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ニイナ
2025-09-26 02:10:05
6195文字
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貴方の骨が宝石になる頃には、
薄暗くて寂しいロドフ。というより、ロー⇒⇒⇒若様と言う報われないやつ。
※死ネタです
※白骨が出ます
※色々捏造です
ひとつの小包が届いたのは、ちょうどポーラタンク号が補給のために海上に出ている、よく晴れたある日のことだった。燦々と照りつける久々の陽射しにほっと息を吐いていたローのもとへ、クラフト紙に包まれたそれは届けられた。
「キャプテンに荷物来てますよ〜〜」
「なんだ?」
「さァ?」
シャチから手渡された小包に眉を寄せれてみれば、シャチもわからないと首を傾げてみせた。特に何かが届く予定もないというのに実に不思議なことだ、と思いつつローはひとまず小包を受け取るより他なかった。
「前に助けた患者からのお礼とか?」
「そんなことあるわけねェだろ」
「わかんないよ、キャプテン」
ペンギンが口を挟む戯言を一蹴する隣でベポからは肯定ともとれる言葉が聞こえ、ローはますます眉をしかめた。身に覚えのない何かしらの届け物は、妙にローの心臓をざわりとさせる。第六感なんてバカバカしいものが警鐘を鳴らすような感覚に首を振り、ローは包を開いた。どこにも差出人のない包みの中は、エターナルポースとビブルカードが一切れだけだった。そこにも名前らしきものはなく、誰のものであるかも示されていない。エターナルポースの理由もなく、ただこの場所に来い、という強い意志だけが見えていた。
「えっ、なにこれ」
「エターナルポースって
……
なんかやな感じっすね」
「キャプテンどうする?」
「
…………
この指針に従ってくれ」
ペンギンとシャチの理解不能だと言わんばかりの声にそれもそうだと同意していれば、ベポから針路を問われてローはすこしだけ考える。これが何かの罠である可能性は捨て置けない。けれどもローの直感が無視をするべきではない、と告げていた。
「キャプテン、本気ですか!?」
「ヤバいやつかも知れねェのに!」
「それでもなんとかなるだろ、お前らなら」
「そりゃまァ
……
」
「そうですけど
……
」
ぎょっとした声を上げてみせるペンギンとシャチを言い包めて、ローはベポにこの針路を任せることにした。エターナルポースの行く先をローが知るはずもない。ただ導かれるまま、その針の先に向かうことになっていた。
何が目的なのかもわからない、どんな島かもわからない、という中での航海は驚くほど順調なものだった。海王類にも出くわさず、海軍に追いかけられることもなく、ひと月も経たずにその島へと船は着いた。
穏やかな気候の春の島は暮らしものんびりとしているようだった。名を挙げた海賊も気さくに受け入れ、特に拒まれるということもない。その反応に気を良くしたクルーたちが羽根を伸ばしたいと考えないはずもなく、ペンギンを筆頭にそれぞれがそわそわと落ち着かない様子だった。そんなクルーの様子に呆れつつローは声をかけていた。
「羽目さえ外さなねェなら遊んでもいいぞ」
「やった!さすがキャプテン!」
「あっ!でもそのビブルカードの先には着いて行きますよ!」
「おれ一人でいい」
「だめだよキャプテン!」
もはや当初の目的を忘れているのでは、とも思えるクルーたちから改めてビブルカードの件を持ち出され、ローはゆるく首を振る。着いた島はごくちいさな島で、ひとつの街があるだけだった。ここに何があるのかはわからなくとも、脅威の類はないとローは思っていたのだ。それでもローを気にかけるベポの鋭い声に、ローは息を吐いた。
「大丈夫だ。電伝虫も持つし、何かあればすぐに引き返す」
「
…………
絶対だからね!」
「あァ、わかってる」
ローが出した条件にベポが僅かに考えたあと、どうにか頷いてみせる。このちいさな街で何かあるならすぐにわかるだろう、というのもローの言い分のひとつだったのだが、それもベポは呑み込んだらしい。優秀な航海士の物分りの良さに笑みをこぼし、ローはその毛並みをやさしく撫でてやった。
街に買い出しや観光やナンパをしに行くクルーたちとは別れ、ローはひとりビブルカードを手に道に佇んでいた。手のひらの上でかすかに動くビブルカードは西の方角を向いていて、かすかに動いてローを導いている。穏やかな島の街並みは故郷のフレバンスにすこし似ていた。白い街と呼ばれたフレバンスと同じようにこの島にある建物はたいてい白く塗られている。そしてその乳白色は光を受けて虹色に光を放っていた。まるでオパールの遊色効果でも見ているかのような燦めきにローは目を細めた。
「おや、この島は初めてかい?」
「あァ、初めてだ」
「島の建物の色が珍しいんだろう。あれは、塗料でああなってるのさ」
「塗料?」
ぼんやり街並みを眺めていたローに気さくに声をかけてきた壮年の女に、つい反応してオパールにも似た壁を見つめる。あれが塗料なのだと言われるとなるほど、という気持ちも湧くのだが、不思議でもあった。あんなふうに遊色効果がある塗料があるとは考えもしなかったのだ。
「腐らないように、長く保存するための特殊なものでね。この島の特産なんだよ」
「へェ
……
」
「だからどの家も頑丈で丈夫なのさ」
ローの短い相槌にからりと笑う女の口から語られるものに興味を引かれそうになりつつ、ローは改めて建物に目を向けた。保存や強化に使うものとして特産の塗料は最適なのだろうなとローは思った。細かいことが気にはなるものの、当初の目的からはズレてしまうのでローは手のひらに視線を落とす。相変わらずビブルカードは西を向いていて、ローのことを静かに呼んでいた。
「この先には何がある?」
「教会があるよ」
「
……
その教会は誰かいるのか?」
「ああ、あそこは神父様がひとりいるだけだね。二年ほど前にここに来たひとで、とても良い方さ」
一本道の先のことを訊ねて返ってきた答えにローは顎をするりと撫でつける。教会というものはローには馴染み深いものであり、あると気になるものだった。近頃では、無人であることも多い教会だがこの島のものはきちんと人がいるらしい。流れ者であれば神父というのも胡散臭い気もするのだが、街の人間が受け入れているならそれでいいのだろう。
「ふぅん
……
」
「ただ最近、教会にこもりがちで心配なんだ。もし教会が開いてそうなら、様子を見てきておくれ」
街の人間いわく、この数日は教会の扉が閉まっていて、神父の姿も見えないらしい。体調でも崩しているのかと気にかけてはいるのだが、無遠慮に押しかけてもいけないだろう、と周りが考えているのが伝わり、ローはとりあえず頷くしかなかった。ビブルカードの行き先が教会の可能性は高いので、ある意味ではついでかも知れないなとひとり納得してローは足を進めた。
なだらかな坂を登っていくと、そこそこ高いところまでたどり着き、海のすぐ傍に教会が建っているのがわかった。多少日に焼けてはいるものの、この教会の壁もまたオパールに似た光を放っていた。薄く汚れが見えるところはあれど、拭いたりすればマシになりそうであるし、雨が降れば流れそうでもあった。古びた窓と扉はすこし傷んでいて傾きが見られたのだが、これも経年を思えばそんなものだろう、という気がした。
ローは手のひらにあるビブルカードに視線を落とし、どうやらこの教会が目的地であろうと判断して、ひとまず扉に手をかけた。ここが開かなければまた別の入り口を探さなければならないかも知れない、と考えたローの予想を裏切って扉はすんなりと開いた。
ギィ、と重量のある音を立てて扉は開き、ローを室内へと招く。教会の中はさほど代わり映えのしない空間だったものの、どこか異質な空気が漂っていた。陽射しが遮られてしまっているからか、明かりが乏しくて室内は薄暗い。よくある内装をぐるりと見回してローは眉を寄せた。誰もいないがらんどうの教会は、けれども今しがたまで誰かがそこにいた、という気配が色濃かった。
怪訝に思いながらも奥まで進もうとしたローの手のひらの上で、ビブルカードが急激にちいさくなっていく。まるでローが来るのを見計らったかのようにビブルカードがヂッと燃え、それはあっという間に燃えカスになっていた。一瞬、熱さを感じただけで、もう既にその熱は灰と共に落ちている。目的地に着いたはずなのに呼び出した人間はおらず、それどころかどうやら亡くなったらしく、ローはますます眉を寄せた。
ここに呼び寄せた目的も意図も何もかもわからない状態に舌を打ち、他に手がかりはないのかと足を進めれば、雲が晴れて陽射しが降り注ぎ、室内を明るくさせる。そうして不意に、祭壇の前におおきな棺があるということを、ローへと示した。それにハッとして、ローは棺へと駆け寄り、その大きさと形を確かめようとした。ここで死ぬのを見せつけるために誰かが呼んだのかも知れない、という疑念を抱いて棺のすぐ近くまで来たローは、棺の傍らにあるものに目を見開いた。
「これ、は
……
」
そこにあったのは、ふたつのサングラスだった。ひとつはそこそこありふれた、よくある黒いスクエア型のもの。それからもうひとつは、特徴的に釣り上がった奇抜な形のものだった。見覚えのありすぎる後者のサングラスを手にしようとして取り落とし、ローは自分の手が震えていることに気が付いた。忘れることなど出来るはずもない形のサングラスは、かつてローの上に立っていた男のものだ。そしてその隣にあるのは、おそらく男のたったひとりの相棒のものなのだろう、とローは容易く想像がついた。
取り落としたサングラスをどうにか拾い上げ、ドクドクとうるさく鳴る心臓の音を聞きながら、そっと棺の蓋へ手をかける。ガタ、と鈍い音を立てて蓋はずれていき、その中身を晒す。棺の中に納められていたのは、ひとりの人間の骨だった。
「
……
ッ」
あまりに丁寧に揃えられた骨は、オパールに染められて、たったひとりを象る。まるでお手本のような頭蓋骨、長い手足の骨、内臓を守っていた肋骨、腰骨の位置。どれも正しく再現されていて、ローは息を呑んでこみ上げる吐き気をどうにか堪えた。ここにある、骨は、誰よりもローの心に巣食った、ドンキホーテ・ドフラミンゴのものだった。それをローが見間違えるはずもない。見間違えようが、なかった。あたたかな陽射しにとろりと照らされた骨が、虹色にひかる。骨のひとかけらでさえドフラミンゴの耽美さは変わらず、ローの心臓を鷲掴みにした。骨格のひとつすら甘美なまでに整っているドフラミンゴに、ローは呆然と膝を折り、棺の縁に縋り付く。
「っ、
……
ぅ゙、
……
ぁ゙」
ぼろ、と涙腺が堪えきれずに涙をこぼしてローはひしゃげた嗚咽をもらした。コントロールなど利くはずもない涙がぼたぼたとドフラミンゴの骨に落ちて、滑っていく。化粧をほどこされたように艶を帯びて虹色に燦めく骨が、あまりにも美しかった。涙が染み込むことすらなく弾かれるのにも、胸が潰れそうだった。
「なんで、こんな
……
っ、勝手に死んでんじゃ、ねェ!」
こぼれる悪態は悲しみに塗れていて、ただひたすら絶望だけを吐露していた。ドフラミンゴが骨になっているというなら、この死はずいぶん前のことなのだろう。そして燃え尽きたビブルカードは相棒のもので、ついさっき、役目を終えてしまったのだ。最期の最期まで、あの憎らしい相棒はこのドフラミンゴの傍にいたのだと思うと、感情がめちゃくちゃになって胸が焼け焦げそうになる。
「ひっ、ぅ゙
……
ぇ、置いて、いくな、よ
……
ドフラミンゴっ」
止まることを知らない涙をボロボロ落としてもドフラミンゴには、吸い込まれもしない。ただ骨を流れて棺に敷かれたビロードに染み込んでいくだけだ。息をすることもない、動くことさえもうしないドフラミンゴの美しい骨をひとつずつ辿っていけば、その左手の薬指だけ、欠けていることにローは気付いた。それは心臓にいちばん近いとされている指で、きっとあの相棒が共に連れて行ったのだ。自分だけが、ドフラミンゴの心臓なのだと暗に示されるのに、苛立ちと不快感で腹が煮える。
「ふ、ぅ
……
ぐッ、なんで、お前が
……
!」
ドフラミンゴと共に地獄に堕ちるのだろう腹立たしい相棒を呪うように声を上げ、ローは髪を振り乱した。抑えていた吐き気がぶり返し、胃も喉も気持ち悪くて棺の縁へ爪を立てる。その力の強さに、ガリ、と爪が割れたところでローは気にすることもできなかった。痛みは感じず、吐き気と憤りと憎悪にも似たものが全身を満たしている。
「っ、ぁ
……
、は、
……
ドフラミンゴ、」
憎悪に駆られたところで涙が止まるわけもなく、ローの涙腺は壊れたままだった。そうしてきっと、ローの心もおなじようにぼろぼろと壊れてしまったのだ。ドフラミンゴの死を受け入れられず、けれどもその死の美しさを目の当たりにして、ローの精神は正気ではいられなかった。
嗚咽を吐き出しながら震える手を伸ばし、ローは美しい頭蓋骨をそっと掴んだ。ドフラミンゴの体躯にしてみればちいさく思える頭蓋の形をなぞり、左目の窪みが右目よりも深いことに今更気付いてローは叫び出したくてたまらなかった。こんなふうに骨が傷付くということは、確かにドフラミンゴがこの目に傷を受けたということだ。いつかの誰かが、ドフラミンゴという男に骨にも残る痕を付けたのかと思うと激情で目の前が暗くなる。捌け口もない怒りも憤りも涙にしか変換されず、ローはドフラミンゴの頭を胸に掻き抱いた。
オパールのように艶やかに虹色を放つドフラミンゴの骨は、ローの力にも軋むことも傷付くこともなく、ただ腕の中でしずかに眠っている。ヒビが入ることも、折れることもせずローに抱かれるドフラミンゴの骨が、どうしようもないほど愛おしかった。この目が眩むほど耽美なドフラミンゴの骨が、これ以上の傷は何ひとつないのだと知らされると、ほんのわずか、胸が救われた気がした。誰であっても、もうドフラミンゴを傷付けるなど出来はしない。その事実が、ローの心を掬い上げ、そうして狂わせた。
「
…………
あァ、でも、これでやっと、おれだけのもんになった」
まだ溢れ続ける涙を無視して、ローはぽつりと言葉を落とす。その声には優越感にまみれ、表情は恍惚に染まっていた。絶望とともに、ローの胸にはこの上ない安堵と歓びが湧いている。ドフラミンゴが堕ちてこない日々のことを思えば、こうしてこの手の中に骨だけでもあるという事実は僥倖にしかならなかった。
「もう、誰にも渡さねェ。おれだけの、ドフラミンゴだ」
この幸福は歪なものだと、頭の片隅では理解していて、けれどもローにとっては胸を満たす至福だった。どんなかたちであっても、ドフラミンゴという男がこの手にあるのだから、それはしあわせにしか繋がらない。たとえこのしあわせが誰かの目にはそう見えなくとも、ローは構わなかった。そんなもの、どうだって良かった。ドフラミンゴという男が、他の誰の手にも渡らず、ただローだけのものになる。その目眩がしそうなほどの幸福に逆上せながら、ドフラミンゴの額に、眸にそっと唇を寄せていく。触れる硬質な感触を堪能してから、ローは再びドフラミンゴをやさしく抱きしめた。ひんやりとしたドフラミンゴの骨に頬を寄せ、もう一度その名前を愛おしく口にのせてローは目を閉じた。
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