青色
2024-06-29 18:31:42
5020文字
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渉英

二人が夏祭りに行って仲良くしています。スーパーボールすくいとかき氷と甘いキスの話。おいしくるメロンパン「色水」を聞いてて浮かびました。https://youtu.be/RXKsBPv9BMk?si=MKED2FXeXU6tnIED

「本当にそれだけでよかったんですか?英智、ほかにも人形焼きやフルーツ飴や綿あめ、たこ焼きに焼きそば、ベッコウ飴なんかもいろいろありますけど……きゅうり丸ごと一本なんかもおいしいですよ」
 隣を歩く渉があちらこちらの露店を指さしながら尋ねた。そう、今日は二人でのロケで訪れた街でたまたま夏祭りがあっていることを知り、収録を終えてから二人で遊びに来ているのだ。なんでも買ってあげるという渉に対し、英智はかき氷をねだって買ってもらっている(これはいつもの構図とは反対になっていて面白い)。
「うん、どれもおいしそうで魅力的だけれどね、あまりこういうものをたくさん食べると僕は怒られてしまうから。これだけでも十分だよ」
 本当はかき氷も身体を冷やすからやめろと言われる可能性のほうが高い。実際、それが理由で幼い頃の英智はかき氷をなかなか食べさせてもらえなかったのだ。
 だから、かき氷というのはとても特別感があって、それを手にしている今もわくわくしているし、今日これを食べたことは渉だけとの秘密にしておくつもりだ。

「そうですか……とはいえもし、何か食べたくなったら遠慮なく言ってくださいね!私が買ってきますから!もちろん、あなたが何を食べていても秘密にしますよ、怒られないように」
 しーっと人差し指を自分の唇の前に立てて「内緒」のジェスチャーをした渉は、視線があうとウインクをした。それに対して微笑みを返す。彼も自分とちょうど同じこと――何を食べたか二人だけの秘密にすること――を考えていたのが嬉しかった。

 手にしたかき氷を一口、口に運ぶ。それはひんやりと甘く、おいしい。この味にしてよかった、と英智は考えていた。どの味も非常に魅力的だったのだが、一番カラフルなレインボーという味が、どうしても渉っぽく感じられてしまってこれを選んだのだ。複数の種類のシロップがかけられているようで、ストローですくった部分によって味が異なるのが楽しい。

「ふふ、まるで渉みたいだよ」
 歩きながらかき氷をゆっくりと食べすすめていた英智が唐突にそんなことを言ったので、渉が隣で首を傾げている。
「かき氷がですか?それとも、このお祭りが?祭りという点ではお祭り男さんには敵わないかもしれませんが、この私も毎日がパーティという気持ちでいますよ!」
 このとおり!とぱちんと彼が指を鳴らすと、どこからともなく鳩が数羽現れて飛び立った。周囲の人たちが驚いてその鳩の飛び立った軌跡を眺めている。

 露店が並ぶ祭りの通りは人通りが多いものの、渉がうまく英智を先導してくれるので歩きにくいことはなかった。
 英智はかき氷を食べつつも、ちらちらと隣を歩く彼を眺めていた。むしろ眺めることのほうがメインになっていたかもしれない。祭りの喧騒と露店のオレンジの光の中で見る渉は、いつにもましてやんちゃそうで、それが彼の新しい一面のように感じられて新鮮だった。簡潔に言えば、とても良い。ときどきすれ違う人のように浴衣を着ていてもとても似合っていただろう。もう一度、彼と祭りに行く機会があるときは浴衣を仕立てようと思う英智であった。

「おや、渉、あれはなんだろう?」
 露店の通りも端に差しかかってきたあたりで、一つ、英智の目に止まった幟があった。そこには「スーパーボールすくい」と書いてある。
「Amazing!スーパーボールすくいですね!金魚すくいと似たようなものですよ」
「ああ、金魚すくい……

 金魚すくいを実際にやったことがあるわけではないが、英智はそれを知っていた。というのは昔、敬人が祭りの土産としてすくった金魚をくれたことがあったからだ。当時の英智はその金魚を熱心に世話をしたのだが、あまり強くない個体だったのかあまり長く生きることができなかったことを覚えている。

「ちなみに、スーパーボールってなんだい?」
「スーパーボールというのはよく跳ねる小さなボールですね!興味がありますか?……おや、昔はすくったボールをそのまま貰えるような形式でしたが、最近はすくった個数に応じて何か景品を選べるようになっているみたいです!」
「なるほど、なかなか楽しそうだね」
 確かに、店先には様々な種類の景品――ビーチボールだったり、小さなボーチだったり、お面だったり――が並べられていて、〇〇個という表示が掲げられていた。
「あ、あれ……
「何か気になるのがありますか?」
「うん、あれなんだけど」
 英智は店の屋根の上からぶら下げられているいくつかのものを指さした。それはひよこ、あるいはアヒルの形を模しているもので、おそらくは笛のようなものに見えた。
「水笛ですか!いいですね!どうやら80個すくえるともらえるみたいですが、挑戦してみますか」
「うーん、僕はうまくできるか分からないからね。僕は渉がやってるところをみたいな」

 なんとなくだが、楽しんでいる彼を見たい、と思った。渉が説明してくれるときに楽しそうだったので、彼はスーパーボールすくいが好きなのかな、と感じたのだ。だから、やったら楽しいんじゃないか、楽しんでくれるんじゃないか、そうしたらこのお祭りが楽しかったと自分だけじゃなく彼も思って――いや、きっと英智が楽しんでいるだけで楽しいのだと渉は言うだろうが――くれるのじゃないかと思ったのだ。

「ほぉ!そうですか!ではこの私、日々樹渉が成し遂げてみせましょう!」
 渉は自信ありげに、そして楽しそうにそう宣言して、一回分のお金を店主に渡した。
「お兄ちゃん、自信ありそうだね」
 ちょうどやり終わったところの少女が景品を受け取るのと入れ違いに、ポイを彼が受け取る。
「当然です!見事にあの笛を手に入れて見せますよ!」
 英智はかき氷を食べながら見ててくださいね、と渉は振り返って微笑むと、スーパーボールが入っている水が張ったコンテナの前にしゃがんだ。英智も隣に腰を落とす。
 腰を落とした彼は手首にはめていたゴムで髪を三つ編みごと後ろで一つにまとめた。そのあらわになった首筋と、少し真剣な横顔が端正で、英智は思わず口に運んでいたかき氷を食べるのをやめて、渉を見つめた。

 そこからは、もう、とんでもなかった。めくるめく彼のショウタイムだ。渉は華麗な手さばきであっという間に50個ほどのスーパーボールをすくってしまうと、そこからは何がどうなっているのか、一つすくいあげるごとにポイの縁でボールを高く跳ね上げてすくったり、ジャグリングのように複数のボールを空中で踊らせたり、しまいにはもう、ポイには紙がないというのにいったいどうなっているのだろう、縁だけになったポイであっという間に20個ほど追加してフィニッシュとなった。

 いつの間にか周りには面白がった人たちが集まってきていて観客のようになっており、店主はとてもいい笑顔を浮かべている。もちろん、英智も非常に楽しんだ者の一人だ。この、本人が華麗な技を見せていること、そしてそのことによって周囲が弾けるような笑みを浮かべているという状況こそが、日々樹渉という人物をよく表していて、そして、それこそが英智の好きな人の本質そのものであって、それを称えたくて英智は一人でたくさん拍手をした。英智の拍手が周囲の人たちに波及して、最終的には店主まで全員が拍手をしている。

 渉はその中で立ち上がって胸を張り、スーパーボールを数えてもらうためにすくったボールを入れていた器を店主に差し出した。店主が5個刻みで個数を数えていく。
「80、85、90、95、100……と、3!103個だ。100個以上だとこっちの景品になるけど、お兄ちゃんは水笛がほしいんだったな。好きなの選びな」
「ありがとうございます!何種類かありますね……何色にしますか?英智」
「うーん、迷うね。そうだなぁ……、じゃあ、青にしようかな」
「ではそうしましょう!」
 勝手に取っていいとのことだったので、渉が青の水笛を手に取って、英智の首にかけた。
「フフフ、お祭り気分という感じでいいですね!」
「そうかな、ありがとう。これを帰ったら朔間くんに自慢することにするよ」
 英智と渉のやりとりに――主に渉のスーパーボールすくい捌きに――羨望の視線を向けている数人の子どもたちに手を振って、二人はその場を離れた。

「少しお疲れではないですか?静かな場所へ行きましょうか」
「そうだね、そこだとゆっくり食べられるかも」

 露店の通りを抜けて少し歩いていると、ベンチとブランコだけがある小さな公園があった。二人でベンチに腰かける。ようやく落ち着いてかき氷を食べようと、カップを覗きこんでみると。
「おっと、全部溶けちゃったみたいだ」
 おやおや、と渉も同じようにカップを覗きこんで、そしてちょっと驚いている。
「英智、あなたほとんど食べてないじゃないですか。さっきも食べながら見ててくださってよかったんですよ?すみません、言えばよかったですね」
「ううん、気にしないで。これはこれで悪くないだろう?ジュースみたいだ」

 さっきのスーパーボールすくいのあいだは、渉に見とれていて食べるどころではなかったのだ。いや、そもそも今日はずっと渉のことを見てばかりで――非日常の中にいる彼はいつもと違う良さがあるのだ――、食べている場合ではない。まぁ、見とれていたことは秘密だが。
「ジュースというのはどうでしょう……溶けたかき氷はあまりおいしくありませんよ。まぁ、試してみるのはいいと思いますが」
 あまりおすすめはしません、などと言われながら、英智はスプーンにしていたストローの端に口をつけて吸った。勢いよく、味の混ざったシロップが口の中に入ってくる。
「わっ、これは確かに……ちょっと甘すぎるね」
 複数のシロップが混ざっているせいなのか、それとも溶けてぬるくなっているせいなのか、それはとても甘ったるく感じられた。お世辞にも、あまりおいしいとは言いがたい。
「そうでしょう、溶けるとあまりおいしくないんですよね〜かき氷は。またお祭りに行く機会があったらしっかりかき氷を食べましょう!」
 それはそうと、と言いながら渉は英智からかき氷のカップを取り上げた。カップに直接口をつけて、入っている溶けた氷を一気に飲み干す。夜の空気に晒された白い喉仏が上下するのを英智はまた、見つめていた。

 氷を飲み干した渉は、そのまま何を思ったか、こちらに身を乗り出してくると英智の唇に彼のものを合わせた。突然でびっくりしたせいで英智は少し身を引いたのだが、カップで塞がっていないほうの手が首の後ろに回って支えたので、うまくのけぞることはできなかった。もちろん、反射的に引いただけなので拒む気持ちもなく、そのまま受け入れた。
 唇を舌先で軽く叩かれたので、英智は薄く口を開いた。英智とは異なる体温を帯びた舌が、歯のあいだを割って、するりと中にすべりこんだ。
 彼の舌からは甘いシロップの味がした。ワルツに誘うように渉のものが英智の舌に絡んで、しばらく遊んだあと、二人の舌先の温度が同じくらいになってから、はじめと同じように彼は咥内から出ていった。

「ただ色のついた水を飲むだけでは面白みがありませんからね、何か驚きが必要でしょう!」
 ぺろ、と自身の唇を舐めてウインクをした今日の彼は、やっぱり少しやんちゃに見える。英智も自分の唇を少し舐めた。口づけていたからか、少し火照っている。
「うん、Amazingだったね。とっても甘かったよ、甘すぎるくらいなのに、その――おいしかった」
「フフフ!あなたが私を食べそうなくらいこちらを見ていたこと、気づいていましたよ。なので、甘く味つけをして差し出した次第です!」
「えっ、気づいてたんだ……
 それはなんかちょっと照れてしまう、と思ったものの、それよりは今は、この目の前の恋人のことを味わいたくなった。
「ねぇ、僕はけっこう、甘すぎるのが好きみたいだ。もう少し、味見をしてもいいかな?」
「ええ、もちろんです!幸い、このあたりは誰かに見られることもないでしょう。好きなだけ、召し上がってください……☆」

 渉の言葉を聞くやいなや、今度は英智のほうから口づけた。夏の夜風の中で、体温と甘さが一つになっていく。