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燈 ともしび
2025-09-27 18:59:20
2768文字
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ぎゆさね版ドロライお題:【タイムリミット】
お題をお借りして書きました。現役時代設定。さねさん視点。
だからアイツのことは気に入らない。
「不死川が好きだ」
なんて、唐突に言われて。
それなのに
「返事はいらない。そういうのではない」
なんて言われた俺の身になってみろ。
じゃァどういうんだよって聞きたくなるだろうが。聞かなかったが。
冨岡は話すべきことも話さねえし、俺はお前たちとは違うってお高くとまって輪に入る努力もしない。それなのにたまに口を開けばこちらが苛つくような余計な一言を言ったりする。
いくら同じ鬼殺隊の柱とはいえ、そんなやつと仲良くしようなんて思えるはずがない。だから当たり前にこちらから話しかけることも歩み寄ることもしなかった。周りからは険悪に見えていただろう。実際、俺から見た冨岡との関係は最悪でしかなかった。
ただ、以前目にした奴の剣技だけは素直にすごいと思う。ひたすらに攻撃に徹する俺の風の呼吸とは違う、柔らかくしなやかな冨岡の水の呼吸は思わず見惚れてしまうほどだった。だからこそ惜しい、とも思った。
まァ、柱は忙しいから他の柱と組んでの任務なんてほとんどないので、俺が冨岡の剣技を見る機会も今ではないのだけれど。
なんて考えていたら言霊が宿ってしまったらしい。今夜から俺と冨岡で少し遠くの山まで任務に行くことになってしまったのだ。よりによって冨岡とかよォと恨んだ気持ちになったが、任務内容を聞けば、もう隊士が何人も行方不明になっているらしい。しかも強い鬼がいるらしく柱二人で早々に片をつけろと指令が下ったとなれば行かざるを得ない。こうなれば指令通りさっさと鬼を切って帰ってくるのが得策だろう。諦めるより他ない。
昼過ぎ、重い腰を上げ冨岡の屋敷に向かえば、相変わらず精巧な人形のように無表情な家主に出迎えられた。
黙っていればお綺麗な面してるんだよな、コイツ。口を開けば苛つくが。まァいい。任務に余計な私語は不要だ。さっさと行って鬼を切る。それだけだ。そう思いとっとと歩き始めると、後ろから突然話しかけられた。
「不死川」
「アんだよ」
「好きだ」
「ア?」
はァ? なんだ? 今、冨岡の野郎は何を言った?
自分でも耳は良いし頭の回転は悪くないと思っているが、今の不意打ち発言は頭が拒否したのか意味のある言葉として聞こえてこなかった。
ギギギ、と油の切れたからくり人形のように後ろを振り返れば、冨岡はすん、とした顔をしている。そして俺が何も言えずにいると続けて
「返事はいらない。そういうのではない」
なんて言う。
ああ、そうかよ。なら俺も聞かなかった事にしてやらァ。意味が分からないが冨岡の態度も言動も不快でそういう事にしておくことにした。好きだのなんだの、意味のわからないものに構ってる暇はない。今はまず柱としての任務だ。また前を向き、今度は一度も後ろは振り返らないで駆け出す。
不快とは違う、なんだかもやもやしたものが心に棘のように刺さっていたが、それには見ないふりをした。
その後は互いに無言のまま任務先に着き、怪我をしつつも生き残っている隊士から話を聞く。まだ姿をはっきりとは現さないが鬼は二匹おり、粘液のような血気術を使い双方から素早い攻撃をしかけてくるらしい。隊士たちはその粘液でどこかへ連れ攫われたり剣を奪われて攻撃をされてしまったと。この隊士は粘液で持ち上げられてしまったものの、運良く大木に引っかかって難を逃れられたらしい。肋骨と右腕が折れているがそれくらいで済んでいるのなら幸運だったろう。命を落として亡骸で見つかった隊士もいるのだ。
少し厄介そうではあるが、今夜早々に決着をつけてやらァ。苛ついた気持ちをすっきりとさせるのにも丁度良い。瀕死の隊士を隠に任せ、冨岡と二人で鬼の棲家である山を登る。
気配で柱が来たことを察したのか、鬼は隠れることをやめ一斉にこちらに向かって攻撃をしかけてきたが、冨岡が水の呼吸で粘液を止め、その隙に俺が風の呼吸で斬撃を打ち込むと面白いくらいに鬼の攻勢が弱くなっていった。攻を得意とする俺と守を得意とする冨岡ではこの鬼に対してとても相性が良かった。人間としていけすかない奴ではあっても冨岡は柱だ。言葉を交わさずともこちらの真意を読んで動いてくれるのでやりやすい。隊士との任務でいつも感じる苛つきが今は全く無い。そして冨岡の剣技は以前よりも流麗で力強さも加わっており、共闘していても非常に心地が良かった。それは冨岡に対して初めて感じた感情だったと思う。
最後はほぼ同時に一匹ずつ鬼の首を切り落とすと山から鬼の気配が消えた。任務完了だった。
「冨岡ァ」
「
……
」
返事くらいしろやァ、おい。
そういうところだよ。
汚れを払った剣をしまい、周囲に俺たち以外気配がないのを承知の上で冨岡を呼ぶ。聞こえているのかいないのか、黙ったままの奴からは分からない。
「さっきのあれ、どういう意味だ」
「
……
意味とは」
「てめえが言ったんだろ。俺のことが好きだって」
「
……
そのままの意味だが」
噛み合わねえなァ。続けるけど。冨岡と会話が合わないのは今更だし。
「好きってどんな意味だって聞いてんだよ」
「
……
それは」
黙り込んだ冨岡はまた無表情ですん、としているのかと思ったのに、逸らしていた視線を向けたら想像とは違っていた。
目元をうっすらと赤く染め、わずかに唇を噛み締めて立つ冨岡がいた。立つ、というより、立ち尽くしている。どうしたら良いのかわからない。その姿はそんな幼な子のように見えた。
「理由なんて俺にも分からない。でも、好きだ。ただ不死川が好きなんだ。そのままだ」
さっきの唐突な告白は全く頭に入ってこなかったのに、声を震わせて弱々しく告げられた今の言葉は不思議と真っ直ぐに心に落ちてきて。自分では分からないが、気付いたら勝手に身体が動いていた。
立ち尽くす冨岡の顔ギリギリまで近寄って立つ。いきなり俺が寄ってきたので奴は一瞬目をまん丸にしたけれど、俺は気にせず更に顔を寄せる。
「なァ」
「
……
」
「俺は好きとかそんなんは分からねえけどよ、冨岡の剣技はすげえ綺麗だと思うぜ」
側で見ると余計に思う。こいつは本当に綺麗な顔をしてる。目も透き通って青く、小さい頃に見た綺麗な硝子玉のように
……
吸い込まれそうな。
だから、そのまま動かなかった。
驚きから復活した冨岡が俺の後頭部に手を添えて、少し躊躇った後に唇が重なってきたけれど、俺は奴の目を見つめたまま動かなかった。動けなかったんじゃなくて、自分の意思で動かなかった。
二度、三度と唇が重なるたびにさっき感じたもやもやが消えていったから、俺はそこでようやく目を閉じる。
恋に落ちるのに時間は関係ないのだと初めて知った。
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