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癒羽琉(ユウル)/由羽(ユウ)
2025-03-31 20:39:15
5311文字
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小さな家族
孤児院の木に登って、降りれなくなってしまった猫を助けるネロ。
助けた猫と過ごすほのぼのしたお話。
ある日の午後。ネロが依頼帰りにキリエを迎えに行こうと、孤児院に寄った際の出来事だった。
「あれ
……
誰もいないのか?」
いつもなら、孤児院の入り口付近で子供たちも含め誰かしらがいるはずなのだが、この日は誰一人としておらず、ネロは頭を傾げると孤児院の中へと進もうとした。
その時、子供たちが遊ぶ外の広場の方から、何やらざわついている声が聞こえてきた。
ネロは何事かと思い、声がする方へと向かっていった。
(
……
?)
孤児院の壁から顔を覗かせ、様子を確認するネロ。
遠目にだが、広場の隅に生えている一本の木の下に、孤児院の子供たちとキリエの姿を確認した。
皆して木を見上げていたり、数名の子供たちは大きな布を広げて持っていた。
一体何をしているのだろうとますます疑問に思ったネロは、子供たちやキリエのもとへと歩いていく。
その時、ネロの気配に気付いたキリエは、彼の方へと足早に向かっていった。
「キリエ?どうしたんだよ、そんなに慌てて」
「ネロ
……
!よかった来てくれて
……
!早く
……
!」
そう言うとキリエはネロの腕を掴んで、再び木の下へと向かっていった。
「おい、なにかあったのか?」
キリエに連れてこられ、木の下へと到着したネロ。
子供たちはそのことに安心したのか、そのうちの数名は急に泣き出してネロにしがみついた。
「おいおい、どうした?」
「うわーん!ネロ兄ちゃんー!」
「早く
……
早く助けてあげてー!」
「助けて
……
って、一体
……
」
ネロは状況が読み込めず、困った表情を浮かべながら助けを求めるようにキリエの方へと顔を向けた。
キリエは泣きながらネロにしがみついている子供たちを慰めると、そっとネロの体から離してあげた。
「みんな、もう泣かないで。大丈夫よ、ネロが来たから。ね?」
「俺が来たから大丈夫
……
って、だから一体なにが
……
」
「あ、ごめんなさいネロ、説明するのが遅くなってしまって
……
。実は
……
」
そう言うとキリエは木を見上げ、指差した。
それに釣られるように、ネロも木を見上げた。
「ほら、あそこ
……
分かる?」
「ん?」
「暗くて見えにくいけど、猫がいるの
……
」
「猫
……
?」
ネロはキリエが指差す方向をジッと見つめた。
「ん
……
アレ
……
か?」
確かに暗くて見えにくかったが、二つの目がキラッと光ったのと、尖った耳の形を確認できた。
「今は大人しいけど、ネロが来るまでの間、怯えたように酷く鳴いていたの
……
。多分、降りられなくなってしまったんじゃないかって
……
」
「なるほどなぁ
……
。それで猫が万が一落ちても大丈夫なように、布を広げて持っていたのか」
「えぇ。子供たちは木登りして助けようとしていたんだけど、この高さじゃ子供たちも危険だから
……
」
キリエはそういうと、悲しげに俯いてしまった。
助けてあげたい気持ちは皆一緒だ。
しかし、誰もが為す術がなく、やるせない気持ちになっていたのだろう。
そんなキリエや子供たちの気持ちを察したネロは、着ていたコートを脱いでキリエに手渡した。
「ネロ
……
?」
「俺が木に登って、猫のことは救出してくる。念のため、俺のコートも広げてクッション代わりにしといてくれ。それに、俺なら猫を捕まえたあと、この高さから飛び降りても何の支障もないし、万が一猫が落ちても右腕を伸ばせば落下は防げる。だから、後は任せてくれ」
ネロはそう言うと、キリエと子供たちに柔らかな表情を向けた。
「
……
うん、分かったわ。お願いね、ネロ」
キリエはネロに猫の救出を託すと、先ほど手渡されたコートを子供たちと広げて持った。
(よし、待ってろよ)
ネロは猫がいる方向を目指しながら、ゆっくりと木登りを始めた。
手足が長く体格が大きいお陰か、木登りは順調に進み、あっという間に猫が乗っている枝の付近へと辿り着いた。
問題はここからだった。猫が乗っている所は、ネロが体重をかけてしまうと木の枝が折れてしまう可能性がある。そうなると、猫だけではなく下にいる子供たちやキリエにまで危険を及ぼしてしまう。
できればネロの所まで猫が歩いてきてくれればいいのだが、猫はすっかり怯えきってるのと、酷く鳴いていたせいの疲労もあり、とても動ける様子ではなかった。
(さてと、ここからどうするか
……
)
一気に右腕を伸ばして、猫を捕まえる方法もある。
しかし、それでは猫に更なる恐怖心を与えてしまうであろう。できることなら、これ以上は恐がらせないで救出をしてあげたい。
だが、この状況からしてみれば、右腕を伸ばして猫を救うしか方法はなさそうだった。
(しょうがないな
……
)
ネロは猫に向かって自身の右腕をゆっくりと伸ばしていった。
「ほら、この上に乗っておいで。大丈夫だ」
ネロは、伸ばした右腕に猫が乗ってくれるのを待つ作戦に出た。
猫は相変わらず、怯えたままだった。今にも涙が溢れそうな瞳で、ネロのことをジッと見つめていた。
「俺がしっかり支えてやるから。ほら、早く乗りな」
『ニャー
……
』
猫は小さく弱々しく鳴くと、ネロの右手へと視線を移した。その瞳は、とても不安げだった。
「大丈夫。お前が乗っても、全然重くないからさ。それに俺、そこらの奴とはちょっと違っててさ、お前を助けたあとにこの高さから下に降りても平気なんだ。だから、安心して俺の右手に乗ってくれ」
言葉が通じているか定かではないが、ネロは少しでも猫を安心させようと、優しく言葉をかけてあげていた。
「俺も、下にいる子供たちも、みんなお前のことをほっとけなくて、一刻も早く助けてあげたいんだ。大丈夫だから、俺を信じて。ほら
……
」
『ニャァ
……
』
猫は若干震える手脚で立ち上がると、ネロの右手へと前足を伸ばした。
「そう、そのまま
……
ゆっくり乗るんだ」
『ニャー
……
』
一歩一歩、ゆっくりとネロの手のひらに乗ってくる猫。そして、猫の体が完全に手のひらに乗り切った瞬間、ネロは優しく猫の体を掴み、自身の胸元へと一気に引き寄せた。
ネロのその行動に驚き、猫は一瞬ビクッ!と体を震わせたが、ネロの温かな胸に抱かれて落ち着いたのか、すぐに大人しくなった。
「よしよし、いい子だ。もう少し、怖いの我慢してくれよ」
そう言うとネロは、胸に抱えた猫を離さないようにギュッと抱きしめると、木の上からフワリと飛んで地面に着地した。
ネロが地面に着地した直後、孤児院の子供たちとキリエが一斉に彼のもとへと駆け寄った。
「ネロ!ありがとう!
……
猫は、無事?」
「ああ、大丈夫だよ。ほら」
ネロは猫を抱えている腕の力を少し緩めると、自身の胸元で丸くなっている猫の姿をそっと見せた。
「わーい!さすがネロ兄ちゃん!やっぱすごいや!」
「猫ちゃんー!無事でよかったー!」
猫が怪我もなく無事に救出されたこと、それに対して大喜びをする子供たちの姿を見て、ネロとキリエは互いに微笑んだ。
「それにしても、可愛い猫ちゃんね。この大きさだと、生後三ヶ月くらいかしら?」
そう言うとキリエは、猫の頭を優しく撫でた。
「あら、猫ちゃんたら、ネロの腕の中でぐっすり眠っているわ」
おまけに、猫はゴロゴロと喉を鳴らしており、恩人であるネロに懐いてしまったようだった。
「とりあえず、どこか空いている部屋に移動しましょう?猫ちゃん、ゆっくり休ませてあげないと
……
」
「そうだな。お前たち、タオルとか毛布とか簡単な物でいいから、猫の寝床に使えそうな物を用意して、空き部屋にあとで持ってきてくれ」
ネロにそう言われ元気よく返事をした子供たちは、孤児院の中へと足早に入っていった。それに続くように、ネロとキリエも孤児院の中へと入っていった。
***
空き部屋に着いたネロとキリエ。そこは、先日里親が見つかり孤児院を退所した子供が使っていた部屋だった。
私物などの片付けは済んでおり、部屋にはベッド、机、ソファなどの家具のみが設置されていた。
ネロとキリエはソファにゆっくりと腰をかけると、先ほど救出した猫の様子をうかがった。
「あら、起きちゃった?」
ネロとキリエがソファに腰をかけた瞬間、猫はゆっくりと瞼を開いた。
「すごく綺麗な緑色の瞳ね。毛も艶々で、本当に可愛いわ」
ネロが救出した猫は、エメラルドグリーンの宝石のような瞳で、毛艶の良い真っ黒な猫だった。
「性別はどっちなのかしら?」
「うーん
……
どれどれ?」
ネロは猫を軽く持ち上げると、脚の間を覗いた。
「あ、オスだな。タマが付いてるし」
「タマって
……
」
そんな会話をしている時、空き部屋の扉がノックされた音が聞こえ、ネロは中に入るように促した。
「ネロ兄ちゃんたち、タオルと毛布持ってきたよ!」
「あと、餌とかも買ってきたよ!」
「カゴを使ってベッドも作ったの!」
「おう、ありがとうな」
子供たちはネロとキリエの足元に猫用のベッドと餌を置き、タオルと毛布をキリエに手渡した。
「あのね!院長さんがね、「ちゃんとお世話するなら、ここで飼ってもいい」って、言ってくれたの!」
「そっか。よかったな」
猫の住まいが決まったことに、ネロは安堵の息を漏らした。
「ネロ兄ちゃん、その猫、女の子と男の子どっち?」
ネロの膝の上で寛いでいる猫を撫でながら、一人の子供が尋ねてきた。
「男の子だよ」
「そうなんだあ!なんで分かったの?」
「なんでって、そりゃあタマが」
「ネロ」
子供たちの前でそれ以上は言わせまいと、キリエは横目にネロを睨みつけた。
「?タマ
……
?」
「な、なんでもないのよ!気にしないで
……
!それより、ここで飼うなら名前を決めないとね
……
!」
純粋な幼い子供たちがネロの発言にこれ以上何も聞いてこないようにするため、キリエはあたふたしながら無理やり話題をそらした。
「どんな名前がいいかしら
……
。ネロ、何かいい案でもある?」
「エメラルド」
「え?」
「だから、エメラルドでいいんじゃね?瞳の色が、エメラルドグリーンだし」
「そしたら、エメラルドのエメくんだね!」
「うん!エメくんで決定!」
「え、え
……
」
そんな単純に名前を決めていいものかと思いつつ、ネロの案に子供たちも賛同したため、キリエはまぁいいかと思い軽く息を吐いた。
こうして猫の名前はエメラルドこと、エメくんとなった。
「ネロ兄ちゃんたち、僕たちそろそろお部屋に戻るね!」
「ん?もう戻るのか?」
「うん!エメくんにはいつでも会えるし、それに、ネロ兄ちゃんとキリエ姉ちゃんの邪魔をしちゃいけないからさ!」
「じゃあね!ネロ兄ちゃんたち!ごゆっくり!」
子供たちはそう言ったあと、賑やかな様子で空き部屋を後にした。
「別に、気を使わなくてもいいのにな
……
」
「そ、そうね
……
。あの子たちったら
……
」
子供たちが言った言葉に、ネロとキリエは照れ臭そうに頬を指でかいた。
『ニャァー』
その時、猫のエメラルドがネロの膝から立ち上がり、ネロとキリエ、二人の膝の上に体を乗せ直した。
「あら、エメくんたら私の膝にも乗ってきちゃったわ」
「キリエのことも好きなんだよ、きっと」
「ふふっ、それは嬉しいわ」
キリエは、自身の膝の上に体半分を乗せている猫のエメラルドの頭を、優しく撫で始めた。エメラルドは気持ちよさそうに、喉を再びゴロゴロと鳴らす。
「気持ちよさそうだな、エメ」
「そうね
……
。なんだか、私も眠くなってきたわ
……
」
猫特有の喉をゴロゴロと鳴らす音に心地よくなったのか、キリエはうとうとし始めた。
「そしたら少し寝ててもいいぜ。猫の救出でバタバタして疲れたんだよ、きっと。ほら、俺の肩に寄りかかっていいからさ」
「うん。ありがとう
……
」
キリエは瞼を閉じながら、ネロの肩にゆっくりと頭を乗せて寄りかかった。
「おやすみ、キリエ」
「うん、おやすみなさい
……
」
猫の救出騒動の疲れ、そして無事に猫を救出できたことへの安心感もあり、一気に体に疲労が襲ってきたキリエは、一分も経たないうちにネロに寄りかかりながらスヤスヤと眠ってしまった。
(なんだか、俺も眠くなってきたな
……
)
ネロは大きくあくびをすると、自身もキリエに寄りかかるように頭を横に倒した。
『ニャァー
……
』
その時だった。猫のエメラルドが小さく鳴いたあと、ネロの右手に甘えるように顔を擦り付け、柔らかく温かい舌で右手をペロペロと舐め始めた。
「?どうした、エメ?」
『ニャァ』
猫が手を舐めてくる行為。それは愛情表現や感謝の印でもあり、信頼できる相手にだけしてくる行為というのを、ネロはどこかで聞いたことがあった。
「
……
お前もこの右腕を、俺を受け入れてくれるんだな。ありがとう、エメ」
『ニャァー』
エメラルドはネロの言葉に返事をするように一声鳴いたあと、ネロとキリエの膝の上で体を丸めて瞼をゆっくり閉じると、静かに眠りに落ちていった。
(ハハッ。親子三人で昼寝タイムか
……
なんて)
隣には大好きな彼女、膝の上には可愛い猫。
双方の温もりを感じながら、ネロは心地よい眠りに誘われるように瞼を閉じた。
了
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