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2025-02-22 23:04:59
3764文字
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燭鶴「猫」

燭鶴版深夜の創作60分一本勝負 お題「猫」
やきもち焼きの鶴さんと、鶴さんのことを猫だと思ってる光忠くん。最後ほんのりといかがわしい。

 鶴丸が部屋に戻ると、恋人が猫とじゃれていた。

「おぉ!?なんだか客人、いや客猫がいるじゃないか。どうしたんだい」
 鶴丸が光忠と猫のもとに近づくと、抱かれた猫がこちらに向かって手を振った。いや、正確には、猫を抱いた光忠が猫の手を動かして手を振らせているのだが。

「鶴さん、おかえり。この子ね、ちょっと主が知り合いから一時的に預かってて」
 鶴丸は片手を挙げて猫に応えると、光忠のそばに腰を下ろした。近づいてみて分かったが、とても綺麗な青の瞳をしている。白い猫だった。小さな鈴のついた首輪を付けている。

「主が面倒見てたんだけど、主もちょっと外出しないといけない用事ができちゃったから、そのあいだだけ僕が様子を見ておくことになったんだ」
「そうだったのか。てっきりどこかから拾ってきたのかと思ったが、それにしちゃ綺麗な猫だもんな。よく手入れされてる」
「ね、綺麗な猫ちゃんだよね。ミーくんだって」
「名前にひねりがなさすぎないか?」

 鶴丸は少し笑って、頭を撫でようと手を差し出した。差し出した鶴丸の指先を、猫は丁寧に嗅いで検分している。どうやら鶴丸のことをあまりお気に召さなかったようで、ちょっとしか頭を撫でることができなかった。この猫はどうやら光忠のほうを気に入っているらしい。彼の膝の上で機嫌良さそうにしている。

「僕、なんだか好かれてるみたいなんだ。猫ちゃんを抱くのは初めてだったけど、この子はとっても良くしてくれてるよ」
「光坊の良さが分かるとは、きみも見る目があるな。この男は確かに面倒見が良くて世話好きだぜ。猫の相手に十分だろう」
「すごくやわらかくて潰しちゃわないか心配だよ」
「大丈夫さ、そんなに軟じゃないはずだぜ、猫だって」

 そうかなぁ、と光忠は困ったように笑って、膝の上の猫を丁寧に撫でた。その様子を眺めながら、鶴丸はなんだかよく分からない感覚に襲われたのだが、それがなんなのか、いまいち分からない。とりあえず、気にしないでおくことにして。

「潰しちゃわないか心配になって、それで、鶴さんのことを考えてたんだ」
……???俺?」
「そう、僕が鶴さんを抱きしめるとき、あんまりに細いから潰しちゃわないかっていつも思ってるから」
「おいおい、俺もそんなに軟じゃないぞ」
「うん、でもなんか、鶴さんと猫ちゃんには同じ繊細さを感じたんだ」

 なるほどよく分からん、と鶴丸は曖昧に頷いた。どうやら、彼は猫と鶴丸のあいだに共通項を見出しているようだった。

「そう思ったら、ほかにも鶴さんと猫ちゃんって似てるなって思って……。猫ちゃんに似てるって、ほかの誰かにも言われたことない?」
「いや、言われたことはないが……、しかし、きみが俺を猫に似ていると思った理由は聞いてみたい」
「そうだね、いくつか理由はあるけど、さっき言ったみたいに抱きしめたら潰れちゃいそうなところでしょ、」

 白猫は光忠にたいそう懐いているようだ。猫は頭をぐりぐりと彼のお腹に押しつけている。それに応じるように光忠の手がその背を撫でる。それを見る鶴丸の内側に、なんだか捉えどころのない感情が湧いてくる。

「それと、この子を抱きしめて毛並みに顔を埋めたらすごく癒やされたんだけど、」
「猫吸いと言われるやつだな」
「そうそう。それが、鶴さんを後ろから抱きしめて頭に顔を埋めたときに癒やされる感じと似てて」
「!?きみ、背後から抱きついてくるとき、俺を吸ってたのか?」
「うん、ごめんね、エネルギーを補給したくて」
「いや、きみが元気になるなら好きなだけ鶴吸いすればいいが……

 猫は相変わらず光忠の手のひらを享受している。よほど心地がいいのか、もっと撫でろと要求しているようだ。それに応えて彼が猫の背を撫でる。それを見ている鶴丸は、なんだかもやっとしている。
 もやっと。
 そう、なんだかもやっとしているのだ。どうしてだろう。あまり深く考えないようにしつつ、鶴丸は、ほかには?と光忠に尋ねた。ほかにも共通項はあるようだったから。

「うん、この子が動くと鈴が揺れるでしょ。それが鶴さんの首の鎖が揺れるのに似てる気がしてね」
「そりゃちょっとこじつけすぎだな。聞いてるとそんなに俺と猫は似てないぜ」
「そうかなぁ。ほかにもあるよ?寝てるとき僕の懐に入ってきて丸まってるのとか、猫ちゃんっぽいなって思うよ。明け方ごろには布団の中央を陣取って僕を端っこに追いやってるのも、猫ちゃんっぽい」
「その件については……、いつも布団から追い出してすまん」

 笑った光忠の手のひらは、相変わらず猫を撫でつづけている。もっと撫でろ、と白猫は鳴いて要求して、その声を聞いて光忠は優しい瞳で微笑んだ。猫がひとしきり手のひらにすり寄る。鶴丸の中にもやっとした感覚が重なっていく。

「まぁ、とにかく、鶴さんって猫ちゃんなんだよ」
 光忠は最終的に雑な結論を口にして、一人で頷いている。膝の上の猫はといえば、ひととおり撫でてもらって満足したのか、光忠の脚の上で眠ろうとしはじめていた。それを慈しむように、光忠が撫でている。大きい、優しい手のひらで。

「なぁ、光坊。もし、俺が猫だとするなら、だ」
「うん、鶴さんは猫ちゃんだよ」
「なら、きみの手のひらをもらう権利は俺にもあるはずだ」
……?」
 こちらの言った意味が分からずに首を傾げた光忠をよそに、鶴丸は手を伸ばして、今にも膝の上で眠ろうとしていた白猫を抱き上げた。

「ミー坊、悪いがきみが寝床にしようとしていたこいつは俺専用なんだ。返してくれるかい。代わりに俺の羽織をやるから。ポンポンもついてるぞ」
 鶴丸は羽織を脱いで軽く形をベッドのように整えると、そこに抱き上げた猫を下ろした。猫は眠りかかっていたところを持ち上げられたので、眠そうにしていたが、すぐに羽織の上で丸くなった。
 鶴丸はそれを見届けて、そのままためらいなく光忠のほうへ倒れ込んで膝に頭を乗せた。

「わ、鶴さん、どうしたの」
「ほら光坊、こっちも猫だぜ。頭を撫でてやりな」
 光忠はきょとんとして、そして笑いだした。彼が笑った意味が分かったので、鶴丸はなんとなく口をとがらせた。
「なんだ、鶴さん、鶴さんも撫でられたかったんだね」
「大人げなくて悪かったな」
「いや、悪くないよ、すごくかわいいなって思っただけ」

 言いながら彼が鶴丸の頭を撫でる。光忠の手のひらが穏やかに髪の上をすべっていくのが心地よかった。

「きみがあんまりにも優しい目であの子を見て、柔らかな手つきで撫でてやってるものだから、その手のひらは俺のものなのにな、と思っただけだ」
「それって……、やきもち?」
「さてな。……これは聞いた話だが、猫ってのは嫉妬深いらしいぜ。要するに、光坊から見て俺が猫なら、つまりはそういうことだ」

 遠回しに猫にさえ嫉妬したのだ、と告げた鶴丸を、かわいいと光忠は言って、手のひらで慈しんだ。
 この青年の手のひらのあたたかさを知っているから、この最上級に優しい手で撫でられるのは、自分だけであってほしいと思う。子どものような独占欲だった。

「猫ちゃんを飼うのもいいなってさっき思ってたんだけど、僕にはもう、僕の猫ちゃんがいたね」
「そうだぜ、でかくて白い猫がな」
「うん、ちょっとやきもち焼きの、撫でられるのが好きな猫ちゃんだ」

 だからたくさん撫でてあげなきゃ、と言って光忠は鶴丸を撫でつづけている。それに満足して、鶴丸は目を閉じた。猫みたいに。

「ところで、大きな猫ちゃんはあの子みたいに鳴いてくれないのかな」
……?にゃーん、?」
 よく分からない要望があったので、鶴丸は適当に鳴いてみた。光忠は首を振る。
「猫ちゃんだから、もっとかわいい鳴き方のはずだよ」
……、にゃ〜ん、」
「ちがうよ、もっとこう……、」
……にゃー……
「猫ちゃんなのに鳴き声がちょっと渋いよ?」
……うにゃ~……

 もう何を望まれているのか分からなくなってきた。というか自分が何を言っているのかも分からなくなってきた。いい歳した刀がどうしてにゃーんと言っているんだ。
「ふふ、かわいいね、鶴さん」
 まぁ、光忠はなんだか嬉しそうにしているのでよしとするか。どうもよく分からない嗜好に付き合わされたようだ。

「ま、本当に鳴いてほしいなら、だ。光坊」
 鶴丸は光忠を見上げて手を伸ばした。指先で彼の頬に触れる。
「きみが俺を鳴かせてくれよ。今夜にでも」
「えっ」
 光忠はこちらを見下ろしてかたまってしまった。数秒の間があって、彼が尋ねる。
「それって、お誘い?」
「じゃなかったらなんなんだ。そうに決まっている。そうだ、猫耳のオプションでも付けてやろうか?」

 光忠の表情を見ているだけで、彼がどきどきしているのが分かった。かわいい男。一瞬ためらって、光忠は口を開いた。
「オプション付きで、お願いします……
「はは、素直でけっこう!」
 じゃあ、今夜楽しみにしているといい、だなんて鶴丸がのたまって、それに光忠がどぎまぎして睦言を交わす。それを丸まった白猫がやれやれと眺めていたのであった。