いまち
2025-09-27 15:12:45
2896文字
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オオカミくんとヒヨコちゃんともふもふと

ほのぼの

 人になにかをお願いする時ってとっても緊張しちゃう。それが自分のためのこととなるとなおさらだ。緊張してお願いするのを迷うくらいなら、我慢とかすればいいんだと思う。けど、私もたいがい欲張りなものだから思いきってお願いしちゃおう! なんて、思っちゃったわけだ。

 そんなわけで、授業が終わってからB組の教室に向かった。タイミングがよかったようで、こっちも授業が終わったばかりみたい。中にいた子たちがお喋りをしながら出てくるのが見えた。
 これは、遅れないようにしないとかも。教室から出てくる子たちに目を配りながら分かりやすい頭を探した。背はおっきいし、特徴的な耳があるからいればすぐに分かるはず。
 けど、見当たらないからまだ教室にいるのかな? ちょっとだけほっとして、B組の教室に入った。
「失礼しまーす……
 一応声をかけて入ると、教室にいた子たちは一斉に私を見た……気がする。私だって自分たちの教室によそのクラスの人が入ってくれば「誰だろ? なにしに来たんだろ?」って見ちゃうから、それと同じやつのはず。だから気にする必要はないんだけど、分かっていても人目を浴びると緊張しちゃうというもの。
 よそのおうちにお邪魔した時のような落ち着かない気分で教室を見回すとその子……ジャックくんはいた。隣の席の子とお話をしているみたいで、私には目もくれてない。
 見向きもされないことにちょっとだけほっとしつつ机に近付くと、声をかけるより先にジャックくんは耳をピクッと震わせて私に向いた。
「なんだ。俺に用か?」
 ジャックくんの態度は普通そのものでイヤそうな雰囲気をまるで感じないあたり、この前ひどいメに遭わせたことはあの時の言葉の通りほんとに気にしてないのかも。そう思えたことにちょっとだけほっとした。
「あ、うん。えとね、ジャックくんにお願いしたいことあるの」
「お願い?」
「うん。急ぎじゃないから、時間がある時でいいんだけど」
「なんだ。言ってみろ」
「うぇっ!? えっと……
 聞いてくれる気はあるみたいでよかった。けど、ここで言っていいのかな? 後ろめたいことじゃないはずだけど、他の人の目、というか耳があると思うとちょっと言いづらいかも。
「えと、そのぅ……うー……
……。言い辛いならこそっと言ってみろ」
「うっ?」
 迷っていると、ジャックくんは呆れたような顔をしながら私におっきなお耳を向けてきた。てっきり「はっきり言え」って怒られるかも、って気がしてたものだからちょっと意外に思っちゃった。とはいえ、気を遣ってくれたからありがたくふさふさのお耳に耳打ちをした。
「えとね……

 そんなわけで、ヘンな顔をしながらも私のお願いを聞いてくれたジャックくんと中庭の物陰にやってきた。
「ジャックくん。聞いてくれてありがとー」
「構わねぇ。……さっさと済ませろ」
 ちょぴっとむすっとした顔でジャックくんは私に背中を向けて座り込んだ。
「あ、うん。じゃあ、シツレイシマス……
 ジャックくんも用事があるだろうし、さっさと済ませた方がいいのかも。私もその後ろに座って、ジャックくんの……ふさふさした尻尾に触った。
「わぁ……!!」
 見るからにふわっとしてる尻尾は見た目よりずっと柔らかい毛に覆われていた。先に向かって毛が固くなってる感じはするけど、それでも私の髪と比べればずっと柔らかい。ふわふわのふかふかですべすべでずっと触っていたい感触に病みつきになっちゃいそう。できればぎゅーっと抱き締めたいとこだけど、さすがにそれはマズいと思って我慢した。
「えと、痛くない?」
「あぁ」
「よかったぁ。ね、ね、お耳も触っていい?」
「はァ!?」
 ついでにとお願いするとジャックくんはそれはそれはイヤそうに顔をしかめてしまった。そんな顔をするのは当然かも。耳って人間でも繊細な器官だもん。触られたらやたらくすぐったいし傷にもなりやすい。人間よりよっぽど繊細だろうお耳を持ってるジャックくんが嫌がるのも無理はない。
 けど、私の触りたいって気持ちも負けるわけにはいかなかった。なんせ、お耳の毛並みもすっごくいいんだもの。尻尾のようなふかふか感はないものの、すべすべしてそうな感じがものすごーくしている。
「毛並みだけ! 毛並みに沿って撫でるだけだから。ね?」
……撫でるだけだからな」
 だからどうしても触りたくて頼み込んでみると、ジャックくんはものすごーく渋るような顔をしてピンと立っているお耳をぺたんと寝かせた。オオカミなんだから人より耳が動くのは当然なんだけど、こうも自在に動かせるのって不思議な感じがしちゃう。
 面白いなーなんて思いつつ、お許しをもらったとこで滑らかな毛の流れに沿ってそうっと撫でた。こっちはこっちでつるつるのすべすべ、思った通り、尻尾とはまた違う触り心地の良さだった。欲を言えばお耳の中の柔らかそうな毛も触ってみたいけど、さすがにそんなところまで触られたらジャックくんもイヤだよね。我慢しとこ。
「っ」
それはそれとして、滑らかな毛もさることながら、お耳自体もぷにぷにしてて触り心地が面白い。まっすぐ立ってるから固いのかなーって思ってたけどそんなことは全然なかった。
……おい、やめろ」
「あ、ごめん。あの、ありがとね!」
「ふん」
 さすがに触りすぎちゃったみたい。ジャックくんから唸るような声で止められてしまった。そりゃそうだ、耳をベタベタ触られたらくすぐったいもんね。ちょっと名残惜しい気はするけど、耳を触るのはこのくらいにして最後に一回だけ尻尾をふかふかさせてもらった。
 触る手を止めると、ジャックくんはやれやれといった様子で顔を向けてきた。
「気は済んだか?」
「うん。触らせてくれてありがと」
「おう」
「えへへ、生きてるオオカミに触れるなんて思わなかった。ほんと、ありがとね?」
 ウォルフの尻尾もふさふさはしてたけど、やっつけた後だとどうしてもコゲてたり汚れてたりするから触り心地はいまいちだったんだもん。こうやってちゃんとした状態のを触れてほんとに嬉しい。改めてお礼を言うと、ジャックくんはマズいものでも食べたようなしぶーい顔をしてしまった。
……そうかよ」
「うん。このお礼は絶対するねぇ」
「別にいい。じゃあな」
「あ、うん。また明日ねぇ」
 それだけ言ってジャックくんは渋い顔のまま立ち上がると、お尻にくっついた葉っぱをはたいて中庭から出て行ってしまった。
 やっぱり、尻尾とかはあまり触っていいところじゃないのかも。それでも触らせてくれるんだからジャックくんは優しい子なんだなぁ。ってちょっと思っちゃった。ジャックくんはああ言ったけど、お礼とお詫びに明日はおべんととか作ろうかな? ジャックくんはおっきいからいっぱい食べるだろうし、作り甲斐がありそうでちょっとわくわくしちゃう。
 どういうお料理がいいかな? やっぱりお肉をいっぱい使うのがいいのかな? 考えながらお料理の本を探すため、図書室に向かうことにした。