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じべ田
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うちよそ妄想
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レブ葬の小ネタ ネタバレあり げんみ❌
ネタバレありの小話です。
最後のね、シーンの独白的な。
あれです。
+++++++++++++++
ボタリボタリと自分の体から水音に近い、しかし粘度を帯びた音が滴っていく。
(あぁ
……
本当にギリギリ、間に合ってよかったなぁ)
痛みはない。
しかし、徐々に自分の中から明確に何かが失われていくのはわかった。
それが命なのか、あるいは記憶なのか。
なんなのかはわからないが、しかし確かにわかることはある。
じきに、この体が崩れ落ちるということだ。
「銀狐
……
銀狐
……
」
真実の声を、いまだになんとか耳が救い上げる。
「なぁ、銀狐
……
無事に帰ったら
……
」
そんな未来の話を、彼は語る。
今までのこと。
そしてこれからのこと。
もう銀狐が辿り着けない未来の話を次々に語り続ける。
「
……
なぁ、銀狐
……
聞いてるか
……
?」
今までこんなに呼ばれたことがないであろうほど、彼は名を呼んだ。
(聞いてるよ、真実ちゃん
……
)
それに応えられるだけの力が、沸かない。
何とか必死になって腕を肩に回して体を運ぶ真実に身を委ねることだけはできているが、それだけだ。
それしかできなかった。
瞬きすら、意識しなければできないほどに体が動かなくなっていく。
まるで生き物から無機物に戻っていくようだった。
そんな終わりの間際において、銀狐の気持ちは不思議なほどに晴れやかだった。
(あぁ
……
なんとか游さんとの約束は守れたな
……
)
己が最後に成すべき
――
否、己が成すべき全てを成したのだ。
『生きる絵画を、そして真実を助けてやってほしい』
命を託された価値を果たせた。
それだけで、銀狐は満足だった。
(真美ちゃんに嘘ついたことになっちゃったのは
……
申し訳ないなぁ
……
)
足と、胴体と
――
崩れていくのと同時に、記憶の端から様々な物がこぼれていくようだった。
何でもないような日常から、ぱらぱらと砂のように流れては思い出が消えていく。
(
……
真実ちゃんと初めて会ったのは
……
どこだったっけな
……
)
ぼんやりとした思慮の中、思い出を辿る。
決して機嫌がいい表情が多かったわけではない。
それでも、こちらを見やる青い瞳が印象的だった。
最初は拒絶だけを露わにしていた目が、徐々に、ほんの少しずつ、鮮やかさを増していった気がした。
気のせいだったかもしれないが、それでも九ヶ月。
一緒に過ごしたという事実だけは揺らぐことはないのだ。
(楽しかったなぁ
……
)
何もなかった自分が、怪盗なんて盗んで何かを手に入れるという手段を選び。
そこから人との繋がりを得て、相方を見つけることになるなんて。
それが、自分を「友人でいてほしい」と望んだ相手だなんて。
(
……
人生ってままならないけど、でも
……
)
それでも、そうとは知らずに過ごした日々は本当に楽しかったのだ。
D9として暴れまわった日々は、何もなかった銀狐を徐々に象るものになった。
盗むべきものをどう盗むのか、贋作をどう運ぶのか、どうやって現場から逃げるのか。
そうやって真実と顔を突き合わせて話すだけで、銀狐は楽しかった。
誰かと話せることが楽しかった。
誰かと何かを成すことが楽しかった。
誰かと笑うことが楽しかった。
誰かを心配することが楽しかった。
誰かに頭を掴まれることが楽しかった。
二人でいることが、楽しかったのだ。
(
……
楽しかったなぁ、本当に
……
)
心残りがあるとすれば、真実を一人にしてしまうことだ。
嘘をついてしまった。
游さんに聞いたことを話すと。
辛かったことも怖かったことも聞くと。
傍にいると、嘘をついてしまった。
(真美ちゃん、怒るだろうなぁ
……
)
あんなに悲しそうにしていたのに、それを受け止めてあげられないのが悔しかった。
悔しかったけれど、けれどここまでが自分の役目だったのだ。
きっと、出来損ないでありながらもあがき続けた自分の、全力がここだったのだ。
(ごめんね、真実ちゃん)
もはや体の大半が崩れ落ちた。
残りは真美が支える腕と、そこからつながる胴体と頭だけだった。
「くそ、ふざけるなよ
……
絶対、絶対になんとかしてやるから
……
」
悪態の中から零れる羨望。
それが銀狐にはまぶしく、嬉しかった。
(ごめんね、真実ちゃん)
けれど、終わりだった。
べちゃりと音がして、腕と胴体が離れた。
床に落ちた頭と胴体が地面に転がっていく。
「
……
銀狐ッ!!」
怒りか、悲しみか。
どれとも判別のつかない大きな真美の声が耳に飛び込む。
ぐらりと揺れた胴体が起こされ、銀狐の視野が真美の顔で埋まる。
「おい、ふざけんな! おい!」
――
真実ちゃん。
名を呼ぼうとして、でも舌が動かなかった。
――
ごめんね、一人にして。でもね。
なんとか瞳だけを動かして、唇を動かす。
――
オレ様ね、真実ちゃんと過ごせてすっごく楽しかったんだ。
笑顔になっているだろうか。
真実が何かを叫んでいるように見えるが、しかしすでに耳はなくなっているらしかった。
――
あぁ
……
楽しかったなぁ
……
最後に銀狐の脳裏をよぎったのは何でもない日々の一部。
他愛もないことを話し、笑う自分と鼻で笑う真美の、そんな一瞬だった。
それを最後に、銀狐は全身のすべてを絵具に戻したのだった。
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