おれの頭はずっと戦争状態だ。頭の中でどっかんどっかん煩くて、そうかと思えばみんな死んじまったみたいに静かだ。それは音だけじゃなくて、目で見ている筈のものも、本当に目の前に在るのかどうか、なんなのか、さっぱりわからない。
つまり何が現実で何がおれの恐怖なのか、おれ自身が判断しなきゃならない。
だからおまえもおれの恐怖でしかない、そうだろう。
「さあ。どうでしょうね。」
はは。しかし、おまえみたいな人格を妄想するなんて、自分でも意外だな。何せおまえのような男には、会った記憶もない。
「そういうこともありますよ。」
「……不思議だな。おまえと話して居ると、頭の中が静かな気がする。」
「おや、それは可笑しいですね。わたしはおまえの頭の中の存在の筈でしょう?でしたら静かとは言えないのでは?ほら、わたしはこんなにお喋りだ。」
「はは。そうだな、益々意外な展開だ。」
「……ところで。おまえは今、夜中に薄着で出歩いて居る状態です。お家に帰って暖かくして、大人しく眠ったほうがよろしいかと。」
そう言えば、少し寒さを感じる。素足が煉瓦でも踏んでいるかのような感触もある。これは確かに、着の身着のまま家を飛び出して夜な夜な街を彷徨っている可能性がある。
という夢かもしれない。
「夢か幻か、その真偽が重要な場合もあるのですね。」
「ああそうだな。夢ならこの場を動かずとも、朝になれば動いていないことになる。」
「……もし夢なら、動かなくとも同じなら。それは動いても構わない、ということでもあるのでは。」
「はは、確かにな。」
幻覚と話してこんなふうに愉快な気分になったのは初めてかもしれない。夢の可能性もあるわけだが。
「つまりそれは、おまえがおれに付き添ってくれるってことか?」
「……まあ良いでしょう。」
あは、そんな面倒くさそうな顔をするなよ。
いや、おまえ、顔が。
「いや、夢幻で顔がどうとか言ってもな。」
「……この際おまえの性格には、こちらも口を出さないことにしますよ。」
審美眼でも有るのか、外見への無関心に不服そうだな。兎に角おまえがおれに譲ってくれたことへの感謝を覚えておくよ。
「それは可笑しいのでは?夢幻に感謝など。」
「いやいや、例え夢幻でも、自分が抱いた感情は本当なのだから、それを大事にしたって良い筈だ。」
どうした、急に黙り込んで。
「……なんでもありません。好きにしなさい、もう。」
何か誤魔化してないか。
「そんなわけないでしょう。ああ、ほら。もう。着きましたよ、ここでしょう。」
確かにおれが今塒に使っている事務所だ。
「どうしてここが分かるのかなんて、野暮なこと聞かないでくださいよ。」
「当然だろう。おれの夢幻なのだから。」
「……つまらない答えだ。」
ああ、もう行くのか。
霧のように消えるのかと思えば、最後迄面倒見の良い夢幻だったな。
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