後ろ手に手枷を嵌められ、足も鎖で繋がれている。見張りは少し離れたところにいて、自力で逃げられないこともないだろうけど、手足の枷と盟刀を奪われて丸腰なのが不安要素。
騒がしさは徐々に近付いてきている。騒ぎに乗じて紛れられればいいが。
遠くで火に揺れる見張りの影をちらりと見る。枷を外せないか静かに試みながら様子を伺っていた。
コツンと小石が落ちるような音がして、暗闇が揺れる。
「見つけた! キザミさん無事ですか!」
黒いマントを靡かせて匁が現れる。どこから来たんだと疑問を口にするより先に、匁が人差し指を立てて口元に添えた。
伸びた鎖を見つけて、すぐに足枷を弄る匁に響かないように小声で声を掛ける。
「わりぃな」
「いえ」
角度を変えて見てみるも外せそうにない鎖と短い時間格闘した後に、匁は小さな舌打ちをして盟刀を引き抜いた。力技に、ガシャン、と鉄の音が響く。
手枷も同様に冷たい刃がこじ開けた。鉄の重しから解放された手足が軽い。
「盟刀は?」
「奪われた。壊れてはないと思うけど」
「どうせ自分で持ってます。向かいましょう」
「ああ」
視界の端で火が揺れる。鎖が外れた音が聞こえたのか、見張りの男が目の前まで来ていた。
「お前、新宿の!」
男が刀を向ける。匁が黙って刀を構えた。すぐに一撃が向かって倒れた男に、更に追って刀を突き立てようと匁が刀を振り上げる。それより前に地面を蹴って、二人の間に体を滑り込ませた。
「待て! 殺すな!」
匁が温度のない目でこちらを見下ろす。
「退いてください」
「待て、殺す必要はないだろ!」
両腕を広げて男を庇う俺を見て、匁はぎゅっと眉を寄せた。
「何を馬鹿なことを言ってるんですか。貴方、このままだと自分が殺されるところだったんですよ」
「わかってる! でも……俺たち、盟刀でおかしくなってる……人は、死んだらそこで終わりなんだよ……!」
「……だから貴方は、敵に情けをかけろと?」
「そうだ……死んだら、もう何も、後悔もできない」
「そのために、喩え貴方が殺されようとも見逃せと言うんですか」
「そうは言ってない! 俺は生きてるだろ!」
匁が刀をゆっくり下げた。収めてくれるのかとほっとした俺の耳元をひんやりとした風と共に流水死命が通る。
男の呻き声と落ちる水音で、振り返らずともわかった。
また死んだ。犠牲は仕方ない。わかっている。
男を突き刺した匁の瞳が目の前で真っ直ぐ俺を見る。
「善い子なのも大概にしてください」
光のない濃色が、揺れる俺の姿を鈍く映す。
「貴方の前で誰が死ねば、その考えは変わりますか」
俺のことを捕らえる瞳を逸らせないまま、答えることもできない俺に、匁はゆっくり瞬きをして、流水死命を引き抜いた。
背後で重い物が地面に落ちる音がした。
「やはり嫌いです。貴方のことなんて」
透けるほど綺麗な流水死命を赤が滴る。
匁がどうしてそんな顔をするのか、わかっていないわけじゃない。
ごめん、と小さな呟きに、匁は答えずに出口へと走り出して、俺も黙って後を追った。
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