Shall We Dance?〜舞踏会当日編〜

舞踏会当日編その1。
ネロキリ要素ありつつ、ダンテたち大人組が好き勝手やってますw

ギャグもありつつ、ほのぼのあたたかなお話です。

 五人でドレス選びをした日から数週間が経ち、あっという間に舞踏会当日となった。
 合間を見つけてはダンスの練習をしたり、ヘアメイクのことを考えたり——当日を心待ちにしながら過ごしていた。
 そんな日々を思い返しながら、ダンテとネロはタキシードに身を包み、互いのパートナーを広間の片隅で待っていた。
「トリッシュたち遅いなぁ。もう始まっているというのに」
「女性陣は準備に時間がかかるからなぁ。プロのヘアメイクの人たちがいるとはいえ、この大人数じゃだいぶ待たされているんだろうな。俺とキリエが来たとき、女性の控え室はすでに長蛇の列だったし」
 舞踏会は夜十九時から開催され、すでにオーケストラによって何曲か奏でられていたが、ダンテとネロ、それぞれのパートナーはいまだに来る気配がなかった。
「そういや、舞踏会が開催されている間は、ほとんど演奏しているんだろ?」
 ダンテはステージ上で演奏しているオーケストラを眺めながら、ネロに尋ねた。
「ああ。途中で休憩も挟むみたいだけど、それ以外はずっと演奏してるぜ。だから、踊りたいときに広間に出て、各自好きに踊る……って感じかな」
「そしたら、女性陣が来る前に何か食べに行かないか? 本当は軽く踊ってから料理を食べたかったが……
「そうだな。少しは時間潰しになりそうだし」
 待ちくたびれたダンテとネロは、食事をしに行こうと広間を後にしようとした。
 その時だった。
 「ダンテ、ネロ、お待たせ」
 背後からトリッシュの声がかかる。その隣には、レディも並んでいた。
「ごめんなさい、遅くなってしまって。着替えはすぐ終わったんだけど、ヘアメイクの順番がなかなかこなくて」
「ハハッ。まぁ、しょうがないさ。お前の場合、ヘアセットするのも時間かかるだろうしな」
 トリッシュは自慢のロングヘアを、ボリュームのある編み下ろしにセットしていた。
 ドレスは体のラインがわかるタイトなデザインで、踊りやすいよう脚のスリットが大きく入っている。光沢のある黒い布をベースに、スリットの縁にはゴールドの装飾が散りばめられていた。
 胸元と背中は相変わらず露出が多かったが、試着したときのデザインよりは多少落ち着いている。
「すげえ……トリッシュくらいロングヘアだと、こんなにも華やかになるんだな」
 ネロはトリッシュの背後にまわり込むと、ボリュームのあるヘアスタイルを見つめて息を呑んだ。
「もう……トリッシュも素敵だけど、私だって着飾ったのよ?」
 そう言うとレディは、自身を見せびらかすようにダンテとネロに向かって両手を広げた。
 全体的に緩くウェーブのかかったヘアスタイルで、いつも外側にはねさせている毛先は、内側に綺麗にまとまっている。髪全体にはラメがかけられており、ロングヘアにも負けないくらいの華やかさを演出していた。
 ドレスはAラインのロングドレスで、エメラルドグリーンの布をベースに、スカート部分には同系色のレース生地が重なっているデザインだった。
「悪いな、レディ。髪型がいつもと違うから気が付かなかったぜ」
「俺も、一瞬誰かと思ったよ。ショートヘアでも、こんなふうにアレンジできるんだな」
 ネロは先ほどと同様、トリッシュのときと同じように、レディの華やかなヘアスタイルに思わず見入った。
「それにしても、二人とも今日は綺麗だな」
「“今日は”じゃなくて、“今日も”でしょ?」
「はいはい、昨日も今日も、明日も綺麗だよお前らは」
「もう、バカにしてない?」
 そう会話を交わしながら、ダンテとトリッシュとレディは相変わらずの調子で笑い合った。
 ふと、ネロがキョロキョロと辺りを見渡す。彼が一番待ち焦がれている相手、キリエの姿が見えなかったからだ。
「そういえば、キリエは……?」
 ネロはソワソワした様子で、トリッシュとレディに尋ねる。
「キリエちゃんなら、もう少し時間がかかると思うわ。私たちの準備が終わった頃、まだヘアセットも始めていなかったから……
「そうね。キリエちゃんのヘアセットを担当していた美容師さん、他の人たちがボリュームのある髪型ばかりリクエストしていたから、大変そうだったし……
「そっか……
 トリッシュとレディの話を聞き、ネロは小さくため息をついた。
「そんなに落ち込むなって。もう少ししたら来るさ。……とびきり可愛い姿でな」
 ダンテは少しでも励まそうと、ネロの背中を軽く叩いた。
「さてと、俺たちは先に踊りにいくとするか。トリッシュ、レディ、お手をどうぞ」
 ダンテはトリッシュに右手を、レディに左手を差し出した。
 その様子を見て、ネロは唖然とする。
「え? まさか、三人で踊るのか?」
「ええ、もちろんよ」
「だって、男一人足りないし」
「ということで、俺が一人で二人をエスコートするってことさ。じゃあなネロ、先に行ってるぜ」
 ダンテとトリッシュとレディの三人は、仲良く手を取り、足を弾ませながら広間の中央へと向かっていった。
(三人で一緒に踊る舞踏会なんて、聞いたことねぇぞ……
 はしゃぐ大人組の背中を見送りながら、ネロは広間の壁に寄りかかった。
(キリエ、まだかな……
 大きく息を吐きながら、ネロは広間で踊る人々を眺めた。
 参加者のほとんどは、それぞれのパートナーとすでに踊っており、舞踏会を楽しそうに過ごしていた。
 広間の片隅で、ネロは自分の隣にパートナーがいない寂しさを噛み締める。
……ドリンクでも、もらってこようかな)
 寂しさを紛らわすように、ネロはドリンクが並んでいるテーブルへ向かおうとその場を動き出した。
 その時——

……ネロ?」
 横から、彼を呼ぶ声が聞こえた。それは、美しい透明感のある女性の声だった。
 その声の主は、斜め下からネロの顔を覗き込むように話しかける。
「あの、お待たせしてごめんなさい……。思ったより更衣室が混み合ってて、ヘアセットもすごく時間がかかってしまったの……
……
「ドレス、どうかな……? 私には派手すぎるかしら……?」
 そう言うと、その女性はネロから少し離れ、その場でくるりと回ってみせた。
 青みのある濃いピンク色の布をベースに、スカート部分は薄いピンクから紫へとグラデーションになった、オーガンジーのフリルが段になって重ねられている。
 髪は華やかなアップスタイルにまとめられ、花をモチーフにした豪華なバレッタが添えられていた。
(なんて、美しいんだ……
 目の前に現れたその姿に、ネロは一瞬で心を奪われ、鼓動が高鳴る。
 それがずっと待ち続けていた彼女——キリエだとわかっていながらも、初めて出会った女性に一目惚れしたかのような感覚にとらわれてしまった。

「ネロ……? どうしたの?」
 呆然とした様子で自分を見つめ続けているネロに、キリエは正面から顔を覗き込むように声をかけた。
……! あ、悪い……少し驚いてしまって……
 顔を覗き込まれたネロは、頬を赤く染めながら口元を手で覆う。そんな様子に、キリエは首を傾げた。
「その……
「?」
……っ!」
 ネロは大きく深呼吸をすると、キリエの両手をぎゅっと握り、目を見開いて見つめた。
「キリエ! すごく可愛い! ドレスも髪型も似合ってる! お姫様みたいだ! 本当に可愛いよ!」
 先ほどまで、寂しさで落ち込んでいたとは思えないほど、ネロは一気にぱっと表情を明るくし、興奮した様子で思いの丈をぶつけた。
 まさか、ここまで勢いよく褒められると思っていなかったキリエは、驚きで目を丸くする。
 けれど、その言葉は胸に広がっていき、こぼれるような喜びとともに、彼へと抱きついた。
「嬉しい……! ネロ、ありがとう!」
「キリエ、可愛い! 可愛すぎる……!」
「もう、ネロったら……
「だって、本当に可愛い……! ピンクのドレスとか反則だよ……
「ふふっ。ネロも素敵よ」
「キリエ……
 ネロはキリエの肩にそっと手をかけると、少しだけその体を離した。
 そして見つめ合い、目を閉じると、互いの唇をゆっくりと近付けていった——

 その瞬間、突然大歓声があがり、その声に驚いた二人はフロアへと視線を向ける。
 なんと、広間の中央ではダンテがトリッシュとレディを軽々とリフトし、常人にはとても真似できないような動きを織り交ぜながら華麗に踊っていた。
 そんな三人の周りで踊っていた人たちは、その華麗な踊りに引き込まれ、まるで激しいライブに参戦しているかのような熱気で盛り上がっている。
 ダンテたちと、その周囲の様子を見て、ネロとキリエは思わず苦笑した。
「舞踏会って、こんなにノリがいいものだっけ……
「フォルトゥナの人たちも変わったわね……でも、みんな楽しそうでよかったわ」
 キリエは、広間の中央で踊っている三人へと微笑みを向けた。
「ネロ、私たちも踊りに行きましょう?」
 キリエはネロに手を差し出す。
「ははっ。普通、俺がキリエをエスコートしないとなんだけどな」
 そう言いつつも、ネロは嬉しそうにキリエの手にそっと自分の手を重ねた。
「ネロ、私と踊ってくれますか?……なんてね」
 そう言ってキリエは微笑むと、そのまま彼の手を引いてダンスフロアへと向かっていく。
 手を引かれながら、ネロはその背中に向かって声をかけた。
「もちろん、喜んで」

 ダンスフロアへと進み、二人は一緒に踊れるスペースを確保すると、互いに向き合った。手を繋ぎ、ネロはキリエの腰に、キリエはネロの肩に手を添える。
 次の曲が始まるまでの間、二人はその体勢のまま見つめ合い、互いに笑みを交わした。
 こうして一緒に踊るのは何年ぶりだろうか——幼い頃の記憶がふとよみがえり、懐かしむように口元が緩む。
「キリエ、本当に可愛いよ」
「ありがとう、ネロ……
 そう言葉を交わしたあと、次の曲に向けて一瞬、オーケストラの演奏が静かになる。
 そして、新たな曲が始まると同時に、二人はゆっくりとステップを踏み、奏でられるワルツに合わせて踊り始めた。

 最初は練習した通りに、優雅にワルツを踊っていた二人。
 だが、ともに過ごすこの時間があまりにも楽しくて、気づけば互いに笑みをこぼしていた。
 踊りながら抱きしめ合い、ネロがキリエの腰を軽やかに持ち上げて回る。
 まるで、ダンテたちのように自由気ままに踊る自分たちが、どこか可笑しくて――思わず笑い合った。
 こぼれる笑みは止まらず、胸の奥まで温かさが満ちていく。
 二人は舞踏会のひと時を心から楽しみ、幸せに包まれて過ごしたのだった……





to be continued……