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2024-12-28 22:36:01
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燭鶴

燭鶴版深夜の創作60分一本勝負 お題「大晦日/かえる」
「かえる」は「趣向を変える」の形でお借りしました。
恋仲としての関係を進展させたい…!シンプルに言えばキスしたい…!と思ってる鶴さんの奮闘です。

「光坊!いるか?」
 目的の人物が在室であることは外から分かっていたものの、一応、声をかけながら鶴丸は部屋の戸を開けた。恋仲になってからはいつでも入ってきていいとは言われているものの、それなりの礼儀というものは必要だろう。

「鶴さん、いらっしゃい。どうしたの?」
 ちょうどお茶の誘いに行こうと思っていたところだった、と光忠は言う。二人分用意された湯呑みに急須から緑茶を注ぐ光忠の隣に行って腰を下ろす。

「きみにちょっとばかし相談があってな」
「相談?」
 鶴丸は頷いた。湯呑みが差し出されたので礼を言って受け取る。
「大晦日の年越しについてなんだが……
「あ、鶴さんが毎年どうやって面白く年を越すかチャレンジしてるってやつ?」
「そうだ、話が早くて助かる」
 鶴丸は歯を見せて笑って、湯呑みに口をつけた。まだちょっと、飲むには熱い。

「今年は光坊に協力してほしいのさ」
「二人で何かするってことかな」
「ま、端的に言えばそういうことだ。まぁ、なんだ、その――せっかくこういう関係になったわけだし、と思ってな」
「そっかぁ」
 へへ、と光忠は嬉しそうに頰を緩めた。たぶん、鶴丸が自分と恋仲であるということを大事にしているという発言として捉えたのだろう。まぁ、だいたい合っている。

「これまではけっこう鶴さん、いろんなことしてたよね。本丸の屋根に登って飛び降りて、年越しを空中で迎えたりとか、滝行したりとか、あとどんなことしてたっけ……、玉乗りとかもしてたような」
「よく覚えてるな、きみ」
「そりゃ、ずっと鶴さんのことが好きだったからね」

 光忠と恋仲になったのは、三ヶ月ほど前のことである。互いになしくずしのような状況だったが、両想いであることが発覚して、こういう関係になった。まだとても清い関係だ。それはもう、びっくりするくらい清い。

「光坊の言うとおりいろんなことを大晦日にしてきたわけだが、今年は趣向を変えたいわけだ。それできみに協力してほしい」
「うん、僕ができることならなんでもいいよ」
「しかし、まだ具体的な内容を思いついていないんだ。なんというか、俺としては、きみとの間柄だからこそできる何かをやりたいと思っている」
「なるほどね」
 恋人同士だからこそってことだよね?と光忠は合点したように呟いて、ふむ、と腕を組んだ。


 具体的な内容を思いついていない、という鶴丸の言葉は嘘だ。


 鶴丸にはすでに具体的な案があり、しかしそれを自分から提案するのではなく、光忠からの提案という形に持っていきたいのだった。つまり、この大晦日の年越しの相談というのは、すべてがある目的のための手段なのである。
 この一連の計画を、そう、言うなれば、ファーストキス作戦と名付けよう(?)。

 光忠との関係は清いのだが、どのくらい清いかと言うと手を繋いだ回数がまだ両手で数えられるくらい、というところから察してほしい。つまり、恋仲になる前と接し方がほとんど変わらないのだ。鶴丸は、はじめのうちは、彼は奥手なのだろうな、と思っていたのだがだんだんと焦れてきている。
 付き合ったのだから、触れるだけの口づけくらい、してもいいのではないか?

 鶴丸としてはそういう触れあいをしたいのだ。しかし、自分ばかりがそうしたいと思っているのではないか?という疑念があり、いまいち積極的になれずにもいる。キスをしたいのなら、さっさと唇を奪ってみせればいいのかもしれないが、光忠にその気がなく、不同意となってしまってはよくないだろう。それに、彼は優しいから、鶴丸がねだればなんだってしてくれてしまう。そうではなく、彼自身の欲求として、そういうことをしたい、と感じてほしい。

 と、いうわけで、光忠が口づけをしたくなるようにいろいろな手段を講じてきた。たとえば、審神者の時代にあるという「ポッキーゲーム」というものを提案してみたし、クリスマスにもそれらしい雰囲気を醸し出してみた。が、どれも成功に至らず、未だにキスの一つもしたことがないという状況である。

 そういうことで鶴丸は今回の作戦に出たのだった。恋人としかできないことをしながら大晦日は年を越したい、何か案はないか?と光忠に問いかけることによって、「年越しの瞬間、キスしてみる?」みたいな言葉を彼から引き出そうとしている。はたして。

「恋人同士でしかできないことって改めて言われると、なんだろう?僕と鶴さんはもともと仲良しだったからね、けっこうなんでもできたよ」
「いや、この関係でないとできないことっていうのは、いろいろあるんじゃないか?」
「そうかな?たとえば?」
「た、とえば、……、そうだな、……うーん」
「やっぱりあんまり思いつかないよね」
 そんなわけあるか!と鶴丸は内心でつっこんだ。あるだろう、それこそキスとか、その先とか、あるだろう!と思ってはいるのだが、その選択肢を光忠のほうから提案されることに意味があるので鶴丸のほうから言い出すわけにはいかなかった。

「何かあるかな……、僕としては鶴さんが毎年、年越しのときにやってる何か面白いことを一緒にするのも楽しいと思うんだけど、趣向を変えたいんだよね?二人でじゃないとできないことをしたい、んだよね」
「そうだ、『恋仲じゃないと』できないことをやってみたい」
「うーん」
 腕を組んだ光忠は首をひねっている。ひょっとして、だが、この男、恋仲じゃないとできないようなことをしたいという欲が一切ないんじゃないかという気がしてくる。そうだとしたら、少し寂しいが。
「もっと頭をひねってくれ、光坊。俺としてもお手上げなんだ」
「うん、頑張って考えるよ。せっかく鶴さんが僕と何かしたいと思ってくれたんだし」
「『恋仲の』きみと、だぞ」
「うん、へへ、嬉しい」
 光忠は鶴丸と恋仲であるということは大事に思っているようである。それならば、何か関係を進展させたいというか、清い関係から先に進めたいと思っていてもおかしくないと思うのだが、いかんせん、彼からなかなかその選択肢が出てこない。

「一緒にお風呂入る、とか?」
「そりゃ恋仲になる前から一緒に入っていただろう。今回の条件には合わない」
「そうだよね」
 光忠が首を逆方向にひねる。よくよく考えているようだ。

「一つの杯でお酒を飲むとか」
「なんだか儀式めいてるな」
「違うよね。それに間接キスになっちゃってよくないか」
「いや!?よくなくはないけどな!?」
 鶴丸は光忠のこれまでの中で、一番キスに近い言葉が出てきたので身を乗り出した。そう!そういう方向性だ!間接キス程度で身を引こうとするな、その先だ!

「じゃあ、マッサージとか?うーん、でも僕、マッサージとかだったら鶴さん相手じゃなくても貞ちゃんとかにもするし」
「馬鹿馬鹿、だめだ、きみに提案を任せていると埒が明かない。なんなんだ、光坊、きみ、にぶちんなのか?」
「え?どういうこと?ごめん、なんか全然いい案が出せなくて」
「いや、謝ることはないが……、ないが、こう、普通、恋人同士でしかできないことって言ったら、キス、とか、その先、とかなんじゃないか……???」
 だめだ、言ってしまった。しかし、このにぶちんに任せていては永久に作戦が成功しないと思って、計画変更である。こうなったら、鶴丸から言い出すしかない。

「あのな、その――、これはあくまで俺が、という話なんだが、俺はきみと口づけとか、そういうことをしてみたい、と思っている。いや、これは俺がそう思っているだけだから、きみに強要するつもりはない。だからこう、光坊がそういうことをしたくなるようにいろいろやってみたんだが、」
 だから今回の相談も、キスを引き出すための一つの茶番でしかなかったのだ、すまん、と鶴丸は困ったように笑った。

「鶴さん、キスがしたいの?」
「俺は、な。ただ、どうにも、光坊はそういう欲求がなさそうだ」
 これまでの様々な試みが失敗に終わったことを思い返しながら、鶴丸は苦笑する。一方で、光忠は驚いたように目を丸くしていた。

「えっ、僕もしたいよ」
……は?え?しかし、きみはこれまでそういう雰囲気になってもさっぱりだっただろう」
「いや、それは、安易に雰囲気に流されるのは格好悪いかなって……、思って……、なんかもっとこう、僕自身が主導的にそういうことするほうが、格好いいかなって……
 あはは……、と困ったように笑う光忠は、別ににぶちんというわけではなく、これまでのそういう雰囲気を感じ取っていたようだ。それが鶴丸によって意図的に発生させられていた雰囲気であるとまでは思っていなかったようだが。

「きみの格好つけのために俺はお預けをくらってたのか???」
「ごめんね、なんか鶴さんがそんなにキスしたがってるって知らなくて、僕はすごくゆっくり関係が進めばいいと思ってたから」
「人を好色みたいに言うんじゃない」
 やれやれ、と鶴丸はため息をついて、肩をすくめた。
「まったく、こうなったからには、年越しは口づけと決まりだからな。恋仲でしかできないことをするっていうのは、そういうことだ」

「あのさ、それは、大晦日が初めてじゃないとだめ?」
……?」
「いや、その、まず今、一回、キスをしてもいい……?」
 光忠が上目遣いでそう言うので、鶴丸はきょとんとしてしまった。
「なんだ、急に積極的だな」
「僕の一方的な気持ちじゃなくて、鶴さんもキスしたいと思ってるって分かったからにはね。善は急げって言うし」
「今までさんざんお預けにしておいてよく言うぜ……
 鶴丸は呆れて笑いながら言って、人差し指を彼の唇に伸ばした。
「早ければ早いほどいいっていうのは、同感だ。大晦日にもこれをもらうが、今この瞬間にもこれをくれ」

 光忠はそれは嬉しそうに微笑んで、片手で鶴丸の頰を包んだ。二人の距離が近づく。鶴丸は距離が縮まるぎりぎりまで彼の瞳を見て、そして目を閉じた。目を閉じた瞬間、唇と唇が触れ合った。

 予定日時よりも早まったが、これにてファーストキス作戦(?)は遂行された。これからは、もっとこの口づけという営みが日常になるだろう。大晦日を迎えるまでに、もう何度かこうしたい、なんなら大晦日にはまた少し関係を進めたい、と欲を深めながら、鶴丸は恋人の唇を受け入れていた。