ドンッという音が締め切った窓越しに聞こえ、俺はパソコンの画面から視線を上げた。同じように事務作業をしていた逢さんも顔を上げている。続けてドンドンと鳴り続ける音に、俺は手を止めて逢さんの方に体を向けた。
「花火、始まったみたいですね」
「ああ……。……由鶴、いま少し手を離せるか?」
「? はい、大丈夫ですよ。何かお手伝いしますか?」
「手伝いというか、……ちょっと付き合え」
逢さんはそう言うと席を立ち事務所の出入り口の扉へと向かった。首を傾げる俺を見てふっと笑い、おいでと言うように手を差し出してくる。
どこかへ行くのだろうか。毎年恒例となっている花火大会がすぐそこで始まったばかりで、事務所を出れば外はお祭り騒ぎだろう。逢さん、人混みは好きじゃないのに。
疑問に思いつつも逢さんの誘いを断るなんて選択肢は端からなく、俺も席を立って逢さんの元へ歩み寄った。差し出されたままの手の指先をちょんと掴むと手のひらを重ねて繋がれる。扉を開けた逢さんはすぐ前のエレベーターではなく、非常階段の方へ向かって行った。
建物の外に造られている非常階段へ出るともわっと蒸し暑い空気が体を包み込んだ。五月雨のような花火の音が空から、いつもより騒がしい人の声や物音が足元から聞こえてくる。
「逢さん」
「こっちだ」
こんな街のどこに行くのかと思えば、逢さんは階段を下に下るのではなく上に上っていった。繋いだままの手に引かれてその背中を追いかけ、すぐに屋上へと辿り着く。周りの高いビルに遮られて花火の全景は見えないけれど、隙間からほんの少しだけ花開く様子が見て取れた。
「……微妙だな」
その声は言葉よりも案外楽しそうで、俺は驚いて逢さんに目を向けた。口角を緩めて端の方だけ覗く花火を見つめる逢さんはやっぱり少し楽しそうだ。
「……花火、好きなんですか?」
「特に好きも嫌いもない。綺麗だとは思うが、花火大会はどうしても人が多いし、見に行きたいと思ったことは大人になってからはほとんどないかもな」
それじゃあどうして急に? 花火は止まることなく上がり続けて、その度に歓声や喝采があちこちで上がる。
俺たちの間で手は繋がれたまま。……たぶん逢さんは、俺と花火を見たくてここに上がってきたんだろう。特に好きでもないのに、それでも俺と見たかったのかな。それは、嬉しい、な。
繋いだ手をぎゅっと握ると逢さんが俺の方を向いた。横顔が花火に照らされて、瞳がきらきらと輝いて、花火よりもずっと綺麗に見える。逢さんが拗ねた顔をしたから首を傾げれば伸びてきた手が俺の頬をふにっとつまんだ。
「うあ、なんえ……」
「にやにやするな」
「……にやにやは、してないでふよ」
「してる」
「もう、ふ、ふふ」
笑っているうちに逢さんは頬をつまむ手を離して、そこをそっと撫でてくれた。にやにやしてると言われても仕方のない緩んだ顔で逢さんを見つめ、俺がほんのすこし顎を引くだけで逢さんはその瞳に熱を灯した。
同じ高さの視線を絡めて、瞼を閉じる。あなたの身長が俺より高くなくて良かった。唇を重ねるたびに思うことを今日もまた思いながらキスをして、繋いでいない方の手で逢さんの頭を優しく引き寄せた。
花火が見えなくてももう構わなかった。胸を叩くように響く花火の音は鼓動に紛れてわからなくなる。早くクーラーの効いた室内へ逢さんを連れて行ってあげたいのに、まだ、逢さんと離れたくなかった。
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