば、この辺りまではきていないのだろうが、進む前に偵察をしておきたかった。
 仮の拠点をこのあたりに構え、萬木は一人山の奥に向かった。