アカ
2025-09-26 15:30:21
3027文字
Public ヴァンアニ
 

忘れた名前

界のED後のアニエスちゃんを忘れている世界線の話。

扉がノックされてヴァンはソファーから
起き上がり、ゆっくりと扉を開けると
そこにいたのはエレインだった。
「いつまで寝ているつもり?」
そうエレインが言ってきた際に脳裏に
映し出されたのは金髪のアラミス高等学校の
制服を着た少女だった。
「こちらのアークライド解決事務所にお願い
したいことがあって伺いました!」
聞いたこともないのに何故か頭にそんな映像が
浮かびあがり、そしてその姿の少女に
どこか懐かしさを感じ、泣きたいぐらい
嬉しかったことにヴァンは困惑した。
困惑していたら、エレインの声が
聞こえてきた。
ちょっと聞いているの?」
わりぃ。聞いてなかった。」
エレインはそんなヴァンを見て溜息を吐いた。
「とりあえず顔でも洗ってきたら?寝ぼけた頭も
スッキリすると思うわよ。」
エレインの言葉に甘えて、ヴァンは顔を洗う
ことにした。おかげで頭も冴えてきたので
エレインが待っているソファーに向かおうと
歩き始めたが、金髪の少女が部屋を歩いて
いる幻覚を見始めた。金髪の少女は今度は
アラミスの制服ではなく、ベレー帽を被って
いた。あるときはピンクの服、あるときは
赤いシャツの服、またあるときはピンク色の
スカートを纏っている服。そんな彼女の
残香を微かに感じた。
「いつまでボーっと突っ立ているのかしら?」
エレインにそう言われ、ヴァンは謝罪しながら
エレインと向かい合うようにソファーに
座った。
なぁ、エレイン。」
「なにかしら?」
ヴァンはさっきから見る幻覚の話をエレインに
しようとして、こんな話をした所で信じて
貰えないし混乱させるだけだと思い、
結局話すのをやめてしまった。
「で?話ってなんだ?」
「大したことではないのだけどちょっと
付き合って欲しい場所があるの。」
「それなら直接来なくても連絡すればー。」
「あなたのザイファが壊れているから、
直接来たのよ。今、カトルくんが
理由を調査してくれているんでしょ?」
そうだったな。」
ヴァンのザイファはまるで役目を
終えたかのようにある日、機能が使えなく
なった。理由はメアと関係がある可能性は
あるが、ハッキリとしたことはまだ
分からないとカトルは言っていた。
ちょっと大丈夫?さっきからぼんやりして
いるし、最近あった出来事も忘れている。
調子が悪そうだし、今日は休みなさい。」
「俺はー。」
「どうせ『大丈夫だ』とか言ってくるんで
しょうけど。あなたが倒れたら私が困るの。
いいから、言われた通りに休みなさい。」
エレインはそう言ってヴァンを無理矢理
休ませてどこかに行ってしまった。

気を使わせたかとヴァンは思いながら、
ソファーで休んでいたらフェリとアーロンが
心配そうに近付いてきた。
「あのエレインさんから聞きました。
調子が悪いとか大丈夫ですか?」
「ま、オッサンだからな。色々ガタが
来たんだろ。仕方ねぇから、今日は優しく
してやるぜ。」
そんな2人を見ながらまた少女の幻覚を
見た。ソファーで寝ているヴァンを優しく
見守り、起きたヴァンに紅茶を差し出す
そんな姿の幻覚を。また見た幻覚に困惑して
いるとフェリが不安そうな顔で聞いてきた。
「どこか痛いとかありますか?」
「え?」
「なんかヴァンさん、泣きそうな顔を
していた気がして。」
そんなことねーよ。心配してくれて
ありがとな、フェリ。」
そう言って頭を軽く撫でた。フェリは
照れ臭さそうにしていたが、どこか
嬉しそうな顔をしていた。
「あ!そうだ!手土産にフルーツ持って
きたんです!今、カットしてきますね!」
そうフェリは言うとキッチンに向かって
いった。フェリが消えたのを確認した
アーロンはヴァンに話しかけた。
で?何を抱え込んでいるんだよ?」
何のことだ。」
「誤魔化そうとしたって無駄だぜ。
オークレールの奴にお前の様子が
変だから、それとなく聞き出しといて
くれってお願いされたこともある。
さっさと吐いた方が身のためだぜ?」
アーロンは一人で抱え込もうとする自分を
決して許さないだろう。そう思ったヴァンは
話すことにした。
なぁ記憶がないはずなのに懐かしい
気持ちに陥るってことはあるか?」
ヴァンの真剣な顔を見てアーロンは揶揄う
べきではないと考え、真剣に考えた。
「そういうことはねーな。ただ。」
「ただ?」
もし、セイやホアンたちを忘れて
しまったって考えたらゾッとするし、
不甲斐ない自分が許せねーとは思う。」
忘れた方が幸せかも知れねーぞ。」
セイやホアンたちの出来事は決して楽しい
ことだけではなく、苦しい記憶も含まれて
いる。だからこそ、ヴァンはそのような
答え方をした。
確かにな。でも、嫌なんだよ。」
理由は?」
「俺が覚えている限りセイやホアンたちは
俺の中で生き続ける。けど、
忘れちまったら?セイやホアンたちは
どこに帰ったらいいんだよ。だから、
俺は絶対に忘れたくねーよ。たとえ
それが苦くて苦しい記憶でもな。」
そうか。」
「お待たせしました!!」
そう言ってフェリはフルーツの盛り合わせを
持ってきてくれた。
なんか量が多くねーか?」
フェリが切り分けてくれたフルーツは
なんていうか3人で食べ切れる量では
なかった。
「仕方ねぇ。他のヤツらも呼ぶか。」
アーロンがアークライド解決事務所のメンバーを
呼び、気が付いたら少し早いティータイムに
なった。その間、ヴァンはここにいたはずの
金髪の少女のことを考え、モヤモヤした。
なぁ、だれか足りない気がしないか?」
そうフェリに聞いてみた。だが、返ってきた
解答はあまりにも残酷な答えだった。
「そうですか?ヴァンさんにアーロンさんに
カトルさん。それから、リゼットさんに
ジュディスさんにベルガルドさん。
アークライド解決事務所の全員が揃って
いますよね?1、2、3.うん!
7人全員揃っています!」
フェリから金髪の少女の存在がないことに
深いショックを受けながら、ヴァンは
それに気づかれないように接するように
必死になって返事をした。
ああ、そうだな。」

ヴァンは少し出かけてくるといい、その場を
離れることにした。それほどショック
だったのだ。金髪の少女の存在が消えている
ことが。名前も知らないし、ここにも居ない。
けど、ヴァンは何か大事なものを無くした気が
して落ち着かなかった。だから、気が付いたら
屋上に向かっていた。何故屋上に向かったのか
わからない。けど、失ったカケラを
取り戻したくて、屋上に行ったら取り戻せる
気がそんな気がして。屋上に足を踏み入れると
ヴァンは昨日あったことのように記憶が
再生された。
「貴方が好きですー愛しています。」
その場面が再生されてから、全てを少しずつ
ヴァンは思い出していった。金髪の少女は
ヴァンに依頼を持ってきて、それがキッカケで
助手になったこと。ヴァンが全てを投げ出した
ときに追いかけて連れ戻してくれたこと。
そしてー。彼女のおかげで生きたいと思える
ようになったし、自分は幸せになっていいって
考えられるようになったこと。そんな自分を
変えてくれた少女の名前はー。
アニエス。」
ヴァンは切なそうに愛しげにそう呼ぶので
あった。