残響

レノ+短銃♀️(レノシス前提)

 夜のスラム街は、空気そのものが錆びているように重たかった。崩れた建材の影を縫うように、レノは音もなく駆ける。長い脚が地面を蹴るたび、軽やかな足音が続く──はずだった。
 ふと気になって、背後を振り返る。
「新人……息上がってんぞ、と」
 数歩遅れてついてくる金髪の女が、肩で息をしていた。黒いスーツの袖が土埃に汚れ、切り揃えられたショートヘアが頬に張り付いている。碧い瞳が、レノをまっすぐに追っていた。
「す、すみません、大丈夫です。すぐ……追いつきます」
 額に汗をにじませながらも、その女は真っ直ぐに立っていた。足を止める気配はない。
 ──ふと、レノの脳裏に別の光景が重なった。
「サポートするから飛ばしていきましょ、レノ」
 タークスで最速の自分に、真っ正面からそう言った女。 当たり前のようにレノの速度にぴたりとついてきて、顔色ひとつ変えず、息も乱さなかった。
 けれど今になってわかる。あれは、たぶん努力の塊だったんだ。ちいさな身体で。高いヒールで。誰にも気づかれないように。
……悪ぃな。俺、ちょっと走りすぎたわ」
 手を差し出すと、新人は戸惑いながらも握り返した。細い指先が、ほんの少し震えていた。その手は、どこか冷たくて、やけに現実的だった。
 硬質な足音を響かせて、何も言わずに歩幅を合わせてきたあの日の彼女。気づけなかったその努力のすべてが、今さらのように胸に迫る。
 会いたくて、たまらなかった。