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asahito
2025-09-26 22:57:02
3612文字
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snakebite③
前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒
https://www.pixiv.net/novel/series/7583585
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。
今回は駒草くんと魅須丸サイドのお話。この二人は前作で付き合うことになってます前提として
残暑だっていうのに、春の嵐のような客が帰った後。呆然としていた私でも流石に数十分経てば元通りの店主に戻れる。
普段ならどんな屑に出会おうと五分程度で精神を落ち着けて笑顔を繕えるのであるが。時間を要してしまったのは、あのふたりが色々と珍しい客だったことだろう。
うちの客は異性同士、同性同士のカップルも多く訪れるし。家族や友人、誰にも公表はできてないけど、こっそり付き合っているような子たちも多い。
店主さんだけになら教えますねと私に打ち明けてくれる子も多いから。そういう人たちがうちに酒を飲みに来てくれればいいと思っていたが。
私には打ち明けてないけど明らかに婚姻の関係は持っている客が来るのは、想定外だった。
既婚者は、当然だが異性と結婚してる客ばかりだったから。
あのユイマンと阿梨夜って奴、あの指輪をお互いの指に通すまで。どういったいきさつがあったのかな。
どんな客でも迷惑じゃなきゃリピーターになるのは嬉しいんだが。特にあいつらはまた、うちの店に来てくれないだろうか。
あの泣き上戸の阿梨夜って方は気まずくて来ないかもしれないが、ユイマンって奴に連れて来られてもう一度来たら良いと思ってしまう。
「今日はあまり人が来ませんね。このお店大丈夫ですか?」
「あー
……
魅須丸が来る前までにいたんだけど、帰っちゃってさ」
久しぶりに来て早々うちの店の経営状況を心配されるが。心配されるほど危なかったらこんな場所に店を構えてないでもっと安い場所に移転してる所だ。
溜まっていた仕事を納品させてやっとうちの店に来たと思ったら、相変わらずの態度で寧ろ安心した。
酒を飲むという事は今日はもう仕事はしないということで。うまくいけば店の閉店までいて貰ってその後二人で過ごすこともできるかもしれない。
仕事をしている者同士仕事をするなとは言えない。とはいっても、なかなか会えない期間も長かったのは事実。
今回は相当困難な仕事、かつ短い納期だったらしいから一体どんな客が魅須丸にアクセサリーを頼んだというのだろう。そしてそのアクセサリーはどこで見られるのだろう。
モデルとかそういう子に使ってもらえる時は雑誌とかネットとかの記事を見せて偉いでしょう?と自慢してくるのだが。
今回は全く何も言って来ず。よほど守秘義務が固い奴に頼まれたか何かなのだろうなと勝手に考えている。
「そうなんですね」
私が魅須丸用に買ってきた甘ったるいチョコレートを美味しそうに頬張りつつ。いつものウイスキーをダブルで飲んでいる。
グラスを持つ指は絆創膏が貼ってあったり、切り傷が残っており。どこか痛々しい。
加工は自分の工房で、手を使ってやってるって言うけど。そんなに生傷が絶えないような作品を作ったというのだろうか。でもそんな傷、過去に見たことないぞ。
手が荒れてるのは辛かろうと、後で裏の事務所にある私のハンドクリームでも塗ってやろうか。
「今日は週末じゃないからそんな期待してないよ。だから酒注文してくれるなら長居は大歓迎」
いくら付き合ってるとはいえ。カウンターを隔てれば店主と客の関係は変えてはいけない。お気に入りの甘い物を魅須丸しかいない時に多めに出してやることが、精一杯の依怙贔屓だ。
少し量が減ってきているので、もう一杯飲むかと尋ねると。魅須丸は首を振ってグラスに口を付ける。
「作業明けの躰にはいささか沁みますので、ほどほどにしておきますよ」
「じゃあ代わりに甘い物の注文期待してるよ」
酒が駄目なら甘い物で釣って金は取ってやろう。最近は客もちゃんと来ているし、売り上げが悪いわけではないのだが。
店主がこういってしまうのは良くないが
―
どこか変わり映えがしない。口コミの削除は定期的にやってるとはいえ、現実の方は決まった行動をいつもしているような、刺激の足りない日々が続いてる気がしていたのだ。
この街は常に変化していて退屈することなんてないのに。経営に慢心して私の精神が良くない方向に行ってしまっているのかと危惧するも。
どうして変わり映えがしないのかという理由が分からず。毎日酒を出し、デザートやツマミを客に提供する日々であった。
酒を出せば酒の量は減る筈だが。在庫の補充頻度も決まり切っていて、どうしてこんなに何もかもが変化のない規則性で縛られているのかが不気味だった。
だからこそ、先ほどの二人の来訪が変化があり過ぎて。何かが変わり始める様な気がしているのだった。
「労いの無料デザートとかはないのですか?」
「うちのお客様は皆労われたい人達だから、魅須丸だけが特別は不公平でしょ」
無料デザートなんて都合のいいモノがあるもんか。デザートは冷蔵庫に冷えてるが、金を払わなきゃ持って来てやらないし。
持って来てほしいなら私の家に来てくれればいつでも食べさせてやるんだが。次うちに来られるのはいつになるんだ?
「全く、職人の労力を理解してない人が世間に多すぎる」
「店主の苦労をちゃんと理解してくれる奴も中々いないけどねえ」
こういう憎まれ口を叩き合うのも味なものか。乾いたグラスを磨きながら掛け合いをすることに、懐かしさすら覚えた。
懐かしさを覚えるとともに。新鮮な感覚が流れて来ている時だからこそ、聞いてみたくなることもある。あの二人が店に来たからこそ、なおさら。
「でもまあ、大変な仕事を乗り越えたのならお疲れ様」
そう言って魅須丸のツマミの皿の上にチョコレートを追加し。魅須丸の頬に手を添えて労いの言葉をかける。カウンター越しの行為は禁止だが、これくらいだったら許されたっていいだろう。
「今回の仕事ってどっかのメディアに出たりしないの?」
「出ませんし、詳しい事は言えませんよ。守秘義務なので」
私の手に手を添えて情報は一歩も譲らないぞの姿勢。掌を重ねて答えてくれるだけ良いか。流石に店のカウンターで盛るわけにはいかない。
店じゃなければ、もう少し色んな事も出来るんだがな。例えば一緒に暮らしているのなら。
まだ私はそういう事は考えた事はないし、この店の維持や経営の方に尽力したいからそちらを優先したいとは思っているが。
だが、それは私だけの都合であり。相手の都合を考えてないと言うのは事実なのだ。
何かと繋がる事は足枷や手枷が増える事でもあるけど。繋がっているからこそできることもあるのだろう。
「
……
そういえば注文ってさ、指輪とかの注文は来たりするの?」
あの二人の事を見たからこそ。それとなく探りは入れてみたいと思う。
「指輪ですか?ええ、ネックレス程ではないですがたまに注文は来ますね」
あくまで仕事の話を聞く体で、それとなく探りを入れてみるのだ。全然目途も何もかも立ってないけど、聞いてみるだけはロハだろう。
「そうなんだ。そういうのも作れるんだ」
聞けば加工した石を宝石として嵌めてるという。あの金型は別の職人がやっているのかと思ったが。簡単なものなら1人でできるらしいのだ。
「勿論。この玉造部に不可能はありませんからね!」
偉いでしょう?凄いでしょう?と不敵に笑い自慢するあたり、相変わらず仕事には意欲的なようだ。溜まった仕事を片付けたと言っていたがそれを経て成長したのだろうか。
それなら尚更このままの方がお互いにとってはいいのだろうが。
一応は聞いてみたかったのは興味本位で聞くと申し上げたうえで。
「
……
たまには私も何か頼んでみようかなあ」
「おや、山如の注文なんて珍しいですね」
「まあ
……
たまには魅須丸の売上に貢献してもいいかなって」
ちらりと表情を伺うがまったく私の本来の意図には気づいてなさそうだ。言わないと多分分からないだろう。
言ったところで受け入れてくれるかは、また別の話であるし。
「でも指輪ってぶつけたりしたらグラス割れません?あんなものつけて石の加工なんて」
「あー
……
そうだね」
やっぱりこの話やめておくか。何かをそこに縛り付けてしまうと、知らぬうちに何かを壊してしまうこともある。
あの客たちに影響されて思わぬ行動に出てしまって、落とし穴にはまっては阿呆が過ぎるだろう。
「じゃあ、ネックレスの方にしとくよ」
元々ネックレスは持っているけど、違うデザインのものも持っていても良いだろう。そういう繋がり方だってある。
「
……
そういえば、私の前に来た客ってどんな人間でした?」
「それは、守秘義務だから教えられないね」
客のあれこれを喋るのは良くないから、私も黙っておこう。だが、魅須丸はその客に何か思うことがあるらしく。
メニューの表を指で軽く叩きながら行き違いでしたかね、とつぶやくのであった。
まさかね。あのふたりと魅須丸が知り合いって、そんなわけあるもんか。
続く
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