癒羽琉(ユウル)/由羽(ユウ)
2025-03-24 00:33:38
4395文字
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complex〜誰よりも好きな、そのままの君で〜

雑誌に載ってある「好きな女の子のタイプ特集」のページを読み、コンプレックスを感じてしまったキリエ。
そんなキリエをネロが励ますようなお話。
とにかくネロにキリエのことを好きな気持ちを言わせたかったのもありますw

ある日の夜、シャワーを浴び終わったキリエは寝る前のひと時を過ごそうと、リビングのソファに腰をかけてファッション誌を読んでいた。
……
流行のファッションやメイクなどが掲載されているページを読み進めていくうちに、ふと目に留まった記事。それは、最近の男性が好きな女性のタイプをまとめた特集だった。


[細くて小柄な子は可愛らしい]
[脚はスラッと細くて長いのが好き]
[体重は軽い方がいい]
[華奢な方が守りたくなる]


(私、全然ちがう……
自分は太っているわけじゃないが、世の男性の多くは細身な女性を好んでいることが書かれており、その記事を読めば読むほど、キリエは気持ちが沈んでいった。
(きっと、トリッシュさんみたいにスラッと細い女性の方が魅力的なんだわ……
それに比べて自分はと、キリエはため息を吐きながら肩を落とした。
(そういえば最近、食べすぎてた気がするわ……。孤児院の子供たちと、お菓子作りばっかりしてたから……
だけど、お菓子作りは楽しい。孤児院の子供たちも笑顔になってくれる。作ったお菓子もおいしくて、みんなで楽しく食べるのも大好きだ。だが、体型のことを考えると今後は少し控えるべきかと、キリエは悩んだ。
「ダイエット、しようかな……
そう呟いた瞬間、リビングの扉が開かれる音が聞こえた。
「ふぅ……サッパリした」
シャワーを浴び終えたネロが、濡れた髪をタオルで拭きながらリビングへとやってきた。
「あれ?キリエがファッション誌読んでるなんて、珍しいな」
「あ、ネロ。元々は付録のポーチが欲しかっただけなんだけどね。でも、最近のファッションやメイクとかも気になっちゃって。せっかく買ったし、読んでいたの」
「へぇ。確かに、最近のファッション誌は付録が豪華だもんな」
そう言いながらネロはキリエの隣に腰をかけ、テーブルに置いてあるファッション誌の付録のポーチを手に取った。
「すごいなぁ。付録にしては、作りとかもしっかりしている」
「こういうのって、つい欲しくなってしまうのよね」
「女の子はポーチとかよく使うもんな。あっても損はないだろ」
「うん、そうね……
どこか浮かない表情をしつつ、キリエは読んでいたファッション誌を静かに閉じた。
「キリエ、もう読まないのか?」
「う、うん……。元々は付録目当てだったし、もう読まなくていいかな……って」
「?」
ぎこちないキリエの様子に疑問を抱きつつ、ネロは彼女が手に持っているファッション誌を指さしながら話しかけた。
「なぁ、少し読ませてくれる?」
「え?でも、女性物の服とかメイクとか、そんなのばっかよ?」
「いいよ。どんな服が流行ってるとか気になるからさ。それに、キリエに似合いそうな服とか探すの楽しいし」
「う、うん……
キリエは、隣に座っているネロの膝の上にそっと置くように、ファッション誌を手渡した。
「ありがとう」
キリエからファッション誌を受け取ったネロは、パラパラとページをめくり始める。
「あ、このワンピースとか、キリエに似合いそう」
数ページめくったところでネロが目に留めた服。それは、薄いピンク色のシフォン素材の生地に花柄が描かれている、夏物のノースリーブのワンピースだった。マキシ丈でドレスのように華やかで上品さがあり、キリエにとても似合いそうなデザインだった。
「え、そうかな……?」
ネロが指さすファッション誌の服の写真を見ながら、キリエは自身の二の腕に軽く触れた。
「うん、絶対似合うよ」
「でも……腕とか出すのよね……
「?そりゃ夏物だし、袖がない服がほとんどだと思うけど」
「う、うん。そうよね……
これは夏本番になる前に二の腕を細くしなければと、キリエはファッション誌のモデルのスラッとした体型を見ながら、小さくため息をついた。
そんなキリエの様子に気付いていないネロは、ファッション誌のページをめくり続け、他に気になる服がないかを探し続ける。そして、しばらくすると服やメイクの写真や話題とかけ離れたページへとたどり着いた。
「ん?[好きな女の子のタイプ特集]?」
そう。それは、先ほどキリエが読んでいたページだった。
「へぇ。こんなのも、ファッション誌に載ってるんだな」
ネロはそのページには興味がないらしく、別の服が載っているページへと一気に飛ばした。
「ネロ、読まないの?」
「うん。別に他の男の好みとか、そんなの興味ないし」
「まぁ、そうよね……
「キリエは読んだのか?」
「ええ……。最近の男の子は、細くて小柄な女の子が好きらしいわ」
「ふーん……
「だから私も、ダイエットしてみようかな……って」
「ふーん……って、えぇっ?」
キリエの発言に驚いたネロは勢いよくファッション誌を閉じると、目を見開いて彼女の方に顔を向けた。
キリエはどこか暗い表情をしており、俯いていた。
「キリエ、痩せる必要ないって!どこも太ってねぇし!」
「でも……スラッと細い方が、魅力的なんだろうな……って。それに最近、孤児院の子供たちとお菓子作りばっかしていて、そのお菓子を食べすぎていたなぁ……って、思っていたの……
「いいじゃん別に。食べすぎちゃうくらい、キリエが作るお菓子がおいしいってことだろ。孤児院の子供たちだって、キリエが作るお菓子はいつもおいしくて大好きって、言ってるぜ」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……。でも、いい加減痩せなきゃ……って、ファッション誌を読んで思ってたの。ネロがさっき見せてくれたワンピースを着るためには、腕を細くしないとだし……。それに……
……
「私、世の男性が求めているような女性じゃないなって実感してしまって……。それで、ダイエットしないといけないなって……
キリエのその言葉を聞いたネロは、ほんの少し寂しげな表情を浮かべながら彼女に話しかけた。
「キリエは、世の中の男たち全員に好かれたいの?」
ネロの言葉を聞いてハッとなったキリエは、彼の方へと顔を向ける。
「ううん、そういうわけじゃない。だけど……
「ならいいじゃん。そんな周りの目とか、世の中の意見なんて気にしなくてさ。それに、キリエは今のままでも十分に魅力あるぜ」
「でも私、トリッシュさんやレディさんと比べたら、色気とかもないし……
「そうかなぁ。キリエはあの二人とは違う良さがあると思うけど」
「そんなことないわ。私、本当に魅力も何もない……
そう言うとキリエは、肩にかけてあるタオルで顔を覆いながら俯いてしまった。
ネロが自分にかけてくれる言葉はとてもありがたいのだが、ファッション誌で読んだ内容やモデルの写真、憧れの存在であるトリッシュやレディと自分を比べてしまい、自信喪失になってしまったのだった。
ネロは、そんなキリエを自身の肩に抱き寄せると、優しく話しかけた。
「キリエ、俺はキリエに魅力がないとか、そんなこと思わない。だって、俺はキリエのことが好きだから」
……
「周りと比べたりとか、世の中の意見を気にしてしまうこともあるかもしれないけど、俺がキリエのことを好きとか可愛いとか思っているだけじゃ足りない?……俺じゃ、ダメ?」
……
「キリエは元々可愛いけど、俺はキリエのこと本当に好きだから、俺にとってキリエは他の誰よりも可愛いって思ってるよ」
……
「もし、それでもキリエが自分の体型とか悩んで納得いかないなら、キリエが理想の自分になれるためのダイエットとかに俺も一緒に付き合うよ。トレーニング方法とかなら、俺の方が詳しいし」
……
「だから、そんなに思い詰めないで?」
「ネロ……
キリエは今にも泣きそうになっていた顔を上げると、ネロの顔をジッと見つめた。
「俺だって、最初は嫌いだったさ。こんな右腕……
ネロは、自身の右腕を横目に見つめながら話し続ける。
「でも君が……キリエが俺の右手を握ってくれて、俺のことを好きって言ってくれた時、俺はほんの少し、自分のことを好きになれたんだ」
……
「だからキリエも、もっと自分のことを好きになってほしい。それが難しかったら、しつこいくらい俺がキリエのことを好きな気持ち伝えるから。せめて俺のその気持ちを、受け取ってくれたら嬉しいな」
「うん……ありがとう、ネロ……
キリエはネロの右手を手に取ると、自身の胸元にそっと添えるように置いた。落ち込んだ気持ちを少しでも癒すように、彼の右手から伝わる温もりを感じていた。
ネロの言葉により、気持ちが少し落ち着いたキリエ。だが、完全に自信を取り戻したわけではなく、ほんの少し浮かない表情をしたままだった。そんな彼女の表情を見てネロは少し頭を悩ませたあと、あることを思いついた。
「そうだ!明日は気分転換に買い物でもしにいくか!」
「え?」
「このファッション誌に載っているワンピース、買ってあげるよ!街のデパートで先行販売しているらしいし。というか俺にプレゼントさせてくれ!キリエに絶対似合うから!で、俺のために着てくれ!」
「え、でも……
「いいから!最近、二人で出掛けてなかったし、久しぶりにのんびりデートしよう!他に欲しい物あったら全部買ってあげるから!な?」
「う、うん……
嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちで少し混乱している中、ネロの勢いに押されたキリエは頷いた。
「よし!そうと決まれば、明日に備えて早く寝よう!ほら、部屋に行こうぜ」
そう言うと、ネロは軽々と両腕にキリエを抱えた。
「きゃっ……!ネロ?」
「キリエ、全然重くないし、むしろ軽いくらいだぜ?世の中の男が貧弱すぎるんじゃねえの?」
「うーん……。そうなのかなぁ……
「うん。絶対にそう。それに、俺だったらキリエが上に乗って激しく動いても、何の問題もないぜ」
「え……。それってどういう……
……
……!」
ネロの怪しげな笑みを見て、キリエは言葉の意味を理解した。
「よし、寝るか」
「えっ、ちょっと……!ネロってば……!」
恥ずかしがるキリエをよそに、ネロは彼女を抱えたままリビングを後にすると、自室へと向かっていった。

***

ネロの部屋に着き、二人でベッドに腰をかけた瞬間、キリエはネロを組み敷いた。
(もう、ネロが私の心を一番惑わすんだから……
先ほど、ネロが怪しげな笑みを浮かべながら言ったことは、ファッション誌で見た内容や自身の悩みがどこかへ消え去ってしまうくらい、キリエの頭の中に印象強く残ってしまっていた。
(でも、ありがとう……ネロ)
自分を誰よりも好きと言ってくれる人がいる。こんなにも近くに。
その想いと、自分を励ましてくれたネロの言葉を胸に刻みながら、キリエは彼の唇に自身の唇を重ねた。