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2025-08-27 22:08:19
3777文字
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燭鶴「線香花火」

祝・光忠くんの花火ボイス!夏の終わりと線香花火と、二人の告白の話です。
去年書きかけでお蔵入りしていたのを花火ボイスのお祝い〜♬と思って完成させました。

 今日は本丸で花火祭りが行われていた。花火といっても、打ち上げではない、手持ち花火だ。
 まだまだ暑いが、一つの夏の区切りというか、終わりというか、そういう祭りだ。

「お待たせ、追加のスイカだよ。冷たいよ〜」

 光忠は大皿いっぱいのスイカを両手に持って厨から現れると縁側に並べた。今夜の花火祭りにおいて光忠は、主に食べ物の差し入れ係を買って出ていた。
 本丸の皆はよく食べるので、いろいろなものをどんどん提供している。果物、アイス、かき氷、フルーツポンチ……などなど。
 光忠が食べ物を充実させているので、花火には参加せずつまみを持ち込んで、楽しんでいる者たちの様子を見ながら酒を飲んでいる男士もいる。

 スイカの追加に歓声が上がるなか、一番にやってきたのは鶴丸だった。

「いいねぇ、ちょうど冷たいものがほしかったんだ」
 さっそく彼が一切れ取って頬張っている。そこから続いてほかの者たちがスイカを取っていったので、あっという間にスイカは捌けてしまった。

「その格好、光坊によく似合ってるぜ。しかし、きみはせっかく着替えても働き者だな」
「ありがとう、まぁ性分みたいなものだから……

 光忠は先ほどまで作業のしやすさを優先して内番用のジャージを着ていたのだ。
 しかし、ほかの皆が浴衣で楽しんでいるので、きみもせっかくなら着替えて楽しめ、と鶴丸に言われたので着替えてきたところだった。
 もっとも、着替えたところで差し入れ係として動き回ることには変わりはないのだが。とはいえ、格好を鶴丸に褒められたので着替えてきてよかったのかもしれない。嬉しい。

「それにしても、光坊のおかげで皆いっそう祭りを楽しんでるんじゃないか。きみの差し入れはいつも良いタイミングだしな。よっ、厨番長2号!」
「いやいや、番長はやめてよ、包丁くんに悪いし」
「そういえば包丁のやつ、選ばれた時にかなり恐縮してたな。もっとほかに適任がいるって」
「そう、だからあんまり僕が出しゃばらないほうがいいとは思うんだけど、今日は彼にもたくさん遊んでほしくて」

 縁側から少し離れたところを見ると、包丁藤四郎を含む短刀たちがねずみ花火ではしゃいでいるのが見えた。楽しんでいるようで何より。

「それで、鶴さんも楽しんでる?」
「そりゃもちろん。はしゃぎすぎて、さっき伽羅坊に叱られたくらいだ。だが、きみが忙しく働いているのは寂しいなぁ。もっと鶴さんとも遊んでくれ」
「またまた、そんなこと言って」
 俺は光坊がいないと寂しいんだよ、と鶴丸がふざけた調子で駄々をこねて見せたので光忠は苦笑した。

 光忠は、この人、つまり鶴丸に片想いをしているのだが、それを知ってか知らずか彼はこういう――光忠に気があるかのような――言動をよくするのだ。
 まるで鶴丸も光忠のことを好きみたいに感じるときすらあるのでちょっと困ってしまう……、のだが、ちょっとした嬉しさもあり、なんともいえない。

「光坊はずっと動き回っていたから花火に参加できなかっただろう。俺がきみの分も確保しておいたから、ちょっと向こうでしないか?」
 二人で花火をしよう、と彼が誘うので光忠は頷いてその後ろをついていった。

 鶴丸は喧噪から少し離れたところに向かっている。彼もまた光忠と同様、普段あまり見ない浴衣を着こなしているのでつい見惚れてしまってよくなかった。それはさておき。

 どうやら彼は光忠と二人きりで花火がしたいらしかった。
 光忠としては鶴丸と二人だけになれるのは願ったり叶ったりで嬉しいのだが、彼はなぜ二人きりになりたいのだろう?

「よし、ここなら集中してできるか。光坊、線香花火合戦をやるぞ」
……?合戦?」
 鶴丸が袂から取り出したのは二人分の線香花火と、点火に使うろうそくとマッチだった。
「二人のうち、どちらが長く線香花火を燃やしつづけられるかっていう勝負だ」
「なるほどね」

 どうも、真剣に勝負がしたいがために賑わいから離れたところを選んだらしい。
 光忠はそのことが分かり少し拍子抜けしたが、鶴丸が誰か一人を選ぶときに自分が選ばれたというのは嬉しいな、とも思った。

 彼がろうそくに火をつけている。一本の線香花火を受け取った。しゃがんでいる彼の隣にしゃがむ。
 そして、鶴丸と同時に花火に火をつけた。
 大の男が二人並んでしゃがんでいるのははたから見るとちょっと滑稽なのかもしれなかったが、光忠はのんびりと二人きりになれて嬉しいなと思う。

 二人の線香花火は控えめに、しかし確かに火花を散らしている。あたりに風はなく、両者の線香花火はどちらも順調に燃えていった。
「おっ、光坊のは元気だな」
「うん。鶴さんのはちょっと変わった感じに燃えてるね」
「だな」

 少しばかり会話を交わして、そのあと、しばし無言の時間があった。
 でも、こういう無言の時間も鶴丸とであれば心地いいと光忠は思った。彼にとってもそうであるといいのだけれど。
 線香花火の淡い火に照らされた鶴丸の横顔は、普段よりもあたたかな色をしていて、新鮮に綺麗だった。

……あ〜、俺のはそろそろ危ない気がしてきたな」
「えっ、そうかな?」
「よし、続きは光坊に託すぞ」
……?」
「線香花火はこの膨らんだ玉を相手に渡せるんだ。こうやって、……くっつけて、だな、」

 鶴丸が線香花火をくっつけるために光忠の方へにじりよってきた。距離がかなり近くなったので光忠が緊張しているあいだに、ついに肩と腕が触れ合う。
 思いがけず触れ合うことになって光忠はいろんなことを意識してしまい、気のせいか、少し鼓動が速くなったのを感じた。

「俺のを受け取ってくれ、光坊」

 二人の線香花火が触れ合って、鶴丸のものから光忠のものに火がついた玉が移った。光忠の線香花火が大きくなる。
 火の玉が移った瞬間、右肩に重みを感じて鶴丸がこちらにもたれかかったことに光忠は気がついた。
 彼がそのようにしてくるとは思わなかった光忠は動揺して、どうしたの、と言いかけたのだが、それよりも鶴丸の言葉のほうが早かった。

「なぁ、俺はきみのことが好きだ」

 ぱちぱちと手元の線香花火が燃えつづけている。光忠は自分の耳の奥で鼓動がうるさくなっているのを感じていた。
「えっ、え、?」
「光坊のことが好きなんだ。これを伝えたくてここにきみを誘った」

 光忠は彼の言葉を飲み込むのにやや時間がかかった。

 というのは、鶴丸が自分のことを自分と同じように好きだ、という可能性を少しも考えていなかったからである。でも、彼の言葉は嬉しかった。
 嬉しい気持ちと、先に告白されてしまったといううっすらとした悔しさみたいなものが同時にある。

「きみの線香花火が落ちるまで、こうやってくっついててもいいかい」
 鶴丸はこちらにもたれかかったまま、尋ねた。彼の声音は普段と比べるとやや丸みがあり、少し甘えているようにも感じる。
 どんな表情をしているのだろうと思ったが、なんとなく照れがあって光忠は鶴丸のほうを見ずに花火を見つめたまま口を開いた。

「終わるまでって言わずにずっとそうしててよ。僕は嬉しいよ。……僕もあなたのことが好きだから」
 右肩に鶴丸の体温を感じている。彼が微笑んだのが気配で分かった。
「あぁ、知ってる。知っているが、光坊から直接そう聞けて嬉しい」
「えっ、僕の気持ち、気づいてたの」
「そりゃずっと見ていれば気づくさ」
「えぇ、……ばればれだなんて、格好悪すぎだね」

 なんと、全然自覚はなかったのだが、気持ちがだだ漏れだったらしい。それなのに自分が臆病になって先に告白することすらできなかったことに光忠は頭を抱えた。全然格好がついていない。
 隣で鶴丸が笑っている。

「そら、花火が落ちるぞ。最後を見届けてやりな」
 彼が言うとおり線香花火は最後の力で大きく火花を散らし、そしてぽとりと地面に落ちた。

「と、いうわけで、線香花火合戦はきみの勝ちだな、光坊。そして、告白合戦は俺の勝ち、と」
 鶴丸がなんとなくいい感じにまとめて立ち上がろうとしているのを、光忠は腕を引いて引き止めた。
「待って、まだちゃんとしてない」
 再びしゃがませて向かい合うと、彼はきょとんとした顔をしている。その表情を光忠は真剣な顔で見つめた。

「僕は鶴さんのこと、好きだよ。だから僕と恋仲になってほしい」

 大事にする、と付け加えたところまで聞いて、鶴丸は困ったように笑った。
「はは、駄目押しが上手いな、きみは。こりゃ告白合戦も俺の負けだ。……光坊の大事な人にしてもらえるなら、俺は嬉しい、……そうしてくれ」

 鶴丸が照れたように笑うので、光忠もつられて微笑んだ。

「かわいいね、鶴さん」
「いやいや、光坊のほうがいつでもずっとかわいいからな?」

 そこからしばらく、お互いに相手のほうがかわいいと言って押し問答して、最終的になんだかおかしくなって一緒に笑ってしまった。

 気持ちが通じ合っているって、なんて愛おしいんだろう。
 線香花火の火は落ちてしまって夏は終わろうとしているけれど、二人の恋は始まったばかりだった。