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2024-11-23 23:15:34
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燭鶴

燭鶴版深夜の創作60分一本勝負 お題「かしげる」

キスをしてほしいときに見せる鶴丸の癖の話。なんだかんだキスしつつしけこんでいく二人です。

 光忠の恋人である鶴丸にはある癖がある。それは、主に二人きりでいるときによく現れる癖だった。
 そう、今みたいに二人きりでいるときに。


 今日は鶴丸が鶴丸国永の会(?)(ほかの本丸の鶴丸国永との交流会らしい)のビンゴで景品としてもらってきたジェンガに、光忠の部屋で二人で興じていた。すでに三回勝負で、今のところ勝敗は一勝一敗である。
 二人でこうして、ボードゲームとでもいうのだろうか、そういう遊びに興じることはよくあることだった。オセロをしたり、将棋をしたり、二人でできるカードゲームをしたり。

 そうしてふたりで遊んでいるときによく見られる鶴丸の癖があるのだ。
 首を彼自身の右に傾げる癖だ。
 ほら、今も右側に首を傾げている。

 これは、次の手について考え込んでいる仕草ではない。初めのころ、光忠も鶴丸が首を傾げるのを、考え込んでいることの現れだと思っていた。が、そうではなかった。しばらく観察していて分かったのだが、彼が本当に考え込んでいるときは、首を左に傾げるのだ。
 では、右に傾げるときはどういうときなのか。それは、どうやら鶴丸がキスをしたいと思っているときのようだった。

 いや、本人に直接聞いたことはない。ただ、右に首を傾げているとき、キスを待っている様子に似ているなと光忠がある時思って、それでキスをしてみたら、彼はとても満足そうにしていたのだ。だから、あの癖はキス待ちの癖なのだな、と光忠は理解することにしている。
 と、いうわけで、目の前の鶴丸は、今もまた、首を右に傾げているのだった。

「っ、と、まだまだいけそうだな。次、光坊だぜ」
 ジェンガから一本を抜き取った鶴丸は、まるで自分がキスを待っていないかのような様子で光忠に順番を促した。いや、本当に彼自身には自覚はないのかもしれない。無意識に首を傾げて、キスを待っているのかも。

「けっこう、ぐらついてきたね」
 光忠は抜き取る一本を選びながら、ちら、と鶴丸の様子を伺った。あ、また首を右に傾げている。

 ここで光忠はふと思った。この癖に気づかないふりをしたらどうなるのだろう。いつもであれば、彼が首を傾げる癖を見せているとき、光忠はなるべく早く口づけるようにしている。満足そうにしているこの人はかわいいし、光忠としてもキスはいつでも大歓迎だ。

 ただ、今日は少し違った。ちょっとした悪戯心だ。もし、鶴丸の癖に光忠が気づかないとしたら、彼はどうするのだろうか。もしかして、鶴丸のほうから口づけてくれるのでは?
 彼のほうから積極的にキスをすることはめずらしいので、光忠はそれをちょっと期待して、あえて鶴丸が首を傾げていることに気づかないふりをすることにした。

「うーん、どこを取るか迷うな……
 光忠は長めに迷いながら鶴丸の様子をうかがった。相変わらず首が少し右側に傾げられている。あえてそれに気づかないでいると、彼が首を傾げる角度はどんどん大きくなって、身体ごと右に倒れてしまいそうですらある。
「じゃあ、ここを……、うん、まだ大丈夫。ハラハラするね」

 光忠が一本を抜き取って、鶴さんの番だよ、と告げると、彼は一瞬きょとんとしてから頷いた。キスをされなかったのが意外だったのかもしれない。

 そうやって、交互にジェンガから一本を抜き取りながらゲームは進んだ。鶴丸はしばしば、首を右に傾げていたけれど、光忠はそれに気づかないふりをしつづけた。
 ゲームは進み、けっこうジェンガのタワーが揺れるようになって来たところでの、鶴丸の番。彼は抜き取るところを迷いながら、不意に口を開いた。

「光坊、今日はおとなしいな」
……?おとなしい?」
「きみ、ゲームをしているとき、隙あらば口づけてくるだろう」
「え?」
 思ってもみない言葉だったので、光忠は間抜けな返事で応えてしまった。いやいや、隙あらばキスをされたがっているのはあなたのほうでしょう、と思う。だって、光忠は、鶴丸が首を傾げるタイミングでしか口づけていないのだから。

「キス魔扱いするのやめてよ」
「違うのか?しょっちゅうされてるが」
「だって、鶴さんがされたがってるから」
「俺はしてほしいなんて言ったことないぞ?」
 鶴丸は首を傾げながら(この傾げる方向は左側で、不可解に思っているのを示していた)、ジェンガを抜き取ろうとしている。

「ううん、鶴さん、身体でそう言ってるから、見てたら分かるよ。今日、ほとんど身体ごと傾いて首傾げてたもんね。僕がそれに気づかないでいたから、寂しかった?」
……!??」

 光忠は、特に特別なことを言ったつもりはなかったのだが――いや、茶化す気持ちはちょっとあったかもしれない――、思いのほか鶴丸は動揺して彼の手元が狂った。抜き取りかけていたジェンガの一本がほかの部分にぶつかり、それはタワー全体を揺らす揺れとなって、そしてジェンガのタワーは崩れた。

「あれ、僕の勝ちだね。ラッキー、なのかな?」
「光坊、勝ちたいからといってもこういうズルはどうかと思うぜ」
「いや、勝とうとしたわけじゃないよ。そういう意図じゃなかったし……、鶴さんが勝手に動揺しただけで」

 いや、しかし、あの言葉で動揺するということは、やはり鶴丸が首を傾げるのはキスを待っているということに間違いはなくて、そして、それは自覚のある癖だったということなのだろうか?

「いつから、」
……?」
「きみ、いつから気づいてたんだ?その、その――
「鶴さんが首を傾げてるときにキスをされたがってるってことに?」
 鶴丸は不服そうに頷いた。いや、これは不服そうなのではなくて、たぶん羞恥による表情だろう。

「いつだろう……、なんか急にピンときて、キスしてみたときに、鶴さんが満足そうにしてたから」
 だから、気をつけて観察するようにしていたのだ、と光忠が言うと、鶴丸は困ったように笑った。
「こりゃもう形無しだな」
「そう?かわいいよ」
「俺はてっきり――

 鶴丸は、てっきり光忠のほうも自分と同じくらいの頻度でキスをしたくなるのだと思っていたらしい。気が合うな、程度の。まさか、自分の癖を観察されて、それに呼応するようなかたちで口づけられているとは思っていなかったようだ。

「どうりでいつも光坊のタイミングがいいわけだ」
「うん、僕ってけっこう鶴さんのこと見てるでしょ」
「いや〜、きみの言葉を借りるなら『敵わん』な」
 鶴丸は茶化すように言って、後頭部の髪を乱した。たぶん、いろんな気持ちをごまかしている。

「でも鶴さん、キスしたいときはそう言ってくれていいし、鶴さんのほうからしてくれてもいいんだよ?そんな、分かるか分からないかのささやかなサインじゃなくても」
「しかしな、光坊、」
 鶴丸は先を続けるべきかしばらく迷って、ようやく続きを口にした。

「俺はきみと口づけたいタイミングが多すぎるんだ。俺に付き合ってると唇が腫れるぞ。ささやかなサインにきみが気づいたときくらいでいい」
「でも、今のところずっと気づいてるから、一緒じゃない?」
「そうだ、光坊は察しがよすぎる」
「鶴さんが分かりやすいんだよ」
 なんだと?と鶴丸はふざけて口を尖らせて、崩れたジェンガを一つ投げつけてきた。

「僕は全然、鶴さんがしたいと思ってることに気づいてこれからもキスするけど、鶴さんのほうからもされてみたいな」
「なら、きみも首を傾げてみるといい」

 こう?と光忠が右に首を傾げて見せると、隣に座っていた鶴丸は頷いて手をこちらに伸ばして、ぐい、とネクタイを引っ張った。前のめりになった光忠の唇に、彼の唇が重なる。唇を重ねて、彼は光忠のものを食み、吸って、それはそれは長く口づけていた。
 ようやく唇を離して、鶴丸は不敵に笑った。

「な?これに付き合ってると唇が腫れるだろう?」
 光忠はといえば、別のスイッチが入っているのだった。ちら、と視線を一瞬だけ自分の下半身に落とす。
「唇じゃなくて、別のところが腫れそうかな」
「おい、もうちょっとましな誘い方をしたほうがいいぜ」

 鶴丸は呆れたように言いながら笑って、しかし、まんざらでもなさそうだった。さて、ジェンガのゲームは終わり。このあとは、別のゲームをしよう。恋人同士でしか、しないゲームを。