uraneta_365
2025-09-26 01:44:07
2971文字
Public 芸能ドラマパロ
 

数年後に自分も顔面国宝に選ばれることを知らない

芸能ドラマパロ第2弾
やっとサスサクが出会った

副題:無自覚でおもしれぇ女ムーブかますサクラちゃん

 ベッドフレームを背もたれにお気に入りのビーズクッションを抱えて貰ったばかりの台本をペラペラと捲っていく。舞台と映像で多少書き方は違っているが混乱するほど違いはない。そこに安心して小さく溜息をつきそのまま体を横たえた。お気に入りのミルキーホワイトのふわふわラグが優しく受け止めてくれる。今度は盛大な溜息を肺の空気を出し切る勢いでついた。

「役名が芸名って……感情移入しにくい――

役名を芸名で演じるって聞いた時はうまい宣伝方法だなって思ったけど自分が演じるとなると自分とのギャップに風邪ひきそう。
ある程度名前が売れていたらどんな役をやっても役者の名前が一番に出てくるけど、知名度の低い俳優・女優はあのドラマのあの役やってたで終わってしまうことが多くて結局演じた本人よりキャラクターの知名度が上がる。演じるうえで作品に没入してくれるのは役者冥利に尽きるけどそれだけでは食べていけないのが悲しい所だ。親の庇護下にいる私が言えた台詞ではないけど……
それを利用して最初から役名=芸名にしたことを考えるとよほどコノプロはこの主人公役の子を売り出したいのだろう、まぁ他の共演者も実名が売れるからwin-winなのだろうけど大人の闇を感じるわ。

「試みは面白いって話題になりそうだし、脚本も面白い。単発ドラマで上手くまとまってるけど数字取れたら次もありそうな含みも持たせてる。私が出演するってことを除けば純粋に楽しみにできるのに……

横たえた身体をのろのろと起し部屋の雰囲気に合わせたオフホワイトの勉強机に向かって、デスクライトのスイッチを押してデスクチェアに腰かけた。紙の台本を置いてタブレットに入ってる台本のPDFを開いて準備は完了。書き込みするなら電子に限る。乗り気じゃなくても出演が決まってるなら全力でやるのが私の信条だ。


 タブレットから顔を上げ背もたれにもたれ掛かるとギィと椅子がしなる。首を左右に振るとゴキゴキと子供が鳴らしちゃいけない音がした。
 
「ふぅ~『春野サクラ』に対しての解像度はこれぐらいしてあとはどう演じるかよね……

 映像作品の経験がなくても舞台演技をそのまま流用するわけにはいかないのはわかる。
基本舞台演技は、後ろの客席にも魅せる事を前提としてるから大振りのいわいるオーバーな表現に対して映像ではアングルやカットに対応した微細な表現。
日常で見るようなナチュラルな演技を求められるだろうけど――
初恋もまだどころか同年代の男の子が苦手な私に恋に全力投球な女の子を演じるのはハードルが高い。かろうじて、勝気な女の子っていうのは同姓同名の女の子っていうので演じる。同名のキャラがいる作品を読むたびにいまいち没入感が味わえないあのなんともいない感覚。自分の名前がよくある名前だから多少は諦めてるけど演じるとなるとやっぱりねぇ……

タブレットを引き寄せて検索ページを開いて、入力する。頬杖をついて最初に出てくる画像をタップする。
射干玉の髪に黒曜石のような瞳は綺麗な平衡二重の切れ長の涼しげな目元にスッと通った鼻筋に形の良い薄い唇に白磁の肌。まごうことなき美少年。『春野サクラ』が恋する『うちはサスケ』役のうちはサスケくん。
あまりテレビを見ることがないから知らなかったけど、売れっ子の天才子役。師匠に教えてもらわなかったら顔合わせの時に大変な失礼をかますところだった。知らないって言ったら師匠は爆笑してたけど……
……この美少年に抱き着くの? え、無理じゃない? 演技といえどこんな根暗女が抱き着くとか申し訳ないし、なにより、こんな美形に演技でも睨まれたら普通に怖い。泣く自信しかない。私が一番渋る理由。
舞台は幕が上がればカーテンコールまでずっと途切れることなく役者として立っていられるけど、映像はシーンごとにカットがかかるその都度、臆病でどうしようない私が出てきて撮影を止めてしまうことが怖い。主演の子は演技未経験ということで私がキャスティングされたのに――

「あっ、でも、うちはサスケくんが素はすごく優しい人だったら演技だって割り切れるかな?」

 私の身勝手で勝手な願望は顔合わせの時に打ち砕かれた。

「ぉはようございます」

 少しかすれた声に眉間に寄ったしわが鋭い眼光を強調しているうちはくん。終わった……
極力かかわらずに迷惑かけないで集中が切れない様に過ごそう。

ちなみに主役のうずまきくんは圧倒的陽のオーラで陰キャには眩しすぎた。

※※※

 正直乗り気ではないし、むしろやる気はゼロ。
男の子役は成長期に入ると使いにくい。声変わりで声が出しにくいし、身長が伸びると前後の撮影で齟齬が出てくるし続編の制作が決まると前作との時間の流れでも厄介だ。作中は2ヵ月しか経ってないのに声変わりしているは、父親役の俳優と背丈が変わらない、なんてざらにある。
それなのに、仕事が来る。タイミングがよかったのか声変わりはどこの撮影期間中にも被らずに終えた。身長は……まぁ、おいおいだろうが今のところ問題ない。釈然としないが――
そんな代わり映えのしない日常を送っているときに持ってこられた単発ドラマのオファーは正直何の魅力も興味も惹かれなかった。ただ、企画自体は面白いものだとは思った自分が出演しなければという注訳が付くがな。自分の演技が評価されるならともかく明らかな数字目当てのキャスティングに舌打ちが漏れる。

その断るつもりだったオファーを受けたのは、兄さんの助言と母さんから頼まれたからだ。
兄さん曰くこのドラマはいろんなジャンルで活躍してる人間をオファーしているらしく顔を繋げるというの意味でも新しい刺激を受けるという意味でも身になると諭された。
母さんからは主演の奴が母さんの友達の息子ということで慣れない芸能界で困っていたらフォローしてあげてほしいとのことだった。世間ってせめぇな。面倒だが断ると母さんが怖い。


前日の撮影が長引いたせいで寝不足のまま顔合わせに参加することになった。かろうじて挨拶はしたが寝起き過ぎて声がかすれる。本読みまでに戻ればいいが――
ちらりと視界の隅に鮮やかな色が写りこむ。そのまま視線だけをそれに向ける。長い薄紅色の髪をそのまま流し俯く顔もその薄紅が隠している。確か今回同年代の女は一人だけ、名前は春野サクラだったか……
髪が邪魔になったのか細い指先が耳にかかりそのかんばせが現れる。

正直驚いた。
この業界に身を置いていると顔の整った奴なんてゴロゴロいるし、何なら身内に顔面国宝に選ばれた男が身近にいるから見慣れていると思ったが眼が奪われる。
薄紅のカーテンから現れた透明感のある白い肌に薄紅のけぶるような睫毛はその肌に影を落としてる。その薄紅に守られている瞳は物憂げに伏せられて翡翠のような複雑な色合いを生み出していた。なるほど、名は体を表すというが正にだな。

本読みの時に散々な演技をしたかと思えば急に人が変わったように他を圧倒するような演技をしてみたりと予測不能すぎてますます興味が惹かれた。

ちなみにナルトは、顔合わせを額面通り受け取って台本を忘れてきた。新人役者あるあるだな。
とりあえず、オレの台本を貸してやった。