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2023-11-28 00:19:51
3534文字
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燭鶴
現パロで同棲を始めたばかりの二人がジェンガをしたりしてただいちゃついている。オチ的なものはありません。ただ仲良くしている日常。
「光坊、もう一回だ」
「鶴さん負けず嫌いだねぇ」
ガラガラと音を立てて崩れ落ちるジェンガの一部を両手で受けとめながら鶴丸が言うので、光忠は笑いながら言った。まもなく日付が変わろうとしている。二人でこの遊びに興じているあいだに、思っていたよりも時間が経っていた。
今日は一日、光忠の古い荷物を整理していた。どうにも物を増やしてしまう性分があるのか、光忠の私物の量は鶴丸のものと比べるとはるかに多く、実際、そのせいでこの二人暮らしを始めるための引っ越しの際に大変だったのだ。鶴丸は物の整理が上手いのか、持ち物が異常に少ない。いや、これは執着がない、というのかもしれない。それはさておき、さすがに一度持ち物を整理したほうがいいだろうということで、鶴丸に手伝ってもらいながら光忠はまだ開けられていなかった引越し時のダンボールを開けて物の分別をしていたのだ。要る物と要らない物に分け、そこからさらに処分する物、売却する物に分けていく。
そうしている中で出てきたのがジェンガだった。確か随分前に、飲み会の余興のビンゴで当てたものだったような気がする。一度も登場することがないまま眠っていたそれを見つけた鶴丸が、今日の分の片付けが終わったら二人でやろうと光忠を誘ったのだった。
「追加でお茶を淹れてくるね」
鶴丸が再び崩れたそれらを積み重ねているのを横目に、光忠は立ち上がった。
マグカップを両手に持ってテーブルへ戻ってくるとジェンガは再びタワーの形を成していた。ありがとう、と言う代わりか、鶴丸が片手を挙げる。
「さて、5回戦といこうじゃないか、光坊」
この勝負はこれで5回目だ。今のところ、光忠が全勝している。それには訳があって
――
。
「鶴さんって負けたくないわりにギリギリを攻めるよね」
椅子に再び腰掛けながら光忠が言うと鶴丸は心外そうにしている。そう、これが鶴丸が負け続けている理由であった。
光忠の発言に大げさに首を振った鶴丸が、これまた芝居がかった仕草で人差し指を振った。何も分かってない、とでも言いたげな顔。
「こういう遊びはギリギリを攻めてこそなんだ、分かるか?きみの戦略は退屈すぎる」
「僕は慎重なんだよ」
「つまらん男だな〜」
鶴丸は心底呆れたように
――
これもまた芝居だが
――
、肩をすくめた。光坊から始めてくれ、というので、光忠はタワーの真ん中あたりの、真ん中の一本を押して、引き抜いた。積み上がったジェンガは、びくともしない。続いて、鶴丸が別の一本を抜く。
「この勝負で負けたほうがアイスを奢る、そういうのはどうだ?」
何かを賭けているほうが面白いだろう、と鶴丸は言って、頬杖をついた。光忠の一手を待っている。
「また鶴さんが負けそうな気がするけどね
……
、でも、オーケー!そういうことでいこうか」
また一つ、光忠がタワーから抜き出す。次いで、鶴丸が。それを繰り返していく。
「っと!堪えたか」
彼がまたギリギリを攻めている。今回はセーフだったようだ。少しばかりぐらついたタワーは、再び静止した。
「こりゃ寿命が縮むな」
「僕もハラハラしてるよ、こうなってくると」
もはや自分の番よりも鶴丸の番のほうでハラハラしている。慎重に安牌を選んでいる光忠にとっては、鶴丸の攻め方はかなり刺激的だ。そう思いつつ、またも光忠は安全な場所を引き抜いた。けっこうな数が引き抜かれているので、安全そうな部分を抜いてもさすがに若干はぐらつきが見られはじめた。
さて、鶴丸の番だ。この彼は相変わらずどう考えても危うい場所を選んで慎重に抜こうとしている。じわじわとタワーから一本が抜けていく。タワーが揺れる。はじめ小さな揺れだったそれは、鶴丸が一本を抜いた瞬間に大きく揺らぎ、もう崩れるかと思われた。
その瞬間、鶴丸が両手でタワーを挟んで崩壊を阻止する。ガラガラと崩れる音の代わりに、愉快そうな鶴丸の笑い声が響いた。
「あっははは、しまったしまった」
「鶴さん、それじゃ反則だよ」
鶴丸があまりに愉快そうだったので自分もつられて笑ってしまう。いや、そうでなくても笑ってしまっただろう。行動があまりに大人げなさすぎる。そういうところが良いのだが。
「そんなにアイス奢りたくない?」
「いや〜、すまん、手が出た」
負けたくないととっさに思って、と鶴丸は言う。正直、アイスを奢ることについてはどうでもいいらしい。それはそうだろう、この彼は普段から気前が良く、機会があればいつでも財布を出してくれるタイプなのだから(いや、光忠がいつでも鶴丸の財布を当てにしているというわけではない)。
「鶴さんのそういう大人げないところ好きだよ」
「大人げないかぁ?光坊、勝負はいつだって勝利を追求すべきだ」
「それにしては鶴さん、やっぱりギリギリを攻めすぎだよ」
鶴丸がタワーを支えていた両手を離す。ガラガラと軽快な音を立ててジェンガは崩れてテーブルの上に広がった。
さて、と彼が立ち上がる。
「今から、行くか、コンビニへ」
「えっ、今から?」
「なんだ、きみはアイス要らないのか?」
夜中にコンビニへ無駄に出かけられるのが大人の特権だろう、となんだか分かるようで分からないようなことを言いながら鶴丸はこちらを誘った。それはそうかもしれない、と思う。今すぐアイスが食べたいわけではなかったが、彼とともに夜に繰り出すというのは良いなと思って、光忠も立ち上がって鶴丸に続いた。
夜はさすがに冷えている。コンビニに行くまでの道中で少し肌寒くなってしまったので、アイスとともにホットコーヒーを買ってもらった。鶴丸が自分の分のコーヒーとともに会計をしている。軽快なスマホ決済の音。
「ほい、きみのだ」
鶴丸がアイスとカップを同時に差し出してきたので、一旦アイスだけ受け取った。買ってもらったアイスは雪見だいふくである。家へ歩きながら、アイスを開けて、ピックを片方に刺して持ち上げた。
「鶴さん」
「ん?」
隣を歩いていた彼を呼び止めた。そこへ、ピックに刺しただいふくを差し出す。
「はい、あーん」
光忠としては何気ない動作だったのだが、思いのほか鶴丸がびっくりしており、まじまじとこちらを見つめてかたまっている。
「あれ、鶴さん、雪見だいふく嫌い?」
「いや、嫌いじゃないが、きみ、雪見だいふくを分けあうなんて正気か?」
「えっ、なんで?僕、はじめから鶴さんとシェアしようと思ってたんだけど」
なおも驚いた表情のまま、とはいえ鶴丸が口を開けたので、そこにだいふくを運んだ。一口、彼がそれを食べる。齧られたサイズは控えめで、それは鶴丸の口の小ささの表れかもしれなかった。
「雪見だいふくの一個の価値ってめちゃくちゃ重くないか?」
一口を飲み込んだ彼がそのまま食べるようだったので、刺したピックごとコーヒーと交換するかたちで渡した。鶴丸はそれを受け取って食べながら言う。
「そうかな?」
「そうだろう、アイスの実をシェアするのとは訳が違うんだ」
「僕的にはどっちもあんまり変わらないと思うけど
……
」
再び自宅に向かって歩きはじめた。食べ終わったらしい鶴丸が、光忠の手の中にあるパッケージに残っているもう一つのだいふくにピックを刺して、こちらに差し出した。あーん、のお返し、ということらしい。一口でまるまる食べようと思ったがさすがにそれは無理だった。二口で食べる。
「でも、もし雪見だいふくの一個の価値が高いんだったらね、鶴さん」
口が冷えたのでコーヒーに口をつけてから言う。鶴丸もコーヒーを飲んでいるので、同じく口が冷えたのだろう。
「それだけの価値をシェアしたいって僕が思ってるってことかも。愛ってこと」
鶴丸がカップを傾けながらどうやら微笑んでいるようだ。
「光坊の愛、しかと受け取ったぜ」
マンションに到着したので、オートロックを解除する。
「俺も“たっぷり”光坊の愛に応えないとな」
「それ何か期待していいやつ?」
エレベーターから降りながら意味深なことを鶴丸が言うので、光忠はふざけて訊いた。一歩前で廊下を部屋まで歩いていた鶴丸が振り返った。
「さぁ?きみが何を望むか次第だな」
なんだっていいぜ、と唇の前に人差し指を立ててさらに意味深にほほえみながら、鶴丸が鍵を開けている。
「えっ、それってどういう
――
」
「さ、光坊、早くしないと夜が更けすぎるぞ」
部屋の中に鶴丸が消えていく。光忠はそのあとを追いながら、なんだかよく分からないがすごく“同棲”を感じる
……
、と自分でもよく分からないことを思いながら何をお願いするか頭を巡らせていた。
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