言葉にすれば陳腐

レノ✕シスネ

 夜更けのタークスフロア。
 静まり返った執務室に、紙をめくる音が淡く響く。シスネは端末にちらりと視線を落とし、時刻を確かめると、おもむろにデスクの引き出しを開けた。銀色のシートを取り出し、一粒を押し出して手元の水で流し込む。その仕草はあまりに自然で、呼吸の一部のように見えた。
「なんだ、それ? 栄養剤かなんかか?」
 向かいの席から、レノが軽く声をかける。肩の力を抜いた、ただの雑談のトーンだった。
……避妊薬よ。体調を整える効果もあるけど」
 あまりにさらりと返されたその答えに、レノの手が止まった。冗談半分のつもりだった問いが、思いがけず重たい現実に触れたような気がした。
「へぇ……
 気のない相槌を装いながらも、内側で何かが軋むような感覚が残る。
「仕事柄、万一のこともあるから」
 それだけ言うと、彼女はすぐに手元へと意識を戻した。
 ──万一。
 任務失敗。拘束。女であること。整ったその容姿。頭では理解していたはずのリスクが、本人の口から当然のように告げられると、鋭く突き刺さる。レノは鼻で笑って誤魔化した。
……おまえらしいな。抜け目ねぇ」
 軽口の裏で、苦い感情が渦を巻く。こんな想定をさせるクソみたいな仕事も、それを当たり前に受け入れている彼女も──全部気に食わない。
 シスネはペンを走らせ、何事もなかったかのように作業を続ける。飲み込んだ薬の存在すら忘れたように、いつもの姿がそこにあった。レノはその横顔を盗み見ながら、胸の奥でひとつ言葉を噛み締める。

 ──そんな想定ごと、全部俺が潰してやる。