青色
2024-04-24 22:16:02
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燭鶴

現パロ(not転生)です。二人の関係がここから始まるな〜みたいな燭鶴です。鶴丸がたくさん食べる人だったらいいな、という萌えとそういう鶴丸のことを光忠は好きになるだろうな、と思ったので。
米津玄師「メランコリーキッチン」をよかったら聞いてください。

 今日は休日。長船光忠は昼過ぎからずっと、キッチンに立っていた。

 光忠は料理が好きだ。この部屋もキッチンが広いからという理由で決めたのだが、とても気に入っている。料理を作っているとき、いつも何か癒やされるような、満たされるような感覚があって、つまるところ趣味でありストレス解消の手段なのだった。だから、ストレスが溜まるといっそう料理をしたくなるし、そういうときはだいたい、大量の料理を作ってしまう。
 
 そういうわけで、今日もこうして料理を作り続けているわけである。
 一番ストレス解消になるのは食材を煮詰めているのを眺めていることだが、ほかの料理も癒やしになる。煮込み料理を作りつつ、今日はもう数品のおかず(主菜になるものもあるし副菜もある)を作ってしまった。ここしばらく仕事が立て込んでいて大変だったので、精が出た。このあともまだ数品、仕上がってしまうだろう。
 料理をするとストレス解消になるのはいいが、問題はだいたい作りすぎてしまうことだ。光忠は体格のわりにたくさん食べるほうではなく、また、料理は食べるよりも作るほうが好きなので、結果的に作りすぎてしまった料理を食べきることにいつも苦労している。ただ、やはり料理をすると癒やされるので、毎度苦労しつつも料理をすることはやめられないのだった。

「うん、いい調子だね」
 光忠は煮込んでいる鍋の中を一度覗いて、再び蓋を閉めた。良い調子に煮込まれている。部屋の中全体が、おいしいにおいで満ちていた。窓の外の日が、ゆるやかに落ち始めている。

 不意にインターホンが鳴った。光忠はコンロの火を止めるべきか一瞬迷って、弱火だから大丈夫だろうと思いモニターを見ると、どうやら隣人の男のようだ。なんだろう。
「はい、なんでしょう」
 通話ボタンを押して返答すると、相手の男が何かを見せるようなそぶりを示した。何か持っているようだ。ダンボール?
「すまん、渡すものがあるんだ。出てきてもらえるか」
 男は明朗な調子でそう言って、再び持っているものを見せようとした。やっぱりダンボールのようである。どうしたのだろう、と思って光忠は玄関に向かった。

 この、訪ねてきた男性には、うっすらと面識がある。五条鶴丸という男だ。なんとなく好印象がある人だった。光忠よりあとに引っ越してきた隣人だが、その際の挨拶が軽妙で快活だったからかもしれない。以来、時折見かけるたびにこやかに片手を上げてくれるのだが、そのたびにその明朗さと相反するような線の細さと色素の薄い端正な顔立ちの人だな、と勝手に印象的に思っている。

 しかし、引っ越しの挨拶以来、一度も言葉を交わしたこともなければこうして訪ねてくることも――普通に生活していれば当然だが――なかったので、本当にどうしたのだろうと思いつつドアを開けると、休日だったのだろうか、ほとんど部屋着のようなラフな格好の鶴丸が大きめのダンボールを抱えて立っていた。
「呼びつけてすまん。どうもきみ宛てのものがうちに誤配されてたみたいで、渡しにきたんだ」
「そうだったんだ、ありがとう」
 光忠は礼を言ってダンボールを受け取った。想定していたよりも重い。中身の表記を見ると先日大量に直送で購入した野菜のようだった。そういえば、ダンボールが一度開けられたような様子だ。
「ちょうど俺も宅配を待っていたところだったから、うっかり開けてしまってな。あぁ、いやいや、何も取ったりしてないから安心してくれ。中身が食材だったからすぐに俺宛てのものじゃないと分かったしな」
 まぁ、確かにこの量の野菜を単身で買う人はあまりいないだろう、と思って光忠は笑った。
「ときに変なことを訊くが、きみ、それは全部一人で食べるのかい?」
「うん、まぁ、ほとんどそうかな。料理が好きなんだ」
「そりゃあ、いい」
 鶴丸は大きく頷いて、料理が得意な人を尊敬している、と付け加えた。自分は料理を全然しないから、とのこと。だからダンボールの中身が食材だったときにすぐに自分宛てのものではないと分かったらしい。

 勝手に好印象を抱いていた相手と少し言葉を交わせたことを光忠は喜ばしく思っていたのだが、その一方で火にかけてきたままの鍋が気になり、一度キッチンの方を若干振り返ってうかがった。
「おっと、取込み中だったか?」
「ちょっと、鍋を火にかけてて」
「そいつは邪魔をしたな。俺は失礼するから、きみは早く鍋の面倒を見てやるといい」
 じゃあ、と鶴丸が片手を上げて去っていこうとしたその時、ぐぅ、という低音で間の抜けた、それでいてはっきりとした音が鳴って、彼が固まった。なんの音?光忠は首を傾げた。お腹の、音?
……聞いたか、きみ」
「あ、うん……、お腹?空いてるの?」
「はは、バレたな。今日はまだ何も食ってないんだ。きみの背後からいいにおいがしてるもんでな」
 情けないところを見せた、今度こそじゃあな、と再度言って背を向けた鶴丸の腕に、光忠は反射的に手を伸ばしていた。
……?どうかしたか?」
「いや、えっと――
 光忠がこうして引き止めたことを、もちろん鶴丸も驚いていたが、引き止めた本人である光忠自身もひどく驚いていた。とはいえ、そうしたい、と思ったのだ、反射的に。
「あのさ、ごはん、うちで食べていく?」
 こちらを見る彼の金の瞳が大きくなって、驚いたらしかった。その反応を見て、光忠は出し抜けな提案をしたことに気がついて、慌てた。
「あっ、いや、困るよね?ごはんの予定とかも、あるよね?」
 今は部屋着を着ているとはいえ、このあと誰かと食事をする予定がある可能性だって当然ある。そもそも、引っ越しの挨拶の際と今くらいでほとんど会話をしたことがない隣人を食事に招くのってどうなのだろう。
「いや、予定があるわけではないが……
 デリバリーでも取るつもりだったし、と言う鶴丸は光忠の申し出の意図を推し量ろうとしているようだった。やっぱり、線が細いな、と関係のないことを思う。そう思った瞬間に、やっぱりこの人にごはんを食べてほしいと思った。
「じゃあ、本当にうちで食べるのはどうかな。僕は全然大丈夫だから、あなたさえよければ」
 光忠はあまり押しが強くならないように気をつけつつ、とはいえ確りと誘った。

 今日も料理を作りすぎているのは確実なわけで、それを食べてくれるなら助かるし、それにこの男を見かけるたびに感じていた、ちゃんと食べているのか?という疑念も彼を誘う十分な理由になった。そう、本当にちゃんと食べているのかはずっと気になっていた。男性にしてはあまりに薄すぎる。先ほど言っていたように本人が料理をしないらしいし、心配だ。いや、こういうのは全部、食事に誘いたいという理由のない衝動のあとづけなのかもしれないけれど。

 鶴丸は、光忠の提案に甘えていいものか困っている様子だった。思案している表情を見て、不意にこの人は年上なのではないか、ということに思い至った。この瞬間まで、自分と同年代か年下のような気がしていたのだ。年上だとしたら、ちょっと気安く喋りすぎたかもしれない。若干反省する。でもなんとなく、そういう態度が許されるような気がした。

「きみがいいと言ってくれるなら、ありがたくそうさせてもらう、が……。一旦着替えてきてもいいか?こんな格好であがるのもなんだし、それにただでというのは申し訳ない、いくらか出させてくれ」
「えっ、いいよ。気にしないで」
「いや、そうは言ってもな」
 光忠は格好は気にしないし、お礼を出す必要もないと言って部屋に上がるように促し、一方で鶴丸は一度自分の家に戻ると言って聞かなかったのでやや押し問答になった。この五条鶴丸という人は義理堅い人なのかもしれないな、と思うなどしているうちに、再び鶴丸のお腹が間の抜けた音を鳴らした。
「ほら、お腹がもう待てないって言ってるよ。お鍋も吹きこぼれちゃうかもしれないし、上がって」
 改めて光忠が促すと、鶴丸はようやく頷いた。失礼します、と呟いて彼が玄関に入ってくる。自宅にあまり人を呼ばないので、その「失礼します」という言葉はなんとなく新鮮だった。

 人を呼ばないとはいえ、幸い、ダイニングテーブルは二人が向き合って座っても十分余裕がある大きさだ。光忠は一度鍋の様子を確かめて火を止めると、鶴丸を椅子に座らせた。
「もうほとんど出来上がってるから、並べちゃってもいいかな?お腹は空いてる、よね?」
 夕飯というには少し早い時間だが、光忠も朝に軽く食べてから何も食べていなかったので、ちょうどいいだろう。
 鶴丸は頷いて、準備を手伝うと申し出たが、それを強引に座らせたままにした。光忠が手ずからもてなしたかった。

 冷めてしまっているものはあたためつつ、料理をテーブルの上に並べていく。皿を出すたびに、おお!うまそうだ、とか、これは凝ってるな、とか、盛りつけがうまい、とか、そんなことをいろいろと鶴丸が口にしてくれるのがくすぐったく、嬉しい。
 最後の一皿をテーブルに置くと、机上は料理でいっぱいになった。鶴丸はテーブルに所狭しと並べられた料理の量に驚いているらしい。それはそうだろう。光忠も自分でこうして並べてみて、よくもまあこんなに作ったものだ、と思う。
「きみ、――いや、いつまでもきみと呼んでいるのもあれだな。名前を聞いてもいいか?長船、だったか……
 郵便受けのところに書いてある名前を覚えているのだろう。光忠は頷いて、名乗った。
「そう、長船。長船光忠」
「光忠、か。俺は五条鶴丸」
「うん、知ってるよ」
 前に名乗ったことがあったか?と鶴丸が首を傾げていたので、引っ越してきた挨拶のときに、と光忠は答えた。それに、この人は郵便受けにフルネームを掲げているので、すっかりなじんでしまっている。
「鶴丸さん、でいいかな?はい、鶴丸さんはこっち」
 一人暮らしなので揃いのグラスがないから、光忠は切子のグラスのほうに水を入れて彼に差し出した。自分は湯呑みを使う。
「そういえば何かさっき言いかけてた?」
 光忠も椅子に腰掛けながら鶴丸を見ると、箸を持ったものの手をつけていいか迷っている様子だったので、どうぞ、と声をかけた。とりあえず、という感じで彼が手を合わせる。
「いや、きみ、誰かが来る予定とかじゃなかったのか?俺が邪魔して大丈夫だったか?この量、一人で食べる量じゃないだろう」
 この量、と言いながら鶴丸がテーブル全体を見回したことで量の多さが引き立てられたようになって、光忠は苦笑した。まあ、確かに、そう思うのも無理はない。毎度この調子なので、量の多さには慣れているが、確かに毎回この量を食べきるのには苦労している。
「いいからいいから、食べて」
 鶴丸はまたわずかに逡巡しているようだったが、いただきます、と言って目の前の中華炒めをよそって口にした。

 彼が料理を口に運んで飲みこむ様子を、光忠はひっそりとうかがった。料理好きなわりに人に料理を振る舞う機会はあまりないので(人当たりは悪くないため知人は多いのだが、いざ食事に誘うような友人となると全然いないのだ)、反応が気になる。
 すると、鶴丸の表情がぱっと明るくなったような気がした。
「うまい!」
 思わず口をついたというような感じで彼はそう呟き、そしてこちらを見るともう一回うまいと言った。瞳が子供のようにきらきらしている。
「本当?口に合ったのなら嬉しいな」
「いや、きみ、めちゃくちゃうまいぞ」
「よかった。たくさんあるから、好きなものを好きなだけ食べて」
 光忠の言葉に鶴丸は大きく頷いた。どうやら嬉しそうにしている様子は、実際よりも幼く――やはり、たぶん、年上のような気がするのだが――見える。かつて学生時代にときどき料理を振る舞っていた年下の寡黙な幼馴染(光忠が就職で地元を離れて数年経つ)の反応を思い出させて、微笑ましいと同時に、その彼よりも鶴丸の反応は大きく素直なので、ぼんやりとかわいいな、と思う。
 光忠も彼が口にした中華炒めに箸をつけて、うん、悪くない出来、と頷いた。初めて使うメーカーの調味料だったが、良い味だ。

 鶴丸は、それはそれはよく食べた。けっしてがっついているわけではない。食べ方に品があり、それが育ちの良さみたいなものを感じさせた。そういう振る舞いでありながら、本当によく食べる。ざっと推定して光忠の倍くらいは食べていた。こちらが茶碗を空にするまでに二回も彼のごはんのおかわりをよそってやったくらいには。
 これはうまい、とか、これは好き、と何度でも言ってくれながら食べてくれるのが嬉しくて、光忠は自分が食べるよりも食べている鶴丸の様子を見ている時間のほうが長かった。そして彼と一緒だと、自分の料理がすごくおいしく感じるのだ。

「光忠、きみ、プロなのか?」
「いや、全然。少し料理が好きなだけだよ」
「謙遜がすぎるぞ。これまで食べたことがある中で一番うまい。店を開ける」
「褒め過ぎじゃない?」
「本当だ、本当にうまい」

 光忠は鶴丸の食べっぷりに自分が先にお腹いっぱいになって(そもそもそんなに食べるほうじゃないのだし)、彼が空にした皿をいくらか下げた。鶴丸は相変わらずおいしそうに料理を頬張っている。普段ちゃんと食べているのか?と心配していたが、この男、めちゃくちゃ食べられるらしい。
「鶴丸さん、あのさ……、その、まだあるって言ったら、食べる?」
 口に入れていたものを飲みこんでこちらを見た鶴丸は、心底不可解という顔をした。
「まだある、……?きみ、テーブルの上にゆうに五人前はあったぜ?」
「いや、うん、そう思うよね……。僕もこの量を作ったのはどうかしてると思うよ」
「本当に人を呼ぶ予定とかじゃなかったのか?」
「うん、本当に。ただ僕がたくさん作っただけ。それがストレス解消っていうか……
 だから作りすぎてしまうのだ、鶴丸が食べてくれるのは助かるし、好きなだけ食べてもらっていい、そんなことを続けると、やや食い気味に食べますという返答があったので、追加で料理を運んだ。炊いていたごはんがなくなってしまったので、冷凍ごはんを提案したところお願いされたので、それも追加した。

 光忠は再び彼の前に座って、その食べている様子を眺めた。
 鶴丸が綺麗に、それでいて豪快に自分の作ったものを食べていくところを見ていると、なんだかとても満たされる。それは料理をしているときに感じるものに似ていたが、それよりもずっと大きいものだった。ずっと深いところが満ちるような、これはストレス解消なんてものではない、大きな歓び。
 大量にできあがった料理というのは、ある種の憂鬱の象徴みたいなところもあるのだが――ストレス解消の成果物という意味において、である、一人で消費するのに苦労するのは、そのストレスとなったものをなんとなくそのたびに思い出してしまうからかもしれない――、その料理が、目の前の鶴丸によっておいしそうに咀嚼され、飲みこまれていく。それがとても爽快で、癒やされさえした。

 はじめに並べた料理に加えて追加したおかずの半分くらいを食べ終えて、鶴丸が手を合わせた。
「ごちそうさま」
「ありがとう、たくさん食べてくれて」
 本当にうまかった、と言った彼はお腹いっぱいになってもまだ、食べたそうな名残惜しさをにじませていて、微笑んでしまう。人にごはんを食べてもらうことが嬉しいことであることは知っていたけれど、この人がおいしそうに食べてくれるのはなぜだかさらに嬉しかった。どうしてだろう。何かが特別だった。いや、勝手に、特別だと思っているだけなのだけれど。
「食後にお茶、淹れようか」

 テーブルの上を片付けて、焙じ茶を淹れた。香ばしいにおいが部屋に満ちる。
「鶴丸さんって、健啖家なんだね。ちょっと意外だったよ」
「まぁ、確かに、見かけによらないとは言われるな。昔からどうもやたら腹が減る体質で、腹いっぱいになったと思ったことがないんだ」
 言葉を切って、鶴丸がお茶に口をつけた。こうして見ると、この身体のどこにあのたくさんの料理が入っていったのか、不思議なくらいだ。本当に見かけによらない。
「ただ今日は違った。本当にきみの料理はうまくて、まだまだ食べたいという気持ちと同時に、すごく腹いっぱいになって満ちたような感覚があって、」
 目の前の彼が片肘をついて、その手の甲に顎を乗せた。少しはにかんだようにも見える、笑み。光忠はその言葉の続きを、期待したいような、でも、期待しないでおいたほうがいいような、複雑な気持ちになって、呼吸を抑えながら続きを待った。

「初めてだ、こんなに満たされたのは。本当にうまかった。どうにも特別みたいだ、きみ――
 そこに続くのは、きみの料理は、だったのだろうか、それともあるいは、きみは、だったのだろうか。それははっきりしないままだった。というのは、そこまで聞いた瞬間に、光忠のほうが言葉を重ねてしまったからである。
「っ、僕も、すごく、特別だよ!」
 思わず口をついて言ってしまって、光忠は慌てた。いや、こういうのはちょっと、格好がつかない。
「あっ、えっと、ごめん、なんか変な言い方しちゃったけど、その、僕も食べてもらってるときにこれまでないくらい嬉しかったというか、そういう、特別で……
 光忠が慌てているのが面白いらしい鶴丸が笑っている。
「きみ、思ったよりも青いなぁ。年下だろうとは思っていたが……、光忠で、坊主、……光坊だな」
「光坊?」
「きみの若さを気に入ったってことさ」
 からかわれているのかもしれないが、あまり悪い気はしなかった。特別な呼称をもらったからかもしれない。
「きみが特別だと思ってくれるのなら、光坊。あまり図々しいことは言えないが、またの機会があれば招待してくれ」
 鶴丸は穏やかに微笑んで、それは老成をも感じさせた。初めのぼんやりとした印象だった、綺麗だ、という感覚が確かなものになって、それを好ましく思う。だから、また、なんて曖昧な約束で終わらせたくなかった。
「またの機会も何も、明日、また食べに来ない?明日もまたたくさん作るから、明日だけじゃなくて、明後日も、その先も」
「はは、そいつは俺としては願ったりかなったりだが……、どうもプロポーズみたいだな」
 そのポジションを自分がもらってしまっていいのか、モテそうなのに、とふざけて鶴丸は付け加えたが、光忠は真剣に頷いた。そう、今のこの感情に名前をつけるのなら、惚れてしまった、が正しい。鶴丸の食べっぷりに、惚れてしまったのだ。この人にもっとたくさん、自分の料理を食べてほしい。そして、それで喜んでほしい。そして、そういう人であるこの人のことを知りたい、仲良くなりたい、と思ったのだ。こういうことから始まる好意も、関係も、あったっていいのではないだろうか。
「鶴丸さんに僕が作った料理、たくさん食べてほしいから。僕はあなたとそういう関係になりたいよ」
「こいつは熱烈な告白だな。あぁ、いや、そう言ってもらえるのは、俺は嬉しいよ。俺もきみを特別だと感じたからな」
 こういう年甲斐もないストレートは言い回しは照れるな、と自分で茶化すように言いながら鶴丸は肩をすくめた。そうは言いつつも、彼が本当にそう思っていることは伝わってきて嬉しい。光忠が特別だと思っているのと同様に、彼にとっての自分もそういう感じなのだ。
「ついでに俺のことは、そうだな……、鶴さんとでも呼んでくれ。そのほうがなんとなく特別でいいだろう」
「鶴さん」
 光忠は彼の呼び名を口の中で転がした。確かに、特別な響きを伴っている。
「そうだ。そう呼ばれるのはなかなかいいな、……光坊」
 特別な呼び名に、特別な呼び名が返ってきて、光忠は相好を崩した。面映ゆい、でも、とても良い。
「へへ、…………鶴さんは明日は仕事?」
「いや、明日も俺は休みだ。きみもか?」
「うん。それなら、明日も早めの夕食にしようか」

 そうと決まれば明日の食材の買い出しと、揃いの食器の調達に出かけなければ。早めの夕食だったのでまだ店が閉まるまでには余裕があるだろう。一緒に行こうとの光忠の誘いに、先刻とは違って鶴丸はすぐに頷いた。
「ただちょっとだけ待ってくれ。さすがに出かけるならちょっと着替えてくるからな」
「うん、待ってるね」
 明日のメニューを考えながら待っていよう、と思う。こうして、二人での食卓が始まるのだ。それはすなわち、二人の関係がこれから始まるということだった。