土曜日の夕暮れ、少し壊れ気味のせいで間延びしたピンポーンという音が響く。鮭大根を煮ていた火を止めて玄関ドアを開ければ、そこには予想通りの人物が立っていた。
「いらっしゃい」
「お邪魔する」
合鍵は渡してあるし、自由に出入りして良いと言ってあるというのに冨岡は毎回律儀にインターホンを押す。そして俺も律儀に玄関まで出迎える。
最初は面倒くさい気持ちもあったが、冨岡が毎回インターホンを押すから俺も同じように出迎えてやるようになったのだ。要するに俺が折れた。
「良い匂いがする」
「おう。良い感じに煮えてるから早く手を洗ってこい」
冨岡は普段は表情筋が死んでるくせに俺のうちに来る時はいつも笑っている。更に好物の鮭大根を煮てる日は更にスキップでもしそうな勢いだ。
俺はいつもその後ろ姿を見ながら笑いと喜びを噛み殺す。きっとあいつは自分がどれほどはしゃいでいるのか分かっていないだろうから、これはこっそりひっそり俺だけの楽しみなので。
大体、鮭大根も難しくないとはいえ、たびたび作るのもあの嬉しそうな顔や態度を見たいからだ。味付けも毎回研究してその時が一番美味しくて冨岡の好みに合うように作ってる。俺は偉すぎる。
頬を緩めたままキッチンへ戻ってきた冨岡は、俺が何も言わなくても箸やお茶の支度をするようになったのでご褒美とばかりに頭を撫でてやる。これは一度やって以来真顔で毎回リクエストされるようになったのだが少し困りものだ。
やってやるけど。だってなァ、やっぱり好きな奴の嬉しそうな顔は俺も嬉しいから。
いただきますをするとすぐ、綺麗な箸使いで鮭大根が冨岡の口の中へと消えていく。俺は食べずに黙ってその光景を見つめる。
冨岡の目が弧を描いて柔らかく緩んでそして。
「美味い」
と笑う。それが一番俺の見たかった顔だから、俺も笑う。多分、というかきっと俺も冨岡と同じような表情をしているに違いない。
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