何かが自分の脚のあいだをまさぐっている感覚で光忠は目を覚ました。はじめは自分が寝ぼけているのかと思ったのだが、やはり、何かが脚の間をうごめいている。
「えっと……、鶴、さん?」
寝起きなのでやや掠れた声になってしまった。
この部屋には、自分を除くと鶴丸しかいない。だから、なんだかよく分からないけれど、脚のあたりに触れているものはたぶん、彼の手か何かだろうと思った。鶴丸の方に背を向けるかたちで横を向いて眠っていたので、なんとか首だけで後ろを振り返ってみたものの、彼の身体は全体的に布団の中に引きこもっていて、何をしているのか分からない。彼とは恋仲なので、夜這いという可能性も考えられたが、それにしては拙い手つきのように感じられたし、それならばもっとこう……、なんというか、股座のほうを狙うと思う。たぶん。
「鶴さん?何してるの」
もう一度はっきり声をかけると、鶴丸の手(暫定)が止まった。
「おっと、光坊。起きたのか。すまん、起こして」
「さすがにあんなに脚を触られてたら起きるよ」
布団の中から鶴丸が出てくる気配がしたので、光忠は身体を反転させて彼の方に向き直った。
「眠れないの?というか、何してたの?」
「いや、寝ようにもあまりに手が冷たくてな」
「うん、そうなんだね。……それで、なんで僕をまさぐってたの?」
「きみの脚のあいだに手を挟んで暖を取ろうと思ったんだ。寝るときに脚のあいだに手を挟むとあたたかいと、昨夜、秋田が話していてな。あまりに手が冷えていたからそれを試してみたんだが、どうにも、手が冷たすぎるのかあまり効果がなかった。光坊はいつもあたたかいから」
「なるほど……、それで僕の脚のあいだのほうがあたたかいと思って手を入れようとしてたんだね。全然、起こしてくれたら鶴さんのことあたためるのに」
「気持ちよさそうに寝ていたもんだから起こせなかった。まぁ、こうして起こしてしまったんだが……。すまん」
鶴丸は顔の前で両手を合わせて、謝った。いや、全然、光忠としては気にならないけれども。
「ちょっとびっくりしたけど、大丈夫だよ。夜這いかと思った」
「そっちも期待させてすまんな」
「いや、夜這いを期待はしてないけど」
「俺のほうはいつでも歓迎だ」
「いや、僕が夜這いすることもないけどね?!」
光忠が真剣に否定したら、鶴丸は笑って、そして小さなくしゃみをした。
「鶴さん、本当に寒いんだね。こっちにおいで、僕がぎゅっとするから」
こちらの懐に招くと、彼は素直に転がり込んできた。背中側から抱きこむと、確かに鶴丸の身体は冷えている。両腕をその身体に回して、回した両手で彼の両手を挟んだ。こちらもとても冷えている。
「光坊はどうしてそんなにぬくいんだ」
「僕があたたかいんじゃなくて、鶴さんが冷たいんだよ」
「爺ということか……」
光忠は両手で挟んだ鶴丸の指先を、握ったり離したりしてあたたかくなるように揉んだ。自分の手と比べると、骨っぽい、ほっそりとした指だ。
「光坊に挟まれたらそれはそれはあたたかいだろうな」
「僕に挟まれる……?」
「きみが二人いて、その二人のあいだに俺が挟まれて、その状態で寝てみたい。きっと布団をかぶったりするよりもあたたかいはずだ」
「僕が二人いたら、二人で鶴さんを取り合いだよ」
「おいおい、同じ光坊同士じゃないか、仲良くしてくれ」
「鶴さんだって、鶴さんが二人いたらきっと僕を取り合うよ」
「それはそうだな」
光忠の腕の中で鶴丸が笑って、その振動を身体に感じる。
「光坊が二人いなくても、こうして懐の中にいれば十分あたたかい」
「そうだよ、僕は一人で十分。この僕だけが鶴さんをあたためるんだから」
抱き込まれた状態で鶴丸は身体の向きを変えて、光忠の方を見た。振り返った彼は、両手で光忠の頰を挟んだ。多少はあたたかくなったはずだとはいえ、その手はまだひんやりとしている。鶴丸はしばらく手のひらの下で光忠の頰をつぶして遊んでいた。
「どうだ、きみのおかげであたたかくなったはずだ」
「いや、まだまだ冷たいよ。あったかくなって寝れるまでくっついていようね」
「脚のあいだにも俺を入れてくれ」
鶴丸はそう言って、片脚を光忠の脚のあいだにねじこんできた。脚と脚が絡み合う状態になる。
「あ〜これはいい。ぬくいぬくい」
光忠の両脚のあいだに片脚を挟まれて鶴丸は満足そうにしている。彼がいいならいいのだが、この態勢、光忠としては少々落ち着かない心地があり……。
「きみのおかげでよく眠れそうだ。ありがとうな」
「……うん、鶴さんがあったかいならいいんだけど」
ぬくい、眠い、おやすみ、と鶴丸は呟いて、次の瞬間には子供のように寝息を立てはじめた。
光忠はといえば、両脚のあいだに恋人の白くしなやかな脚を挟んで、その脚が股座でときどき動くのを感じながら、「夜這いは歓迎」って本当だろうか、でも暖をこちらに求めてくっついてくるのは幼くてかわいいしぽかぽかで気持ちよさそうに寝ているし、だいたい本人が歓迎してるとはいえ寝入りに手を出すのって道徳的にだめでは?だとか、いやそもそも鶴さんがこんなに脚を絡めてくるのがいけないんじゃないかとか、様々な思考が入ったり来たりしつつ、煩悩を抑えてこの一晩を過ごすことになったのだった。
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