小さな休息

ツォン✕短銃♀️

※短銃♀️=エマ



 神羅ビル、地下三階。夜更けのタークス本部は、いつもと変わらぬ薄暗さに包まれていた。壁一面の大型モニターが青白い光を落とし、低く唸る機械音が静かな空間を満たしている。
 奥のデスクでは、ツォンが一人ペンを走らせていた。報告書をめくる微かな音が静寂をわずかに揺らす。その手元に、湯気の立つカップがそっと置かれた。
「少し濃いめにしました」
 声の主はエマだった。ツォンは手を止め、視線を上げる。目の前の彼女の姿に、ほんの一瞬だけ表情を緩めた。
……ありがとう。だが、もう遅い。おまえは先に帰れ」
 穏やかな声だが、硬さを崩さない響き。それにエマは小さく首を振り、柔らかな笑みを返した。
「でも……ツォンさんこそ、ずっと忙しかったんじゃないですか? 少しだけでも休みましょう」
 彼女の声は優しく、真っ直ぐだった。その眼差しには、上司でも同僚でもない、ひとりの大切な人への思いやりが滲んでいる。
 エマは視線を奥のソファへ向けると、そこへ歩み寄り、静かに腰を下ろす。そして、ぽんぽんと自分の膝を軽く叩きながら、ツォンを見上げた。
「ツォンさん、ちょっとこっちに来てくれませんか?」
 彼は一瞬、目を細める。
……何のつもりだ」
「いいから。どうぞ」
 ふわりとした笑みを浮かべ、もう一度、膝をぽんと叩く。
「休憩も、大事ですよ」
 わずかな冗談めいた響きの裏で、本気の優しさが滲んでいた。ツォンは視線を逸らし、ひと呼吸置いてから、深く短い息を吐く。
 やがて立ち上がり、エマの隣に静かに腰を下ろした。そしてためらうように身を屈め、頭を彼女の膝に預ける。
……少しだけだ」
 低く落とされた声に、エマは驚いたように瞬きをしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて彼の髪にそっと触れた。
「はい、少しだけ……です」
 ツォンは目を閉じ、肩の力を抜く。やがて、静かな声が小さくこぼれた。
……悪くないな」
 エマは頬を緩め、囁くように返す。
「ふふ……でしょ?」
 静かなタークス本部の片隅で、二人だけの小さな休息が、そっと時を刻んでいた。