コーラル発酵中テキサスシャーク
2025-09-28 00:32:26
2763文字
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カレーを作るぞ!

ラスティと621が学生のノリでカレーを作る話。
・ギャグ
・謎時空
・キャラ崩壊注意
・621の性別は特に決めていません

「戦友、今からカレーを作るぞ」

ACパイロットは腹が減る。なぜなら、全長15メートル近くある巨大な兵器を長時間操ることは精神も体力も膨大に消費するからだ。それはAC要に身体強化された強化人間でも変わらない。
パイロットは厳密な体調管理がなされているとはいえ、多少の夜食は皆目をつぶる。ラスティのような健康体の男性なら、なおさらだ。同じく腹の音を鳴らした621も首を縦に振った。
しかし、傭兵としての腕には自信があるが料理はからっきしである。せいぜいアルファ米を白米に戻すことぐらいしかできないと621が伝えると、

「そういうことであればシェフは任せてくれ。調理には自信がある」

爽やかな笑みでラスティはエプロンを身に纏った。凄腕AC操縦、狙撃にスパイときて料理か。きっと彼に出来ないことは無いのだろうと621はこれから出来上がるであろう料理へ期待を膨らませた。

「ルーはこれを使う」

ラスティがこじんまりとしたキッチンに置いたのは、ベイラムマークのカレールー。リンゴと蜂蜜を前面に押し出した、甘口で食べやすい王道中の王道だ。
材料はどうするのかと621が問うと、ラスティは得意げに冷蔵庫を開けた。

「材料は好きなだけ選んでくれ。どれも新鮮で、上質なものだ」

その中に並んでいたのは、ルビコンでは貴重な生野菜だった。

どれもMT用の弾丸より高価であるとウォルターから聞いたことがある。
恐れおののいた621は、ニンジンと玉ねぎにジャガイモを一つずつ手に取った。気持ちどれも小ぶりである。

「私から言わせれば、甘く見積もりすぎている」

ラスティの飢えた狼のような鋭い視線が621へと向けられた。

「費用を考慮していては、最大の結果は得られない。それは傭兵業も同じことだ」

彼が声をとがらせるのも当然だ。空腹の人間が二人、時間は夜中の1時の針が回ったばかり。出し惜しみは、不満足という後悔を招くとラスティは目で語った。
そして彼は、追加で材料をキッチンに並べた。その量は、621が手に取ったものの三倍にあたる。
ちょっと、どうなんだろう?621は違和感に首を傾げた。しかし、今回のミッションの主役はラスティだ。彼の選択を信じるべきだと、口を閉じた。

「そしてこれだ」

再び冷蔵庫に手をかけたラスティの声に、一段と力が入る。間違いない、これが今回の主役なのだと621は胸を高鳴らせた。

「今朝取れた新鮮な肉だ」

チルド室から取り出されたトレーの上、その上でミールワームが蠢いていた。

「美味そうだろ?」

621は、とりあえず首を縦に振った。緑に近い曖昧な肌から、ぴぎぃとおおよそ生物とは思えない鳴き声を漏らす肉塊を、満面の笑みを浮かべて差し出してくる戦友。この事態をどう対処すればいいのかわからず、621は自動首振り機に徹する。

「そして隠し味だ。カレーといえば、リンゴとはちみつらしい」

ラスティの手には真っ赤な球体と、瓶に入った黄金の液体が光り輝いていた。隠していない隠し味とは?戦友が楽しそうなので突っ込まないでおく。

「では、切り分けていくとしよう。戦友は火を見ていてくれ」

ラスティは豪快に野菜を切り始めた。621にはリンゴとジャガイモの見分けがつかない。大きすぎる、修正が必要だ。しかしラスティはお構いなしにブロック状の野菜を鍋に積み上げて行った。
戦友がミッションに挑んでいる間、621は興味本位から各食材の値段を検索し、戦慄した。
二千。
四千。
八千。
大雑把な食材が鍋に落ちていくたびに、621の脳内には数字が積み上がっていった。
そして、はちみつが投下されると、一桁増えてしまった。

「あとは煮込むだけ。出来上がるのが楽しみだな」

そう言いながらラスティはカレールーを鍋に投下した。お湯が琥珀色に染まっていく様子が、膨大な素材の隙間からうかがえる。次第にキッチンに漂い始めた複雑で奥深いカレーの匂いが、621の不安を和らげていった。
緊張の糸が緩み、ぐぅと621の腹がかわいらしく鳴いた。

「もう少し待ってくれ、戦友」

料理を待ち侘びる戦友にラスティはウインクを投げた。そして、火を強火に切り替えた。
融け切っていないルーが火に包まれた鍋の中で踊る。脳裏に過る様子のおかしい黄色い影に不安をあおられながら、621は静かに完成の時を待ち続けた。

5分後、ついにカレーが完成した。大火に耐え、任務を遂行した大豊製圧力鍋に621は無言の敬礼を向けた。
いかにもそれっぽいお皿に盛りつけられたカレーの横に、氷点下の野外でキンキンに冷やしたビール缶をならべて完成だ。

「これも巡り合わせだ、ともに壁越えと行こうじゃないか」

君の作ったカレーは、「壁」と同様クラスのミッションなのか?
AM印のスプーンに掬い取られたカレーをまじまじと見つめる621。カレーの色は至って普通なのに、腕部積載超過と言わんばかりに指先の震えが止まらなかった。
しかし、目を輝かせて感想を欲する戦友の期待を裏切ることはできない。621は意を決し、カレーを口に運んだ。

「どうだ、戦友?味、薄くなかったか?」

ラスティの作ったカレーは、621の語彙で形容するのは困難だった。全体的にぼんやりと甘く、ゴロゴロを通り越して岩というべき食材が口をふさぐ。思い出したかのように辛みが顔をのぞかせるも、味わう前にこってりとしたナニカが舌を覆いつくした。この滑りは、ミールワームの体液だろうか?はたまた、ルーから溶け出した油なのだろうか?
脳内に浮かぶ断片的な情報から、621は「鼻腔をミールワームがよじ登った」と形容した。

「ユニークな言葉選びだな」

ラスティは独特な褒め言葉と受け取ったのか、朝焼けの空のような清々しい笑みを浮かべカレーを口に入れた。
今日はあいにくの曇りとなったが、幸いにも空腹という最大のスパイスは強かった。今一つであっても、食べられないことは無い。これもよい体験になったと二人は苦笑いを浮かべた。

しかし、最大の問題は別にあった。

量が、多い。その量はまさにDF-GN-08 SAN-TAI。まさに樹大。
我々に必要だったのは、AG-T-005 HOKUSHIだったのだ。

過剰すぎる。ビールで流し込むのにも限度というものがある。
621より胃の積載上限が高いラスティも、その精悍な顔つきから次第に光が失われていった。

「次からは、レシピを確認して、適切な量を作ろう」

時刻は深夜2時。 ラスティが息を切らしながら呟くと、621は力強く頷いたのであった。


なお、傭兵支援システムに調理のガイドを申請し、ガバチャーによって振り回されるのは別の話である。