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asahito
2025-09-27 09:27:48
7006文字
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snakebite④
前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒
https://www.pixiv.net/novel/series/7583585
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。
阿梨夜さんとユイマンが住んでるのはマンションな気がする。阿梨夜さんは色々あって実家とほぼ絶縁だろうけど。
マンションのエントランスを通る際、管理人室の灯はもう暗くなっていて窓が閉められていた。
共同区域なら管理人が掃除や管理をしてくれているが、日中しかいないのでもう近くの家に帰っているのだろう。
ロックを解除し郵便受けのある場所に行き、郵便物の確認をする。入っているのは近所の施設のオープンのチラシや、デリバリーのチラシ。
後は胡散臭い出張買取のチラシでそれほど重要そうなものはなかった。
請求書や公共料金の使用量の伝票はまだ来る時期ではなかったと思うけど、今月は物凄く暑かったから電気代と水道料金が怖い。
しかもこの暑さ、まだしばらく続くというんだから。平熱が高めだから暑さに割と耐えられると言っても、限度というものがある。
しかも湿気と暑さは展示物を保護する際ものすごい天敵になる。本当、最近の気象はおかしすぎて何か異変でも起きてるのだろうか。
「阿梨夜、また本買ったの?」
宅配ボックスの方を見てくれていた彼女が呆れたように茶色の包装を抱えている。見てないうちに受け取ろうと思ってたのに、思ったよりも早く届いてしまったようだ。
しかも結構な分厚い本を買ってしまったので、それも失敗だった。
「
……
その、論文書くときに必要な本だから」
二冊買ったうちの一冊は論文用なんだけど。もう一つは古い書籍が復刊したということで思わず買ってしまった完全に趣味の本。
私の本好きには彼女も若干辟易しているのは知っているので。本を増やさないようにとは思ってるんだけど、気づくと勝手に増えているのだ。
「前の本もそう言ってたじゃない。机の上に放置したままみたいだけど」
「明日の休み使って読むよ」
好きで本を積んでいる訳ではない。読もうと思うのに時間がないのだ。ちゃんと消化は少しずつしているし、本棚だって整理は定期的にしているのだから。
許してほしいものだが、彼女の言い分はもっともなのだ。
彼女の部屋の本棚はAIやIT関連の書物と、アウトドアや山登り、狩猟に関する本が多くても私の本棚よりかは随分と冊数は少ないのだから。一般人の本棚は多分、あれくらいなのだろう。
ユイマンのお小言はそれほど続くことはなく。何度言っても改められず増殖する本については、もう諦めているようだ。
結婚する前から私が本ばかり読むというのは知っていたし。ギャンブルにのめりこんだりする趣味に比べれば可愛いものだと、思っているのだろう。
「あっつ
……
」
私よりも平熱が低いせいか暑さに弱めな彼女が汗を拭う。夜だからまだ昼間よりかはマシだけど、一日中建物の中で仕事をしている分暑さに慣れていないようだ。
機械が設置されているビルというのは、機械熱を和らげるために冷房を強めにすると彼女から教えて貰ったことがあり。
そのせいで夏でも羽織るものやひざ掛けを使って仕事をしている人も多いらしい。座り仕事であまり歩かないから、血流も何だか悪くなりそう。
ユイマンは休みの日はあちこち動き回ったりしてるので大丈夫だと思うけど。明日からの休みは連休になるし、ふたりでどこか大きな公園でも行ってみようか。
公園のベンチやカフェでコーヒー片手に読む本というのも、なかなか心地よいものである。
「ごはんより先にシャワー浴びた方がいいかもね」
「え、ご飯が絶対先がいい」
玄関の鍵を開けてドアを開ける。真っ暗な部屋は少しむっとした空気が流れていた。点灯用の小さな灯を頼りにスイッチを押すと、玄関と廊下の電気が着いた。
鞄を各自の部屋に置いたら洗濯するものだけ洗面所に置いて。台所にすぐ向かわなければ。
私は少しあのバーでナッツや、やたら甘ったるいチョコレートを食べたのだが。おそらくユイマンは何も食べてないはずだ。
鞄から今日使ったハンカチを取り出し、ストッキングを脱ぐ。着替えてるとその分彼女を待たせるので、最低限脱いだら料理を始めてしまおう。エプロンさえすれば汚れも飛ぶことはない。
書斎の机に届いた本を乗せておいたが、絶対に休みの間に何冊かは読み終えよう。
私が居間に入ると、一足先に彼女は鞄や何やらを部屋に放って、居間の食卓用の椅子に腰かけていた。
せめて洗濯物は入れておきなさいよって言ってるから洗濯機の中には入れてるんでしょうけど。服のポケットの中に変なものがまた入ってたら怖いから後で見ておこう。
「新しい動画出てるかな」
向かい合わせのテーブルに頬杖を突きながら、テレビで動画チャンネルを起動し始めている。お気に入りの猟師の動画を見るつもりようだ。
「最近スーパーに行けてないから材料があまりないんだけど
……
何がいい?」
炊いておいたご飯は保温してあるからいいとして。何をメインにするかは彼女に聞いておきたい。トラブルがあったとしても、最短の時間で私に会えるように頑張ってくれたのだから食事で労ってあげないといけないだろう。
「鹿肉!うちの実家からのやつまだあるでしょ?」
「言うと思った」
疲れて元気を出したい時はきっとこれを望むだろうと。彼女の答えを聞く前には冷蔵庫から朝入れておいた鹿肉を取り出していた。
彼女の実家から届く冷凍の鹿肉や、野菜、味噌などの食料は共働きの私たちにはありがたい。
地主の家系らしく兄弟姉妹の多い彼女の実家からの為、段ボール山盛りに食料が送られてくるのは時折困ってしまうが。彼女が健啖家の為何とか消費できている。
彼女が実家に頼んで、足が早いものはあまり送らないようにしてくれているし。味噌が特産の地元なだけあって、スーパーの安いものよりも美味しい。
特に鹿肉は彼女の大好物のため。猟のシーズンが始まると、家族で捕ったという鹿肉が定期的に送られてくるので豚肉や鶏肉よりも鹿肉が我が家には多い。
「塩で焼く、でいい?」
「うん」
一日をかけてすっかり冷凍されていた鹿肉は解凍されていたので。そのまま包装を取り払って食べやすいサイズに切る。
彼女は何か手伝うことはあるかと聞いてくれたが、料理に関しては私がやってしまいたいので箸や食器だけ持って行くようにお願いした。
この前使い切れなかった野菜は、鹿肉と炒めればバランスがよくなるか。夕食には少し遅い時間だけど、彼女の胃袋は今は丈夫だからきっと食べきってくれる。
前はカフェインばかり取り過ぎて何も固形物を受け付けず。流動食みたいなものばかり深夜に掻き込んで、死んだように眠っていたというから。
その過去を知っているからこそ。今動画を見ながら楽しそうに笑っている彼女の横顔を眺めることが。凄く、胸にじんわりと来る。
「鹿狩りいいなあ
……
実家にある猟銃、触りたいし撃ちたい」
物騒なことを言いだすとは思うが。この辺りでは鹿は捕れないからと、私と一緒に暮らす時に猟銃を実家に預かってもらってることを気にしているようだ。
彼女の実家は猟師を兼任している親族も多く。狩猟が解禁になる冬のシーズンはかなりの頻度で山に入っているという。
やはり彼女は鹿狩りができるあの山を恋しく思うのだろうか。
彼女と暮らす前は狩猟の時期には一緒に実家に帰って、鹿が捕れたと私に嬉しそうに報告してくれたものね。
「銃のメンテナンスはお義父さんたちがやってくれてるんでしょう?」
「罠も銃もお父さん以外に、姉達にお願いしてるから大丈夫だと思うけど
……
やっぱり私が狩りたいの」
ハンターが雪山で鹿を狩っている動画を眺めて、懐かしい思い出に浸っているのだろうか。
今は狩猟のシーズン外なのであの山に行っても狩りはできないだろうけど、彼女の故郷の山は夏が終われば紅葉で彩られていく。
大きな湖も抱えるその雄大な山々を彼女と一緒に眺めるのも、良いかもしれない。
肉を包丁で食べやすい大きさに切った後。もう一度包丁を洗剤で洗ってから、野菜を今度は切り分ける。
彼女が心配で身に着けた料理の技術も、もうかなり板についてきたものだ。
「年末は一緒に阿梨夜も帰りましょうよ。鹿鍋とかみんなで食べたら楽しいし」
かつて挨拶に行った彼女の実家から、この家は自分の実家だと思ってくれてよいとありがたいことを言われたけど。
歓迎の宴会でしこたま彼女の親族から酒を飲まされ。緊張のあまり悪癖の泣き上戸が発動しなかったのは、未だに幸か不幸かわからない。
「
……
そうね。ちょっとお酒は控えてもらいたいけど」
それでも実家があんなに温かい場所だと思えたことはなかったから。
もう帰ることはないと決めている私の実家に強制的に戻されるくらいなら、私は彼女の手を取って彼女の実家に逃げるだろう。
「姉の子供とかも会えるの楽しみにしてるって言ってる」
メッセージアプリに実家のチャットを持っている彼女は、家族の誰かとメッセージのやり取りをしているようだ。
「正直子供と遊ぶの、苦手なんだけど
……
」
「それでも阿梨夜は遊んでくれるじゃない」
切った肉と野菜を油を引いて炒め。焼き色がついてきて柔らかくなってきたらシンプルに塩と胡椒で味をつける。
無駄な脂がない分さっぱりと食べられる鹿肉は。最初は食べたことがなくて敬遠していたけど、今は私も好きな肉の一つだ。
なかなかこの辺りでは売ってないし、専門店に行かないと食べられないのが残念だけど。定期的に手に入るならまだよいか。
「いい匂い」
後は簡単に味噌汁でも作ろうかと冷蔵庫から彼女の実家の味噌を取り出していると、台所にいつの間にか彼女がやってきていた。
つまみ食いでもしに来たのかと思ったけど。単に好物の料理の匂いにつられて様子を見に来たらしい。
「もうすぐできるからね」
つまみ食いはお行儀が悪いから良くないんだけど、お腹も空いているだろうし少しなら許してあげよう。
そう思って冷蔵庫の扉を閉めると、ユイマンは口元に笑みを浮かべながら私の顔を覗き込んできた。
「
……
」
「どうしたの?」
つまみ食いしたいなら食べていいわよ、と答えるけど。彼女は何も言わず私の頬に手を添えた。
少し驚いたけど彼女の触れたがりはもう知っているので、あまり動じることがなかったのは過ごした時間のお陰だろうか。
「んー
……
ただ嬉しいなって、思ったの」
それがどういう意味なのかは分からなかったけど。彼女の嬉しいという気持ちは、多分私の嬉しいという気持ちと同じだろう。
「
……
ごはん、沢山食べてね。私は少し食べて来たからそんな食べられないよ」
「やった」
彼女が私の作った料理を温かいまま食べてくれる。冷めてしまうのをただ見ていることは、辛いから。
特に今日は特別な日だから。本当は私があのバーで飲む前に食事をするための少し格式の高いお店だって考えていた。
だけど、彼女がトラブルに巻き込まれてしまったから。
独りで格式の高いお店に行くことなんて寂しすぎる分、せめて独りで入っても大丈夫そうなあのバーに行くことを私は選んだのであった。
あの店主は私に初めてか、としか聞いてこなかったけど。こういった事情があることを話したら何かもっと違う態度を取ったのだろうか。
一瞬だけ私の左手の薬指に注目していたことは、実は気づいていた。ユイマンの事も見たのだから揃いの指輪で私たちの関係を理解したかもしれない。
何せ遠い血縁の親戚から、あのお店ならよいお酒が飲めますよと鉱石以外の話題で連絡が来たくらいの店なのだから。
食事を済ませて少し経ったら、後はもうやることは決まっており自然とお風呂に入ることになった。
順番でいいじゃないと私は言ったのだけど。今日は一緒に入りましょうとユイマンがごねたので結局根負けして彼女に従うことになったのだ。
あまり明るい場所で躰を見られるのは、好きじゃないんだけど。彼女の前ならまだ許せるか。
「
……
でね、なんとか解散にまで持ち込めたの。他チームの人が偶然バックアップ取っててくれて本当良かった」
躰と髪の毛を清めた後に、入る湯舟というのは格別である。
特に暑い夏はシャワーで済ませがちだけど、私は湯舟に漬からないとちゃんとお風呂に入ったという気持ちになれない人種の為。そこは彼女にも従ってもらった。
湯船に入るとすぐ体温が上がってのぼせてしまうんだけど、と言うが。ちゃんとお湯に漬からないと疲れが取れないのだ。
躰と精神を健康に保つためにもこういう部分から蔑ろにしてはいけない。
そうして、私は彼女に背中を預ける形で今日起きたことを報告してもらっていた。
システムの情報を漏らしてはいけないという守秘義務は守ってもらった上で、概要を聞かせて貰っているのだけど。
どうやってそれを解決したかというよりも、その時彼女たち技術者に説明をさせた客達の態度に私は苛立ちを覚えていた。客というのはシステムを利用する側の連中だが。
「まるでモノ扱いじゃない。呼ぶだけ呼んでユイマン達を酷使して、何も理解しないで止まってた時間の損失だけ追及なんて」
不利益を被った客が、ユイマン達に色々と文句を言って来たそうなのだ。
利用しているシステムが使えなくなると不利益を被る、というのは私も理解できる。システムが止まっただけで全く使い物にならなくなるモノだってたくさんある。
例えば人身事故で電車が止まってたら、それだけで朝仕事に行くのが嫌になることもあるし。影響で駅が人でごった返して苛立ちのあまり駅員につかみかかる奴を見てるのも嫌な気持ちになる。でもそれは線路に立ち入ったりした奴が悪くて、駅員達は悪くないだろう。
「今回は私達の起因じゃなかったからこれ以上の嫌味はないと思うけど
……
やっぱりもうちょっと早く原因に気付けばよかったかな」
報告書は事後提出だから色々反省点は見つかるかもね、と彼女は苦笑しつつ待ち受ける仕事量を換算していた。
知識がないから分からないけど。今回のトラブルはユイマン達に非はなく、どちらかと言えば別の所が誤ったやり方をしてきたことが原因だったらしい。
「何も技術も能力も持たない連中に、好き勝手言われる筋合いなんてないよ」
どうして能力や知識のない奴ほど偉そうなんだろう。札束で頬を軽く叩けば無条件に尻尾でも振ると思ってるのか、何様のつもりだ。
わたしが言われたわけじゃないのに、ユイマンが今回のトラブルで仕事の相手から言われたこと。それを彼女伝手に聞くだけで腹が無性に立ってくる。
今はもう酔いも覚め、食事でお腹も満たされたから気分は良い筈なのに。
「使う側は言う権利くらいはあるから仕方ないの」
全然スッキリしない。こうやってまた彼女が酷使されて、壊れかけてしまったら。あの時はうまくいっても次は無事で済むとは限らないのに。
周囲の協力もありせっかく無理矢理異動願を出させて、健康管理のために私の家に住むように連れてきたのに。それが潰されたら、また元通りどころか余計にひどくなるだろう。
自責的で有能な彼女はまた雇用主に言いくるめられ、都合よく使われているのだ。彼女を人間扱いしない連中に、あの時のように。
「それでも
……
やっぱり、悔しいよ」
私はそのシステムを何とかする能力なんてないし。
ユイマンから情報系の本を読ませて貰ったり資格勉強をしてみたりもしたが、実践としてやってはいないから何もできない。無力なのだ。
「
……
阿梨夜、本当ごめんなさい。折角今日は結婚記念日だったのに」
むくれている私の機嫌がいつもよりも直りにくい理由は
―
今日が、私たちの結婚記念日だから。
彼女を激務の地獄から救うために周囲を巻き込んで戦ったことと。その後彼女を戻すための色々な苦労と。彼女と共に暮らすために行動したことが、報われた日だったから。
ちゃんとこれ、付けて待っててくれたのにねと。私の左手を後ろからそっと取り、彼女の左手とそっと重ね合わせてくる。
二つ並んだ銀のリングは、お湯に濡れ浴室の灯に反射して輝いていた。指輪なんて、ただの小さな輪っかなのに。
これがあるとないとでは、全然見る世界も見られる世界も違うから不思議なものだ。
「
……
もういいよ。それにしても、仕事終わりにこれ付けて歩くのは緊張した」
「毎日付けて仕事行っても大丈夫でしょ?」
ユイマンはもう毎日指輪をはめて仕事しに行ってるし。職場でも話してるみたいだからそういうが当たり前の所みたいだけど。
「うちの職場はそういうのまだないし
……
何か言われると面倒だから」
私は家にいる時や休日の時以外は、指輪は箱に入れている。
「そうね。阿梨夜は私とは違うから我儘言っては駄目ね」
でも今日は結婚記念日だからと。仕事終わりに箱を鞄から取り出して、それを指にはめてから彼女との待ち合わせ場所に向かったのだった。
少しだけ薬指が何かに締め付けられる感覚。夜の空に左手を翳して見た時の、視界の違い。
あのバーで飲んだお酒も。指輪をはめた彼女と一緒に飲めばきっと、もっと美味しくて泣くことなんてなかったんだろう。
「
……
ユイマン、後ででいんだけど。この辺でユイマンの故郷のお酒売ってる店ってあるかな」
続く
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