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2025-09-27 23:19:42
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燭鶴「くだもの」

燭鶴版深夜の創作60分一本勝負 お題「くだもの」
果物を剥いてもらいたい鶴さんと、果物を食べさせてあげたい光忠くんの話です。うすらぼんやりとすけべなにおわせがあります。
光忠くんはたぶん果物のこと「フルーツ」て言いそう。

 太鼓鐘貞宗と一緒に審神者の膨大な量の書類整理を手伝っていた鶴丸は、お礼にフルーツ盛り合わせ籠から果物をいくつかもらえることになった。

「俺はこれにするとしよう」
 鶴丸が桃と梨のパックを選ぶのを、貞宗が不思議そうに見ている。
「鶴さんが剥く手間がかかる果物を選ぶのはめずらしいな。包丁を使うのが面倒じゃなくなったのかい?」
「はは、まぁ、そう、だな」
「そうかい、ま、ひと手間は愛情ってとこだよな!」
 鶴丸は曖昧に笑って誤魔化したのだが、貞宗はあまり気にしていないようだ。そのまま彼は皆と果物を分け合いたいからたくさんもらってもいいか審神者に尋ねに行ってしまった。

 その背を見送って、鶴丸は執務室をあとにした。普段は簡単に食べられるシャインマスカットやいちごを食べていることが多い鶴丸が桃と梨の二種を選んだのには理由がある。果物を傷めないように大事に両手に抱えて向かう先は厨だった。
 この時間の厨はだいたいいつも彼の貸切状態のはずだ。

  足音をなんとなく消して、厨の入口ののれんの隙間から中の様子を伺うと、やっぱり光忠が一人で何か作業を行っている。機嫌良く鼻唄を歌っていたので、鶴丸はしばらくそれに耳を傾けてみた。
 彼の即興のメロディにはいくつかのバリエーションがあるけれど、もうどれも鶴丸に移ってしまったので馴染み深いものばかりだ。最近は彼のメロディに鶴丸が勝手に歌詞を付けている。

……今のはかっこよく洗濯物を畳んじゃおうねの歌、だな」
「わ!鶴さん」
 背後から声をかけながら鶴丸がのれんをくぐると、光忠は驚いたように振り返って笑った。
「また僕の鼻唄に変なタイトル付けてる……
「ちなみに歌詞もあるぜ」
 鶴丸も笑いながら答えて、彼のそばに近づいていく。

「通りがかったらきみの鼻唄が聞こえたから立ち寄ったんだ」
「ふふ、本当に?僕がいるって分かってて鶴さんは今日も来たんじゃないかな?今日はどうしたの?お腹空いた?」
 光忠は愛されている自信に溢れた顔で言って、首を傾げた。
「はは、バレたか。今日はな、これを、光坊に――
 鶴丸は抱えていた袋の中身を見せた。

「わぁ、美味しそうなフルーツだね。えぇっと……、くれる、の?」
 彼が遠慮がちに訊きながらさらに首を傾げたので、鶴丸は続けた。
「あ、いや、そうではなくてな、……いや!もちろんきみと一緒に食べようとは思っているんだが、その、剥いてもらえたら助かると思ったのさ」
「あぁ!そういうことだね。もちろんお安い御用だけど、ちょっとこの作業が終わってからでもいいかな?」

 光忠が手元を示しながら微笑んだ。何をしているのかと思っていたが、どうやらコンロを磨いているようだ。
「あ、でも、鶴さん、このあいだ上手に桃も剥いてたから、先に剥いて食べててもいいよ。作業が終わるの少し時間がかかっちゃいそうだから」
 鶴さんが全部食べちゃっていいし、と彼が軽やかにそんなことを言うので鶴丸は口をへの字にして首を振った。
「馬鹿、光坊、果物ってのは恋人に剥いてもらって一緒に食べるから美味いんだろうが。このあいだは確かに自分で剥いて食べてはみたが、食べられるはずの部分をたくさん無駄にした。どう考えてもきみが剥いたもののほうがずっと美味かった」
 だから、いいだろう?剥いてほしい、と鶴丸はちょっと身を屈めて上目遣いで光忠を窺った。彼がこうやってねだられるのが好きなことを鶴丸は知っている。

「またかわいい顔してる……。ふふ、鶴さんはおねだりが上手だね。うん、じゃあ、僕が剥いてあげるから、もうちょっとだけ待っててね。急いで終わらせるよ。えっと……、梨はうさぎさんに切るのがいい?」
 鶴丸はぱっと破顔して頷いた。
「俺は利口だからいくらでも待てるし、別に急がなくていいぜ」
 鶴丸は厨の片隅の脚立を椅子代わりにしてしばらく光忠の作業が終わるのを待つことにした。

 へへ、恋人か……、と彼が何やら呟いているのが聞こえる。恋仲になってそんなに初々しい時期ではないはずだけれど――いや、どうだろう、周囲にはっきりと恋仲になりました!とは宣言していない――、光忠は鶴丸から「恋人」のような言葉で自分を表現されるとかなり嬉しいらしい。かわいいやつ。

 働き者の彼の姿を眺めているうちに鶴丸は少しだけうとうとしてしまった。仕方ない、膨大な書類整理で目を酷使しすぎたのだ。
「ごめんね、お待たせ。……鶴さん、大丈夫?疲れてる?」
「ん?あぁ、いやいや、大丈夫だ」
 鶴丸が顔を上げると、一仕事終えたらしい光忠が、先ほどの果物たちを綺麗に皿に盛りつけて持ってきてくれたところだった。
 脚立の上で鶴丸は少しずれて、彼も腰掛けるかと訊いたのだが――頑張って詰めれば二人座れないこともなさそうな幅だ――、立ったままでいいと言う。なんだか侍らせているようになってしまった。それはともかく。

「お、かわいいうさぎさんじゃないか」
「ふふ、でしょう?鶴さんのリクエストだからとびきりかわいく切ったよ」
 かわいいから鶴さんみたいだね、と彼は満面の笑みで言う。光忠は彼がかわいいと感じるすべてのものから常に鶴丸を連想するところがある。そういう本人のほうがよっぽどかわいいと鶴丸は思うのだが。

「鶴さん、どれから食べたい?」
「そうだな……、やっぱりまずはうさぎにするか」
 鶴丸は光忠の持つ皿に手を伸ばしたのだが、それよりも早く彼の指先が梨のうさぎをフォークで刺して鶴丸の口元に運んだ。
「はい、あーん」
「おい、雛鳥じゃないんだぞ」
 素直に口を開けてもよかったのだが、少し照れがあって鶴丸は茶化した。
「恋人が剥いたほうが美味しいなら、さらに食べさせてもらうほうがもっと美味しいんじゃない?鶴さんがお利口に待っててくれたから、ご褒美」

 この色男の声で「お利口」とか「ご褒美」とかそういう言葉を口にされるとなんとなく“違う雰囲気”を帯びる気がしてどうも落ち着かない、と鶴丸は思ったのだが、あえて口にはしなかった。なんか、こう、こっちが下心があるみたいになりそうで。

 鶴丸は結局、促されたとおりに口を開いた。そこに梨を光忠が入れたので、半分くらいをかじる。鶴丸が咀嚼するのを彼はとてもいい笑顔で見つめて、おいしい?と尋ねた。
「ん、こりゃ美味い」
 鶴丸は咀嚼しながら一度頷いて、飲み込んでから応じた。やっぱり剥いてもらってよかった、自分で剥いて食べていたらここまで美味しくはならなかっただろう。光忠が微笑んでいる。
「よかった。ふふ、どれくらい美味しい?」

 彼は少し茶化した調子をしつつも、なんとなく鶴丸の答えを期待した様子でまた尋ねた。もうこちらの答えを予想できているというのに、光忠はこういう言わせたがりなところがときどきある。やれやれ、と鶴丸は呆れつつ(いや、微笑ましく思っているのかもしれない)、素直に言葉を重ねた。

「光坊の愛がこもっているから一等美味いぜ」
 鶴丸の返事を聞いて光忠はとても嬉しそうにニコニコとしている。
「僕もちょっと食べていいかな?」
「そりゃもちろん、きみと食べようと思って持ってきたんだからな」
「うん、ありがとう」

 彼は微笑んで自分の分をフォークで口元に運んでいる。鶴丸からも食べさせてあげようかと思って手を伸ばしてみたのだが、さっと皿を引かれてしまった。どうやら今日の光忠の気分は、食べさせてもらいたいというよりは食べさせてあげたいのほうが強いらしい。まぁ、それならそれで、存分に食べさせてもらうことにしよう。

「梨も桃もどっちも甘いね」
 光忠は自分も合間に食べつつ鶴丸に桃と梨を交互に差し出した。彼が食べるよりもこちらに差し出す回数のほうが多いので、鶴丸はずっと果物を食べている状態になった。なんとなく小動物になった気分である。
 そうこうして、最後の桃を食べさせてもらって咀嚼した。これはほかのものよりもとてもみずみずしいひときれだったので、口の中は果汁でいっぱいになった。
 飲み込んだタイミングで、光忠が鶴丸の唇を人差し指で感触を確かめるように触れてくる。

……?」
「ふふ、」
 彼はこちらの唇をやわらかく触りながら微笑んだ。

 おい、これは、これはさすがになんか“そういう雰囲気”だろう、こちらに下心があるとかではなく!と言いたくなったのだが、唇に指を置かれているのでなんとなく口を開くのがはばかられて――そうしたらそのまま指が中に入ってくるような気がした、いや、それはそれで別にやぶさかではないけれども場所が場所なので――、鶴丸は「どうした?」と意味を込めて首を傾げるにとどめた。

「ううん、なんでもない。今、鶴さんにキスしたら桃の味がするのかなって考えてた」
 唇から指先を離した光忠が爽やかに言う。
「いや、それはなんでもなくはないだろう」
 鶴丸が呆れたように返したら、彼は困ったように笑った。
「ふふ、そうかも。だって、僕の手からフルーツ食べてる鶴さんがかわいかったから」
「年上を掴まえて毎度かわいいって言うのもどうなんだ」
「そう?鶴さんはいつもかわいいよ」

 光忠の手が再び鶴丸の方へ伸びてきて、その指先は頬を撫でた。やわらかな革の手袋はほとんど彼の肌そのもので、体温のあたたかささえ感じる。
「だから、キスしてもいい?」

 言わずともすればいいのに、と鶴丸は思ったけれど、同時に、確認を取る彼の誠実さを好ましいとも思った。まぁ、口付けるくらいなら、この場所でもいいだろう。外に人の気配はないし。
 鶴丸は言葉で返事をする代わりに光忠を見上げるように顔を上げて――これは果物を食べさせてもらうときの姿勢と同じだった――、そっと目を閉じた。唇はすぐに重ねられる。

 光忠の唇はしっとりとやわらかい。こういう食感の果物があるなら食べてみたい、と鶴丸はぼんやり思った。美味しそうだ。

 数秒、静かに触れ合ってから、彼の舌がぺろりと鶴丸の唇を舐める。先を期待して鶴丸はそっと口を開いたのだが、光忠はすっと離れていった。
……??」
「うん、やっぱり今の鶴さんは桃の味がするね」
 拍子抜けしている鶴丸とは対照的に光忠は満足そうである。やや物足りなさがあり、じっと彼の唇を見ていたら気づかれたらしい。こちらの唇の前に光忠が人差し指を立てた。

「足りなかった?ふふ、ここでは味見だけ」
……!?いや、そういう、……
 鶴丸は自分はそんなに物欲しそうな顔をしてはいないはずだ、と言い訳しようとしたが、まぁ、先を期待したのは事実であり……
「僕ってフルーツは熟すまで待つタイプなんだ。だから、鶴さんが食べ頃になったら全部頂こうかな」
「はは……、要は、あとでってことな」

 鶴丸は相変わらず伊達男らしく気障な言い回しをする彼を見上げながら肩をすくめて言った。焦らしているのだ、こちらを。まんまと期待させられているが、させられっぱなしとはいかない。
 鶴丸は素早く立ち上がって、光忠のシャツの胸元をこちら側へ引っ張って身をかがませた。近づいた耳元に口を寄せる。

「いいか、きみの果物は夜には完熟だ。お腹を空かせておくといい」
 挑発の言葉を囁いて、ちら、と光忠の表情をうかがったら、彼の金の瞳に照れの色が浮かんでいて鶴丸はしてやったり、と思った。
「あはは……、鶴さんには敵わないね」
 光忠は困ったように笑って言って、何かをごまかすように右手で自身の頬を軽く叩いている。

「じゃ、じゃあ、僕は片付けとかするから、また、その――、夜に、」
 光忠が慌ただしくそう言いながらシンクの方へ去っていく。その姿を見ながら、自分よりもよっぽど彼のほうがかわいいと思うのだが、と鶴丸は思う。
「あぁ、夜に。楽しみにしてるぜ」

 鶴丸はあくまで余裕な顔で光忠の背中に手を振って厨を去ったが、自分自身もまた、期待で甘くなりはじめていた。