翼獅子に誘われるがままに動画投稿者になってから早数年、今では安定した人気を得て順調な暮らしを過ごしていた。名言はしていないが、翼獅子と顔を出すようになって、世間からは双子として人気を博しているらしい。
「双子はいいぞ、いつの世でも神秘性があって題材にされやすい」
そう画面に向かう翼獅子は増えていく数字にいたく上機嫌だった。
この日も翼獅子に『踊ってみた動画を撮る』と言われて動画撮影に臨んだ。二人きりのダンスで、ダンスだから仕方ないと思うが妙に距離が近い。つい腰が引けて距離を開けようとすると翼獅子からのダメ出しが飛んでくる。
「もっと近づいて、私の顎を撫でるときは手慣れてふうに撫でなさい。お前はまったく、どうしてカメラが回るとこんなに下手になるんだ」
「そんなこと言われても」
「ああ、いい、いい。言い訳はいい。とにかくやりなさい。お前はこういうことは数をこなすしか上達しないから」
ふう、とため息とともに吐かれた呆れた声に、ムッとしてしまう。
「あとはどうしたら良いか……そうだ。ライオス、私を食べたときのことを思い出しながら踊りなさい」
「お前を食べたときって」
「悪魔のころの私を食べさせてやったときのことだよ。まさかもう忘れたのか?人間の頭はすぐ物事を忘れてしまうな」
「ううん、覚えてはいる……気がする」
「なんだ、ならやってみなさい。ここからまた始めるから」
翼獅子はそう言って俺の手を取り、顎を撫でさせる体制をとる。今回のダンスは俺から翼獅子に触れる振付が多いものだった。
「私の肉を食べなさい」
無防備に喉をさらけ出して微笑む翼獅子に、知らず知らずのうちに喉が鳴った。唾を飲み込む音が、やけに響く。
「そうだ、良いぞライオス。私を食べたときのことを思い出しながら、私の目を見なさい」
なぜいつも通りに踊っているだけなのにこんなにも胸がざわつくのだろう。
「私はどんな味だった?欲望の味でもいい、あんなに美味いものは二度と食べられないだろうからな」
いちいち昔のことを思い出させる言葉を投げかけられるからだろうか。
「二度と食べられない美味を求める、そう、それだ。その餓えた眼を忘れないでくれ」
猫のように歪んだ瞳は、瞳孔の形も歪んで見える。まるで悪魔だった頃のような、人にはあり得ない光を反射していた。
「なんだ、やればできるじゃないか」
ふと気づけば曲はいつの間にか止まっていて、何度も同じダンスを繰り返したからか、俺も翼獅子もうっすら汗をかいていた。わずかに紅潮した翼獅子の顔が扇情的に見えて、思わず目をそらす。同じ顔だというに、自分はナルシストの気質でもあったのだろうか。
「……ライオス?」
せっかく目をそらしたのに、翼獅子が目ざとく近づいてきてわざわざ顔を覗き込んでくる。ニヤついた顔は同じ顔でも、いや、同じ顔だからこそ苛立たしい表情だった。自分なら絶対こんな顔はしない。
「色っぽい私の顔をみて興奮してしまったかな?」
「同じ顔なんだからそんな訳ないだろ」
「同じ顔、同じ顔ねえ」
にやにや、にまにま、翼獅子は妙に機嫌よくその場でくるくると回りだす。
「そうだね、私とお前は同じ顔だ。そして私はお前の表情を真似することができる」
翼獅子はまだくるくると回っている。どれだけ回転しても目を回すことはないそうで、フィギュアスケーターでもできそうな動きだ。その動きが急に止まって、またこちらに顔を近づけてくる。その距離の詰め方に思わず一歩退いた。
「それでは先ほどのやけに色っぽい顔は誰の真似だと思う?」
「な、」
ついさっき言ったばかりの前置きと、今の言葉からさすがに婉曲表現や比喩に疎い俺でも分からされた。翼獅子のやたら扇情的な表情は、自分の真似だと言っているのだ。
「全然似てない」
「私はライオスの真似だとは一言も言ってはいないけれど。そうかそうか、お前はこの動画にはとても出せない顔が自分の顔だと思った訳か」
「出せない自覚があるならやめればいいのに」
「私のほうは自覚があるから良いんだ。まったく、私につられてしまうのは分かるが、お前も大概な顔をしているぞ」
翼獅子の指摘に慌てて顔をこする。そんな顔をしているつもりはなかったけれど、踊っているうちに翼獅子の従順な仕草や表情に煽られていたのは確かだったからだ。
「ライオス」
先ほどとは反対に、翼獅子に顎をとられて喉を撫でられる。思わずきゅう、と喉が動いてしまった。
「そんな切なそうな顔で見るものではないよ。まったく、今回は練習風景も動画にしようと思っていたのに。これでは全て没だな」
翼獅子の顔が、ゆっくりと近づいてくるのに振り払えない。あの頃のように悠然と差し出されたそれに、思わずかじりつくようにキスをした。
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