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2024-09-28 15:19:38
3977文字
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燭鶴

燭鶴版深夜の創作60分一本勝負 お題「カウンター」

バーカウンターということでお題をいただきました。光忠が脳内で勝手に振られていますが、振られていません。仲良し。

「あの、鶴さん?何してるの?」

 光忠は先ほどから自分のいるテーブルに鶴丸が次々にいろいろな種類の酒瓶を持ってくるのを見ながら尋ねた。
 今日は本丸での宴会だった。もうかなり盛り上がったあとであり、部屋に戻った者や、酔いつぶれている者、広間の隅で話が盛り上がっている者たちなどが、それぞれ好きなことをやっている。

 光忠は少し前まで料理を追加で作ったり配膳したりしていたので、今ようやく食事にありついていたところだった(このことについて不満はない、むしろ張り切って仕事をした)。光忠が食べる分として、太鼓鐘貞宗が取り分けていてくれたのだった。ありがたい。盛り上がり切った広間を見ながら食べる料理はおいしい。

 そうして光忠が一人で食事をしているところに、鶴丸がやってきたのだが、どうも様子がおかしい。先ほども言ったようにたくさんの酒瓶を光忠のそばに並べているのである。何をしようというのか。飲み比べとか?

「よし、おおかた揃ったな」
「うん、何を始めるのかな?鶴さん」
「これでバーカウンターをやってくれ!光坊」
 鶴丸はテーブルを挟んで光忠の反対側に座ると、こちらの目の前にマドラーが入ったグラスを置いた。
「バーカウンター?」
「そうだ。きみ、カクテルの知識があると言っていただろう」
「あ、うん、少しだけね。……あっ、カクテルを作ってほしいってこと?」
「有り体に言えばそうだな。カクテルバー光忠ってわけだ」

 シェイカーがこの本丸にないか鶴丸は探したらしいのだが、見つからず、代わりにグラスとマドラーを持ってきたとのことだった。

「オーケー!じゃあ、このテーブルをバーカウンターとしようか。鶴さん、いろんなお酒持ってきたね。どんなのが飲みたい?爽やかなのとか、甘いのとか」
「なら、すっきりしたもので頼む」
 鶴丸の言葉に頷いて、光忠は用意されているお酒を見て考えた。よし、これとこれにしよう。

 鶴丸は準備良く氷も持ってきていたので、氷も入れて、カクテルの完成だ。どうぞ、と正面の鶴丸にすべらせるように差し出すと、口をつけて彼は満足げにしている。

「ところで光坊、バーテンダーというのは客の相談を聞いてくれたりするらしい」
「バーテンダーって僕のことか。鶴さん、何か困ってることがあるの?」
「困っているわけじゃないんだが、聞いてほしいことがあってな」

 なるほど、鶴丸の本題はたぶんこっちなのだ。相談を持ちかけるために、バーカウンターごっこを始めたのだろう。彼にはこういうちょっと素直じゃないところがある。

「僕でよければ何でも聞くよ」
「ああ、助かる。というのはな……、どうも俺は、とある男士に懸想されているようなんだ」
「えっ、恋愛感情を向けられてるんだ」

 鶴丸の言葉は光忠にとって予想外で、そのまま口に出して反芻してしまった。彼が誰かに想われているというのは、驚きというか想定外である。なぜなら、それはつまり、光忠にとってライバルとなる相手がほかにいるということを意味するからだ。
 そう、光忠は鶴丸に恋をしている。いつか気持ちを告げたいと思いながらも、なかなか踏み出せずにいる。自分の気持ちはしっかり隠しているので、鶴丸は気がついていないはずだ。というか、気づいていないからこそ、「とある男士に懸想されている」という相談を持ちかけてきたのだろう。

「どうして鶴さんは懸想されていると思ったの?」
「そうだな、そいつは俺に接するとき、明らかにほかのやつに対するときと様子が違うんだ。たとえば、俺がそいつの部屋に行くと、いつも俺が食べたいと言っていた菓子が用意されている。出陣から戻ったときにはいつも欠かさず顔を出して迎えてねぎらってくれるし、俺のことを特別に格好いいといって慕ってくれている。それに、俺の名前を呼ぶとき、そいつはとても大切なものを見る目で俺を見るんだ」
「なるほど……、それは確かに、その人は鶴さんのことが好きなのかもしれないね」

 光忠は内心、うーん……、と唸った。鶴丸の話が正しければ、確かにその人は鶴丸のことをかなり好いているに違いない。これは強力なライバルである。

「えっと、……鶴さんは、そういうふうに想われていて困ってるのかな」
 光忠は恐る恐る尋ねた。鶴丸が、そもそも誰かに恋愛感情を向けられることが不快だったらどうしよう。そうだとするならば、自分の気持ちはこれからもいっそう隠しておかなくてはなるまい。
「いや?困ってはいない。むしろ嬉しいと思ってるぜ」
「え、あ、そう、なんだ……
 話の合間にまたカクテルをねだられたので、新しく作って鶴丸に渡しながら、光忠は心がしぼんでいく感覚があった。

「つまり、その……、鶴さんはその人のことが好きってこと?」
「そうだな、好きだ。だから俺は、そいつが俺に気持ちを告げてくるのを待っているわけなんだが」
「そうなんだ……
 光忠の気持ちは完全にしぼんでしまった。そうか、鶴丸にはもう好きな人がほかにいるのだ。光忠の恋心が叶う余地はなかったのだ。

 こんなことなら、その誰かがこの人を好きになる前に、自分が気持ちを伝えておけばよかった。先を越せたかもしれない。そうしたら、少しはチャンスがあったかもしれないのに。こうなってはもう、鶴丸とその誰かの両片想い状態で、光忠の出る幕はない。さようなら、恋心。光忠の心は萎れていた。

「しかし、そいつが臆病なのかなんなのか、待てども待てどもさっぱり告白してこないんだよなぁ。俺はいつでもその気持ちを受け取るつもりなんだが……、光坊、俺はどうすればいいと思う?」
「え?えーっと……
 どうもこうもなく、二人で勝手に良い感じになっていてくれ、という気持ちである。光忠は恋心が告白もせずに終わったことによる悲しさに浸かっていたので、あまり深く考えずに返事をした。
「鶴さんも、その人のことが好きなら、告白を待つんじゃなくて鶴さんから先に言ったらいいんじゃないかな」
「お、やっぱり光坊もそう思うか」

 もう一杯、とカクテルをまたねだられたので、作る、渡す。渡されたグラスを、鶴丸は一気にあおっている。先ほどからこの人、少しお酒のペースが早くないだろうか。
「ならこのあと俺から気持ちを伝えてみるかな」
……うん、それがいいよ。応援してる」
 自分の恋心が叶わなかった切なさはあるが、好きな人の恋路を応援できないのは格好悪いと思って、光忠はそう言った。想いが叶わないなら、背中を押す役割くらい、させてほしい。

「よし、じゃあ、光坊」
 ちょっと行ってくる、と言いたげな様子で姿勢を正した鶴丸は、しかし、その場から動かなかった。

……?」
「俺はきみが好きだ、光坊」
……??」

 正面に座ったまま鶴丸が発した言葉を、光忠は飲み込めずに首を傾げた。今、この人は、誰が好きだと言った?

「えっと、鶴さん、どういうこと?鶴さんは誰か好きな人がいるんだよね」
「ああ、だから、それがきみだ」
……??」
 テーブルに片肘をついて少し首を傾げた鶴丸は、いたずらっぽい顔をしていた。
「さっき俺が話した『とある男士』というのは、光坊のことだ」
……、えっ、僕、?」
 鶴丸は大きく頷いて、歯を見せて笑った。楽しそうにしている。

「きみは普段からあんなに俺のことが好きだと気持ちをだだ漏れさせているのに、ちっとも何も言ってこないから、ちょっと焦らせてやろうと思ってな」
「えっ、ちょっと待って、ずっと僕の話してたの?僕が鶴さんが好きって、伝わって、た?」
「そりゃもう、めちゃくちゃ伝わってるぜ。あんなに分かりやすいことがあるか?なのにきみは気持ちを伝えてこないからどうしたものかと思ったわけだ」

 それで、どうしたらいいか、と白々しく鶴丸は光忠に訊いたというわけである。そして、光忠が鶴丸から告白すればいいと言ったので、それに彼は従ったのだ。

「えっ、僕はてっきり、鶴さんがほかの誰かと両片想いになってるのかと……、そして僕は横恋慕なのかと」
「いやいや、そんなことはない。俺はずっと光坊だけが好きだ。だからきみが何か言ってくるのを待ってたんだが……、待てなくなったってところだな」
 はは、と鶴丸は笑って、彼はもはや瓶から直接お酒を飲んでいる。飲むペースが早い。

「で、どうなんだ、光坊。俺の気持ちへの返事は。これでも告白するのは緊張したんだぞ、俺は」
 この言葉で、鶴丸のお酒を飲むペースが早いことの理由が分かった。彼は告白することへの、あるいはしたことへの照れをごまかすために飲んでいるのだ。この人が、頑張って気持ちを伝えてくれたのだ。それに応えなければ。だって、自分も彼のことが好きなのだから。

「鶴さん!」
 光忠は手を伸ばして鶴丸の手からグラスを取り上げると、代わりにその手を握った。彼の頬が少し赤いのは、酔いはじめているのか、あるいは、照れているのだろうか。

「僕も、あなたが好き。ずっと好き。言うのが遅くなって待たせてごめんね。宝物みたいに大事にするから、僕の大事な人になってほしい」

 まっすぐ目を見てそう言ったら、言い終えた瞬間に鶴丸の目は泳いだ。これは、たぶん照れ。
「言うのが遅い。遅いが、……まぁ、きみの気持ちは十分伝わったから、……良しとしよう」
 飄々と相談を持ちかけてきて、その上で飄々と自分から告白してきたのに、いざ光忠に好きだと言われると照れているこの人をかわいいと思う。彼が小声でよろしく頼む、と言ったことで、二人は恋仲になったのだった。おめでとう、恋心。
 ㅤ光忠は今やすっかり浮かれて、初デートについて考え始めていた。